第363話 『水面下の秘密』
K11での平和な日々。
だが、その静寂の裏では誰にも知られていない思惑が動き始めていた。
大会に向けて鍛錬を続ける仲間たち。 そして、それぞれの胸に秘められた過去と傷。
今夜、湖のほとりと温泉で語られる言葉が、新たな絆を生み出していく――。
夜の帳がK11を包み込んでいた。
巨大都市の灯りが水晶の山々を照らし、その遥か彼方では大会用アリーナの建設が今なお続いている。
しかし、この平和を心から楽しんでいる者ばかりではなかった。
K11の辺境地帯――。
誰にも知られていない洞窟の奥を、一人の少女が静かに歩いていた。
黒いフードで顔を隠したその人物。
ソルだった。
洞窟の奥では二人の老人が待っていた。
黒炎族の長老。
そしてヴァルダリア人の長老。
二人はソルの姿を見ると静かに膝をつく。
「それで?」
腕を組みながらソルは言った。
「調査はどうなってるの?」
黒炎族の長老が顔を上げる。
「レニは本気でこの星を信じています。」
「K11は安全だと。」
「創造主によって守られていると。」
ソルは黙って耳を傾けた。
「外へ出るためのポータルコードを持つ者はごく僅か。」
「しかも出入りでコードは異なります。」
「数分ごとに更新されるため、盗んでも意味がありません。」
ソルはゆっくり頷いた。
「なるほど。」
「それは重要な情報ね。」
今度はヴァルダリア人の長老が前へ出る。
「さらに、この星の座標は特定できませんでした。」
「公式記録上……K11は存在しない星です。」
ソルの目が細くなる。
「艦隊による侵攻は不可能ということね。」
「その通りです。」
長老は続けた。
「ですがXPとの直通回線があります。」
「最近、大規模エネルギー通信がXPから送られていました。」
ソルは静かに考え込む。
「……続けて。」
「もしアレス様がXPを掌握したなら。」
「そこからK11の位置を割り出せる可能性があります。」
沈黙。
そして――
ソルは小さく笑った。
冷たい笑みだった。
「素晴らしいわ。」
「そのまま続けて。」
二人は深く頭を下げた。
「御意。」
ソルは踵を返し、闇の中へと姿を消した。
◇
同じ頃。
K11北部。
巨大な断崖の上で、レオンとダリアムが誰かを待っていた。
「遅いな。」
腕を組むダリアム。
岩に腰掛けていたレオンは笑う。
「逃げたんじゃないか?」
「黙れ。」
その瞬間――
ドォォォォン!!
紅い爆発が背後で起こる。
現れたのはソルだった。
「ごめんごめん。」
「さっさと始めましょう。」
レオンは立ち上がる。
黄金のオーラが全身を包んだ。
「よし。」
「行くぞ。」
訓練は一瞬で始まった。
ソルの蹴り。
レオンの防御。
ダリアムのエネルギーチェーン。
三人の激突によって山々が震える。
轟音。
爆発。
衝撃波。
大会へ向けた戦士たちの鍛錬は、ますます激しさを増していた。
◇
夜更け。
湖のほとり。
レオンは一人で歩いていた。
そこには既にララが座っていた。
静かな水面。
人工の星空。
優しい風。
ララは小さく呟く。
「……お母さん、大丈夫かな。」
レオンは空を見上げた。
「きっと大丈夫だ。」
「アレスもソルがここにいることを知っている。」
「今は前より落ち着いているはずだ。」
ララはそっとレオンの肩にもたれた。
「そうだといいな……。」
レオンは彼女の手を握る。
「もし何かあったら。」
黄金の瞳が輝いた。
「俺が迎えに行く。」
ララは静かに目を閉じる。
その一瞬だけは――
宇宙に争いなど存在しないかのようだった。
◇
その後。
K11の温泉地帯。
湯気が立ち上る天然温泉。
ダリアムは一人で湯に浸かっていた。
静寂。
しかし――
「ねえ。」
「入ってもいい?」
聞き慣れた声。
ソルだった。
「構わないよ。」
彼女はゆっくり湯へ入る。
しばらく無言。
だが不思議と居心地は悪くなかった。
やがてダリアムが尋ねる。
「君とキラって何があったんだ?」
ソルの表情が変わった。
そして静かに語り始める。
かつて親友だったこと。
裏切りだと思ったこと。
父アレスとキラの父の因縁。
リーとの戦争。
失われたもの。
積み重なった憎しみ。
ダリアムは黙って聞いていた。
全てを聞き終えたあと、ただ一言だけ漏らす。
「……めちゃくちゃな世界だな。」
ソルは苦笑した。
「本当にね。」
そして不敵な笑みを浮かべる。
「でも大会では。」
赤い瞳が光る。
「キラと戦いたい。」
「そして決着をつける。」
ダリアムは慌てて両手を上げた。
「待て待て!」
「俺は関係ないぞ!」
ソルは声を上げて笑った。
その笑顔は、以前よりずっと自然だった。
湯気が夜空へと溶けていく。
長い時間をかけて。
二人は語り合った。
そしてダリアムは知る。
残酷な皇帝の娘。
冷酷なクリザードの姫。
そんな仮面の奥に――
誰よりも傷つき、
誰よりも孤独な少女がいることを。
――続く。
ソルの過去と本心が少しずつ明かされる回でした。
これまで敵として描かれてきた彼女ですが、その内側には多くの傷と孤独が存在しています。
そして大会へ向けて、それぞれのチームも少しずつ形になり始めました。
次回はさらに大会編へと物語が進んでいきます。
ぜひお楽しみに!
それでは、また次回お会いしましょう。




