第40話 イアンとの激戦
6月13日、窮地に立たされていたファルスト連合国軍はついに最終手段に出た。
それは、自軍の全戦力を総動員するという作戦である。この作戦で共和国軍と帝国軍に攻撃を仕掛け、完全殲滅するという魂胆である。ライエルの部下たちが賛成する中で、数名反対する者がいた。しかし、数日後にはその反対派の者たちは忽然を姿を消した。原因は公表されてはいないものの、恐らく更迭されたか、処刑されたかのどちらかであるとされている。こうして、この戦いは幕を開けようとしていた。その筆頭部隊にはバスター隊が選ばれ、いよいよ作戦は二日後にまで迫った。
「イアン少佐、とうとうこの時が来てしまいましたね」
「そうだな、ベティ。今までにないくらいのプレッシャーを感じる……。お前もそう思わないか」
「私もいつになく緊張しています。作戦が成功するかどうか、不安で仕方がありません……。国の存亡がかかっていると思うと、尚更ですわ」
ベティは鬱屈とした表情で俯く。
「ベティ、そう卑屈になるな。俺もアッシュやスティーブを失って辛い思いを過ごしてきた。その経験があってこそ、俺は心身共に強くなれたんだ。あいつらの死を無駄にしないためにも、憎きロードブレイダーMk-Ⅱを倒す……。必ずな」
「えぇ、そうしなくてはなりませんね」
二人は握手を交わし、お互いに軽く頷いた。
一方、ロバートはいつになくただならぬ恐怖心を抱いていた。
「どうしたんです? ロバート少佐。顔色が悪いですけど」
「あぁ、何か恐ろしいことが起こるんじゃないかと不安でね」
ロバートは後頭部を軽く掻く。彼はいつものように振舞おうとするが、どこか暗さを感じる表情をしていた。
「何言ってるんですか。少佐らしくないですよ」
カイルは穏やかな顔つきで彼を見つめる。
「そう……、だよな。あまり気にすることは無いか。えーと、13時から強化ミーティングがあるから、遅れるなよ、カイル」
「はい、少佐」
まだ、彼らは知る由もない。今までにない戦いが彼らを待っているということを。
それから二日後、ついに連合国軍は史上最大の作戦を実行することとなった。この作戦では、共和国軍及び帝国軍に集中砲火を仕掛けていき、最終的には完全に壊滅状態にさせて両軍を降伏させるというものである。この作戦にイアンは誰よりも命を懸けていた。何があっても成功させてやるという精神に満ち溢れていた。
「イアン少佐、今回の作戦ですが……」
「分かってる。俺は必ず奴らの息の根を止めて見せる」
イアンは軽くゆっくりと頷く。
「我々で出来るのでしょうか……。両軍の壊滅を行うだなんて……」
「勿論出来るさ。弱音を吐いていたら出来る事も出来なくなるぞ」
彼は最早この戦いに勝ち、仲間の仇を討つ。ただそれだけを考えていた。
こうして、連合国軍は戦艦なども引っ提げてまで総攻撃を開始。
一方、共和国軍は連合国軍の進軍を察知し、直ちに戦闘態勢を取った。
共和国軍側はいち早く機動部隊を出撃させ、戦闘態勢を整える。ついに戦いにおける役者がそろった所で戦いの火蓋は切られた。
「ロバート少佐、今回はどうしますか?」
“今回は地上戦重視で戦う。アモン大佐からそのように指示が入っていたからな”
「分かりました。他には?」
“V陣形で突撃及び集中砲火、さらに一撃離脱も考えているそうだ”
「はい、了解です」
ヘレンは一旦通信を切り、攻撃を開始した。後方には彼女と同様の装備のガントレイザーで構成された索敵・支援部隊もおり、戦力は万全である。しかし、それ以上の戦力を持っている連合国軍の目の前では、無力そのものであった。
「あれは……、艦隊です! まさか総力を挙げてここへ攻撃を仕掛けるなんて……。そんな……」
“本当か、ヘレン?”
