第29話 侵入者たちの逆襲
3月10日、ジュピトリア共和国軍は第4前線基地の再建作業を行っていたが、一方で光明も見えつつあった。それは、ガントレックの強化武装ユニットである。前回での戦いではフル活用出来ずに終わったが、第1前線基地にある戦闘データをベースに再調整したことで、性能を引き上げる事が出来た。
「バンさん、結構いい感じじゃない?」
「そうだな。この前はまともに戦わずじまいで終わったから、今度こそ本領発揮できそうだな」
バンとジャネットは整備ドッグの最下層フロアから見上げた。
そして二人は、機体データが表示されたデバイスの画面の方に目を移した。
「とりあえず……、この前作ったバグタイプのデータもこれに応用出来るな……」
「えぇ、そうですね。アタシ、これの完成形が見られるのが楽しみで」
「そうか。第四の武装ユニットはクアドラプルアームタイプ……、とでも名付けておこうか」
「四本腕なら、通常のメタルユニットには出来ない戦い方も出来ますしね」
ジャネットは薄っすらと笑みを浮かべ、興味深そうに俯く。
一方で、ドラギウス帝国軍は既にレイダー隊を筆頭とする機動部隊による作戦の計画がなされていた。
サロアは戦死したジャンの仇を討つべく、綿密な計画を練っていたのだ。
「今回の作戦でジャンの仇が取れたらいいですけどね……」
ミルドレッドは切なげな眼差しで俯く。
「取れたらいい? いや、必ず取るしかあるまい。憎き共和国軍を倒すのだ」
「はい」
二人が話す中、ロレントもその輪の中に入る。
「サロア中尉、自分も共和国の連中を何としても倒して見せようかと思います」
「ロレント、お前もそう思ってくれているのは嬉しいよ。これからもジャンの分まで戦い抜いて見せよう」
「はい」
三人は強く決断した。ジャンの仇を取る────────
この目標を達成するために。
その一方、戦力の2割を失った連合国軍は、戦力補填のために学徒出陣を行おうと試みていたが、一部の政治家たちからは強く反対されており、遥か昔の第二次世界大戦の二の足を踏みかねないといった意見が出ていたのだ。
「どうします、ライエル長官?」
オルテスはしっかりとライエルの事を見つめる。
「そうだな……。反対派はひとまず黙らせる必要がありそうだな……。といっても、そんなことをしたら政府側から何を言われるか……」
「現時点では、旧ベルム共和国派の方に反対派がいるようですが」
「うむ。しかし我が国はベルムとガルフィンの力が合わさってこそ成り立っている。自ら地獄に向かうようなものだな。ひとまず政府側には選挙や会議などを行い、その上で学徒出陣の可否を決めるか」
「分かりました」
二人はその後、政府上層部と話し合いを行う事にした。
これが上手くいくのか。それとも────────
そして、二日が経過した頃、ついに帝国軍の作戦は実行された。
サロア達が狙ったのは第1前線基地である。ここに第4前線基地の部隊が駐留しているという情報が判明し、標的となったのだ。
「さて、ミルドレッド、ロレント……。ついにこの時が来たぞ。第1前線基地にいるガルディスを撃墜するぞ! 何としてもなァ!!」
“了解!”
三人だけでなく、他の部隊もいつにないほど団結していた。
彼らは凄まじいスピードで接近していく。これを受け、共和国軍はこれに対抗すべく出撃することとなる。
ロバートはいち早く出撃し、それに少し遅れを取ってカイル達も敵に立ち向かった。
「ヘレンはキャノンカスタム、カイルはブーストカスタム、フランクはサーチカスタムだな。今回は各々の利点を用いた作戦を行おう。フランクは遠方から索敵をして、敵が近づいてきたらヘレンと俺で掃射、そしてカイルは遅れて合流する形で格闘戦で二段構えの戦法を取るという訳だ。そうと決まったら行くぞ!」
“了解!”
