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第一章 8「STAGE SELECT ▶︎ ??? ノ 世界」

「ッ……?まるでサバイバルゲーみたいなリポップ位置だな。どこなんだよここ。」


 意識を取り戻した俺は棒立ちのまま立っており、空を見上げながら呟く。眩しいぐらい快晴の陽射しが、木々の隙間から降り注いでいる。手を額に当て、日差しを遮るようにして、辺りを見渡していると次第に慣れ始めた。


 こちらを照りつける暑さは存外に悪くなかったが、何やら身体が重く感じるので視線を下に向ける。

 最初に映るのは手足のグリーヴとレギンス、それと黒い鎧。念の為にと近くの小川を覗き込むと見える狼を模した兜。


「……マジか、いやマジじゃんこれ。すっげぇ……エンデスの時のそのままだ……」


 アシュと話していたときは、自分がどうなっているかなんて、全く気づいていなかった。何せあれほど久しぶりに他人と話すものだから、少々浮かれすぎていたようだ。

 まあ肝心なことを聞くのに必死だったのだから、仕方ないと気を取り直す。


 終始確かめるようにその場で座り込んでは、鎧や防具をペタペタ触れたり、水に触れてみたりしていた。


「まぁ流石にあのガリガリ体型でこっちきても何もできねえから、これがベストだな。とはいえ、水に触れるし日差しも暑い。本当に生きてるんだな。こうしていると小学生の頃の遠足を思い出すなぁ……」


 まだ持病も酷くない時に、皆と共に参加できた小3ぐらいの遠足。山中にある観光スポットまで登っていくだけの、ごく普通の遠足は数少ない思い出であった。


 当時の俺は外に出かけることが少なかったから嬉しくて、帰りはバスの中で寝るぐらいはしゃいでいたなあとしみじみとしていた。


 そんな思い出を浸るように、森の中を歩いていく。道中の小風に揺れる枝先の揺れる音、小鳥たちの囀りに身を翻す。人の手が及ばんでいない本当の自然を体感できて気が弛みそうになる。


「(ガキの頃から数十年、こんな自然の中で自由に身体を動かせるなんてな、今でも信じられないな)」


 肩に乗り移ったリス?じみた小動物と触れ合いを切り上げて、移動しようかと立ち上がると視界が揺れる。地震か、と思うも木々が揺れることもない。

 そうか、目眩を感じているのか。


「(目眩、か?……この身体でも、いや今考えても仕方ない、少し休むか)」


 やむを得ず、近くの木の根元にどさっと腰を下ろす。木陰もちょうど良く。ついでに兜を外して顔を晒すと風が頬に当たって涼しい。


「ちょいと動いただけでこのざまとは、情けないもんだ。もしかしてこの身体に精馴染んでいないのか……?」


 そういった話も漫画でもあったなと思い出しながら、ふと口を開けて伸ばすようにあくびを漏らす。暇つぶしとしてエンデスで行ってたことを試してみることに。


「うおっ、ほんとに出たぞステータス画面。でも俺にしか見えないのか?」


 試しに指を鳴らして、ステータスコマンド呼び出しも成功。ちゃんと俺の名前もあるしこのアバターのステータスもそのままで安心したが、見慣れないものがあった。


 【ユニークスキル 黄昏の真祖】なるものは、エンデスでも見たことも聞いたことがない。訝しみながらそのユニークスキルを見ると、説明にはこう記されている。


 『異界に生まれ落ちた吸血鬼は、陽光すら歩みを止めることはできない本当の真祖となる資格を得た。それがある物語の始まりであるのを知らずに』


 ???。全く見たことないフレーバーテキスト。書かれていることはおそらく自分を指しているらしいが、後半部分はメタすぎるのではないか?と思う。


 エンデスではアバターの種族であるヴァンパイアの【吸血衝動】などは克服させてはいたが、日差し系のデバフは半減程度でとどまっている。それがユニークスキルのおかげで、日差しなどの弱点も克服できている歪なヴァンパイアとなっている。


「(エンデスでは衝動による行動不可スタン誘惑や状態異常の耐性が低かったり、そういった光魔法に弱かったのを考慮していたが、こっちではその弱点がなくなっている。アシュのテコ入れか、あるいはこの世界の影響か。ただのスキルのようには見えないが……)」


 と考え込んでいると船を漕ぐようにウトウトし始めてきた。アンデッドだと思っていたが、どうやら弱点の代わりに睡魔なるものは、人間と変わらずあるようだ。仕方なくちょっとだけ眠ることにした。


