第357話 『信念』
いつも『黒き天使』を読んでいただきありがとうございます。
今回は戦いではなく、それぞれの「信念」と「愛」がテーマの物語です。
ローラが下そうとしている決断。 そして、それを見守る仲間たち。
彼女が選ぶ未来とは――。
それでは本編をお楽しみください。
K11の空は紫色に輝いていた。
惑星中に存在する巨大な結晶群が光を反射し、幻想的な景色を作り出している。
組織本部の主艦、その最上階のテラス。
ローラは一人、静かに空を見つめていた。
風が髪を揺らす。
彼女の心は、この場所にはなかった。
遠く。
ずっと遠くへ向いていた。
その時――
背後から足音が響く。
ヴァロンだった。
まだ戦いの傷跡を残したまま、黒いコートを羽織っている。
彼はローラの隣へ立った。
「どうしたんだ、ローラ」
ローラは静かに息を吐いた。
「アレスに聞かれたの」
ヴァロンは彼女を見る。
「俺たちが付き合っているのかって」
沈黙。
そして彼は静かに尋ねた。
「なんて答えた?」
「違うって」
その言葉に。
ヴァロンの目が一瞬だけ揺れた。
「俺たちは誰の許可も必要ない」
ローラは空を見続ける。
「ダリアムに言われたことを考えていたの」
「……」
「すべての悲劇は私の家族から始まったって」
彼女は自分の腕を抱き締めた。
「もしかしたら、本当にそうなのかもしれない」
ヴァロンは即座に否定する。
「そんなこと言うな」
しかしローラは続けた。
「私の家族は呪われている」
涙が浮かぶ。
「ララだけは違う。レオンがいるから……」
ヴァロンは黙って聞いていた。
そして。
ローラは彼を見た。
「私はアレスのところへ戻ろうと思う」
その瞬間。
ヴァロンの表情が凍り付いた。
「……何だって?」
「もう一度、彼と結婚する」
強い風が吹き抜ける。
「正気か、ローラ!」
彼女は首を横に振る。
「ソルが変わったのを見た」
「レオンがリーの心を変えた」
「ララを幸せにしている」
「キラも彼を尊敬している」
「レニのような人まで神を信じるようになった」
彼女は微笑んだ。
「レオンには神の霊が宿っている」
ヴァロンは彼女の手を掴んだ。
「お願いだ」
「もう君を失いたくない」
ローラは目を閉じる。
「女神ララはリムを救った」
「私もアレスを救いたい」
◇◇◇
その後。
組織本部・会議室。
レオン。
ララ。
ヴァロン。
ヴァンダー。
リウ。
全員が集められていた。
ローラは立ち上がる。
「話があります」
空気が重くなる。
「私はアレスの元へ戻ります」
沈黙。
ララが立ち上がった。
「お母さん!?」
ローラは静かに説明する。
「女神ララがリムを変えたように……」
「私もアレスを変えたい」
ヴァンダーが腕を組む。
「危険すぎる」
ヴァロンはレオンを見る。
「何か言ってくれ」
レオンはしばらく考えた。
そして静かに尋ねる。
「ローラさん」
「まだアレスを愛していますか?」
全員が驚いた。
ローラはヴァロンを見た。
そして。
小さく震えながら答えた。
「……愛してる」
部屋が静まり返る。
ヴァロンは言葉を失った。
ローラの涙がこぼれる。
「忘れたかった」
「でも無理だった」
レオンは静かに立ち上がった。
「なら、俺は止めません」
全員が彼を見る。
「でも一つだけ約束してください」
レオンの目が真剣になる。
「何かあったら俺を呼んでください」
彼の霊圧が微かに揺れた。
「その時は休戦協定を破ってでも」
「俺がクライザンドへ行きます」
ララが彼の腕を掴む。
ローラは泣き続けていた。
やがて。
ヴァンダーも席を立つ。
「レオンの言う通りだ」
「君は神を信頼していない」
そう言って部屋を出た。
続いてリウも立ち上がる。
「私たちはアレスに対抗できます」
「だから考え直してください」
彼も去っていった。
残ったのは。
ローラとヴァロンだけだった。
長い沈黙。
そしてヴァロンが呟く。
「俺は君のためなら死ねる」
ローラは涙を流した。
「ドリアは私のために死んだ」
「あなたも二度死にかけた」
彼女は震える。
「もう誰かが私のために傷付くのを見たくない」
ヴァロンは背を向けた。
「君はすべてを持っている」
「それなのに捨てようとしている」
そう言い残し、去っていった。
◇◇◇
その夜。
K11の湖。
ララは湖畔に座っていた。
隣にはレオン。
紫色の空が水面に映っている。
「行かせるの?」
ララが尋ねた。
レオンは少し黙る。
そして答えた。
「イエス様に聞いてみる」
ララは驚く。
レオンは立ち上がる。
湖へ歩く。
そして。
ためらうことなく飛び込んだ。
水面に波紋が広がる。
湖の底。
レオンは岩の上で座禅を組んだ。
目を閉じる。
心を静める。
そして――。
祈り始めた。
【続く】
第357話を読んでいただきありがとうございました。
今回はローラの決断と、それぞれの想いを描いた回になりました。
戦争や力では解決できない問題に、登場人物たちがどう向き合うのか。
次回はレオンの祈りと、神からの答えが描かれる予定です。
引き続き『黒き天使』をよろしくお願いします。




