第370話 「運命を映す巨大スクリーン」
K11の朝は、いつもとは違っていた。
街全体が活気に満ち、
どこへ行っても人々の声が響いている。
大会用アリーナの建設はほぼ完成し、
惑星中が、その瞬間を待ち望んでいた。
街の中央広場。
巨大なホログラムスクリーンがゆっくりと起動する。
集まった人々の視線が一斉に空へ向けられた。
そこへ、
ヴァロンの姿が映し出される。
「第一ステージの公式対戦表が、ただ今公開された。」
その一言で、
広場は静まり返った。
誰一人として声を出さない。
次の瞬間――
巨大スクリーンが強く輝いた。
第一ステージ 対戦カード
まるで運命そのものを書き換えるように、
チーム名が一組ずつ表示されていく。
ザイラス・セラフィナ・サラ
VS
黒炎の三姉妹 カレン・レナ・ケレ
会場にどよめきが広がる。
「黒炎だって……。」
「最初からこんな相手か……。」
広場の反対側では、
カレンが静かに微笑んでいた。
レナは腕を組み、
ケレは何も言わず前だけを見つめている。
レニは細く目を閉じた。
「……あの三人。」
カムが小さく呟く。
「普通じゃない。」
レオン・ダリアム・ソル
VS
モルドラク・タロス・ヴェクシア
表示された瞬間、
ソルは思い切りむせ返った。
「えぇぇぇぇ!? いきなり私たちが戦うの!?」
ダリアムの表情も引きつる。
「これは…… あまり良いスタートじゃない気がする。」
しかし、
レオンだけは笑っていた。
「最高じゃないか。」
ソルは信じられないという顔で振り向く。
「こんなの嬉しいの!?」
「もちろん。」
レニ・カム・大賢者カミ
VS
スコルン・ヴァエルリクス・リサラ
カムは思わず息を呑む。
「あの名前は……。」
カミ老人は静かに目を閉じた。
「白き嵐の子らか。」
レニは口元だけで笑う。
「面白くなってきた。」
ララ・ジーラ・キラ
VS
ゾルヴァク・ニザー・エクリプサ
キラは指を鳴らした。
「ようやく楽しめそう。」
ジーラも不敵に笑う。
「待ちきれないね。」
ララだけは深いため息をついた。
「絶対に何か起きるわね……。」
時の双子 + ヴァロン
VS
ラグナリス・ヴェルハル・ノクティラ
その瞬間、
会場は再び静まり返る。
ヴァロンでさえ表情を曇らせた。
「これは…… 厄介な相手だ。」
カエルは静かに目を閉じ、
サエルは小さく呟く。
「この未来…… 見たことがある。」
巨大スクリーンには、次々と新たな対戦カードが映し出されていった。
雷鳴の双子 + リコル
VS
ナンド・ナナ・ダラム
表示された瞬間、
ナンドは満面の笑みを浮かべた。
「おっ! 相手は速い連中か!」
背後からカエンが笑いながら近づく。
「そんなに余裕なら、賭けてみるか?」
ナンドは肩を鳴らした。
「もちろん!」
リュウ・ジュン・カタリナ
VS
マグナ・ルヴァル・ルジア
ジュンはすぐに腕を組む。
「……ちょっと待って。」
スクリーンを指差す。
「このカタリナって誰?」
すると、
少し離れた場所から女性が口元を緩めた。
「私よ。」
カタリナは自信に満ちた笑みを浮かべる。
「彼にとって、一番ふさわしい相棒だから。」
その一言で、
ジュンの額に青筋が浮かんだ。
「えぇぇぇぇ!? 私たち、一緒に戦うの!?」
ヴァルダリア三戦士 ヴァエルコル・ドラエゴン・セルヴァリス
VS
アエトル・カエリス・ヴォン・セレーニャ
リュウは静かに息を飲む。
「これは……。」
近くにいたヴァルダリアの長老が低く呟いた。
「純粋魔法の使い手たちだ……。」
それと同時に、
巨大スクリーンはゆっくりと光を失っていく。
そして――
街中が一気に騒がしくなった。
人々の反応
広場は瞬く間に大混乱となる。
「あの黒炎チームが相手なのかよ!?」
ザイラスが頭を抱えて叫ぶ。
サラも負けじと声を上げた。
「こんなの不公平よ!」
しかし、
カレンは二人の横を静かに通り過ぎるだけだった。
「健闘を祈るわ。」
そのまま振り返ることなく歩き去っていく。
一方、
キラはソルへ指を向けた。
「どうやら最初から当たるみたいね。」
ソルは挑発するように笑う。
「少なくとも、 あなたみたいに焦ってはいないわ。」
キラも笑みを浮かべた。
「あなたを壊すのが楽しみ。」
「やれるものならやってみなさい。」
その様子を見ていたジーラは、
思わず吹き出した。
「もう始まってるじゃない。」
少し離れた場所では、
ナンドが一人だけ大興奮していた。
「速い相手だ! 最高じゃん!」