 ぐーぐー寝ていたはずなのに、気が付けば変な空間で目を覚ます。辺りには何もなく、ただ目の前にウィンドウだけが存在した。


 視線をそちらへ移すと俺の名前だけ記載にあった。目をこらすと俺を中心に何かのスキルツリー群が形成されているが、よくわからない。

 となるとこれは……。


「なるほど、ギャルゲーみたいな好感度管理は空欄、差し詰め夜会話との記録表か。しかしなんで今見れるんだ?もしかして寝た判定だったから総評が見れる感じか?」


 だがそれを確かめる術は今にない。そうしている間にも意識は後ろから引っ張られ、目を覚ました。日は真上に登っており、おそらく今は昼過ぎであった。

 先ほどまで何を見ていたか思い出せないが、何か大事なものだった気がする。


 思い出すようにうんうん唸るけど駄目。だがその代わりになんだか体が軽い気がした。試しに飛び上がってみると軽やかであった。


 寝たおかげかもしれないが、何せ鎧をきたままでも重さを感じない軽快な動きは俺が絶好調のコンディションに戻ったことを表していた。


 調子に乗った俺は、軽くだが、身体を動かすことにした。折角自分の体で自由に動けるようになったんだと内心ワクワクしていたのもあるが。


 俺が着ている鎧は重装にカテゴライズされるもので、移動速度や回避性能が低下するが、その代わりに耐性や防御力は最上級でとても愛用していた。

 そんな重い鎧を着ても特に動きに制限されることもないのは、身体能力自体がすでに人を超えているのだと暗に証明していた。


 試しに自由に動き、走り回ってみる。軽く数十分間は森の中という、走りにくい環境で動き回ったというのに、息の一つすら上がっていない。

 スタミナバーというものが元のゲームに存在したが、俺の視界にはHPバーだけで、それ以外は見られない。


 その後も思いっきり走り、岩や石など簡単に持ち上げることができた。想像以上の身体能力は、今までの俺の鬱憤を晴らしてくれるようで、俺は大いに喜びを噛み締めていた。


 流石にはしゃぎすぎたのか、一旦落ち着こうとする。日差しに照らされた俺の足元に影はないが、はみ出るように映る大剣の影を見て、大剣を背負ったまま動いていたのかと気づく。


「はしゃぎすぎてすっかり背負ってること忘れてたな。動いている時になんの影響もなかったが、今の俺がこれを持ったらどうなるんだ?」


 と先ほど見たウィンドウでのテキストや、今現在の自分の状態などを加味して、おそらく武器にも何かしらの変化はあるはずだ。

 背中から【ヨハネの大剣】を抜剣して身構える。武器の状態も変わらず綺麗なまま、特に変化もなく、ただの大剣だった。


「何かしら変化もあると思ったが、特に変わったところもなし」


 ちょっと残念な気持ちと淡い期待を込めて、試しに地面に刺してみる。すると剣身の三分の一が沈んでいくことに、あわてて引き抜いた。大剣の重さは忠実に再現されているようで無駄な冷や汗をかかされてしまった。


 大剣を背負い直そうとするけど、柄の手前で謎のモヤに手首の先から消えた。──うわああなんて、定番のような、テンプレのような情けない声が出る。


 結果としてなんともなかったので安堵したが、試しにもう一度同じようにモヤに手を入れてみる。様子を見ながらも無事を確認したので、改めてモヤの中で手を動かしてみる。


 モヤの中を色々探りながらも何かを掴む。モヤから手を抜いてみるとアイテムを握っていた。どうやら消費アイテムで、瓶に入った青の液体は初心者の頃から見慣れた色、見間違うことのないエンデスでの低級ポーションだ。


 どうやらこのモヤは俺がエンデスで獲得したアイテムや装備をいれているインベントリらしい。ふとアシュからの言葉で、特典と言っていたが……今の自分の状態にすべて合点がいった。


「なるほど、特典ってのはこの体と、これらのことか……」


 ゲームによくある引き継ぎシステムと思えば、なんとなく今の状態を理解するのも容易い。

 新しく手に入れた人間離れした肉体と、それに付随したステータスの暴力。エンデスからのアイテム装備など、これらまとめてアシュの言っていた特典らしい。


 俺としては新しい旅立ちも決して嫌いではないが、なんらかの保険が欲しかったのも本音だ。廃人プレイのおかげか、インベントリにパンパンに詰めていた気がする。


 取り出したアイテムをインベントリのモヤにしまいながらも、他に得た情報はアイテムと武器にタッチするように触れると、その情報が見れる程度ぐらいで、特段目新しいものはなかった。


 検証と運動を終わらせた時には辺りも暗くなってきたので、大樹の上で初野宿となった。この体のおかげか眠くはないが、寝るしかやることがないので、そっと瞼を閉じた。

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