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ブラック・エンジェル・ユニバース  作者: Leon


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363/449

第359話:『国家の始まり』

作者コメント:

いつも『黒い天使(Anjo Negro)』を読んでいただきありがとうございます。第10シーズン、第359話をお届けします。

クリザードの冷徹な王アレスと、彼の元に戻ったラウラ。そして新たな一歩を踏み出す惑星K11の者たち。それぞれの「始まり」の物語をお楽しみください。

クリザードの空は、不気味なほどに静まり返っていた。

凍てつく王城の巨大な回廊を、見張りの兵士たちが淡々と歩を進めていく。

その頭上では、血のように赤いオーロラが城壁に冷たい光を反射させていた。

国王の寝室へと続く、漆黒の巨大な扉の前。

そこに、ラウラは立ち尽くしていた。

深く、息を吸い込む。

心臓の鼓動が、痛いほどに高鳴っていた。

ほんの一瞬、引き返そうかと彼女の足がすくむ。

しかし――。

重厚な扉が、ゆっくりと音を立てて開いた。

姿を現したのは、アレスだった。

鎧は身に着けていない。

王座の重圧からも解放された、ただの「彼」がそこにいた。

深紅の瞳が、ラウラの姿を捉える。

二人の間に、奇妙な沈黙が流れた。

アレスは怪訝そうに目を細める。

「ラウラ……」

彼女は答えなかった。

ただ静かに、彼のテリトリーへと足を踏み入れる。

訳が分からないといった様子で見つめるアレス。

その時――。

ラウラは彼の手を引き、その頬を包み込んだ。

そして、唇を重ねた。

アレスの目が見開かれる。驚きに染まった表情。

背後で、静かに扉が閉まった。

惑星K11

結晶のように澄んだ湖。その水面に、夜の紫色の光が美しくきらめいていた。

組織の拠点の最上階。

レオンは一人、回廊を歩いていた。巨大な窓の向こう、地平線を見つめているヴァロンの姿を見つける。

元・エックスプリア(XP)のリーダーは、物憂げに黙り込んでいた。

何かを深く考え込んでいるようだ。

レオンは足音を立てずに近づく。

「ヴァロン……」

彼はゆっくりと顔を巡らせた。

レオンは少しだけ申し訳なさそうに頭を下げた。

「悪かった。ラウラを説得できなかった」

ヴァロンは数秒間、何も言わなかった。

それから、深く息を吐き出す。

「気にするな」

その声には寂しさが混じっていたが、同時にどこか割り切ったような大人の響きがあった。

「彼女には、幸せになってほしいと思っている」

レオンは黙って彼を見つめた。

ヴァロンは言葉を続ける。

「それに、もし彼女があの戦争を終わらせることができるなら……」

自嘲気味に、かすかな笑みを浮かべる。

「俺としては、それで納得がいく」

レオンは両手をポケットに突っ込んだ。

「なぁ、ちょっと考えがあるんだ」

ヴァロンが片方の眉を上げる。

「何の話だ?」

レオンの顔に、いたずらっぽい、弾けた笑顔が戻る。

「このK11を、もっと動かそうと思ってさ」

「俺たちの場所を、俺たち自身で作るんだ」

「エックス(XP)や他の世界の資源に頼らずに、この惑星だけで生きていける仕組みを作る」

ヴァロンの目が、真剣なものに変わった。

レオンは歩きながら、熱を帯びた声で語る。

「ここには今、たくさんの新しい種族がいる。それぞれ違う才能を持った奴らだ」

「商人、戦士、芸術家、科学者……」

彼はヴァロンを振り返った。目がキラキラと輝いている。

「だからさ……デカい『トーナメント』を開こうと思うんだ」

ヴァロンの目が見開かれた。

レオンはさらに笑みを広げる。

「巨大なアリーナを建設するんだ。そこで試合をして、能力を分析し、新しい戦士を見つけ出す。それと同時に、惑星の中でお金を回すんだよ」

「小さな個人経営の店が食べ物や服、武器、芸術品を売る。そうすれば、K11は自立して成長し始める」

ヴァロンは圧倒されたように聞き入っていた。

やがて、低く笑い声を漏らす。

「……最高のアイデアだな」

「だろ? 気に入ると思ったよ」

ヴァロンは腕を組んだ。

「ちなみに、俺が参加したいと言ったらどうする?」

レオンが驚いたように目を見張る。

「マジで?」

ヴァロンは自分の掌を見つめた。

「アレスとカエロンの戦いを見て……自分の力が、あの領域には到底及ばないと痛感した」

ゆっくりと、拳を握りしめる。

「俺はもっと強くならなきゃいけない。そう理解したんだ」

レオンは嬉しそうに、ヴァロンの肩を叩いた。

「その意気だ! あんたと戦うのが今から楽しみだよ」

ヴァロンの顔に、今度は本物の笑みが浮かんだ。

「面白い戦いになりそうだな」

しばらくの後。

K11のメイン会議室。

そこには、全員が集まっていた。

レオン、ララ、レニ、リュウ、ジュン、ジラ、ナンド、キラ、ヴァンダー、ヴァロン。

さらには、最近解放されたばかりの各一族の代表者たち。

広い室内は熱気に満ち、あちこちで低い話し声が響いていた。

ヴァロンが立ち上がると、一瞬にして静寂が広がる。

彼は集まった者たちを一人ずつ見渡してから、口を開いた。

「皆に集まってもらったのは、重要な発表があるからだ」

