第32話 壮絶なる過去
4月2日、ドラギウス帝国軍のキラー隊の三名は、連合国軍の第5補給基地壊滅作戦を実行。
彼らはすぐさま先制攻撃を仕掛けていった。
「落ちろよ!」
「しまった……、ギャァァッ!!」
ゾルヴィンの放った光線は敵機のコックピットを貫通し、機体は爆発した。
“隊長、このまま突っ走っていきましょうぜ”
「そうだな、メヴィック。だが、油断はするな。敵は俺達を欺くような戦法を仕掛けてくるかもしれねェ。ひとまずこの小隊はぶっ潰そうぜ」
“了解!”
キラー隊は僅かな援護部隊だけしか味方がいなかったにも関わらず、順調に敵機を撃墜していった。
「ボルグ、挟み撃ちだ!」
“了解だ。ぶっ殺してやるぜ”
二人は、ビームソードで何機もの敵機を一瞬にして八つ裂きにして見せた。
彼らの快進撃はまだ終わらない。
「よし、このままV字陣形で一斉掃射だ!」
“了解! 奴らをぶちのめすのが楽しみですな”
三人は残っていた一個小隊も容易く撃墜し、さらに爆撃を行った事によりこの基地は焼け野原と化した。
こうして彼らは、かつて基地があった区域を後にしたのだ。
この作戦の成功を受け、キラー隊の三人は全員昇進することとなった。
そして、三人はその嬉しさから祝杯を挙げる事にする。
「それにしてもよォ、このウイスキーはたまらんな」
ゾルヴィンはウイスキーの入った瓶を見つめつつ、ニヤリと不気味に笑う。
「えぇ、そうですな。こりゃあ上等なものですからね」
メヴィックは笑いつつも、ウイスキーを口に運ぶ。
彼も酒類が好きであり、その飲みっぷりはゾルヴィン以上である。
「そういえば、中佐……、じゃなかった、大佐はどうしてこの軍に?」
ボルグはゾルヴィンの顔をジロジロと見る。
「おぉ、聞いてくれるか。これは、俺がまだ地球に住んでいた時でな……」
それは、今から10年以上前の出来事である。
ゾルヴィンは子供の頃から20代頃まで、アメリカ・ニューヨーク州に住んでおり家族と共に平和に暮らしていた。
しかし、そんなある日の事、彼の運命を大きく変える出来事があった。
「大変だ! 火星政府軍が……」
テレビの緊急報道を見て、ゾルヴィンの父は焦る。
「父さん、母さん、早く逃げよう。でないと、戦火に巻き込まれてしまうよ」
「そうね……」
突然火星政府軍が襲撃したことに慌てふためく市民たち。避難所にはまだ着かないのかと焦り気味になるゾルヴィン。しかし、そんな彼らを悲劇が襲う。
「何だ?」
「メタルユニットの残骸が落ちてきた! ウワァァァァッ!!」
「キャァアアッ!!」
何と、炎に包まれたメタルユニットの残骸がゾルヴィンの両親の上に落下したのだ。この後、両親は即死してしまった。
これを見たゾルヴィンは一瞬悪夢だと思ったが、それは紛うこと無き事実である。
「父さん! 母さん! そんな……。嘘だ、嘘だァァッ!!」
その日以来、優しかったゾルヴィンの心は荒んでいき、非道な性格となっていき、スラム街で喧嘩に明け暮れる毎日を過ごした。
「おい、その有り余った金くれよ! 俺は一文無しなんだ。頼むよ」
「嫌だね。俺はこの金だけで暮らしてるんだ」
ゾルヴィンは頑なに自分の有り金を渡そうとはしなかった。
「何だとォ! だったら、これでも渡さねぇってのか? この野郎、さっさとこっちに来いよ!」
突如として襲い掛かって来た相手は、ダガーナイフを持ってゾルヴィンに襲い掛かる。
だが、ゾルヴィンは恐れるどころかこちらも反撃に出た。
「このォ!」
「何をッ!!」
相手の攻撃を避けつつ、顔面に勢いよく殴りかかるゾルヴィン。
殴られた喧嘩相手はそのまま吹っ飛び倒れ、気絶する。
「思ったより手ごたえの無い相手だったな……」
ゾルヴィンは冷淡な顔で血の付いた手を拭いつつ、そのままこの場から離れた。
しかし、そんな彼もこのままの自分ではいけないと思う所があったのか、喧嘩を辞めて叔父の居候になって士官学校の試験勉強を始めた。
「ゾルヴィン、あまり無理するなよ。ほれ、スープでも飲め」
「ありがとう、叔父さん……」
ゾルヴィンは叔父に作ってもらったスープを味わう。
彼の心の傷は次第に癒えていく。
「お前、スラム街で喧嘩ばかりしてたらしいな。でも、お前がやっと真っ当な人生を歩めるようになって安心したぞ。今度からは前みたいな事するんじゃねぇぞ」
「はい……」
その後、地球政府軍の兵士になるものの、配属されて数か月後には戦争も終わり、彼は木星移住計画の事に対し興味を持ち、地球政府軍を辞めて木星のドラギウス帝国へと移住。
その国の軍に入ってから、彼は様々な人物と出会い、次第に心も成長していく。また、恋人も出来た。
「スフィーノ、最近は配属先が変わって会えない事も多いな」
“そうね……。でも、テレビ電話が出来てるだけいいじゃない”
「まぁ、そうだな」
かすかに微笑むゾルヴィン。そんな中、自軍の補給基地を連合国軍が襲撃するという事件が起こった。
これにはゾルヴィンもまずいと察し、上司たちと共にその基地へと向かっていく。また、奇しくもこの基地にはスフィーノもいた。
「ゾルヴィン、今回の作戦ではこの基地の防衛ラインを何としても守り切るんだ。いいな?」
“はい、了解です”
そして、作戦は開始されるが、連合国軍だけでなく共和国軍もこの作戦に参加していたことを知る。
何と、三つ巴の戦いとなったのだ。予想外の出来事にゾルヴィンたちは焦るものの、どうにか一斉掃射をするなどしてやり過ごそうとするが、突如として連合国軍と共和国軍、双方の大隊が急速に接近。彼らは帝国軍の機動部隊を一瞬にして全滅寸前にまで追い込んだ。
「ゾルヴィン! このままでは……、グワアァァァッ!!」
“カーマー大佐! クソォッ!!”
