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第一章 14「助け合う心、響き合う」

 だが彼女の血を飲んだせいか、またしても記憶が流れてくる。それも以前に生きている少女の血を吸ったのだ、彼女の生きた分の記憶が流れてきて、俺は気を失った。


「これは…アリサちゃんの……」


 親父さんの時はあくまで走馬灯に終わる程度の記憶だけだったが、アリサちゃんが覚えている頃から記憶が再生される。


 小さい頃から親父さんの手伝いや、家の家事。彼女の生涯はそういったものばかり。それでも彼女に取っては幸せの一部だったのだ。

 それを焼くような炎が、まるでそれらを焼き払うように焼き尽くしていく。炎から逃げる彼女は、ひとりぼっちで泣きながら逃げている。


 だからこそ、俺がこの子を守らないと……。


 半開きの窓から、夜が明けたことを教える太陽が差し込んでくる。いつの間にか気を失っていた俺は顔を上げて、まなこを擦って欠伸をする。

 そしてアリサちゃんの姿がないことに気づく。今となっては俺には陽の光は別に痛くも痒くもないが、血を飲んだアリサちゃんは話は別だ。


 慌てて顔を上げて早く窓を閉めないと立ちあがろうとしたが、目線の先には、家の外で陽の光を拝むように浴びてもピンピンしている彼女がいた。


「あ、アリサちゃん……?もう大丈夫、なのか?」


「あ、ヴァルツさん。はい……!もう大丈夫です、ヴァルツさんが看病してくださったのは、見たらわかりました」


「そ、そっか……。いやよかった。本当に元気になって。アリサちゃんの熱とかシミがすごくてさ、俺も大慌てで看病した甲斐があったよ」


「そうだったんですね……あれこんな髪の色だったっけ……?」


「えっ……!?」


 よかったよかったと無事を喜んでいた為、変化に気付くのが遅れた。アリサちゃんの灰色の髪に、真紅の色が彼女の前髪の一房を染め上げている事に目を見開いた。


 ポーションの効力だけでは説明がつかない現象。彼女を助けられたことは良いことだが、弁明してもまずい状況を作ってしまった。


 真実を、彼女に言うべきか……?たとえここで嘘をついて誤魔化すことはできる。彼女は何も知らず俺を信じてくれている。 


 だが……俺は彼女に嘘をつきたくない。だが親御さんを失っている今の傷心の彼女に伝えていいものかと黙ってしまったが、覚悟は決めたはずだと口を開いた。


「……」


「ヴァルツさん?どうかしましたか?」


 彼女の前で片膝をつくようにして、言い淀んだが、意を決して口を開く。


「あ、あぁ……。あのなアリサちゃん、今から言うことは秘密にしてほしい。実は、ポーションは使ったが、完全には治らなくて…アリサちゃんを治したのは俺の血だ」


「血を……?それってどういう……」


「……今の俺は人じゃない、ヴァンパイアという化け物だ」


「……ッ!?」


 案の定の怯えた反応に仕方ないと自分を納得させた。これが当然、これは普通だと。


「いきなりで悪いな、こんな話。俺もアリサちゃんの寝起きに話すことじゃねえって分かってたが、騙すのも良くねえって思ったんだ。だけど安心してくれ、必ず安全なところまで送り届ける。それは約束する。だから…」


「私、信じます」


「え?」


 彼女から出た言葉は、いつもより力強かった。


「たとえヴァルツさんが人じゃなかったとしても、私信じています!」


「な、何を……?」


 こちらを見据え、確固たる自分の意思を持って、俺を信じると伝えてくれた。


「……それに兜をとって、顔を見せてください」


「兜……?わかった……」


 震えながらも気丈に振る舞う彼女から、そんな突拍子もないお願いを承諾する。言われた通り兜を外し、素顔を晒す。灰色じみた銀髪の中から、真紅の瞳は彼女の視線を受け止めていた。


「……たとえ、ヴァルツさんが人じゃなくても……こんな優しい顔の人が、何度も、何度も、夢の中でも私を助けてくれた」


「……!」


 顔を見せてから、少しの間沈黙が続いたが、彼女はそう答えてくれた。その肯定するような言葉に俺も少し体をこわばらせながら、何も言わずに黙って聞いていた。


「たしかに化け物に対して今でも怖いです。けれどもヴァルツさんに助けてもらった時は、本当に嬉しかったんです。たとえヴァルツさんが化け物だったとしても、世界で一番優しい人だって、私が信じています。」


 伸びてきた両手は俺の頬を包むように触れてくれる。視界に映る彼女の揺るぎない黄金色の瞳と真紅に染め上がった前髪は、太陽の日差しに照らされて輝いて見えた。


「……そうか、ありがとよアリサちゃん、そう言ってくれて」


 そういって素直にお礼を述べていると、震える身体で健気にこちらと向き合って肯定してくれた彼女を抱きしめてしまった。


 少女の胸を借りて気持ちをおさめるなんて、かっこ悪いのは承知している、だけど彼女は黙って受け止めてくれたようで、俺が落ち着くまで抱きしめ返してそばにいてくれた。



「アリサちゃんも大変だってのに、俺ってば、みっともねえとこ見せちまったな。ああ言われたのは初めてで、つい嬉しくなっちまってよ。」


「わ、私、何か変なことを言ってしまいました?」


「いや何も変じゃない。ただ、そう言ってくれるような人とは巡り逢ってないからな。アリサちゃんに驚いちまった」


 照れ隠しと少し寂しげな表情でそう言い放ては淡々と述べていく。けどアリサちゃんがわなわなとまた震え上がっていたのを二度見してしまう。


「わ、私も。お、お兄ちゃんができたようで……安心してます」


「お、お兄ちゃん?」


 彼女からお兄ちゃんと呼ばれたら、思わず素っ頓狂な声が出る俺。

 歩み寄ってくれているアリサちゃんに対して俺はある決断し、申し出をする。


「なぁ、アリサちゃん。さっきの約束なんだけどさ、おれをアリサちゃんの本当の”お兄ちゃん”にしてもらえないだろうか」


「ヴァルツさんが、本当のお、お兄ちゃんに……?」


 戸惑うのも無理はない。いきなり兄扱いしてくれとか俺でも無理があるだろうと思っている

「ああ。アリサちゃんが大きくなるまでの間だけ俺が面倒見る。女の子をひとりぼっちにするのも心配でな。」


 どんな人であろうとも、ひとりぼっちは寂しい。それは俺も知っているからこそだ。


「それにかつての俺も孤児になりかけた。だがその時に助けてくれた家族が居たんだ。だから今度は俺がアリサちゃんを助けたいんだ」


「……いいんですか?少し……嬉しい、です。家族が、ひ、一人増えて。アリサって呼んでねお兄ちゃん……?」


「おう。にいちゃんにドンと任せな」


 とアリサは涙まじりの笑顔で俺の申し出を受け入れてくれた。彼女を心配しているのは本当で、身寄りのないひとりぼっちの幼い子供にはつらい思いはさせたくない。


 少なくともアリサに来るであろう孤独を未然に防ぐことはできた。こうでもしないと幼い頃に家族を失った俺のように、未来に絶望するような事にならずに済んだのは喜ばしいことだ。


 それにかつての幼馴染たちが俺を支え、温かな家族に迎え入れてくれたように、俺も彼女の新しい家族となって支える。俺が受けた恩を今こそ別の誰かに返す番なのだ。


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