全員の視線が彼に集中する。

「現在――」

彼の背後にホログラムが浮かび上がり、数字が並んでいく。

「この惑星K11には、200万人以上の住民が登録されている」

どよめきが起こった。

「スピルリから救出された者、6つの組織のメンバー、クリザードから解放された民、そして俺たちが長年の任務で救ってきた多くの人々だ」

画面が切り替わり、K11に新しい街が作られていく様子が映し出される。

歩く家族、遊ぶ子供たち、建ち並ぶ建造物。

ヴァロンは微かに微笑んだ。

「かつては荒涼とした空っぽの惑星だった場所が……今では、俺たちの『家』になった」

会場の空気がエモーショナルに揺れる。

ララは、隣にいるレオンの手をそっと握りしめた。

ヴァロンの表情が、少し真剣なものに戻る。

「だが……現在、多くの家族が生活を組織の配給に直接依存している状態だ」

代表者たちの顔つきが変わる。

「そして、アレスが外部の世界の支配権を握った今、外から資源を持ち込むことはこれまで以上に難しくなるだろう」

ヴァンダーが深く頷いた。

ヴァロンはホログラムを指し示す。

「しかし、ここには多様な種族がいる。俺たち自身の資源を、経済を、システムを生み出すことができるはずだ」

ホログラムには、市場やアリーナ、未来都市の構想図が映し出された。

ヴァロンはニヤリと笑う。

「そのために、レオンの提案で、大規模な『武闘トーナメント』を開催することにした!」

一瞬の静寂の後、歓声が沸き起こった。

ナンドが目を見開く。

「まじかよ……最高じゃねえか!」

ジラが笑う。

「やっと退屈しなくて済みそうね」

リュウは腕を組み、

「人々の結束を強める良い機会になるかもしれないな」

ジュンも同意した。

「新しい才能の発掘にも繋がります」

ヴァロンが言葉を重ねる。

「巨大なアリーナを建設する。イベント、競技、そして――K11を一つの本物の『国家』へと変貌させるんだ」

ホログラムには、投影されたコロッセオのような超巨大競技場が浮かび上がっていた。

「エックス(XP)の高度な技術を活かせば、商業、エンターテインメント、治安維持、教育、すべてをここで構築できる。完全なる独立惑星だ」

代表者たちは興奮気味に頷き合い、拍手を送る者や、熱っぽく議論を始める者で溢れかえった。

最後に、ヴァロンは全員を見渡して言った。

「そして何より……」

「俺たちには、『創造主』の加護がある」

一瞬、静まり返った広間に、次の瞬間――割れんばかりの拍手と歓声が爆発した。

ナンドが拳を突き上げる。

「その通りだ!!」

レニが、珍しく小さな笑みを浮かべた。

「ようやく、未来の話らしくなってきたね」

キラは興味のなさそうなフリをして腕を組む。

「ふん……まあ、少しはマシな退屈しのぎになるんじゃない?」

ジラがそれをからかった。

「あら、もう自分が参加する気満々じゃない」

「うるさいわよ、ジラ!」

一同の間に笑いが弾ける。

レオンはその光景を、静かに見つめていた。

彼の瞳が、温かい光を反射して輝いている。

なぜなら、生まれて初めて――。

この場所が、本当の「ホーム」のように思えたからだ。

クリザード・王の寝室

赤い照明が室内を妖しく、そして静かに照らし出していた。

ラウラは、アレスの傍らに横たわっていた。

二人とも、言葉を失ったように沈黙している。

アレスは天井をじっと見つめ、思索にふけっていた。

やがて、押し殺したような声で口を開く。

「……何が狙いだ?」

ラウラはゆっくりと顔を向けた。

「お前がまたこんな行動に出るなんて、想像もしなかった」

アレスは彼女を真っ直ぐに見据える。その深紅の瞳には、まだ明らかな警戒と不信感が宿っていた。

「何の計画がある?」

ラウラは数秒間、沈黙を保った。

それから、穏やかに、しかし芯のある声で答えた。

「計画なんて、ないわ」

アレスの視線は外れない。

ラウラは視線を少し落とした。

「ただ……疲れたのよ」

彼女は深く、ため息をつく。

「ルールに縛られるのも、逃げ回るのも、隠れて生きるのも、もう疲れちゃった」

その瞳に、隠しきれない哀愁が滲む。

「私はただ、幸せになりたいだけ」

再び、重い静寂が二人を包み込む。

ラウラはアレスの目を真っ直ぐに見つめ直した。

「だけど、それは私が悪人になるという意味じゃないわ」

「私はただ、あなたと一緒にいたいの」

アレスは身動き一つせず、彼女を見つめ返した。

言葉を返すことも、視線を逸らすこともできずに。

長い時のなかで、初めて――。

クリザードの冷酷なる王は、怪物には見えなかった。

ただ、自らの強大すぎる力のなかで、進むべき道を見失った一人の男のように見えた。

静寂が城全体を包み込んでいくなか、カメラはゆっくりと、二人のいる寝室から遠ざかっていく。

(第359話 おわり)

作者コメント:

第359話をお読みいただきありがとうございました!

ラウラの覚悟、そしてレオンとヴァロンが始動させたK11の国家化計画。アリーナでのトーナメントは一体どんな激闘を生み出すのか? そしてアレスの心はどう動くのか……。

ぜひ次話の展開も楽しみにしてください! 評価や感想もお待ちしております。

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