命令を出した直後、突如としてルーガンが通信を始める。
“ロバート少佐、我々の部隊は後方支援に回ります”
「そうか。助かるよ。じゃあ後ろは任せたぜ」
“はい”
こうして、プログレッサー隊を筆頭とする機動部隊はいち早く前衛を行い、後衛をルーガン達が担当するということになる。戦いの火蓋は、今切られたのだ。
フランクは遠方のエリアにて、大規模な機動部隊が進軍していることを察知。
この事はすぐさまロバート達に知れ渡った。
“少佐、任せましたよ”
「分かった。ヘレン、行くぞ!」
“了解”
二人は真っ先に立ち向かい、それに遅れてアタッカー隊も合流。これにより戦力は万全な状態となった。
「アモン大佐、対空攻撃は任せましたよ」
“オーケーだ。どんな敵だろうと不足は無いぜ”
アモンは、遠方からかすかに見える敵機動部隊を睨みつける。そして、射程距離内に入った瞬間、集中砲火は行われた。この凄まじい火力に、帝国軍は思わず怯みそうになる。
「ヤバいぜ……! このままじゃ機体の装甲が……、ウワァァァッ!!」
敵機はあまりの火力に耐えられず次々と爆発四散していく。
さらにそこへとカイルと他の部隊による格闘戦の二段構えとなり、隙は無くなる。まさしく帝国軍は四面楚歌となる。
「これで……、斬る!」
カイルは大剣を振りかざし、機体を真っ二つにした。さらに彼は、ビームクローを展開して他の敵機を薙ぎ払っていく。
「来い! 俺は何があろうと立ち竦んだりはしないぜ」
“カイル大尉、助かります”
「いいってことよ。このまま全滅させてやろうじゃないか」
すっかりと自信満々な表情で敵を撃墜していくカイル。しかしそこへと、サロア率いるレイダー隊が接近してくる。
「あれは、バドラスか!? ロバート少佐、気を付けてください」
“分かった。なるべく奴には注意しとかないとな”
ロバートは必死になって敵を撃ち落としていくが、レイダー隊は彼を無視し、ルーガン達のいる方へと向かう。
「ん? 俺を無視した?」
“何か裏がありそうですね……”
ヘレンは思わず訝しんだ。サロア達の不自然な行動に。
一方、サロアは後衛の戦闘部隊を急降下砲撃を使いこなしたうえで撃墜していき、共和国軍を苦しめていく。
「喰らえェッ!」
「脱出が間に合わない……、ウワァァッ!!」
サロアはビームキャノンから火柱のような光線を放ち、敵機を次々にスクラップにしていった。
目覚ましい活躍をしていたのは彼だけではなく、ミルドレッドやロレントも挟撃することによって確実に敵を仕留めていたのだ。しかしそこへと待ったをかける者がいた。
「ルーガン隊長、急ぎましょう!」
“分かった、エリナ!”
ストライカー隊は、レイダー隊の勢いを食い止めるべく、立ち向かったのだ。しかし、サロア達には今までとは明らかに違っている所があった。それは、ジャンの仇討ちが目標にある事だ。
「ロレント、ガルディスを狙い撃て! ミルドレッドは浮遊機雷を用意して奴らを一網打尽にしてやるんだ!」
“了解です”
こうして、レイダー隊の猛攻は鳴りを潜めるどころか激化していく一方であった。
「落ちろ! 何としても奴を……、奴を倒す!」
サロアは、バドラスを戦闘機形態に変形させ、急速にルーガンのいる方へと接近していく。
「ガルディスめ……」
“コイツを挟み撃ちにしましょう!”