「はい、少佐。早くしないとこちらが痛い目に遭う……、いや、それどころでは済まないでしょう」
ヘレンは青ざめた面持ちで震える。だが、負けじと攻撃を仕掛けていく。
「全弾発射だ!」
“了解、艦長!”
連合国軍の艦隊は、圧倒的な攻撃力で最前線部隊を次々に撃墜していった。
しかし、ヘレンはこれに負ける事無く攻撃を続けていった。そして彼女はロバート達三人や他の僚機を呼び、集中攻撃を仕掛けるため連絡を取った。彼らはすぐに合流し、怒涛の火力を誇る艦隊を相手に立ち向かった。
「何としても奴らを撃墜しなくては……」
“少佐、まずは……”
「まずは、遠距離からの攻撃で様子見だ」
“はい”
フランクは静かにスナイパーライフルを取り出した。
「我々も動かないとな……」
ルーガン率いるストライカー隊も後方から遠距離射撃を仕掛けていく。
しかし、この程度の攻撃では艦隊はびくともしなかった。それを見かねたロバートは、スマートブラスターで敵艦隊に挑むことにした。
「よし、こうなれば……」
ロバートは戦闘機形態に変形し、敵艦に接近し自ら囮となって砲撃を浴びせた。
「艦長、敵MUが接近しています!」
「何? どうせ一機だろう。すぐに撃ち落としてしまえ!」
「了解!」
その中で、ロバートは十字砲火を潜り抜けて攻撃を仕掛けていく。この攻撃により、副砲二門が破壊され、早くも連合国軍は機動部隊を出撃させ、艦から遠ざける事にする。
「倒してやる!」
「させるものか!」
ロバートはすぐさまビームソードを取り出して敵機を斬り裂いた。その後も敵部隊はロバートのペースに持っていかれるばかりであったが、ここで艦隊による集中砲火でロバートは被弾こそしなかったものの苦しむ羽目になる。
「クソッ……、近づいたのは早計だったか……」
“少佐! ここは我々が”
「フランク! 頼んだぞ」
フランクはビームキャノンやミサイルポッドを使って敵部隊を次々に撃退し、ロバートを援護する。さらにそこへとカイルやヘレン、ストライカー隊やアタッカー隊も加わりその火力は確固たるものとなる。
凄まじい火力故に連合国軍も流石に怯みそうになるが、まだ負けてはいなかった。それもそのはず、彼らには切り札がある。そう、バスター隊の面々である。二人だけになったとはいえ、名実ともに実力は確かだ。
「ベティ、他の部隊と一斉掃射だ」
“分かりました、イアン少佐”
バスター隊はひたすら攻撃に専念し、敵部隊を撃墜していった。
彼らは手始めに前衛部隊を撃墜し、そこからロバート達を圧倒的な機動性で苦しめていくという戦法である。
「さてと、Mk-Ⅱをさっさと撃墜するぞ」
“了解です、イアン少佐。私は必ずスティーブやアッシュの分まで戦い抜いて見せます”
「いい心意気だ。よし、行くぞベティ」
イアン達はロードブレイダーMk-Ⅱに狙いを定めて攻撃を仕掛けていく。中でもベティは果敢に攻撃するが、健闘虚しくどの攻撃も防がれてしまう。そこでイアンは、両腕のビームキャノンでMk-Ⅱを苦しめていく。
「イアン少佐! 早くMk-Ⅱを……」
“分かっている。さて、死んでもらおうか……”
しかし、ロバートはその程度では諦めなった。彼には誰よりも強い絆で結ばれた仲間がいる。彼らと共に攻撃を仕掛けていき、バスター隊を殲滅しようとする。
「くッ……、やはり簡単には殺せないようだな。ならば、どんな汚い手を使ってでも殺す!」
イアンはロバートの機体を羽交い絞めにして動く事を困難にした。
そして、そこからベティがトドメを刺そうとする。
「トドメよ! Mk-Ⅱ!」