ゾルヴィンは残り少ない僚機と共に守り切ろうとする。また、これと同時に非戦闘員用の脱出用輸送機が出ており、その中にはスフィーノもいた。
「もしかしてあのシャトル……、脱出用か? とすると……」
しかし、運悪く敵軍に目を付けられてしまう。非情にも連合国軍と共和国軍はシャトルに攻撃を仕掛けていく。
「シャトルを破壊するぞ!」
“了解”
双方の敵軍は、標的にさらに集中砲火を浴びせていく。既にシャトルの装甲は悲鳴を上げていた。
「私はもうこのまま死ぬのね……。ゾルヴィン……、でも……」
スフィーノはシャトルの中でゾルヴィンの顔を頭の中で思い浮かべる。
「耐えてくれ……、頼む……」
“シールドユニット破損。コンディションレッドデス”
「何だとォ!? 俺たちはこのまま死ぬのか?」
シャトルの中では人々がざわめきだした。最早これまでではないかと。
ここに待ったをかけたのはゾルヴィンであった。無謀にも彼は、一人でこのシャトルを守ろうとした。
「やめろォ! 彼らを死なせないでくれ」
「なんだあのグライズは。一機だけで歯向かおうとする気か? このッ!」
敵機が集中砲火を浴びせたことにより、ゾルヴィンの機体は爆発寸前にまで追い込まれ、仕方なく彼は脱出することになったのだが、それと同時に彼は、誰があのシャトルを守るというのか────────
そればかりが気がかりであった。
「へへっ、撃ち落としてやる!」
「や、やめろォォッ!!」
彼の声は届く事無く、非戦闘員たちの乗ったシャトルは破壊され、無惨にも爆発四散する。この中にいた者は、全員焼け死んだ。
戦闘が終わり、ただ一人途方に暮れるゾルヴィンであったが、彼はスフィーノが死んだことを悟り、涙を流していた。荒れ果てた自分の基地で。
「スフィーノ……、スフィーノ!! 本当に済まない……、もう、会えないんだな……。奴らは許す訳にはいかねぇ」
ようやく人としての心を取り戻したゾルヴィンは、再び心が荒む。新たな基地に配属されてからは問題行動を起こし始めるが、その一方でこれ以上仲間を死なせないためにも自ら戦いの鬼となり、ひたすら努力を重ねに重ねて戦績を挙げ、とうとう小隊のリーダーにまで上り詰めた。そして、彼は様々なものを犠牲にしながら今に至る。
ゾルヴィンは、壮絶な過去を打ち明けた事により気が楽になった。
「大佐にそんな過去があったなんて、思いもしませんでしたよ」
ボルグは切なげな表情をしつつも、ゾルヴィンの今に至るまでの人生に感服した。
「まぁ、俺が昔のままだったら今のお前達とも出会えんかったからな」
「確かにそうなりますね」
メヴィックは軽く頷く。
「あぁ、でも後悔はしてはいないさ。さぁ、明日も早いから酒を飲み終わったらさっさと寝るぞ」
「了解です」
一方、共和国軍はガントレックに次ぐ新型メタルユニットの開発を行っていた。
その機体にはロジオン長官の戦争終結への願望が込められている。
「それにしても新型機を造るなんて、長官も無理を言うよな」
バンは不満をこぼしながらも機体のフレームに装甲を取り付ける。
「でも、これさえあれば戦争は終わるって上官は言ってますからねェ」
対照的に、ジャネットはロジオン達上層部の意見に賛成していたようであった。
そんな中ロバート達が偶然このドックに来ており、彼らに遭遇する。
「あっ、バンさん! それにジャネットまで……」
ロバートは二人も開発に関わっていたことに少々驚いていた。
「ジャネット、バンさんを困らせてないか?」
「させてる訳ないでしょ? それよりアンタこそ少佐を困らせてないわよね」
「そりゃあ当たり前さ」
カイルは冗談を交えつつも、ジャネットと元気そうに話す。
「お二人共、お疲れ様です」
「いやぁ、ねぎらいの言葉はありがたいね」
フランクはかしこまりながらも微笑む。
「今日は整備班の皆さんにお菓子を作って来たんですよ。食べますか?」
「えっ? もしかしてその大きい箱に入ってる奴?」
「そうですよ。どうぞ」
ヘレンはバンに自作の菓子が入った箱を渡した。
「ありがたく頂戴させてもらうよ」
「どんな味か楽しみですね」
ジャネットは、にこやかな顔で菓子の入った箱を見つめた。
その後、ロバート達はこれ以上は開発の邪魔になると察し、その場から去っていった。
果たして、彼らの努力が結ばれるときは来るのか。




