第30話 連合国軍の秘策
3月17日、ジュピトリア共和国軍の第4前線基地がようやく再建工事を終えようとしていた。
ロバート達も何とか安堵する。しかしながら、まだ問題点を抱えている。それは通信システムなどの連携が取れるかどうかである。通信機器などはまだ運ばれておらず、これから基地としての機能を復帰させようとしている状況下にあったのだ。
「トーラス司令官、これからですね……」
ロバートはトーラスと共にモニターに映る第4前線基地を眺めていた。
「そうだな、ロバート。ロジオン長官もやっと安心できると仰っていた。今から本当の正念場が始まるという訳だ。前回の戦闘の際も、君たちがいなかったら危うかっただろう。ほぼ予定通りに計画が進んだのも、間接的とはいえ君たちのお陰だな」
「いえいえ……」
嬉しそうな面持ちを見せるロバート。
彼のその表情の裏には、一抹の不安があった。
それは、再びギガンデスが撃ち込まれないかという事である。
二の足を踏んでしまえば、今までの努力は水泡に帰すからだ。
「そうだ。言い忘れていたことがある。これから新たな量産機の開発プランがあってだな……。ガルディスのシステムを一部流用したものでな。ようやく骨組みの段階まで進んだのは良いが、技術チームが納得できるものが造れるかどうか……」
「何故、その事を俺に……?」
ロバートは不思議そうに眉をひそめる。
この事は普通に考えれば、カイルに言うべき事であるためだ。
「君を一番頼りにしているからさ。この事は君の部下にも伝えておくといい。これが、終戦への鍵となればいいんだがな……」
「そうなればいいんですけどね……」
「いや、必ず終戦へと導いて見せる」
トーラスは力強く拳を握り締めた。彼の眼中には絶対的な確信があるという事を、ロバートは感じ取った。
一方、カイル達三人はトレーニングを終えて休憩していた。
談話室に集まり、ロバートが来るのを待っていた。
「それにしても遅いですね。ロバート少佐は……」
フランクは腕を組みつつ、少し心配していた。
「大丈夫だ。すぐ来るよ、ロバート少佐の事だし」
気楽そうに雑誌を読むカイル。
「来たみたいですよ」
ヘレンはすぐさまロバートの姿を確認する。
「少佐、どうしたんです? トーラス司令官からお咎めでもあったんですか?」
「ちょっと、カイル大尉……。少佐に失礼ですよ」
カイルの発言にヘレンは歯止めをかけようとする。
「まぁ、似たようなもんさ。何か俺の事を信頼してるから呼ばれたみたいでさ。あと、カイル達に一つ言っておきたいことがある」
「何ですか? 言っておきたいことって」
ロバートは、今回の新型機の計画について話す。三人はこの事に興味を持つが、その中でカイルは、最近導入され始めたガントレックの武装ユニットが使われなくなることを危惧していた。
「あの、気になる事が一つあるんですが……」
「カイル、顔色が悪いようだが……。あぁ、もしかして武装ユニットの奴か。あれも新型機と並行して運用を続けると思うぞ」
「そうですか。安心しました。てっきりお役御免になるかと思ってしまいまして」
カイルの不安は、すぐに消し飛んだ。とはいえど、強化されたガントレックと新型機では性能差があるのは明白であり、彼はこの後武装ユニットの再調整をバンやジャネット達と共に行うことにした。
一方で、連合国軍は次に行われる共和国軍奇襲作戦に向けて、新型武器“サテライトガンナーシステム”を完成させていた。これがあれば、いくつもの人工衛星の電磁波を受け取ることによって、大型粒子砲以上の破壊力を持たせることが出来るという。そして、この実戦導入日は今日であり、この基地の中に緊迫した空気が張り詰めていた。
「いよいよですね。ライエル長官……」
「そうだな、オルテス……。これで帝国軍に復讐するという訳だ。失敗は許されんからな」
「大丈夫ですよ。必ずバスター隊ならやって見せるはずです」
そして、その中でイアン達は最後の最後まで位置の微調整を行っていた。
「それにしても、こいつはちょっと扱いづらいですね……」
