第34話 イアンの怒りは何処へ
4月30日、例の基地爆破事件が落ち着いてしばらく経った時の事。
共和国軍は新型メタルユニットの開発を急いでいた。現段階では出力や速度の調整が難航しており、人が乗れる限界を超えてしまえば、当然ながらその中にいるパイロットは耐えられなくなり命の危機に瀕する。
これにはジュピトリア共和国軍開発チームも悩み苦しんでいた。
「しかし、どうしたことか……。このままではAI専用機への道をたどるかもしれんな……。そうなるとハッキングの恐れもある……」
バンはこの問題点を解消するのに悩み苦しんでいた。
「あの、バンさん」
「どうしたんだ、ジャネット」
「アタシにいい考えがあるんですけど、いいですか?」
ジャネットは自然とバンに視線を合わせる。
「現在使われている強化型スラスター"S212"では、量産機として開発するとコストがかかり過ぎてしまいます。ですから、今回使うのは現行の汎用型スラスター・"C209"を使った方が良いのでは?」
「そうか……。こんな単純な事に気付かないなんて……。俺の眼は節穴だったみたいだな」
自分の事を軽く虐げつつも、微笑むバン。
彼は小型デバイスの画面をタップして、スラスターの仕様変更を他のチームメンバーに伝えた。
とはいえ、この手段も必ず成功するとは限らない。そういった問題を踏まえた上で、今後どうしていくべきか、部下たちとプランを練り直した。
一方、フランクはヘレンが抽出した戦闘データを受け取り、談話室で今までの戦闘を振り返っていた。彼は、これから自分の部隊がどのような戦法を取るべきか熟考する。
「うぅん、それにしてもどうしたことか。俺達は結果的にはその場しのぎの作戦でどうにかなっているとしか思えないな……。武装に頼るより、運に頼るよりもどのような戦術を使うか、だな……」
彼が戦闘データの分析映像を見ていると、アモンが近づいて来た。
「ロバート、最近どうだ。お前達はスパイ部隊を撃退したって聞いたが、やるじゃねえか」
「いやぁ、ありゃあ偶然が重なりあってできた賜物ですよ」
「とはいえど、その功績は事実だろ」
「はい……」
フランクは、少し照れながらも後頭部を掻く。
「とにかくよォ、実力と頑張りが伴ってるのは凄いことだ。これからも頑張れよ、未来の大将殿」
「お世辞はほどほどにして下さいよ」
「いいじゃないか。じゃ、またな」
アモンは軽く手を振ってそのまま去って行った。
その後も、フランクは戦闘データ分析に取り組んでいく。
一方、ファルスト連合国軍・バスター隊のイアン達は、ひたすらスティーブの仇を取るために訓練を重ねていた。彼らが必死に訓練を続けるのも、その怒り故か。
「よし、このままの調子で行けば新記録だな」
アッシュはひたすら射撃訓練に取り組んでいたが、そこに休憩中のイアンが来る。
「おい、アッシュ」
「あっ、イアン少佐!」
「訓練はバランス良くやらないと、とんでもない目に遭うぞ」
イアンは鋭い目つきで彼を睨みつける。
「す、すみません! 他の訓練もやって参ります!」
「よし、よろしい……」
そのままアッシュは、戦術訓練をするために別の部屋に向かった。
「イアン少佐、最近苛立ってますが……。やはりスティーブの敵討ちに必死になっているという訳で?」
「そうだとも、ベティ。お前もスティーブを共和国軍に殺されて辛い思いをしただろう」
「えぇ、私もあの時の事を思い出すたびに、胸が張り裂けそうなくらい心が辛くなります……」
ベティはスティーブを可愛がっていただけに、非常に悲し気な面持ちである。
「うむ、自分も同感だ。あの忌まわしい出来事は忘れはしない。おっと、俺達も訓練をしないとな……」
「そうですね……」
そして、二人もいつになく様々な訓練に精を出した。この力の源が湧き出たのも、スティーブの敵討ちをするためという目標があるからこそであろう。
それから翌日、連合国軍機動部隊はギガニウム採掘場に進軍を開始した。彼らはギガニウム合金の原材料生産量を大幅に減らすべく、最も規模の大きい第1エリアを狙うことにする。
「よし、早い所ここの拠点を潰すぞ!」
“了解!”
