第37話 ティタニアン起動
5月19日、連合国軍の新世代量産機としてブラスレイが本格的にロールアウトされ、帝国軍の各補給基地を殲滅させるほどの戦果を挙げていた。これに黙っていなかったのは皇帝のアルバレスである。彼は学徒出陣させてまで無理矢理戦力の増強を図っていたが、やはり腕利きのパイロットでない学生上がりの兵士ではどうすることも出来なかった。しかし、タイミングよく決戦用MUの内、一機がついに完成した。その名も《ティタニアン》と言い、悪魔にも似た凶悪なフォルムは、たまたま目撃した帝国軍の整備兵ですら驚くほどである。
「ついに決戦用MUの内、一機が完成いたしました。これで両軍は壊滅的な被害を追う事は間違いないでしょう。皇帝陛下」
「そうだな、バルマーン。これと次世代型グライズが、我が軍の救世主となってくれればいいのだが……」
「きっとそのようにして見せます」
バルマーンはその後、エルドラドを呼び出して彼をこの機体のパイロットに任命した。
「エルドラドよ。これが我が国の技術力の賜物とも言うべき機体である、ティタニアンだ。お前ならこの機体を使いこなせる。強靭的な攻撃力と圧倒的なまでの防御力を持っている。お前ほどのポテンシャルの持ち主ならこのドラギウス帝国に平和をもたらすに違いない」
紅い髪をかき上げつつ、ティタニアンを見つめるエルドラド。彼はこの機体を使いこなすことを決意したのだ。こうして、帝国軍は連合国軍に反撃を繰り返した。その結果、補給基地どころか第3前線基地までも破壊することに成功。また、共和国軍のエルドラド率いるクラッシャー隊の活躍は各国のマスコミが取り上げた。共和国軍、連合国軍はその破竹の勢いに恐怖し、最早勝つ術はあるのだろうかと熟考する。
その中で、ロバートもこの異様な事態に驚嘆していた。
「ロバート少佐、エルドラド達がここまでの快進撃をしているというのに、私たちはただ見ている事しか出来ないのでしょうか……」
「そんなことは無いさ。ヘレン、弱音を吐くな。俺達にも何かできる事はあるはずだ。それを今考えなくては……」
しかし、それでもヘレンは不安な表情をしていた。彼女は青ざめた顔をしており、震えているように見えた。そして、彼女は部屋へと戻っていった。
「どうします? 少佐……。このままではヘレンが……」
カイルは心配そうな表情である。ヘレンがこの様子では、彼らは戦うにも戦えない状態だ。
「ここは自分が行きます。自分ならヘレンの戦意を取り戻すことが出来ると思います」
「分かった、フランク。頼んだぞ」
ヘレンの部屋へと向かったフランクは、彼女の戦意を取り戻させるために説得を試みた。
「ヘレン、聞いてほしいことがある」
「何ですか……、フランク中尉」
「今、ヘレンがこのような状態じゃ我々は戦えない……。だから、その……」
「何となく言いたいことは分かりましたが……」
「僕はな、ヘレンが明るい笑顔でいてくれるの一番いいんだ」
フランクが突然そのような事を言ったため、彼女は困惑した。
話の内容が多少ずれるにしても、腹を割って話さなければいけないと思ったのだろう。
「中尉……」
「とりあえず、今すぐに部屋を出なくてもいい。明日まで待つから」
「分かりました」
そして、フランクは一旦この場から離れてロバートに事情を説明した後に、一旦解散した。
翌日、ヘレンは一応部屋を出て朝食を食べに食堂へと向かった。
いつもロバート達と食事をするテーブルでいち早く座る。そして、遅れてロバート達三人もここへと来ることとなった。
「やぁ、ヘレン。昨日は済まない……。落ち込んでいたのに無理やり話しかけて」
最初に話を持ち掛けたのはフランクであった。
「いえ……。いいんです。今もちょっとノイローゼ的なものは心の中にありますが、ひとまず昨日よりは心は軽くなりました」
「そうか。良かった」
フランクは少し安堵し、朝食のパンを千切ってクリームシチューに浸して口に運ぶ。
