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第一章 12「線と線が交わる瞬間」

「誰かー、誰かいませんかー!」


 と馬上からこだまするのは、妙に若い女性。はてあの集団の中に女の子なんて居たかな?なんて思いながら声の方を見ると先ほどの剣士らしく、生存者を探しているようだ。

 村人ならいるにいるが……肝心のアリサは立って歩くのも難しいだろう。


 どうしたらいいか戸惑いながらも、こちらを見上げるアリサにやむを得ないと観念する。


「……わかった。俺と一緒に行こう」


 と不安そうなアリサちゃんを再び抱っこする。彼女は驚くが、俺の腕の中でしがみつくようにこちらに抱きついていた。


「ありがとう、ございます」


 アリサちゃんが落ちないようにしっかり支えながら、家の中から呼びかけている剣士の方へと歩いていく。


「さて、どうしたもんかね……」


 そう呟いてしまうも無理はない。全身真っ黒な鎧に、獣を模した兜。おまけにデカい大剣背負った不審者が、小さな女の子を抱えて家から出てくるもんだから、俺が彼らの立場なら同じ気持ちだろう。


 兵士たちのもとへ辿り着けば、俺から話しかけようとしたが、先に兵士の一人が口を開いた。


「君はここの村人か?その子はなんだ?」


「……彼女はここの村人で、俺は通りすがりの者だ」


 下ろしてあげたアリサちゃんは、その言葉を肯定するように、悲しみに満ちた表情で首を縦に振った。


 それを聞いた兵士は配慮が足りないと自覚したのか、自責の面持ちだったが、後方には斥候からの報告が聞こえてくる。


「隊長、この子供とあの者以外生存者が見当たりません」


「そうか。それは困ったな。ここもほぼ全滅ですね。念の為、君たちは村周辺の探索を頼めますか?」


「了解!」


 と駆け出していく部下の兵士たちをみながら、隊長と呼ばれた女性は俺に尋ねていた。


「申し遅れた、私は隊長をやらせてもらっているメリネ・フェンと申します。貴公の名を聞いても?」


 その丁寧な物言いと、所作に教養がある人物だと信じた俺は、素直に答えた。


「俺はヴァルツ。この村には泊まろうと矢先にオークたちの襲撃に出会した。それで生存者を探してたところで、運よくこの子だけを見つけて助けた。」


 とアリサちゃんも同意するように頷く。俺とアリサちゃんを交互に見たメリネ隊長は半信半疑であったが、納得したようでそれ以上の追及はなかった。


「わかった。あなたのおかげで、たとえ幼い女の子だけでも助かったことは喜ばしいことだ。領主に代わって礼を言う」


「俺は自分にできることはしただけで、この子だけでも無事なのは、親父さんのおかげだ」

 そう言っては、ついうっかりとアリサちゃんの頭を撫でてしまった。


 いくら自分が助けたとはいえ、女の子の頭を撫でるなんて初めてで、意識し始めるとだんだんと緊張してしまったのか、後半からどんな感触だったのか覚えていない。

 撫でられたことに驚いたアリサちゃんは、こちらを見上げて見つめてきたが、拒むことなく笑顔だったので、心の底からほっとした。


「ところで隊長さんや兵士の方々はどちらの国から?俺はこのあたりのことは、色々わからないんだ」


「私達はこの先の交易都市アリューン所属の兵士で、今は村の巡回をしている」


「アリューン……」


 それから俺が知ってることを全て話した後で、メリネ隊長含む巡回の兵士たちは村人の弔いに取り掛かった。俺はアリサちゃんを連れながら見守っていると、アリサちゃんの親父さんも運ばれていき、村の共同墓地へと丁重に弔われた。


 運ばれていく遺体の中には、思わずうっとなりそうなぐらいの悲惨な遺体もあった。今のアリサちゃんにはきついと判断した俺は、見ないように彼女を抱えて別の場所へと移動した。


 そうして全村人達の埋葬が済めば、兵士一同で祈りを捧げていた。

 習わしなどが全くわからない俺は、皆の真似するようにして、ただただ黙祷を捧げる。数分ぐらいで黙祷が終わり、メリネ隊長共々、これからの話になった。


「では私たちはこれから他の村への巡回に行きます。もしこの村から離れるならこの先の果てに都市がありますから。私の名前を出せば問題ないはずです」


「隊長、お先に失礼します。兄ちゃんと嬢ちゃんも達者でな」


 先ほど話しかけてきた兵士が、俺たちへと気遣って挨拶をしてくれた。


「ありがとう。何から何まで世話になった」


「構わねえよ。俺たちからすれば、あんたのおかげで一人でも生きててくれたんだからな、無意味に終わらなくて、俺たちは嬉しいのさ」


 気のいい兵士からの励ましと礼は心地よい。そんな兵士たちを見送っていると、メリネ隊長が残ると言い出した。


 どういうつもりで残ったかはわからないが、せっかくメリネ隊長がいるのだから、着替えができない間のアリサの面倒を見てもらうことになった。その条件に数日間は共に過ごすことになった。


 警戒しているのだろうか、主に俺を。一応同性同士なので問題ないとは思うが、俺が作業してる間に、こっそりと使い魔の一匹を近くに飛ばして、二人の会話に聞き耳を立てることにした。


「メリネさんは、剣士なんですか?」


「あぁ、私は15の頃から放浪しながら剣の鍛錬していていた。今は兵士として働いているのも鍛錬の一環だ」


「す、すごかった。メリネさんはとてもすごくて強かったです……!」


「そうか、ありがとうアリサ」


 メリネ隊長に関しては俺は同じ気持ちであった。15の頃の俺なんて目先真っ暗の勝手に悲観的であったからな。そういうところで勝手に俺はメリネへの好感度ポイントが増えていた。


「それから5年ぐらいは剣を振ってばかりだ」


「そ、そうなんですか。あの、好きなものってあったりします?メリネさんのこと教えてください!」


「好きなもの?あぁそれなら……」


 杞憂だったな、と安心してアイテム整理の作業へ戻る。彼女達の会話が弾んでいるようで何よりだ。そういえば昔のオンゲの友が百合やら、美少女同士のCPが至高とか言ってたが、こういうことなんだろうなとなんとなく理解できた。まぁ至ることは難しそうだが。


 そう思いながら、しばらく経ってからメリネが覗き込むように背後に立っていた。


「あの子は寝てしまったよ。」


「そうか、助かるぜ。隊長さん。年頃の女の子には、なにぶん気をつけねえといけねえからな」


「メリネでいい。優しいね、君は」


「じゃあメリネで。当然だろ?子供は子供らしく生きて欲しいもんだ」


 そう言い放つ俺は彼女の方を向かずに作業に没頭していた。


「忙しそうだね」


「すまないが、しばらくはアリサちゃんの面倒を頼めないか?話し相手だけでもいいんだ」


「構わないよ、お安い御用だ」


「助かるよ」


 俺は感謝の気持ちで彼女にお礼を伝えたが、彼女はまだ何か用があるらしい。


「アリサに聞いたよ、君が自分を助けてくれて、みんなの仇の化け物たちを倒したんだってね」


「あぁ、我ながら無謀だと思ってた。だがアリサちゃんを助けるために、無我夢中だったわけさ」


「……君は、とてつもなく強いんだね。私よりも」


 そう言い残した彼女は、アリサの側で添い寝するために戻っていった。ついさっきまで、他人同士だったのが、今では家族に見えるぐらい仲睦まじいものだ。だが彼女の物言いには何か引っ掛かりを感じたが、考えすぎだなと忘れることにした。



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