第395話 「嵐の後」
予選最終戦、ライカーとの圧倒的な力の差を見せつけられた一戦が終わり、夜が訪れました。
喧騒が去り、静かに考え、絆を確かめ合う時間。
そして、次なるステージへの扉が開かれます。
夜が訪れた。
トーナメントが始まって以来初めて——
爆発も、
歓声も、
アリーナを壊すエネルギーもない。
ただ……
静寂だけがあった。
巨大スタジアムは徐々に人が去っていく。
各チームは拠点へと戻っていく。
喜ぶ者もいれば、
悔しがる者もいる。
またある者は——
これから何が起こるのかを考えていた。
なぜならこれから先は……
「化け物」だけが残るのだから。
ナンドがメイン通路をゆっくり歩いていた。
両腕には包帯が巻かれ、
まだ生々しい傷跡が残っている。
その隣をララが歩き、
後ろにはレオン、ソル、
ダラム、ナナ、ダラム、
キラ、レニ——
みんな一緒だ。
誰も言葉を発さない。
だがやがて——
「そうだな……」ナンドが口を開いた。
「俺、完全にやられちまったな」
「そうね」ソルが即座に答えた。
「ソル!」ララがたしなめる。
「えっ、本当のこと言ってるだけじゃない」
ナンドが見上げる。
「お前、全然助けてくれないじゃないか」
「精神を鍛えてるのよ」
「怒りを増幅させてるだけだろ」
一部の者が笑い出し、
重かった空気が少しずつ和らいでいく。
レオンが肩に手を置く。
「お前はよく頑張った」
「レオン……俺、ボロボロだったぞ」
「そうだな」
「ありがとう」
「でも、最後まで立ち上がり続けただろ」
ナンドは黙り込み、考え込む。
「あの人……別次元だ」
ヴァロンが後ろから現れる。
「そうだ。
ライカーは特別だ。
お前たちが想像もつかないような戦場を、
あの人はずっと戦い抜いてきた。
それでもなお——
まだ進化し続けている」
ダラムが腕を組む。
「じゃあ誰も勝てないのか?」
「そういう話じゃない」ヴァンダーが言う。
ヴァロンが微笑み、視線をレオンに向ける。
「ここには、
あのレベルに届く可能性を持つ者もいる」
レオンは黙ったままだ。
ソルが気づく。
「まだあの戦いのこと考えてるの?」
「うん」
「正気じゃないわ」
「そうかも」
「本当によ」
「ありがとう」
「褒めてないから!」
「でも、褒めようとしてただろ」
「してない!」
「してた」
「レオン!」
「ソル!」
「もう、黙っててよ!」
キラが吹き出す。
「この二人、本当に……」
ララも腕を組んで頷く。
「そうね」
レオンが見上げる。
「え? 何が?」
「何でもない」
「ララ……」
「何でもないってば」
ソルが顔を赤らめて立ち上がる。
「もう行くわ」
「行くなよ」
「行くってば」
「ソル」
「おやすみ」
彼女は足早に歩き去っていく。
ダラムが呆然と見送る。
レニがそっと肩を叩く。
「追いかけろよ」
「えっ?」
「行けって」
「いやだ」
「行けってば」
「レニ……」
「ダラム」
「何だよ」
「お前、本当にバカだな」
一同が一斉に笑い出す。
「早く行けって!」
「もう、仕方ないな……」
ダラムが渋々後を追う。
ナンドが笑いながら言う。
「すごいな」
「何が?」レオンが尋ねる。
「ここにいるみんな、全部恋してるじゃないか」
「うるさい」
「特にお前がな」
「うるさいってば!」
「ララもだろ」
「黙ってて!」
「何も言ってないのに」
「でも、思ってただろ」
――場面転換。
本部拠点。
ジュンがソファに腰を下ろし、
指にはめた指輪を見つめていた。
リュウがコップを二つ持ってくる。
「まだ見てるのか?」
「まだよ」
「後悔してる?」
彼女が睨み上げる。
「殴られたいの?」
「確認してるだけだ」
彼女が小さく、だが心からの笑みを浮かべる。
「まだ信じられないの」
「俺もだ」
「あんな大勢の前で、あんなこと言うなんて……恥ずかしい」
「嬉しかっただろ」
「嬉しくない」
「嬉しかっただろ」
「リュウ!」
「ジュン!」
彼女はしばらく黙っていたが、やがて囁く。
「……嬉しかった」
彼が隣に座る。
「復興も、
トーナメントも、
これからの決断も……
時々、重すぎると感じるんだ」
ジュンがそっと手を握る。
「なら、半分こしよう」
リュウが穏やかに微笑む。
「そうだな」
――場面転換。
ヴァロンの私室。
彼は窓から空を見上げていた。
