第377話:鎖と王冠
第377話「鎖と王冠」を執筆しました。
長きにわたる監禁の末、ついに「火の女王」が解放されます。ラウラの慈悲は、クリザードの宮廷にどのような波紋を呼ぶのか。そして物語は、ついに待望のトーナメント開催地、K11の熱気へと向かいます!
雷の国の城内は静寂に包まれていた。
巨大な黄金の柱が、クリザードの空を駆け巡る稲妻の青い光を反射している。地下監獄の中心で、火の女王は跪いたままだった。
黒い鎖がその両腕を縛り付けている。何ヶ月も経った今もなお。
長く乱れた赤い髪。その誇りは、既に砕け散っていた。
廊下に足音が響く。彼女がゆっくりと顔を上げると、アレスが檻の前に立っていた。
威厳に満ち、冷徹。その黒い鎧には、黄金の炎が映り込んでいる。
「私を呼べと言ったか?」アレスが静かに問う。
火の女王は深く息を吐いた。
長い間見せたことのなかった、傲慢さの欠片もない姿で——。
「ええ」
彼女は頭を垂れた。
「もう一度、あなたの妻に戻りたい……あなたとの間に、強い子を成したい」
静寂。衛兵たちでさえ、その言葉に困惑していた。彼女は拳を握りしめる。
「私は過ちを犯した」
彼女の瞳が震えている。
「でも……もしもう私に価値がないというのなら……いっそ、ここで殺して」
アレスは微動だにしない。
「それこそが、死よりも辛い罰だろう」
クリザードの王は数秒沈黙し、そして告げた。
「お前はもう、ソルに任せることにした」
彼女は驚いて顔を上げた。
「彼女が、お前をどうするかを決める」
火の女王がゆっくりと息を吐く。
「でも……もし彼女が私を許してくれたら……あなたは受け入れてくれるの?」
アレスは一瞬、視線を逸らした。
「その時は……王国を出て行かねばならぬ」
彼女の表情が凍りつく。だが、返答をする前に——。
「口を出すつもりはないのだけれど……」
ラウラがゆっくりと広間に現れた。衛兵たちが即座に身構える。火の女王は驚きに目を見開いた。
ラウラは静かに檻のそばまで歩み寄る。
「アレス……彼女を解き放ってあげて」
王は静かにラウラを見つめる。
ラウラは続けた。
「私、このことに罪悪感を感じているの」
火の女王が目を見開く。ラウラは溜息をついた。
「私たち、きっと共存できるわ」
衛兵たちが互いに顔を見合わせる。それは不可能なことに思えた。
アレスがようやく口を開く。
「お前は、カイロン王から我が妻として贈られたのだ。我らの婚姻は真実だった」
彼はゆっくりと彼女に歩み寄る。
「お前は、ただの女ではない」
ラウラが微かに微笑む。
「ええ……でも、私でさえヴァーロンと関わってしまった」
火の女王が視線を落とす。ラウラは続けた。
「あなたも私たちにそうさせるでしょう、アレス」
王が眉をひそめる。
「お前がいつ本気で何かを望み、いつ人を道具として使っているのか、誰にも分からない」
静寂。
「私たちは心に従った……そして、誰もが間違えたのよ」
アレスでさえ数秒間、言葉を返せなかった。彼は背を向ける。
「好きにするがいい」
衛兵たちが注視する。
「だが、この場所には平和が必要だ」
彼は再び火の女王を見つめた。
「そこを出るがいい」
彼女が目を見開く。
「ただし……当面の間、王妃としての公務はさせぬ」
彼は衛兵を指さした。
「だが……特権は元通り与える」
火の女王の瞳に涙が溢れる。アレスは深く息を吐いた。
「それから、もう一つ……」
全員が彼を見る。
「数日間、ここを離れる」
ラウラが腕を組む。「また政治的な集まり?」
「そんなところだ」
彼は二人の女性を見つめた。
「ここを守り抜けるか?」
火の女王は即座に頭を下げた。謙虚に。彼女には珍しい姿だった。
「はい、我が王よ」
アレスが手を伸ばす。黒い鎖が粒子となって霧散した。
火の女王は、長い年月を経て初めて自由の身となり、その場に崩れ落ちた。ラウラが優しく微笑む。
アレスが去ろうとした——その時。
彼はラウラの顔を掴み、人目も憚らずに口づけをした。
