第381話:嵐の前の静けさ(第10シーズン・完)
第381話「嵐の前の静けさ」、そして『黒き天使』第10シーズン最終話です。
明日、運命を左右するトーナメントが開幕する。仲間たち、ライバルたち、そしてそれぞれの想いが交差する中、物語は新たな戦いの幕開けへと繋がっていきます。
ここ数日、いつも響いていた叫び声も、爆発音も、ソルとキラの言い争いさえもない。
明日。ただ、明日。
トーナメントが開幕する。誰もが肌で感じていた――何か途方もない巨大な何かが、すぐそこまで迫っていることを。
レオンは廊下を歩き、ある扉の前で立ち止まった。深く息を吐き、ノックをする。
「ラーラ……ソルはいるか?」
扉が開いた。髪を束ね、軽装のラーラが、少し疲れた面持ちで顔を出す。
「ええ、いるわよ」
「彼女を呼んでくれ」
「分かったわ」
ラーラが寝室に向かうと、ソルがベッドに突っ伏していた。
「ソル」
「ん……」
「レオンが山へ来いって」
「今日は行かないわよ……」
「どうして」
「気分が乗らない」
「……」
「寝てたいの」
「ソル……」
「ん……」
「ソル……」
「ラーラ……」
「ソル」
「なによ!?」
彼女が怒鳴るより早く、レオンが背後に現れ、強引にソルを肩に担ぎ上げた。
「おい!!」
「行くぞ」
「降ろしなさいよ、レオン!」
「嫌だ」
「私はクリザードの王女よ!」
「今日の君は、ただの重りだ」
「殺してやる……!」
ラーラが笑いをこらえる中、レオンはソルを担いで部屋を出る。通り過ぎる際、彼はラーラの額に軽く口づけをした。
「すぐ戻る」
「幸運を祈るわ」
ソルが目を見開く。「ちょっと、今の何?」
「何が?」
「私の目の前でキスしたわね?」
「ああ」
「無礼な奴……」
ラーラが腕を組む。「寝てなさいよ。キラは狂ったように特訓してるわ。明日、アンタたちを叩きのめすためにね」
絶対的な静寂が訪れる。ソルがゆっくりと顔を上げた。
「……なんて?」
「キラは、猛特訓中よ」
「私に勝つために?」
「ええ」
五秒後、ソルはレオンの肩から飛び降りた。
「……行くわよ」
「おい」
「明日、誰が最強か証明してやるわ」
「……平常運転に戻ったな」レオンが苦笑する。
「黙りなさい」
北セクターの山々には、岩場をすり抜ける冷たい風が吹き荒れていた。
レオンとソルは並んで歩いている。
「レオン」
「なんだ?」
「前回のトーナメント、決勝まで行ったの?」
「ああ」
「で、負けたの?」
「ああ」
「どうやって?」
レオンは数秒沈黙した。「……コントロールを失ったんだ」
「カイロスか?」
「ああ。変身してしまった」
「獣に?」
「そうだ。スタジアムを破壊した」
「へえ。誰が止めたの?」
「リーかと思ったが……ラーラだった」
ソルは驚く。「本当?」
「カイロスがどれだけ俺を支配しようとしても……彼女だけは傷つけられないんだ」
風が二人の間を通り過ぎる。
「……なぜ?」
レオンは地平線を見つめた。「タイタンという存在を覚えているか? あいつらはお前の父の精神も支配できなかった」
「父が強いから?」
「それだけじゃない。父は己の在り方を知っているからだ」
レオンはソルを見つめた。「俺も一つだけ知っている。彼女を傷つけることなど、俺には絶対にできない」
ソルが俯く。
「……いいわね」
「ん?」
「今の言葉。……誰かがそんな風に思ってくれるなんて」
「お前にもいるさ」
背後から声が響いた。
ソルは振り返る。数メートル後ろに、両手をポケットに突っ込んで、普段通りを装いながら完全に失敗しているダーリアムが立っていた。
「……あんた」ソルが真っ赤になる。
「よお」
「また、そんな風に現れるのやめなさいよ!」
「悪かった」
「全然悪くないじゃない!」
レオンは二人を見て微笑む。「じゃあな」
「レオン、待て。お前、まさか……」
「幸運を祈る」
レオンはそのまま姿を消した。ソルは深く息を吐く。
「……あいつ、本当に最低」
「緊張してるのか?」ダーリアムが問う。
「してない」
「嘘だな」
「してない」
「してるだろ」
「殺すわよ」
「少しなら」
ソルは腕を組む。
「あんた、変わったわね。前は戦争の話ばかりしていたのに」
「……ああ」
「今は、人の話をする」
「……」
「前は勝つことしか考えていなかった」
「……」
「今は、自分の感じていることを話す」
ソルは俯いた。
「……怖い」
「俺も同じだ」
「ねえ、ダーリアム。もし……私が間違った選択をしたら?」
「なら、選び直せばいい」
ソルは彼を見つめた。
「……あんたのそういうところ、本当に腹が立つ」
「ありがとう」
「褒めてないわよ」
山々、 sector de treinamentoでは、各々が明日への備えをしていた。
キラは岩塊を粉砕し、ナンドは速度を極め、レニは家族のために戦う決意を固めていた。
巨大母艦のテラスでは、ヴァーロンとヴァンダーが並んでスタジアムを見下ろしている。
「彼らは成長したな」ヴァンダーが呟く。「お前は良い仕事をした」
「我々が、したんだ」
遥か彼方、火の国ではラウラが星空を見上げていた。
「彼らを守ってください……全員を」
その瞳から一筋の涙が流れる。明日、全てが大きく動き出す。
巨大なスタジアムのメインスクリーンに、一つのフレーズが浮かび上がる。
『明日、トーナメント開幕。
誰も、入った時と同じ姿で出ることはできない』
【第10シーズン・完】
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!『アンジョ・ネグロ』第10シーズン、いかがでしたでしょうか。
ソルとダーリアム、そして仲間たちの物語は、ここからさらなる激動の「第11シーズン」へと突入します。
今回、挿絵としてキャラクターたちのイメージ画像を準備しようと考えています。読者の皆様の心に、彼らの表情や勇姿をより鮮明に焼き付けていただきたいという願いを込めて……!
いつか私の作品が多くの人の目に留まり、出版社の方の目に留まって、この物語が「アニメ化」される日を夢見て、これからも執筆を続けていきます。
皆さんに愛される物語を作っていきたいと心から願っています。
それでは、第11シーズンでお会いしましょう!応援よろしくお願いします!




