第二章 3「癒しの祠 中層~ 最下層急行」
その道の終点は意外と近かった。その場所は天井から日差しが漏れ、そのわずかな日光が照らしてるのは太ももまで浸かるぐらいには浅い水場。水は驚くほど透明で、俺の視界には毒も確認できなかった。
俺は席を外してアリサに水浴びを勧めた。その間に先ほど発見した遺物でも解析しようかと思っているとアリサが腰布を引っ張る。どうやら離れてほしくないとのこと。
彼女も年頃の女の子だろうと配慮したが、側にいて欲しい。ただそれだけが伝わる眼差しにわかったわかった。と観念したように承諾。俺も水浴びするかと思い始めた。
村から持ち込んだ桶で水を頭上から掛ける。アリサも俺の真似をして頭から水を被った
「くぅぅぅ。ひんやりとしているがそこまで寒気を感じないのは、気持ちいいな。こうして水浴びもいいが、いつか風呂に入りてぇな」
「風呂?風呂ってなあに?」
「あぁ。こう……大きい、浴槽?に沸かした湯に入るんだ」
「……お湯に、入るの……?」
その言葉を聞くにそもそも風呂の文化がないらしい。
どうやら水浴びぐらいしかできなかったんだろうと察した俺。となると目標の一つに金を稼いで、アリサを風呂に入れてやろうと、やりたいことリストに加えるように決めた。
となると拠点を構えたほうがいいのかもしれないな。
そう思いながら彼女にタオルを渡して自分の身体を拭くように伝え、雑に拭き終わった俺はアリサの頭をわしゃわしゃと拭いてやることに。
単なる子供向けの戯れだが、もみくちゃにされる彼女はくすぐったそうにケラケラと笑ってくれた。まぁ尻尾には優しく拭いてやったが、そこら辺は配慮した。
共に笑いながら過ごしていく。ダンジョン内でこんな休息が取れるとは思ってなかったが、休憩の合間にアリサが作ったお手製のパンサンドにさっき買った肉を挟んで一緒に堪能しつつ、その場を後にした。
ここは終点ではあるが、目的地の最下層ではない。
来た道を戻る。戻る。
そのまま隠し通路から出れば、思わず身を退いた。目の前を逃げていく冒険者たちとぶつかりそうになったからだ。
「おい、危ねえだろ。って何があったんだ」
「最下層の広場に見たこともねえ豚の魔物が出たんだよ!」
豚の魔物?このダンジョンに?そいつらに聞けば、最下層のボスエリアに転送陣という帰還用の簡易ポータルがあって、そこにボス達が陣取っているらしい。
普通ならボスを倒せるぐらいには弱い。だが豚の魔物がそいつらを指揮しているらしい。豚の魔物ってもしかして……
だが、アリサの方を向く。彼女にとってはトラウマの相手。でもここに置いていくわけには……
「お兄ちゃん、私も行く」
「アリサ、あの時逃げたボスオークがいるかもしれねんだぞ。危ねえからここで隠れて……」
「私はもう逃げない。お兄ちゃんと一緒に戦う」
「……わかったよ」
彼女の決意は固い。だけど手が震えているのは見てわかる。説得もダメそうだとこっちが根負けして了承し、俺の腹回りにしがみついた彼女を左腕で支えるように抱きしめる。
「約束な、決して危ないことをしないように」
「わかった、言う事聞くから」
あの時の親父さんそっくりな眼差しで承諾すれば、そのままアリサを背中でおんぶしながらもダンジョン最下層へと走り出す。
階段を飛び降り、通路を駆けていくと途中で何人も倒れている冒険者連中を目撃する。死んではいないが、戦闘不能だろう。
それを尻目に通路の出口から剣撃が聞こえてくれば、俺たちもそこへ飛び込んだ。
到着した俺が見たのは最下層の広場で魔物と交戦する新米冒険者たちだ。その相手はやっぱりボスオーク。村で目撃した個体と同一だろう。
そいつがここのボスであるデカいキノコの魔物の集団を従えて冒険者と戦っている。
新米冒険者たちも善戦はしているが、劣勢だ。介入すべきだろうが、後ろにいるアリサの様子を伺う。覚悟を決めた彼女は力を込めて目を逸らさない。なら決まりだな。
「ちゃんと捕まってろよ、アリサ!」
「う、うん!」
しっかり捕まっているように伝えては地を蹴りあげ戦場へ飛び込むように跳躍、戦いへ乱入していく。その最中、背中からがらんと大剣を抜き去ってデカキノコの一体目掛けて遠投。
宙を裂くように一直線に向かう大剣に追随するように駆け巡る。投げられた大剣はデカキノコの一体を貫き、そのまま地面に刺さる。
貫かれたデカキノコの前面に滑り込むように駆け込めば、その大剣の柄を握り締め、斬撃の一振りをデカキノコの正中線を描くように斬り裂く。
デカキノコは真っ二つに割れ、静かに緑の血溜まりを作る。そのまま大剣を逆手持ちに切り替えて周りのキノコ達を、雑に斬り付け、切り裂いていく。
その合間に倒れている冒険者達を拾い上げていくが、次第に両手が塞がった結果、口に大剣の柄を咥えて首を捻って、振り回す。
ぶぉん、ぶぉん。 首がちぎれそうなぐらいの遠心力をかけたまま、一旦前線から離れる。
気づいていなかったが、俺の兜は生きているように口が動いてたとアリサが教えてくれたが、そのおかげでこういう芸当もできたようだ。
急いで広場にいた冒険者達を一箇所にかき集めて、守りやすく体勢を整えていた。その刹那、黒い物体が隣を通り過ぎ、背後の壁へと鈍い音を立てて倒れた。