アッシュは、サテライトガンナーシステムの取り扱いに苦戦していた。
「まぁ、仕方あるまい。新兵器だけあって慣れない物を最初に扱えば、誰だってそうさ」
「分かってはいますけど……。イアン少佐はどうとも思わないんですか?」
「アッシュはガサツだからね。アンタってさ、本当にいつもそうだよね」
「ベティ、うるせえぞ。お前だって口は悪いし……」
二人が喧嘩を始めようとするのを察したイアンは、二人をすぐさまなだめた。
「よせ。今はこんな事で言い争う暇は無いぞ。スティーブが共和国の連中に倒されたことを忘れたか?」
「はい……。忘れてはいませんが……」
思わず、体が凍り付くアッシュ。また、ベティは彼の隣で黙っている。
「スティーブの分まで戦い抜くのだ。何としても、共和国軍の連中を殲滅するんだ。必ずな」
「分かりました。さっきは悪かったわね、アッシュ」
「俺も悪かった。今は一致団結しないとな」
バスター隊の三人はその後も、サテライトガンナーシステムの調整を行うのだった。
必ずスティーブの仇を討つという思いを胸に抱きしめながら。
その強い意志が、彼らを一つにしたのだ。
ついに、作戦実行開始時間が来た。連合国軍はサテライトガンナーシステムを備えた状態で共和国軍に向かって進軍を開始した。
「我々の勝利を信じて行くぞ! 目標は第1前線基地だ。Mk-Ⅱはあそこにいるはずだ」
“了解です”
一人の兵士は、士気を自ら高揚させながら空を駆け抜ける。
その一方、共和国軍は第1前線基地に敵軍が接近していることを察知し、すぐさま機動部隊を出撃させた。その様子をトーラスは見守った。自分たちの勝利を信じて。
「ロバート少佐、今回の作戦の確認を」
“了解だ。とりあえず今回は、ストライカー隊との連携も必要だ。俺とルーガンは急降下砲撃を何度か繰り返す。カイル達は空中で一斉掃射を全方位から浴びせろ”
「了解です。自分が必ずやってみせますよ」
“いい意気込みだな、カイル。その精神を力に変えるんだ”
「はい!」
こうして、戦いは幕を開けた。先制攻撃を仕掛けたのは連合国軍であり、タイムラグがあったものの一気にサテライトガンナーで集中砲火を浴びせた。
「やめろ! やめてくれ! ウワァァッ!」
次々に共和国軍の施設は破壊されていく。この中で、ロバート達は奮起した。
ロバートとルーガンは、手始めに地上にいる戦闘部隊に目掛けて急降下砲撃を開始した。
「来たな! ルーガン、行くぞ!」
“了解!”
二人は地上へと降下しつつ集中砲火を浴びせ、連合国軍の地上部隊を撃墜していく。
それはまるで、多勢に無勢という言葉を連合国軍側が体現しているかのようであった。
「まずい、地上部隊の数が減ってきているぞ。ベティ、アッシュ、ここはお前たちに地上へ行ってもらいたい。頼んだぞ」
“了解です。しかし、少佐は……”
ベティは心配そうな表情で、イアンの顔を画面越しにじっと見つめた。
「空中の敵は俺一人で不足は無い! 任せたぞ」
“そこまでの自信があるのなら、分かりました。やって見せます”
そして、ベティとアッシュは地上へと降下した。ここで二人は、再びサテライトガンナーのエネルギー補填を行う。圧倒的な火力で攻撃できるチャンスを見計らって、二人はどうにかビームライフルで適当に周りの敵をあしらうが、そこにロバートとルーガンが現れる。
「Mk-Ⅱに……、ガルディスまで! これは一石二鳥だ!」
アッシュはすぐさま砲口をロバート達の方に向けた。
「落ちろォッ!!」
「させるもんかよ!」
ロバートは間一髪で回避し、機体を人型形態に変形させて着陸した。
「ルーガン。お前は敵に隙を作らせるんだ。急降下砲撃をすればいい。俺は地上で戦う」
“分かりました。やれる限りのことはやってみます”
「よし、行くぞ!」
ルーガンがベティの囮になりつつも、ロバートはアッシュと戦闘を行う。
「俺だって……、俺だってやれるところを見せてやるぞ!」
アッシュはすぐさまビームライフルで光線を乱射する。しかし、ロバートはこの攻撃を回避する。
「今だ、ルーガン!」
“はいッ!”
