第407話 「速さ対不可能」
前回、時を操るヴァロンたちの圧倒的な力が明らかになり、トーナメントのレベルが常識の外にあることを誰もが思い知らされました。
そして今、リングに上がるのはレオンたち。
相手は、雷の双子と、全てを凌駕する速さを持つ男――。
一瞬たりとも目が離せない戦いが、今始まります。
試合場全体が、総立ちになっていた。
誰も瞬きを忘れ、誰もが息を呑んでいる。
巨大な掲示板には、組み合わせがくっきりと浮かび上がっていた。
レオン・ソル・ダリアム
VS
カエル・カエン・ライコー
実況アナウンサーが腕を高く掲げ、叫んだ。
――それでは、試合開始!!
ドゴーン!!
誰も状況を飲み込めないうちに――ライコーの姿が、跡形もなく消えた。
「消えた?!」ナンドが、目を見開いて絶叫する。
ドン!!
ダリアムが腹に一撃を受け、瞳を大きく見開いた。
「な――?!」
ドゴーン!!
そのまま勢いよく壁に叩きつけられ、リングの構造が大きくひび割れた。
「ダリアム!!」ララが、思わず声を上げる。
だが次の瞬間――
ドン!!
ソルも反応する間もなく襲われ、体が一回転して別の壁に激突した。
試合場全体が、一瞬で凍りついた。
完全な沈黙。
ソルが膝をつき、血を吐きながら言った。
「この……悪魔め……」
ダリアムも体を起こそうともがきながら、うめいた。
「まったく……何が起こったのか……見えなかった……」
カエルが、冷ややかに笑い始めた。
「思ったより、簡単そうだな」
カエンも、口角を上げる。
「もっと時間がかかるかと思ったが」
ナンドは、ただ呆然としていた。
「いったい、今のは何なんだ?!」
ジラが腕を組み、言った。
「あの男……普通じゃない……」
ララが、思わず手を口に当てる。
「なんてこと……」
レニが、拳を強く握りしめた。
「あいつは……」
観客席の最上階、運営スタッフのエリアでは、ヴァロンが厳しい表情で試合を見つめていた。
ヴァンダーが腕を組み、言う。
「やはり、我々が相手をすることになるのかもしれませんね」
「そうかもしれない。だが、よく見ろ」
ヴァンダーが目を細める。
「待て……レオンは……まったく動じていない?」
全員の視線が、レオンに集まる。
彼は、ただその場に立ったまま、穏やかに微笑んでいた。
ライコーが、初めて興味を示したように口元を歪める。
「面白い」
審判が手を挙げ、宣告した。
「ダリアム、試合続行不能!!」
「ソル、試合続行不能!!」
沈黙が会場を覆う。
ソルが歯を食いしばる。
「くそっ……この野郎……」
ダリアムが、悔しさを込めて地面を叩く。
「何も……できなかった……」
レオンは二人を見下ろし、大きく息を吸って言った。
「ありがとう。あとは……俺に任せてくれ」
ドゴーン!!
青と金色のオーラが、一気に爆発した。
金色の狼のような瞳が、鋭く輝きだす。
試合場全体が、その圧力に揺れる。
「あいつが発動した!!」ナンドが叫ぶ。
「クリザルドのオーラだ!!」キラが、はっきりとそれを認める。
カエルが笑う。
「さあ、やっと本気を出すか」
カエンが首を鳴らし、言った。
「遊んでやるよ」
ドゴーン!!
二人の姿が、同時に消えた。
最高速で駆け巡り、残像が数十、数百、数千と生まれる。
「――雷の舞!!」カエルが叫ぶ。
「ついてこられるかな!!」カエンが、高らかに笑う。
「ドン!ドン!ドン!ドン!」
四方八方から、一撃また一撃が襲いかかる。
だがレオンは、ただ首を動かし、一歩、また一歩と動くだけで、全てを回避していく。
まるで、全ての動きをあらかじめ見ているかのように。
ナンドが立ち上がり、周りに問いかける。
「今の、見たか?!」
レニが、目を細めて確かめるように言う。
「確認してくれ……」
「何を?」ケルが尋ねる。
ナンドが、驚きを隠せずに言う。
「レオンは……本来なら、あのライコーの一撃でとっくに場外に飛ばされているはずなんだ……なのに、全部かわしていた……」
ジラが、はっとしたように思い出す。
あの夜、ララが言った言葉。
「一番心配しなければならないのは、レオンよ」
ジラがララを見て、尋ねる。
「ララ……それでも、あなたは彼を信じているの?」
ララは、恐れも迷いもなく、リングを見つめたまま答えた。
「うん。彼を信じてる。彼が、こんなに簡単に負けたりしないわ」
リングの中で、カエルが背後に現れる。
「ドン!!」
だがレオンは、その直前に姿を消した。
カエンが右側から襲いかかる。
「ドン!!」
またもや、レオンの姿はない。
カエルが、動きを止める。
「なんだ?!」
カエンも、驚きで目を見開く。
「ありえない!!」
レオンが、いつの間にか二人の背後に現れて、静かに言った。
「終わりか?」
ドン!!