各部隊は採掘場の施設を破壊して回る。しかし、直前に連合国軍が来たのを連絡していた事もあり、事態はあまり事態が悪化することない段階で戦闘は開始された。
「ロバート少佐、今回はどうします?」
“俺とフランクで前衛に出る。カイルとヘレンは後衛で戦闘を行ってくれ”
「でも、カイル大尉は接近戦用のブーストカスタムですが……」
ヘレンは不安そうな面持ちである。
“ヘレンとフランク、俺とカイルの組み合わせにすると、接近戦要員が偏るからな。だから今回はそうしたんだ”
「そうでしたか……。失礼致しました」
“別に気にするな。とにかく、早く奴らを叩くぞ”
「はい!」
プログレッサー隊は本格的に戦闘を開始し、敵機動部隊を次々に殲滅していった。
とはいうものの、機動部隊の数は多く、激しい戦いを繰り広げる。その中で、ストライカー隊も合流し、戦況は好転する。
「ルーガン隊長、このまま突っ走っちゃいましょう!」
クローティスは薄茶色の眼を輝かせ、ビームライフルで光線を一発撃ち、敵機を撃墜した。
“そうだな、クローティス。早速一機撃墜するとはやるな”
「当然ですよ」
“だが、自意識過剰になるなよ”
「はい」
ルーガンはその後、戦闘機形態に変形して高速移動しながら敵機動部隊を軽くあしらっていく。
「まずいな……。後続の敵機が何機かいるな……。よし、ここは一旦変形するか」
再び機体を人型形態に変形させるルーガン。彼は鋭い目つきで敵機を画面越しから睨む。
「落ちろォ!!」
「しまった……。ウワアァァァッ!!」
どうにか応戦するも、その中に接近戦で挑んでくる敵が来た。
ルーガンは仕方なくビームソードを取り出して素早く立ち回る。
「何て奴らなんだ……。俺は何としても、この逆境を乗り越える!」
無数の敵がいる中で、ルーガンはエリナと共にひたすら敵を斬っていく。
「エリナ、気を付けろよ。敵を確実に仕留めるんだ」
“はい。しかし、これだけの敵がいてはやられるのも時間の問題かと……”
「そんなことは無い! 俺達でやって見せるんだ!」
しかし、敵がある程度減って来た矢先に奴らはやって来る。
「敵機接近! ガルドールか? よし、ならば尚更油断は出来ないな……。リオ、今回持ってきたバズーカで応戦頼む!」
“分かりました、ルーガン隊長”
リオは意気揚々とバズーカを構えるも、バスター隊は意外な手に出る。
「誘導機雷放出だ。行けッ!!」
バスター隊は誘導機雷を放出し、敵軍を少しずつ追い詰める。
「まずい! 誘爆したら終わりだぞ。リオ、ここは間合いを取って撃つんだ。近距離からの砲撃戦は自殺行為だぞ」
“はい。なるべく注意しようかと思います……”
彼女は誘導機雷の爆風に巻き込まれないよう、なるべく遠方からの攻撃をすることでどうにか回避しようとしたものの、周りにいる味方を爆風に巻き込まないようにするのは非常に困難であった。そこでリオは、果敢にも近距離戦に挑む。丁度誘導機雷が無くなったタイミングでベティに突撃したのだ。
「このまま……、斬る!」
「ふん、思うようにできるかしら……」
ベティは余裕の笑みを浮かべつつ、その斬撃をシールドで防いだ。
「そんなッ……!」
「私はこれぐらいで死ぬ訳にはいかないのよ! スティーブのためにも……」
さらに、ベティはビームソードで素早く斬りかかってリオの機体右腕部を切断する。
「キャアアッ!!」
「このまま……、トドメよ!」
しかし、そこへとルーガンとクローティス、エリナが援護射撃を仕掛けていく。
「どうした? 大丈夫か!?」
“私の事は気にしないで下さい……、ルーガン隊長”
「リオは一旦ここから退くんだ!」
“はい、隊長……”
リオはやむなく撤収し、ベティと対峙することになったのは、エリナであった。
「エリナ、あまり無理はするなよ」
“了解です……”
エリナは目を尖らせて、ビームライフルを連射した。
「今までよりも強いわ……。勝てるかしら……」
“エリナ、ここは俺も加勢するぜ”
「クローティス! ありがとう」
二人はひたすらビームを浴びせていき、次第にベティは追い詰められていく。
「このォ! リオを撤収にまで追い込むだなんてよォ!」
クローティスは素早く立ち回り、エリナと共にビームライフルを乱射していく。
“機体の損傷度、42パーセントです”
「なんて火力なの……。でも、ここで負けたりなんか……!」
これにより、流石のベティの機体も損傷が激しくなるが彼女は負けじとビームライフルを撃ち続ける。
「まだ……、絶対に負けないわ」
“ベティ、敵討ちも重要だが流石にここまでの損傷だとまずいぞ”
アッシュは不安そうな顔つきであった。
「でも、スティーブの敵討ちはどうするのよ!?」
“お前は一旦身を退くんだ。ここは俺とイアン少佐でやる”
「分かったわ……、アッシュ」
ベティは渋々この場から去って行った。
その後、アッシュはイアンと共に掃射をするもののプログレッサー隊とストライカー隊がいたこともあってか、かなり苦戦していた。
「やはりMk-Ⅱやガルディスが邪魔だな。だが、取り巻きを撃墜しないとどうにもならん!」
“わ、分かりました、イアン少佐!”
