第378話:心に秘めた声 — 前編
第378話「心に秘めた声 — 前編」を執筆しました。
戦いの合間に訪れた束の間の休息。K11の母艦にオープンした「星空カラオケ」で、キャラクターたちの意外な一面と、隠されていた想いが交錯します。シリアスな展開から一転、音楽を通じて彼らの内面が響き合う、少し切なくも温かいエピソードです。
組織の巨大母艦は、どこか以前とは違っていた。
カラフルな照明が通路を照らし、真新しいテーブルが並び、小さな商店が軒を連ねている。XP人、クリザード人、ヴァルダリア人、黒き炎の使い、そしてブズ。異なる星から来た人々が、同じ廊下を行き交う。
長い戦いの果てに、ようやく訪れた日常。少なくとも、今はそうあろうとしていた。
母艦の中央に、新しく巨大なホールが開放された。入り口の上には、ホログラムパネルが輝いている。
『星空カラオケ — 正式オープン』
ヴァーロンは腕を組み、入り口の前に立っていた。レオン、ラーラ、ソル、ダリアム、レニ、カム、キラ、ザイラ、ジュン、リウ、ナンド、カタリナ、ケル――大勢の居住者たちが集まっている。
「これが、噂の謎だったのか?」キラが尋ねた。
「その通りだ」とヴァーロンが答える。
「カラオケ?」ソルが怪訝そうに問う。
「交流の場だ」とヴァーロンは淡々と続けた。「商売は経済を回し、動きは人を近づける。幸せな者は、仕事も捗るものだ」
ソルは周囲を見渡した。
「……すごいわね。あんたたち、いつもこんなに呑気なの?」
背後からナンドがジュースを片手に現れる。
「人生に楽しみがなきゃ、何の意味があるんだ?」
「……え?」
「この戦争じゃ、明日生きている保証なんてどこにもない。だからこそ、今を楽しむんだよ」
彼の笑顔は軽やかだったが、その瞳には確かな真実が宿っていた。
ホールに入ると、柔らかなBGMが流れている。誰もが最初は戸惑い、座っているだけだった。
ソルが腕を組む。「なんていうか……盛り上がりに欠けるわね」
すると、ナンドが椅子から勢いよく立ち上がった。
「ダメだ。間違ってる」
ザイラが目を見開く。「まさか……あのバカな真似をするつもり?」
ナンドは一直線にステージへ駆け上がり、マイクを掴んだ。
「おい、この場所が静かすぎるだろ! 俺がカラオケバトルを仕掛けてやる!」
「嘘でしょう……!」ザイラが顔を覆う。「また恥を晒す気だわ」
ナンドが叫ぶ。「DJ! 音楽を頼む!」
エネルギッシュなビートが響き、ホログラムの歌詞が流れ出す。ナンドが歌い始めた。
『足跡の砂埃が、背中で舞う
過去は追いかけてくるけれど
もう恐怖に追われて走るんじゃない
今の自分を続けるために走るんだ……』
最初は苦笑していた者たちも、次第にその表情を崩していく。
『道すがら、俺の世界は失われた
空が崩れ落ちるのも見てきたけれど……』
ザイラが静かに俯く。ラーラも真剣な面持ちになる。ナンドは笑顔を絶やさないが、その歌声は不思議と胸を打った。
『独りきりでも、生き抜いてきた
傷ついたって、立ち止まらなかった……』
レオンが腕を組んだまま呟く。「……この男、本当にこの場所を変えたな」
サビに入ると、ホール中がその歌声に飲み込まれていった。
『俺はもう一度、駆け抜ける!
たとえ世界が滅びゆくとしても
まだ、リアルな夢はここに在るんだ!』
ザイラが立ち上がる。「行けーっ!」
キラも続く。「頑張れ、ナンド!」
ヴァーロンまでもが、ごく僅かな微笑を浮かべていた。
曲が終わると、一瞬の静寂の後、割れんばかりの拍手が湧き起こった。
「ありがとよ! 愛してるぜ!」ナンドが叫ぶ。
「次は誰だ!」ナンドの声に、一人が名乗りを上げた。
「私よ」
ラーラだ。レオンが目を見開く。「おい、まさか……」
「さあ、レオン。行きましょう」彼女が無理やりレオンの手を引き、ステージへと連れ出した。
二人の前に現れたホログラムタイトルは――『レオン&ラーラ:二つの世界の狭間で』。
ピアノとギターの静かな調べが流れる。
『戦いの静寂の中で、君の眼差しを見つけた
カオスと影の合間、君が導いてくれた……』
ソルは動けなかった。レオンを見つめ、そしてラーラを見る。今の二人は指導者でも戦士でもなく、ただの少年に少女に見えた。
『道を見失い、足場さえなくしても
君の声が、俺を呼ぶ……』
『あなたが血を流す姿を見てきた
でも、決して諦めないことも……』
ダーリアムがさりげなくソルの方を見た。しかし、彼女は気づかない。音楽に深く沈み込んでいた。
『たとえ世界が、僕たちを引き裂こうとしても』
『私たちの魂は知っている――ここが、帰るべき場所だと』
サビのフレーズがホールを支配する。
『二つの世界の狭間で、僕たちだけが在る』
その光景を見ていた者たちは、ただ静かに聞き入った。ソルもまた、胸の奥で何かが締め付けられるような、名もなき感覚に襲われていた。
思い出されるのは、湖での出来事、抱擁、そしてあの言葉。
「宇宙の皇帝が幸せになれるなら、お前だってなれるはずだ」
曲が終わると、今度は強い拍手が起こった。キラが涙を拭いながら悪態をつく。「……最悪、吐きそうだわ」
「泣いてるじゃない」とザイラが突っ込む。
「私も歌いたい」
キラが立ち上がった。彼女はザイラの手を引く。「アンタも来なさい」
「ちょっと、キラ――!」
二人がステージへ上がる。ホログラムが青く光り、テンポの良い楽曲『一歩ずつ進め』が流れる。
『夜が私を捕らえようとも……』
ザイラの力強くも柔らかな声。そこにキラの声が重なる。
『誰にも気づかれない、心の戦いがある……』
ソルは、かつて憎んでいたはずのキラを凝視していた。彼女もまた、痛みと孤独を抱えて生きてきたのだと、今の歌声が教えていた。
『一歩ずつ進め。たとえ世界が敵に回ろうとも――』
二人のハーモニーは、まるで彼女たち自身の人生そのものを語っているようだった。
ソルは胸を押さえる。心臓の鼓動が速くなる。この高揚感が何なのか、彼女にはまだ分からない。
ただ、クリザードの王女の心に、これまでになかった「何か」が芽生え始めていた。
(第378話・完)
最後まで読んでいただきありがとうございます!
戦士たちの意外な素顔、そしてソルが抱く胸のざわめき。カラオケ大会を通じて、少しずつ彼らの距離が縮まっていくのを感じていただけましたでしょうか?
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