「ヘレン、もしかして今までの作業のストレスが溜まってこうなってしまったのか?」
「はい、恐らく……。私も知らず知らずのうちに疲れがどんどん蓄積されたんでしょうね」
ヘレンは明るめの金色の髪をかき上げる。
「まぁ、フランクの説得のお陰である程度改善されたんなら良かったじゃないか」
「そうですね。ちょっとした言葉でもここまで私を勇気づけて下さるなんて」
ヘレンはほのかに優しく笑う。彼女も心がほぐれてきたのだろうか。
「ひとまず良かったよ。これからはヘレンの作業量を減らすことにしよう。贔屓になってしまうかもしれないが、一時的にヘレンを少しでも休ませる時間を増やしておこう」
「ありがとうございます。本当にすみません、ロバート少佐」
「いいんだ、ヘレン。ちょっとずつ精神状態が回復したら、俺に伝えてくれ」
「分かりました」
その後、プログレッサー隊の四人は食事を終え、それぞれ訓練に励む。
一方で、エルドラドはティタニアンの操縦方法に慣れるため、テスト運用を行っていた。
それを見守るセルバードとメルダは、彼もまたヴィラーガの敵討ちに奔走していることを実感していたのだ。
「これがティタニアンですか……。コックピット内を見る限りだと複雑な操縦系統で少佐でも難しいのではないかと思っていましたが……」
「セルバード大尉ぐらいの実力では、まず無理そうですけどね」
それを聞いて、落ち込んだのかセルバードは肩を落とした。
「とはいえ、あそこまで自由自在に操れるようになるとは……。流石は少佐としか言いようがないな」
「まぁ、ギルファーの段階で既にピーキーな機体でしたから、次第に慣れていったんでしょうね」
その後、テスト運用が終わりクラッシャー隊は作戦会議へと移行。
二時間以上にも及んだ会議では、作戦内容だけでなく三人それぞれの問題点についても話し合いが行われることになった。
こうして、三日後に帝国軍による共和国軍第4前線基地への強襲作戦が行われ、彼らは進軍を開始する。
そして、この事を察知した共和国軍はすぐさま戦闘態勢を整えて攻撃を行うことにした。
「今回はまず、分散戦法で行く。要は一機ずつ戦う事になる訳だが、不利になって来たと感じたら連絡を取った上で一旦集結して一斉掃射に出るわけだ。今回はストライカー隊やアモン大佐達もいる事だし、大丈夫だろうだなんて思ったら負けだ。自分たちがどこまでやれるか見せてやろう」
“はい、ロバート少佐”
「よし、そうと決まれば行くぞ!」
“了解”
彼らは群がる敵の中へと攻撃を仕掛けていく。ロバートはビームキャノンを構えて、敵部隊に向け光線を連射した。
「喰らえェェッ!!」
ビームの雨と言わんばかりに、光線は目まぐるしく飛び交っていく。
この中でロバートは、敵機を確実に一機ずつ撃墜していった。
時を同じくして、カイルは大剣を振り回しながら敵部隊を次々になぎ倒していく。
しかし、遠距離戦があまり出来ないが故に掃射攻撃に苦戦していた。ここでフランクやヘレンと合流することを彼らに伝える。
「済まないな……。俺が力になれないばかりに」
“大丈夫ですよ。そこまで気にする必要は無いと思います”
フランクやヘレンも戦闘を始めた頃こそ有利だったが、次第に敵部隊に追い詰められ、その場から一旦離脱していたのだ。さらに、その後はロバートとも合流して一斉掃射を開始した。
「よし、四人そろったな。ここで決めるぞ!」
“了解!”
圧倒的な攻撃力でねじ伏せていくプログレッサー隊。さらにそこへとストライカー隊やアタッカー隊も合流する。これにより戦力はより確固たるものとなった。
「よし、そこだ!」
フランクはビームライフルを速射し、新型機であるはずのグライズⅡをいとも容易く撃墜していく。
しかし、彼らを危機に陥れる者たちが接近して来る。
「これは一体……」
“どうした? ヘレン”
「新型機が接近しています」
“何? グライズの後継機だけじゃないのか?”
