第406話 「時の怪物たち」
トーナメントも第3段階に突入し、勝ち残った者たちの力は、常識の枠を超え始めています。
「過去」と「未来」を操る力。それが何を意味するのか――この試合が、その一端を明らかにしてくれるでしょう。
そしてこの戦いの先に、待ち受ける対決とは……。
試合場全体が、いつもと違っていた。
重い。
静かだ。
まるで全員が、これから起こることを予感しているかのように。
中央の巨大な掲示板が、強く光り輝いていた。
ヴァロン・カエル・サエル
VS
カレン・レナ・ケル
実況アナウンサーが、深く息を吸い込んだ。
――皆さん、こんにちは!
観客全員が、一斉に声を上げて応えた。
――第3段階、続行します!
――そして今、リングに上がるのは……
――このトーナメントで最も恐れられたチーム!
――《時の守り人》です!
照明が落ちた。
緑色の力が、試合場全体を包み込む。
まず、カエルが現れた。
ゆっくりとした足取り。
銀色の瞳が、冷たく輝いている。
まるで、これから起こる全てを知っているかのように。
次に、サエルが姿を見せた。
額に浮かぶ金色の紋様が、静かに光っている。
落ち着き払い。
沈黙の中に、深い謎を秘めている。
その時、地面が大きく揺れた。
ヴァロンが現れた。
緑色の鎧を身に纏い、圧倒的な気を放ちながら、厳しい眼差しで前方を見据えている。
試合場全体が、総立ちになった。
「ヴァロン!」
「ヴァロン!」
「ヴァロン!」
ナンドが腕を組んでつぶやいた。
「おい……あの爺さん、いつの間にか主役になってるぞ」
ジラが笑う。
「今更気づいたの?」
レニが真剣な面持ちで見つめていた。
「彼は変わった……あの敗北が、彼を大きく成長させたんだ」
ララは黙ったまま、腕を組んでいた。
レオンがその様子に気づく。
「心配?」
ララはリングを見つめて答えた。
「少しね……このチーム、異常だわ」
レオンは穏やかに微笑んだ。
「きっと大丈夫だよ」
そう言って、彼女の肩に手を置く。
ララは大きく息を吐いたが、まだどこか落ち着かない様子だった。
ソルはずっと静かに、ヴァロンを見つめていた。
ダリアムが気づいて尋ねる。
「彼のことを分析してるの?」
「うん……思っていたより、はるかに強いわ」
リュウが腕を組んで言い添えた。
「その通りだ。まだ本当の力を出していない」
ジュンも頷く。
「まだ隠しているものが、あるはずだ」
向こう側では、カレン、レナ、ケルの三人が、静かに歩み出てきた。
真剣な眼差し。
黒い炎が、彼女たちの周りを渦巻いている。
《黒き炎》の応援席が、一斉に沸き上がった。
「いけー!」
「見せてやれ、お前たちの本当の力を!」
ナンドも立ち上がって叫んだ。
「頑張れ、黒き炎!」
レニが横から言う。
「バカか。当然、彼女たちを応援するだろ。同じ仲間なんだから」
「そうだ、いけー!」
ジラが笑い出す。
「気が変わるのが早いわね、二人とも」
ケルが微笑み、ヴィニーが飛び跳ねて応援している。
アナウンサーが手を高く掲げた。
――それでは、試合開始!
ドゴーン!
カレンが、まず猛烈な速さで襲いかかった。
レナが左側から、ケルが右側から。
完璧な連携。
一瞬の隙もない。
「黒き炎よ、舞い上がれ!」
三本の黒い火柱が、一斉に噴き上がった。
試合場全体が激しく揺れる。
だが――ヴァロンは、微動だにしなかった。
「ふむ」
カエルが手を挙げる。
――過去よ。
時間が歪んだ。
三人の動きが、二秒前に戻された。
レナが驚いて目を見開く。
「なんだってー!」
サエルが、いつの間にか背後に回っていた。
――未来よ。
ドン!
一撃が決まり、レナはリングの半分ほども吹き飛ばされた。
「レナ!」
カレンが怒りを込めて力を解放する。
「甘く見るなー!」
「黒き炎の海よ、全てを焼き尽くせ!」
猛烈な熱量が、辺り一面を覆い尽くそうとした。
だがヴァロンは、一人で前に進み出る。
――禁忌の魔術……《緑の楽園》。
無数の緑色の像が現れた。
槍、剣、鎖、そして竜の姿まで。
試合場全体が、一瞬で静まり返った。
「なんてこった!」とナンドが絶叫する。
「あれを全部、彼一人が作ったのか!」
レニが厳しい表情で言った。
「彼は本気を出していない……まだ遊んでいるんだ」
カレンたちは必死に攻撃をかわし、像を打ち壊し、炎で焼き払っていく。
だがヴァロンは、いつでも、どこにでも現れる。
ドン!
カレンが倒れる。
ドン!
レナが吹き飛ぶ。
ドン!
ケルが壁に叩きつけられる。
「ありえない!」
リュウが目を細める。
「彼らは、あまりにも差がありすぎる」
ジュンも頷く。
「全くだ。相手にならない」
カレンが咆哮し、さらに激しい黒い炎を燃え上がらせた。
「絶対に、負けない!」
ケルが側面から、レナが背後から襲いかかる。
「三つの炎、一つに集約せよ!」
ドゴーン!
