第一章 11「燃える炎の後で」
彼女を抱っこしながらの道中で、他の生存者を探したが、この辺りには誰もいない。
結局のところ、俺が救出できた生存者は、俺の腕の中で疲れ果て、眠っているアリサちゃんだけで、他の村人はどこかに連れて行かれてしまったのだろうか。
そんな淡い気持ちを否定するように、村への帰路にて、遺体や残骸などで埋め尽くされていた。とても悲惨なもので、それらを見てからずっと胸糞悪い。
そのまま村に着いても、誰もいない。逃がした一匹のせいでオークたちを率いていた親玉までも逃げたらしい。
やるせなさを感じていると雨が降り始め、火の海を消し始めていった。
「ここは……?」
「……気が付いたか?」
「あ、あなたはさっきの?」
「おう。雨が降ってきたし、話はあとだ。」
俺は問題ないが、彼女を気遣って先ほどの家へ向かう。
「ヴァルツさん……。あの、オーク達は……?」
「とりあえずアリサちゃんを襲ってた連中は全部倒した。けど親玉どもが逃げ出したようで、ごめんな」
とオーク達に因縁ある彼女に見せるのは一瞬渋ったが、彼女を安心させるためだと自分に言い聞かせては、オークの使っていた武器を見せることを選んだ。
「あ、ありがとう……ござい、ます…」
「本当に無事でよかった。親父さんとの約束は守れたからな」
「お父さんが……あっお父さんは大丈夫なん、ですか?」
「……」
俺はアリサちゃんをさっきの男性がいた家へ連れていく。彼との約束通りアリサの救出を果たした俺は、彼女を自らの父親と再開させた。
怪我を治したとはいえ、まだ万全ではない彼女を支えるようにして付き添いながら、父親と再会を果たしたアリサちゃん。
最初は何も言わず信じられずに首を振っていたが、次第に血で汚れることを構わず抱きついてしまう。
えぐえぐと、感情と涙が堪えきれずに、父親の胸の中で嗚咽をこぼす彼女を、近くで見守る俺には何も言えない。なんの慰めも思いつかず、雨の音が全てを飲み込んでいく。
泣き噦るアリサちゃんの後ろ姿は、幼き日の事故で死んでいった両親の遺体に縋っていた自分を連想させた。いつの間にか重ねていたようで、俺も涙が溢れてしまった。
思い出さないようにしていた深い悲しみは、大事に、大事に心の中にしまうように、窓の方角を向いて気を紛らわせようとした。
だが外を見ていると、遠方から残党のオーク達が戻ってきているのを目撃。───ちっ、性懲りも無く来やがって。悪態つきながら外へ出ようとする。
振り返ってアリサちゃんの様子を伺う。彼女の涙は止まることはないだろう。幸いにも雨が音をかき消してくれているが、親子の別れの邪魔をさせないために扉を閉め、家の外に出る。
家から出てきた俺へ、獣じみた声で吠えまくっていたオーク達は、見るからに俺という存在を警戒していた。俺は気にせず大剣を抜きながら、オークたちにただただ大剣の剣先を向けた。
何も発さずにいたが、確認するように視線をぐるり一周させながらもネームド枠のボスオークがいなくて、興味を失った。
そんな俺に恐れもせずに襲いかかってくる一匹に、インベントリから出した斧を投げてやった。顔面に斧が刺されば呆気なく足元から崩れ、膝をついた。
それを目撃したオーク達は、仲間たちを倒した俺には勝てないとわかったのか、一目散に逃げ始めた。
オーク達が逃げ出し、残されたのはオークたちが連れてきたであろう奴隷じみたゴブリン達だけ。俺は目もくれずに剣をしまうと、敵対してないゴブリンたちの鎖を断ち切ってやった。
自分たちに何もしないと捉えたゴブリンたちは、器用にも身につけていた首輪と手錠を外し、一目散にオーク達とは違う方面に逃げていった。
一波乱起こらなくてよかったと思いながらも、雨の中を歩く。再び扉を開けると暗闇の中のアリサちゃんはこちらを見上げながらも、既に泣き止んでいた。
「……もういいのか?」
「ちゃんと……お父さんとお別れできましたから。……ありがとう、ございましたヴァルツさん」
急いで立ち上がってこちらを見つめるその姿は、少しでも気丈になろうとしているようにも見えた。
「どうってことはねえよ。俺は親父さんから頼まれて助けに来ただけさ」
雨でずぶ濡れの俺に、古びたタオルを渡してくるアリサちゃん。彼女に礼を言ってタオルを受け取れば、丁寧に鎧についた雨の雫を拭っていた。
「ただ……親父さんを助けられなかった。すまない」
だからこそ拭くのを中断してまで彼女に頭を下げる。そうする必要はなかったが、俺がそうしたかった。
「わた、し、私は、お父さんとヴァルツさんのおかげで、いま生きてます。そう、謝らないで下さい」
「……そうか。ひとまずはアリサちゃんの体調が治るまで、ここに泊まらせてもらってもいいか?親父さんも、みんなも弔ってやらねえとな」
「はい、よろしく、お願いします……!」
こちらから手を出して、彼女が恐る恐る手を握った上で、優しく握り返した。そのついでに途中から手の届かない場所を彼女に拭いてもらっていると、いつの間にか外の雨は降り止んでいたが、雨の代わりに外が何やら騒がしい。
「やけに外が騒がしいな……?」
アリサちゃんも耳を動かして外への反応を示したようで、それを見た俺は彼女を抱っこしたまま窓側に移動して、一緒に外を覗き込んだ。
騒音の発生源を見ると、そこには逃げていったはずのオーク達が村に逃げ込んできて、どこかの国の兵士たちがオークたちを追撃し、村の中で交戦していた。
安っぽいが正規兵の身なりをした兵士たちは、さっき逃げていったオーク達を逃すまいと連携して攻撃していた。その中でも一際目立つ一人の剣士は、一撃、一撃でオーク達を仕留めていく。
それから幾分とかからないまま、オーク達を片付けた兵士たちが、村の中心へ向かってくるのが見えた。
オークが倒されたことは問題ない。それよりも俺という身元不明の人物がここにいていいのかと案じていた。
おそらくだが、村を襲ったオーク達はある程度全滅した。だが肝心の親玉の姿が見えない。それにゴブリン達が引いていた荷馬車、あれは運搬用。だとすると村人達はどこかへ連れ去られた可能性もある。
向かってくる兵士たちはおそらく周辺国の所属だろう、そして自分は所属不明。おまけに今の俺はこの国では不法侵入、素性を明かすこともできない。そうなると余計に怪しまれる。
連行されるのは確定として、その後は監禁もしくは処刑されるかもしれない不安がよぎる。俺だって無闇に敵対したくないし、争いごとは極力避けたいと思っている。
だが兵士たちを見るに人間で構成されているので、人間の国だろう。こんな不審な奴が、のこのこ出てもいいものだろうかと不安と憶測が取れない。
「(とりあえず、出ないように隠れよう。)」
アリサにも事情を説明すべきだが、時間がない上に、彼女に俺の素性をばらして本当に大丈夫なのか?と思ってしまったので機を伺うことにした。