ダラムは苦笑する。
「俺はあまり嬉しくないけど……。」
それでもナンドは笑顔を崩さない。
「絶対面白くなる!」
ソルとダリアム
そんな騒ぎの中で――
ソルだけは静かだった。
昨日とは違う意味で落ち着かない。
頬はほんの少し赤い。
ダリアムも同じだった。
目が合いそうになるたび、
二人とも同時に視線を逸らしてしまう。
言葉が出ない。
その違和感を、
レオンはすぐに察した。
「……あの二人。」
ララも小さく頷く。
「何かあったわね。」
ララが知った真実
その日の午後。
ララの部屋。
ソルはベッドに腰掛けたまま腕を組み、
珍しく落ち着きを失っていた。
「……私、もう駄目。」
小さな声だった。
ララは首を傾げる。
「ダリアムのこと?」
一瞬、
時間が止まる。
ソルの顔は一気に真っ赤になった。
「ち、違う!!」
ララは思わず微笑む。
「そんなに分かりやすく否定しなくても。」
数秒の沈黙。
やがてソルは観念したように両手で顔を覆う。
そして――
勢いよく叫んだ。
「……私が、キスしたの!!」
部屋が静まり返る。
ララは何度か瞬きをした。
「……え?」
ソルは顔を隠したまま叫び続ける。
「自分でも分からないの! 気付いたら、もうしてたの!」
ララは数秒だけ固まり、
そのあと笑いをこらえきれなくなった。
「ソル……!」
「笑わないで!」
ララは少しずつ笑顔を収める。
目の前にいる妹は、
本気で苦しんでいた。
だから彼女は何も言わず、
そっとソルを抱きしめた。
「大丈夫。」
ソルは小さく首を振る。
「……全然、大丈夫じゃない。」
レオンとダリアム
その頃。
レオンはダリアムを一人で見つけた。
「最近、お前らしくないな。」
ダリアムは深くため息をつく。
「……ソルから聞いたんだろ?」
レオンは笑う。
「もちろん。」
ダリアムは顔を覆った。
「こんなことになるなんて思わなかった。」
レオンは静かに尋ねる。
「何が問題なんだ?」
ダリアムは少し黙ったあと、
ゆっくり答えた。
「父はXPで大きな事業をしている。
契約もある。
政治とも関わっている。
もし…… 俺とクリザード王族の関係が知られたら、
全部失うかもしれない。」
沈黙。
レオンは腕を組みながら、
真っ直ぐ彼を見た。
「それで諦めるのか?」
ダリアムは答えられない。
レオンは静かに笑う。
「俺とララだって、
下手をすれば戦争になってた。」
ダリアムは目を上げる。
「それでも……?」
「それでも俺たちは、
逃げなかった。」
二人の間に、
静かな沈黙が流れた。
ソルの葛藤
一方その頃――
ソルはK11の温泉庭園にいた。
湯けむりが静かに立ち上り、
水面には紫色の空が映っている。
彼女は深く息を吸った。
だが、
手は震えていた。
「……こんなの、おかしい。」
「私はクリザードの王女なのに。」
目を閉じる。
それでも思い浮かぶ。
あのキス。
ダリアムの瞳。
優しい笑顔。
忘れようとしても、
何度も心に浮かんでくる。
胸が苦しい。
どうしていいか分からない。
拳を強く握り締める。
「こんなこと…… 起きるはずがない。」
その時だった。
一粒の涙が頬を伝う。
ソルは驚いて目を見開いた。
「……え?」
震える指で涙に触れる。
痛みではない。
恐怖でもない。
誰かを失ったわけでもない。
それなのに、
涙が止まらなかった。
生まれて初めてだった。
痛み以外の理由で泣いたのは。
姉妹
そこへ、
ララが静かにやって来る。
何も言わない。
ソルも気付いていた。
それでも振り向かない。
「……一人にして。」
ララは返事をしなかった。
静かに隣へ座る。
そして、
優しく妹を抱き寄せた。
何も言わない。
慰めの言葉もない。
ただ、
そばにいる。
その温もりだけで十分だった。
ソルは最後まで抵抗しようとした。
だが、
もう力は残っていなかった。
静かにララの肩へ身を預ける。
涙だけが、
止まることなく流れ続けた。
エピローグ
その頃――
K11の別の場所では、
ダリアムが一人、
夜空を見上げていた。
少し離れた場所から、
レオンは静かにその背中を見つめている。
そして街の中心では、
巨大スクリーンが今もなお、
第一ステージの対戦表を映し続けていた。
大会はまだ始まっていない。
だが――
誰も気付いていなかった。
本当の戦いは、
もう始まっていたことに。
それは拳ではなく、
心の中で始まる戦い。
そして、
第一ステージは――
すべての始まりに過ぎなかった。
――第370話・完――