静寂が部屋を包む。
ヴァンダーが入ってくる。
「彼女のことを考えていたのか?」
「いつもだ」
「ローラのことだな」
「そうだ」
沈黙が続く。
「何度もプロポーズしたよ」
「知ってる」
「彼女はいつもこう言っていた……
『まずアレスを倒してから』ってな」
「彼女はお前を愛している」
「知ってる」
「なら、待て」
「もう何年も待ってるんだ」
「もう少しだ」
ヴァロンが小さく笑う。
「せっかちだな」
「経験者だからな」
――場面転換。
女子たちの部屋。
キラがベッドに横になり、
ズィラは座ってホログラムを操作し、
ララは窓から街の灯りを見下ろしていた。
「彼のこと考えてるでしょ」キラが言う。
「考えてない」
「考えてるくせに」
「だから、違うって」
「考えてるってば」
「キラ、やめて」
「ララ、認めなよ」
ズィラが画面から目を離さずに言う。
「彼女、考えてるわよ」
「ズィラ!」
キラが声を上げて笑う。
「トーナメントのヒロインが、恋に落ちてるなんてね」
「もう、出ていくわ!」
「ここ、あんたの部屋でしょ」
「なら、廊下に行く!」
「行かなくていいから」
ララがため息をつく。
「ただ……
心配なだけなの」
「レオンのこと?」
「そう。
あのライカーと戦うことに、
張り切りすぎてるから」
ズィラが真剣な顔で言う。
「なら、彼を信じなさい。
この宇宙で一番、
期待を裏切るのが大好きな男は——
彼なんだから」
ララが少しだけ、微笑んだ。
――場面転換。
外の山岳地帯。
冷たい風が吹き、
静けさが広がっている。
ソルが岩に腰を下ろし、
地平線を見つめていた。
ダラムがそっと近づく。
「ここにいると思った」
「何で分かるのよ」
「分かるから」
「そんなことない」
「分かってるって」
「もう、うるさいわね」
「ありがとう」
しばらく沈黙が続く。
「今日、様子がおかしかったぞ」
「おかしくなんてない」
「おかしかった」
「だから、違うって」
「ソル」
「何よ」
「トーナメントのことだけ考えてるのか?」
彼女は長い間黙っていたが、やがてうつむき、囁く。
「私……
こんなもの、初めてだから」
「こんなものって?」
「人とのつながり。
友達。
家族。
信じ合うこと。
クリザードにいた頃は……
力、恐怖、権力。
それだけだった」
「今はどうなんだ?」
彼女が顔を上げる。
「今は……
昔の自分には、もう戻れない気がするの」
ダラムはしばらく黙っていたが、隣に座り、言う。
「なら、戻らなくていい」
風がそっと通り過ぎる。
彼女は何も言わなかった。
だが——
初めて、ほんの少しだけ、
誰にも気づかれないように、
微笑んだ。
――場面転換。
本部の大広間。
巨大スクリーンが点灯する。
出場資格を得た者たちの名前が表示される。
レオン、ララ、レニ、ヴァロン、リュウ、ライカー……
そして、その他多くの名前。
第二ステージが、
今始まる。
レオンが一人、表示を見つめている。
名前、可能性、強敵、挑戦。
レニが背後から声をかける。
「考えすぎだぞ」
「そうかも」
「ライカーのことか?」
「それもだ」
「時の双子のこともか?」
「それもだ」
「怖いか?」
レオンは数秒間黙り、やがて微笑む。
「怖くない。
ただ、やりたいだけだ」
レニが大きく笑う。
「それこそ俺の言葉だ!」
カメラが上空へと上がり、
拠点全体、
組織全体、
それぞれのチーム、
それぞれの夢を映し出す。
休むことも大事だ。
だが次のステージは——
すべてを変えるだろう。
(第395話・完)
次回予告:「第二ステージ――強いだけでは、もう足りなくなる場所へ」
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
激闘の後に訪れた、それぞれの思いや絆の時間を少しでも感じていただけましたら幸いです。
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また、登場人物たちの関係や、これからの展開への期待など、どんなことでもコメントをいただけますと、作者として大変励みになります。
次回からはいよいよ第二ステージが開幕します。「強いだけでは足りない」厳しい戦いが待ち受けていますので、どうぞお楽しみに!