だが、その時であった。ベティの横から突撃を喰らわせた者がいた。
「何よ!? どこまでも私たちの仇討ちの邪魔をする気ね……」
「少佐! 大丈夫ですか?」
“カイル、助かったぞ”
カイルはそこから大剣を振り回しながらベティにさらに急接近していく。
これにはベティも恐怖心を覚えた。しかし、それと同時に彼女も敵に負けてはいられないとい思いが強くなった。
「私がこの程度でェェッ!!」
ベティはビームライフルで掃射を行うがカイルは彼女の放った光線を大剣で全て弾いていく。
そして、カイルは最終手段に出た。
「これで決めるぜ! 喰らえェェッ!」
「そんな! 私がそんな所でェッ!!」
ベティは必死になり二本のビームソードでどうにか鍔迫り合いの状態にするものの、出力ではカイルのガントレイザーの方が上であった。彼女はあっさりとカイルに押し出された上に蹴りを喰らい、態勢を立て直そうと試みる。しかし、その隙を突いてカイルはビームブレードで素早く斬りかかり、ベティの機体を真っ二つにした。これにより、彼女は命を散らした。
「少佐……、後は……」
「ベティ!! よくもベティを殺してくれたな! 許さん!!」
イアンは怒りに燃えて、その胸の内の炎を自らの闘志に変えた。
彼はそこから遠距離射撃を開始し、ロバートを苦しめる。
「何をォッ!! まだ俺は諦めんぞ!」
「コイツから、並々ならぬ殺意を感じる……。何故だろう」
ロバートは心が揺れ動くものの、攻撃を続ける。しかし、運悪く彼の武装であるビームキャノンがエネルギー切れとなった。そこで彼は、接近戦に持ち込もうとする。
「これで終わりだ! Mk-Ⅱ!!」
「何て奴だ……。このままでは負ける! でも……」
ここでロバートは咄嗟にミサイルで攻撃を仕掛け、上手く牽制を行う。さらにトドメと言わんばかりにビームソードで斬りかかるが、イアンはその攻撃をすぐに回避した。
「俺はお前を殺してやる……。殺してやる!」
イアンはビームソードで素早く斬りかかっていく。相討ちを覚悟してまで、彼は仲間の仇を討とうとしていたのだ。あまりの殺意にロバートは押し殺されそうになるも、まだ彼は諦める事無く攻撃を続ける。
「どこまでしぶといんだ……。このまま奴にやられたら、カイル達は……、間違いなく殺される! だから、死ぬ訳にはいかないんだ!」
ロバートは必死になって猛反撃を開始する。凄まじいスピードで敵機に斬りかかるが、簡単に倒せるはずもなく、長期戦の兆しも見えてきた。その中で、ロバートはやむなくビームソードをもう一本取り出し、一旦遠ざかってみる。そして、イアンの僅かな動きを見極めた。
「奴の急所は……、足だな!」
ロバートはすぐさま下半身の方へと攻撃を繰り出し、見事にイアンの右脚部を損傷させる。そして、彼はトドメの一撃としてルーガンを袈裟斬りにした。これにより、ルーガンは機体共々散っていった。
「よし……、とうとうガルドールを倒したぞ……」
“少佐、やりましたね”
「ああ、やってやったよ」
ロバートは一息つく暇もなく敵の艦隊の方に向かおうとするが、既に共和国軍が第1前線基地から出撃させた艦隊と交戦状態にあり、連合国軍が全滅するのはもう時間の問題であった。
その後、激しい戦いの末に連合国軍は事実上の完全敗北。
それから三日後に、連合国軍は今後、共和国軍及び帝国軍に一切軍事介入しないことを条件に両軍と和平条約を結び、降伏。ファルスト連合国は呆気なくこの国家間戦争から姿を消したのだった。
いよいよこの戦いにも、終末と言う名の出口が見えてきたのだ。この出口に向かって、彼らは走った。