閃光が、試合場全体を包み込んだ。
煙が立ち込め、全員が固唾を飲んで見守る。
煙が晴れた時――
ヴァロンは、緑色の障壁に守られたまま、無傷でそこに立っていた。
完全な沈黙。
ララが腕を組み直し、声を震わせた。
「なんて……」
ソルは、ただ見つめている。
レオンだけが、落ち着いて状況を見ていた。
ナンドが唾を飲み込む。
「まさか……ありえないだろ」
ヴァロンが手を挙げる。
――禁忌の魔術……《天の鎖》。
無数の緑の鎖が、一斉に伸びていく。
三人は逃げようとしたが、カエルがまた手を挙げる。
――過去よ。
動きが、また遡ってしまう。
サエルが続ける。
――未来よ。
退路が、完全に塞がれた。
鎖が三人を捉え、動きを封じる。
カレンが力を解き放とうとしても、何も起こらない。
レナが逃げ出そうとしても、動けない。
ケルが歯を食いしばって叫ぶ。
「くそっ!」
ヴァロンが、ゆっくりと歩み寄る。
一歩、また一歩。
緑の光が、彼の周りを満たしている。
「お前たちは強い。だが、経験が足りない」
ドゴーン!
最後の一撃。
三人は、その場に倒れ伏した。
敗北した。
審判が手を挙げる。
「勝者!ヴァロン、カエル、サエル!」
試合場は、歓声とどよめきで満たされた。
ヴィニーがうつむく。
「負けちゃった……」
ケルが彼女を抱きしめて言う。
「よく頑張ったよ」
レニが厳しい面持ちで言った。
「この三人を止めるのは、非常に難しい……本当にな」
ナンドが腕を組んでつぶやく。
「もう、誰を応援すればいいのか分からなくなってきたぜ」
ジラが笑う。
「本当に、気が変わりやすいんだから」
ソルがリングを見つめて言った。
「言った通りよ。彼女たちには、勝ち目がなかった」
リュウがため息をつく。
「もっと驚かせてくれると思ったんだが」
ジュンが言い添える。
「全く、相手にもならなかった」
ララは、まだ真剣な表情のままだ。
レオンが尋ねる。
「まだ、何か気になることがあるの?」
ララは一度リングを見てから、応援席の方を見渡した。
ヴァルダリアン、ブズ、そして黒き炎の仲間たち――今まで敵対していた者たちまでが、一つになって声を上げている。
ありえなかったことが、今、現実になっている。
レオンが彼女の肩に手を置く。
「大丈夫だよ。きっと、うまくいく」
ララは彼を見て、少しだけ微笑んだ。
「あなたは、いつもそう簡単に言うけど……」
「だって、信じているから」
ララは少しうつむいて、小さくつぶやいた。
「バカね……」
ナンドが掲示板を見上げて言う。
「さあ、次は……レオンの試合だな」
掲示板が再び強く輝き出す。
赤い光と青い光が、交互に点滅する。
試合場全体が、再び総立ちになった。
表示が回転し、止まる。
そして――
次の組み合わせが、浮かび上がった。
レオン・ソル・ダリアム
VS
カエル・カエン・ライコー
完全な沈黙が、会場を包み込んだ。
ナンドが立ち上がって叫ぶ。
「いけー、レオン!絶対に勝て!」
ジラが驚いて目を見開く。
「これは……面白いことになりそうだわ」
リュウが厳しい表情で言う。
「この試合は、生半可なものにはならない」
ジュンが腕を組んで頷く。
「全くだ。想像を絶する戦いになるだろう」
レニが、初めて笑みを浮かべた。
「やっとだ……この時が来た」
ヴァロンも掲示板を見、それからゆっくりとレオンの方を見た。
レオンは、穏やかに微笑み返す。
まるで、この時を待っていたかのように。
ライコーがリングの入り口に現れ、その横には雷の双子、カエルとカエンが控えている。
カエンが笑みを浮かべる。
「やっとだな」
カエルは目を閉じたまま言う。
「運命が、動き出した」
ライコーがレオンを見据えて言った。
「クリザルドの少年よ。この時を、ずっと待っていたぞ」
レオンは微笑んで応える。
「俺もだ」
ソルは、あの二人の速さを見つめ、それからレオンを見た。
初めて――不思議な感覚に包まれた。
絶対的な、信頼。
ダリアムが大きく息を吸い込み、気合を入れ直す。
「よし、やるしかない!全力でいくぞ!」
照明が、再び暗くなり始めた。
アナウンサーが、腕を高く掲げる。
――皆さん、間もなく次の試合が始まります!
――このトーナメントで最も注目を集める一戦が、今――
幕を開けます!
――第406話 了
いかがでしたでしょうか。
「時」を操るという、力の本質が少しだけ見えた今、次の対決はいよいよ主人公チームの番です。
過去、現在、未来――その全てが交差する戦いが、間もなく始まります。
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どうぞ、次回もお楽しみに!