カエンが、その場で吹き飛ばされる。
ドゴーン!!
カエルが反応しようとした瞬間、レオンが回転して強烈な一撃を叩き込む。
ガシャ――!!
リングの床が、大きく砕け散る。
試合場全体が、歓声とどよめきに包まれる。
「双子を、一撃で!!」
「ありえない!!」
ライコーが腕を組んだまま、静かに見ていた。そして、本当の笑みを浮かべる。
「なるほど……お前は期待を裏切らない男だな」
カエルが血を流しながら体を起こし、叫ぶ。
「まだ……まだ終わらない!!――――移動融合!!」
ドゴーン!!
二人は、さらに速度を上げて走り出す。
どんどん速く、どんどん速く。
周囲の空気が歪み、真空と圧力が生まれ、軌道上で次々と爆発が起こる。
「あいつら、全力を出してきた!!」ヴァンダーが言う。
ヴァロンが、いっそう厳しい表情になる。
「レオン……見せてみろ。お前の本当の力を」
双子の姿が、完全に見えなくなる。
だがレオンだけは、その場に立ったまま、落ち着いて呼吸を続けている。
次の瞬間、二人が同時に目の前に現れる。
「――超音速衝撃!!」
ドゴゴゴゴーン!!
閃光と爆発が、リング全体を覆い尽くした。
煙が立ち込め、誰もが息を止めて見守る。
ナンドが、声を震わせる。
「レオン……おい……」
煙がゆっくりと晴れていく。
一歩、また一歩。
レオンが、無傷でその中から歩み出てきた。
試合場全体が、歓声で揺れる。
「ありえない!!」
「耐えたのか?!」
「どういうことだ?!」
レニが、言葉もなく立ち尽くした。
初めて、彼の顔には明らかな驚きが浮かんでいた。
ヴァロンが、胸の前で腕を組み直し、つぶやく。
「あの少年は……大きく成長した……」
ライコーが、嬉しそうに笑う。
「やっと……ここまで来てくれたか」
カエルとカエンが、肩で息をしながら地面に倒れている。
レオンが、天の剣を掲げる。
刀身が青と金色に輝き、五つの元素――水、火、土、風、雷――が渦を巻き始める。
「天の剣……五天の断罪」
ドゴーン!!
レオンの姿が、一瞬で消えた。
カエルが絶叫する。
「速すぎる!!」
カエンが振り向くが、時すでに遅い。
一閃が走り、二人はそのまま宙に浮き上がり、力なく地面に倒れ伏した。
審判が手を挙げる。
「カエル、カエン、試合続行不能!!」
会場は、総立ちでレオンの名前を叫ぶ。
「レオン!!レオン!!レオン!!」
ナンドが、声を枯らして叫ぶ。
「こいつが、俺の友達だ!!」
ジラが、呆然とつぶやく。
「信じられない……」
キラが、腕を組んで言う。
「あいつは、あまりにも強くなりすぎた……」
ララが、誇らしげに微笑む。
「言ったでしょ」
ソルは、まだ地面に倒れたまま、レオンを見つめていた。
「そうか……これが、あなたの本当の姿なのね……」
ダリアムが、大きく息を吐く。
「なんてこった……隠してやがったのか……」
レニが、ようやく笑みを浮かべる。
「これでようやく……面白くなってきた」
リングの中に、残されたのは二人だけ。
レオンと、ライコー。
あらゆる音が消え、完全な沈黙が訪れる。
ライコーが、ゆっくりと歩み出る。
黒いブレスレットが、まだ地面に転がっている。
彼の髪が、周囲の圧力でなびく中、本当の笑みを浮かべて言った。
「やっとだな」
レオンが、剣を構え直し、金色の瞳を輝かせる。
「さあ――これからが、面白いところだ」
二人が、向かい合う。
試合場の誰もが、息を呑んで見つめている。
ヴァロンが、静かに言う。
「いよいよ、始まるのか」
ヴァンダーが、期待を込めて微笑む。
「真の決闘が――」
――第407話 了
いかがでしたでしょうか。
圧倒的な速さの前に、あらゆる常識が通用しない。
その中でレオンが見せたもの、そして最後に残った対決の意味とは――。
次回は、このトーナメントで最も注目される一戦が、ついに本格的に幕を開けます。
感想や応援の言葉をいただけますと、執筆の大きな励みになります。
どうぞ、次回もお楽しみに!




