黒き天使 第二部 第41話 ― 元素の罠
いつも『黒き天使(Anjo Negro)』を読んでいただき、ありがとうございます。
前回までの物語では、リーがクリザードの基地を次々と破壊し、宇宙全体に大きな波紋を広げました。
その行動により、ついにクリザード王――アレスが本格的に動き出します。
一方、レオンは戦うためではなく「監視任務」として惑星ノアへ向かうことになります。
しかし、この任務はただの偵察ではありませんでした。
王が張り巡らせた罠。
リーの覚悟。
そしてレオンの選択。
それぞれの運命が、同じ場所で交差しようとしています。
今回は戦いの始まりではなく、戦いが避けられなくなる瞬間の物語です。
どうぞ最後までお楽しみください。
夜の惑星ノアは、まるで世界そのものが息を潜めているかのように静まり返っていた。
氷のような風が山々を吹き抜け、白い雪が舞い上がる。
その静寂を破るように、一隻の小型船が山脈の陰にゆっくりと着陸した。
扉が開き、レオンは慎重に地面へ降り立つ。
フード付きの外套を深く被り、足跡を残さぬよう雪の上を歩く。
彼は断崖の縁まで進み、遠くを見下ろした。
そこには――
巨大なクリザード要塞がそびえ立っていた。
赤い光に照らされた塔。
無数の機械兵が巡回する城壁。
夜の闇の中で、その存在だけが異様なほどに“生きている”。
(……死んだ場所じゃない)
レオンは目を細める。
(ここには、強い怨念が残っている。血の匂いが石に染み込んでいる……)
彼は静かに息を吐いた。
(でも、今日は戦いに来たわけじゃない)
その瞬間――
森の奥、焼け焦げた木々の影の中に、もう一つの影が現れる。
黒い外套。
フードの奥で、黄金の瞳が光った。
リーだった。
彼もまた、要塞を見つめている。
「……クリザード」
低く、静かな声が夜に溶ける。
「ここを落とせば、王座にまた一歩近づく」
その眼差しには、怒りと――
そして、確かな覚悟が宿っていた。
「この要塞が次だ」
彼は一歩踏み出した。
その時だった。
地下深く、要塞の中心部。
青い炎の灯る広間で、一人の男が立っていた。
王、アレス。
彼の前には、鎧を纏った子供たちが円形に並んでいる。
それぞれが、炎・水・土・風・雷――五つの元素を象徴する戦士たち。
アレスは静かに目を閉じ、そして開いた。
「リーは自分を狩人だと思っている」
低い声が広間に響く。
「だが、今夜……彼は“獲物”になる」
空気が張り詰める。
「将軍たちは彼を止められなかった。だが、お前たちは違う」
彼は手を上げた。
「お前たちは炎、水、土、風、雷――王国そのものだ」
最初に一歩前へ出たのは炎の戦士、イリス。
「彼に、我らの炎の怒りを味わわせてやる」
続いてソルが笑う。
「父上に逆らう者は、灰になるだけ」
水の戦士アグスは静かに言う。
「彼は幻の海に沈むでしょう」
大地の戦士テルが拳を握る。
「大地が彼を葬る」
風の戦士ヴィトルが囁く。
「逃げ場はない」
最後に雷のロコが空を指差した。
「天が彼を裁く」
アレスは満足げに頷いた。
そして、床に浮かび上がる巨大な立体地図を見下ろす。
そこには要塞の構造、出口、隠し通路すべてが表示されていた。
五つの元素の部隊が、すでに各所に配置されている。
完全な包囲。
「今夜、戦いは起きない」
彼は言った。
「起きるのは――捕獲だ」
アレスの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
その頃、外では――
レオンとリーが、互いの存在を知らぬまま、同じ要塞へと歩み始めていた。
そしてすでに、彼らは罠の中へ足を踏み入れていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
いよいよ「ノア要塞編」が本格的に始まりました。
今回はアレスとその子供たちが初めて本格的に動き、リーに対して明確な“罠”を仕掛けています。
この章では、レオンとリーが同じ場所にいながら互いを知らない状態で物語が進みます。
そして彼らの選択が、やがて大きな衝突へと繋がっていきます。
作者ページでは
・『Anjo Negro』の世界観音楽
・ワンショット外伝
・キャラクタープロフィール
も公開しています。
物語の理解が深まる内容になっていますので、ぜひ覗いてみてください!
次回、ついに罠が動き出します。