ルーガンは、標的をすぐさまアッシュに切り替えて後ろから砲撃を仕掛ける。
「そんな! この俺が……、この俺が!」
アッシュは光線を浴びせられた。
「よくやったルーガン! 後は俺が決める!」
ロバートは、ビームソードで勢いよく斬りかかり、アッシュを跪かせる。
「クソォ……、俺がこんなところで……!」
「これでどうだ!」
アッシュは苦しみながらも何とかして切り返そうと試みるが、反撃の余地も無いまま、ロバートに一方的に攻撃され、撤収を余儀なくされた。
「アッシュをよくもやってくれたわね!」
ベティは、ビームソードを構えてルーガンに立ち向かう。敢然とした態度で。
彼女の脳内には、ロバートとルーガンを倒すという一つの目的しかなかった。
「来たか!」
「喰らいなさい!」
ルーガンは変形し、格闘戦を強いられる。
ここで彼は、ガルディスの機動性を生かした高速戦闘を行う。
「機体のスピードを限界まで引き上げて……、これで追いつけまい!」
凄まじいスピードでベティの周りを回りながら光線を撃っていくルーガン。そして彼は、隙を狙って接近。一気に斬りかかり、ベティの右腕を切断した。
「そんな……。撤収するしかないわね。ごめんね、スティーブ……!」
ベティもまた、この戦地を去らなければならなくなった。
彼女はその時、スティーブの仇を取れなかった悔しさに涙したという。
一方で、カイル達はストライカー隊のルーガン以外の三人と協力し、連合国軍と空中戦を繰り広げていた。そこへとロバートやルーガンも合流し、彼らの戦力は万全な状態となる。
「この調子で連合国の奴らを殲滅するぞ」
“了解”
「ルーガン、ここからは二手に分かれて挟撃をするぞ」
“はい。そうした方が良さそうですね……”
そして、プログレッサー隊とストライカー隊は二手に分かれて戦闘を続行。
凄まじい光線の嵐の中を潜り抜けながら、彼らは空中を駆けて行く。
しかし、そこへと招かれざる客人が来る。
「あれは……、ガルドールか! イアンが来たようだな」
ロバートは、ビームキャノンを構えてイアンを牽制しようと試みる。
「あれは……、ロバートか! 奴め、必ず……」
イアンも反撃に出るが、お互いに攻撃をしつつ回避するだけの戦いになっていた。
ここでロバートは、ビームキャノンのエネルギーを考慮し、接近戦に挑む。
「イアンめ! このォ!!」
素早い斬撃がイアンを襲うものの、彼はそれをすぐさま防御して事なきを得る。
「ロバート少佐!」
“カイル! どうしたんだ?”
「俺達も援護しようかと思いまして……」
“そうか。それは頼もしいな。じゃあ、後方支援を頼むぞ”
「了解です」
カイル達三人は、イアンに対し銃口を向けて集中砲火を浴びせるが、イアンは簡単には食い下がらなかった。彼はサテライトガンナーの使用が可能になる時まで、時間稼ぎをしようとしていたのだ。
「アッシュとベティが撤収した今、仇を取れるのは俺だけだ。喰らえ!!」
イアンは充填が完了した瞬間、サテライトガンナーから真っ白い光線を発射。
「何だ!? ウワァァッ!!」
“フランク、無理はするな。今のうちに逃げろ”
「はい、ロバート少佐」
フランクは運悪く機体腕部が焼失したため、撤収を余儀なくされた。
「なかなかの威力だが、外したな……」
「俺の部下になんてことを! てやァァッ!」
イアンはロバートの攻撃を素早く回避し、ビームソードを取り出して両手で構える。
その時の彼の眼差しは、いつになく冷静に見えた。
「俺は……、スティーブの仇を討つ!」
「負けてたまるかよォ!!」
二人の持つ剣の刃は、拮抗する。パワーで優れていたのはイアンの方であり、彼はロバートの乗るMk-Ⅱにキックをして、地上まで突き飛ばす。
「しまった! 隙が出来たか!」
「死ねェ!」
「少佐を死なせはしないぜ!」
その時、カイルが急接近し、ブーストカスタムの固有武装であるビームブレードを構えて、素早く斬りかかる。
「カイル! 助かった……」
“少佐、今です!”
ロバートはイアンの背面に回り、ビームキャノンを連射してイアンを戦闘不能になるまでに追い込んだ。
「何てことだ……。これ以上戦ったら身が持たんな……。仇は取れそうにない。許してくれスティーブ」
そして、イアンが撤収した後、残りの部隊もこの場から去らざるを得なくなった。
共和国軍は勝利したものの、第1前線基地の施設は一部破壊され、修復工事に当たらなければならなくなった。その一方で、第4前線基地には通信機器などが運び込まれて基地として再び機能するようになる。
「少佐、聞きました?」
「何だ? ヘレン」
「第4前線基地が復帰したそうです。私たちも近いうちに……」
「帰れるって訳か。楽しみだな。だが、俺達はまだ再スタートしただけに過ぎないからな。頑張ろうぜ」
「はい」
ヘレンは嬉しそうな顔でその場を後にした。
この果てしない戦いに、希望の光が差し込んだ。この光は、共和国軍を正しい方向へと導く事は出来るか。