カイルは思わず驚嘆した。目の前にまで迫って来たティタニアンに。
「おい、嘘だろ……?」
「さぁ、死ぬが良い!」
エルドラドは大型粒子砲でカイルの右腕を破壊した。これにより、すぐさま彼は撤収を余儀なくされた。
そこで立ち向かったのはルーガンである。両手に持ったビームキャノンで応戦するが、全く手応えがない。それもそのはず、マルチシールドシステムによってバリアが張られて攻撃を本体に当てるのは困難であったのだ。
「カイル大尉が撤収に追い込まれるなんて……。ここは俺が行く!」
“ルーガン隊長、気を付けてください”
エリナは少々不安気な面持ちであった。
「分かっているさ」
そして、ルーガンは素早い動きで立ち回って光線を乱れ撃つが、全て防がれた。
そこからエルドラドは接近し、ビームブレードでガルディスに対し一方的に攻撃する。
これにより、ルーガン達も仕方なく撤収せざるを得なくなった。その時、彼らは戦いに負けた情けない自分達を悔いていたという。
時を同じくして、アモン達は援護に回っていたものの、味方が次々に撃墜されていき焦燥に駆られていた。
「大佐、このままでは我々は全滅してしまいます!」
“ここは仕方あるまい……。ひたすら防御に徹底するしかない。ここはロバート達に任せよう”
そして、ロバート達はクラッシャー隊と対決するが、一方的なまでの攻撃に彼らですら苦戦する一方であった。
「火力だけでなく接近戦までこなせるだなんて……。その上防御力も完璧ではどうしようも無いですよ……。どう対抗すべきか分かりません」
“フランク、そうネガティブになるな。コイツにも弱点はあるはずだ。必ずな”
「とは言っても、どうやって……」
“自分自身の目で見極めるしかない。今はそれしか方法はあるまい”
ロバートは何があっても諦めなかった。例えどんなに強い敵だとしても。
ここでロバートはパワードキャノンを取り出した。
「これでも喰らえェェッ!!」
雷にも似たその光線ですらも、バリアによって簡単に防がれてしまい、最早打つ手は無かった。
さらにエルドラドはこの攻撃を倍にして返す。
「全員、Mk-Ⅱに一斉掃射だァァッ!!」
“了解!”
「まずい! ウワアァァァッ!!」
機体は大きな損傷を負い、ロバートは戦闘不能になり気絶した。
ロバートが気が付くと、そこは救護室の中であった。ここにはカイル達三人がいたのだが、すぐにその救護室が第4前線基地のそれではないと察知した。
「あ、あぁ……」
「ロバート少佐、目を覚ましたんですね」
ヘレンは安心した面持ちで微笑む。
「第4前線基地は? どうなったんだ?」
「その件についてですが、我々の基地は半ば壊滅状態となってしまいました……」
「何だって!? 本当か? ヘレン……」
「はい……」
「悲しいけれど、事実なんですよ……。またしてもこのような事になってしまったのは我々の責任です……」
カイルは悲し気な目で俯く。
「今、俺がいるのは何処なんだ?」
「ここは第3前線基地です。各部隊は散り散りになってしまったようなんです」
「そうか……」
「といっても、一時的な状態なのでご安心を」
「ならいいんだが、この状況下で俺達の方へ攻撃して来たら終わりだな……」
「でも、この状態で戦い抜けるように頑張るのが我々の課題ですね」
「あぁ、その通りだな」
四人は不安になりながらも、どうにかして希望を見出そうと試みる事にした。
数日後、ロードブレイダーMk-Ⅱの残骸を回収した開発チームは、急遽地球にいるメガテック社の社員を集めて大幅な改修をしてティタニアンに対抗できるような機体にしようと考えていた。
「竜崎チーフ、今回はどういたしますか?」
「そうだな……。今回の機体改修では装甲の強度を上げてさらに薄型にする必要があるな。あと、ビームシールドも搭載しないと」
亮は、急遽書き上げた設計書を指さす。
「なるほど……。スマートブラスターとビームシールドの出力ユニットは同じなんですね」
「あぁ、近年のMUのウェポンシステムは、ビームシールドと他のビーム兵器とまとめている事が多いんだ。だから、この流れを汲んでこのような感じにしたんだ」
「それにしても、これ程の武装をどう調達するつもりで?」
バンは眉をひそめていた。これほどの強化案を実現できるとは到底思えなかったからである。
「我々メガテック社がかき集めた余った機材を改良して使うつもりだ」
「そんな事が出来るのですか……?」
「勿論だ。俺達がやって見せるさ……」
そして、数時間後にすぐさま改修作業は開始された。この作業は睡眠時間を削ってまでして行われることになる。果たして、彼らの努力が実る時は来るのか。