衛兵たちが困惑して視線をそらす。火の女王さえ驚きに目を見開いた。
アレスはラウラにだけ聞こえる声で囁いた。
「数日後には戻る」
彼の瞳が真剣になる。
「もし誰かがお前に触れようものなら……」
彼の闘気が大地を震わせる。
「殺す」
絶対的な沈黙。ラウラが彼の手を握りしめた。
「議論の続きは、帰ってきてからにしましょう」
アレスが、珍しく微かな笑みを浮かべた。
そして、彼は広間を去り、巨大な扉が閉ざされた。
静寂が広間を支配する。火の女王が、信じられないものを見る目でラウラを見た。
「なぜ……なぜこんなことを?」
ラウラはゆっくりと監獄の窓へと歩いた。稲妻の光が彼女の顔を照らす。
「私は、彼の最初の妻だからよ」
火の女王は沈黙した。
「リムやラーラでさえ、クリザード人とXP人でありながら結ばれていた」
ラウラは微かに微笑む。
「だから思ったのよ……私たちにできないはずがないって」
火の女王が目を細める。
「これは、彼に惑星を破壊させないためのあなたの戦略でしょう」
ラウラは数秒間、空を見つめていた。
「XPの惑星は、彼らが想像するよりも遥かに大きなものになるわ」
彼女はかつての女王を見つめた。
「アレスよりも強い存在がいることを知ったの」
空気が重くなる。
「飼いならせない者たちが……」
火の女王が目を見開く。
「王よりも……強い?」
ラウラがゆっくりと頷く。
「信じて。XPに興味を持っているのは、アレスだけじゃないわ」
稲妻が広間を照らす。
「宇宙の悪の源泉と言える惑星が、二つ存在する」
火の女王が真剣な面持ちになる。
「それはどこなの?」
ラウラがゆっくりと振り向いた。その瞳には深い憂いが宿っている。
「いい……? よく聞いて」
彼女は深呼吸をした。
「それは……クリザードのことじゃないわ」
(場面転換:K11)
結晶の空が、新しく建設された巨大な構造物の上に輝いていた。
スタジアム。
コロッサル。
巨大。
観客席はまるで金属の山脈のようだった。何十もの異なる種族の旗が風に揺れ、数千もの人々がアリーナの周囲を歩いている。
ついにトーナメントが近づいていた。
レオンが立ち尽くし、静かにその光景を見つめている。
隣には、ラーラ、ソル、ダリアム、ナンド、レニ、ジュン、リウ、キラ、ヴァーロン……そして何十もの強者たちが集まっていた。
全員がアリーナを見上げている。
ナンドが満面の笑みを浮かべる。「おい……マジでヤバいな!」
レニが腕を組み、感銘を受ける。「K11がここまでになるとは思わなかったわ」
ジュンがアリーナの規模を見る。「惑星の中心部みたいね」
リウが微笑む。「初めて……本当にここが故郷だと思える」
ダリアムは何も言わず、ただ見つめている。彼でさえ圧倒されているようだった。
キラがメインアリーナを指さす。「あそこでソルを叩き潰してやるわ」
ソルが即座に応戦する。「負ける奴が何を言ってるのよ」
二人が火花を散らす。
レオンが溜息をつく。「……始まったな」
ラーラが小さく笑う。
ヴァーロンが全員の前に進み出た。
風が彼のコートを揺らす。彼が静かにアリーナを見つめる。その瞳には感動が宿っていた。
「ここは……」
全員が彼を見る。
「我々が何か新しいものを築けるという証明だ」
人々が次々と到着する。子供たちがはしゃぎ回り、商人たちが店を開き、ライトがスタジアム全体を照らし出す。
初めて——K11が、真の「国家」に見えた。
そして全員がその巨大なアリーナを見つめる中……
宇宙の遥か彼方で……
「何か」が、その成長を静かに見守っていた。
(第377話・完)
最後まで読んでいただきありがとうございます!
火の女王の解放、そしてラウラが語った「宇宙の悪」の存在。物語はついにクライマックスへ向け、K11でのトーナメントが開幕しようとしています。
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