第379話:心に秘めた声 — 後編
第379話「心に秘めた声 — 後編」を執筆しました。
カラオケ大会の熱気は最高潮へ。リウとレニが歌うそれぞれの想いは、仲間たちの心を深く揺さぶります。そして、最後に名前を呼ばれたのは……ソルでした。彼女の心に何が起きるのか、ぜひお読みください。
「星空カラオケ」のホールは、依然として感動の余韻に包まれていた。
キラとザイラの歌声が消えた後も、空間には不思議な空気が漂っている。雑談する者、笑う者、そしてただ思考に耽る者。
ソルは少し離れた場所に座り、腕を組んでいた。努めて冷淡な表情を保とうとしているが、その内側は既に、穏やかではいられなくなっていた。
「……悪くはなかったわ」彼女は小さく呟く。
「悪くなかった、だと?」ラーラが彼女を覗き込む。「あれは素晴らしかったわよ」
「別に」
「感動したくせに」
「感動なんてしてない」
「ラーラ」
「感動したのよね」
「帰るわ」
「したのよね」
「あんたなんて嫌い」
レオンがクスクスと笑い、ダーリアムは視線を逸らした。あの一件以来、彼女のそばにいると、どうにも居心地が悪かったのだ。
ステージの上では、ザイラがマイクを回しながら楽しげに叫んだ。
「それじゃあ次は……我らが監督官、リウに挑戦してもらうわ!」
「はぁ!?」リウがグラスを落としそうになる。ジュンが目を見開いた。
「行ってきなさい」
「俺が!?」
「あなたならできるわ」
「いや……」
「できるって」
「ジュン……」
「心にあることを、ただ歌うだけでいいのよ」
レオンが腕を掲げる。「そうだぞ、リウ! かましてやれ!」
ナンドも続く。「監督官! 監督官!」
レニもニヤリと笑う。「もう逃げられないわよ!」
リウは周囲を見渡した。「神様……恥ずかしすぎる……」
ヴァーロンまでもが微笑んでいる。小さく、ほとんど分からないほどの微笑み。「行け、少年……」
リウは深く息を吸い込み、ステージに上がった。マイクを握る手が震えている。ジュンを見て、そして集まった全員を見渡し、ゆっくりと目を閉じた。
ホログラムが浮かび上がる。タイトルは『静寂の中で』。
ピアノの静かで深い旋律が響き始めた。
『既に存在しない世界を歩き続けた
灰の中で、誰も聞くことのない名前を守り続けて……』
ホールが静まり返る。完全に、水を打ったような静寂だ。
『守ると誓った……でも、救うことはできなかった』
ジュンが目を伏せる。彼女はリウを知っているつもりだった。だが、今の歌声は全くの別人のようだった。
『……今でも、あの一人ひとりの眼差しを背負っている』
ソルは動けなかった。リウが常に強固なリーダーとして振る舞い、すべてを背負ってきた理由。その内側にあった亀裂を、彼女は初めて見た気がした。
『戦い、叫び続けた……それでも、空はただ静かだった』
レオンが視線を落とす。ラーラがそっと彼の手に触れた。キラも、ザイラも、言葉を失っている。
『……虚無の中で理解したんだ。生きることもまた、あまりに痛いことだと』
ダーリアムは沈黙を守り、カムでさえ、その仮面の下で何かを感じ取っていた。サビに入り、リウが目を開く。全員を見渡して。
『静寂の中で、僕はここに留まる
もし誰もいられなくなるのなら――僕は君のためにここにいる』
リウの声が僅かに震えた。ジュンが顔を上げる。瞳に涙が溜まっている。カタリナでさえ、その時は挑発を忘れ、ただ静かに聞き入っていた。
ソルは指先を強く握り締める。理解しようと足掻くように。
『夜が降り、希望が消え去ろうとも
僕は消えない炎であり続けよう』
レオンが目を閉じる。ラーラが寄り添う。彼女たちは知っていた。壊れてもなお立ち上がる、その痛みを。
『傷ついたって逃げはしない。誰かがまだ、僕を必要としているから』
キラが静かに泣き出した。Leeのこと、失った兄のこと、戦争と選択の記憶が溢れ出す。ザイラも顔を覆った。
『守るということは、独りで戦うことじゃない。心が折れそうな時こそ、立ち上がること――』
ヴァーロンも、ただ黙して聴いている。
曲が終わり、静寂が支配する中、リウは呆然としていた。
「……あまりに下手だったかな」
「このバカ!」ジュンが駆け寄り、彼を強く抱きしめた。「全部、一人で背負わないで……!」
リウは戸惑いながらも、小さく微笑んだ。
次にステージに立ったのは、レニだった。
「さて、俺の番だな」
音楽が流れる。アコースティックギターの優しい旋律。
『強さは勝つことだと思っていた。心に鎧を纏い、怒りだけを糧に……。だが、空っぽな心に気づかされた』
カムが厳しい表情で聴き入る。ケルは目を伏せた。彼女は知っている。レニがかつてどんな人間だったかを。
『全てを破壊する炎だけが、生きる意味じゃないと知った。立ち上がれたのは、誰かが俺を信じてくれたからだ』
レオンが目元を拭う。カムもまた、胸の内に得体の知れない感情を抱いていた。
曲の終盤、レニは真っ直ぐにソルを見つめた。
『もし俺が立ち上がれたのなら――それは、導いてくれた君のおかげだ』
その歌が終わった時、ホールには嵐のような拍手が響き渡った。
レニはマイクを手に取り、真っ直ぐにソルを指さした。
「次は、お前だ」
ソルが驚きに目を見開く。「……は?」
「ソル。こっちに来い」
ホール中の視線がソルに集まる。彼女は硬直し、動けずにいた。
(第379話・完)
最後まで読んでいただきありがとうございます!
リウの悲痛な告白と、レニが歌に込めた誓い。そして、ソルへと繋がる指名。彼女は一体、どんな歌を披露するのでしょうか?
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