イアンとアッシュは、ロバートやルーガンとひたすら圧倒的火力でどうにか粘っていた。
「何て強さなんだ……。同じガルドールのはずなのにここまで強いとは……」
ここでロバートは、パワードキャノンで敵を完全に殲滅しようと試みる。
「これで……、今度こそ決めてやる!! 喰らえ!」
“俺も行くか! ロバート少佐、援護しますよ”
ルーガンはさらに追い打ちをかけるようにビームキャノンを撃つ。
「まずい! イアン少佐!!」
たまたまイアンの近くにいたアッシュは、自ら盾となってロバートとルーガンの攻撃を一身に受けた。
「アッシュッ!! なんで……」
“少佐……、さようなら”
アッシュの機体は爆発四散し、一瞬にしてスクラップと化した。
「おのれェ……、スティーブだけでなく、アッシュまでも手にかけるとは……。殺してやる!!」
イアンは戦闘機形態に変形し、ロバートとルーガンに目掛けて集中砲火を浴びせた。
凄まじい火力で圧倒され、ロバートは機体右肩部に損傷し、ルーガンは機体脚部などに被弾する。
「自分は第14機動小隊・ストライカー隊の隊長としてやってみせます!」
“分かった、ルーガン。お前のその心、しっかり受け取ったぜ”
「はい!」
そして、ルーガンは機体を戦闘機形態に変形させて、イアンを追っていった。
しかし、その時イアンは圧倒的な機動性と火力で共和国軍の機動部隊をたった一機で圧倒していたのだ。
これを見てルーガンは、怒りを闘志に変えて攻撃を仕掛けていく。
「これ以上……、これ以上やらせてたまるかッ!」
彼はイアンに光線を浴びせていく。しかし、イアンはビームシールドでいとも容易く攻撃を防いでいった。さらにそこから、ルーガンは切り返していく。
「何て奴なんだ! でも、スティーブの仇は取って見せる!!」
「俺が……、俺がこんな所でェ!!」
ルーガンは両手に持った光線を乱射し、イアンの機体に備わっていたビームシールド発生装置は破壊された。
「しまった!!」
「これで……、斬る!」
イアンの機体右腕部は切断され、戦闘不能に陥ったためそのまま撤収を余儀なくされることとなる。
それからしばらくしてから、連合国軍は完全に撤退し、どうにか共和国軍は勝利を収めた。
戦いがひとまず終わり、ロバート達は調整中の新型量産機を見ていた。
「ジャネット、これが新型機か?」
カイルは興味深そうな眼差しで新たな機体を見る。
「そうよ。何か不満でも?」
「いや。むしろこれは良いと思うぜ。スラスターを敢えて汎用型にしたのは正解だったんじゃないか?」
「あら、そう言ってくれるのは嬉しいわね。そうするようにバンさんに言ったのは私よ」
「そうなのか。お前らしいや」
呑気そうな表情でジャネットの事を見つめるカイル。そんなジャネットは彼の事を見て呆れ気味になっていた。
「カイル、この量産機が凄いってよく見抜いたな」
「簡単ですよ、ロバート少佐。一目でわかります」
余裕の笑みを浮かべ、すっかり得意げなカイル。
ロバートはその発言に驚いていた。元々そのような才能を持っていたとはいえ、ここまでの実力があるとは思ってもいなかったからだ。
「カイル、お前本当に凄いんだな……」
「まぁ、これくらいはメカニック担当としては当たり前ですよ」
カイルの達観ぶりにロバートもこのような部下がいて誇らしげに見えた。
その後、彼らは新型機の開発を手伝うことにしたのだった。
この新型機が共和国軍の希望となってくれるのか。