「オーケーだ。さぁ、死ぬが良い!」
しかし、ミルドレッドは後方から被弾する。
「ウワァッ! 何者だ?」
「隊長の邪魔はさせませんよ……、リオ、エリナ、行くぞ」
“分かったわ”
“隊長の援護って訳ね”
その光線を放ったのはクローティス達三人であった。彼らは高速移動しながら、あっという間にミルドレッドだけでなく、ロレントをも取り囲んだ。
「しまった! だが、このまま食い下がるわけにはいかないんだ! 浮遊機雷を使うか……」
ミルドレッドは電磁波を用いて浮遊機雷を誘導し始め、そして爆発まで秒読みの状態にした。
「浮遊機雷か……。破壊しなくては」
ルーガン達はすぐさま遠方から来る浮遊機雷を破壊していく。
しかし、その隙にサロアが接近してくる。
「ガルディスは破壊してやる! 道連れにしてでもなァ!」
「ま、まずい……」
「まずは右腕を引きちぎってやる!」
「隊長が危ない! 早く対処しないと……」
サロアはバドラスの出力をフルにして、ガルディスの右腕を引きちぎった。
そして、さらにトドメを刺そうとしたその時であった。彼らが現れたのは。
「まずいな……。もっと早く来ていれば……」
前衛での敵の対処を終えたプログレッサー隊の四人が合流したのだ。
ロバートはこの様子を見かねて、ビームキャノンで攻撃を仕掛けた。
「喰らえッ!」
電光石火の勢いで光線は放たれ、サロアは機体の一部に損傷を負う。
そして、この隙を狙ってルーガンは抜け出し、サロアに集中砲火を浴びせる。
「よし、ヘレン、カイル、フランク、集中砲火だ!」
“了解!”
四人はルーガン達と集中砲火を浴びせるも、回避されてしまう。
ここでサロアは、ロレントとミルドレッドと共に一斉掃射を行ったのだ。
これにはロバート達も思わず立ち竦みそうになる。
「カイル、聞こえるか?」
“えぇ、大丈夫です”
「今から俺と二人でグライズを撃墜するぞ」
“分かりました。少佐がそう言うなら……”
そして、二人は機銃を構えてロレントの機体に攻撃を仕掛ける。
守りを疎かにしていたせいか、ロレントは何発か被弾した。
「くそッ……、コンディションイエローと来たか。でも負けるわけには……」
ここで彼は、たまたま装備していたジャミング弾をセットし、ロバート達を攪乱する。
「これで少しは時間稼ぎになってくれれば……」
「まずい……。レーダーが使い物にならなくなった……。カイル、ヘレン達に攻撃を頼んでみよう。あいつらはジャミング弾の被害を被ってないはずだ」
“分かりました。やってみましょう”
「よし、行くか」
そして、カイルはどうにか動きつつ接近攻撃を仕掛けていく。
しかし、簡単に攻撃が当たるはずもなく、二人は苦戦する一方。
そう思われたが、ヘレン達が真っ先にこの状況を把握していたこともあり、ロレントはシールドを破壊された。これには流石のロレントも錯乱し、撤収を余儀なくされた。
一方、ルーガンは部下三人のアシストを受けながら、どうにか戦える状況にあった。
サロアとミルドレッドはひたすら機銃を撃ち続けたが、とうとう弾切れの時が来た。
ここで彼らは接近戦を強いられることとなる。
「ミルドレッド、ロレントがこの場から去った今……、どうするか?」
“ここは挟撃で行きましょう。我々の得意技を生かすんですよ”
「そうと決まれば……、行くか」
そして二人が始めに目を付けたのはリオの機体であった。
彼女はこれに動揺し、しっかりとした手つきで操縦桿を握り締めた。
「まずいわ……。このままじゃやられてしまうわ。でも……」
リオはすぐさまビームライフルを構え、囲まれないように上手く上空へ抜け出し、ミルドレッドの頭上から光線を数発撃つ。
「くっ、だがこれくらいの事は想定内。俺が撃墜して見せる!」
“サロア中尉……”
サロアはビームクローを展開し、リオのいる空中へ向かって斬りかかる。
「これでお前も終わりだァァッ!」
しかし、そこに割って入ったのがルーガンであった。
「部下を殺させはしないぞ……。俺は絶対に許さない……、バドラスをな!」
「馬鹿め! 右腕が無い状態で互角に戦えるとでも?」
「俺には……、仲間がいる! かけがえのない三人の仲間がな!」
ルーガンは戦闘機形態に変形し、光線を放っていく。
次第にサロアもこの状況に耐えられず、全身が震える。
「何だ、このプレッシャーは……」
「俺は、負けたくない! この戦場で勝利を掴み取る!」
そして、そのままルーガンはビームキャノンでバドラスの両腕を破壊することに成功した。
これにはサロアも驚嘆した。
「ミルドレッド、仇は取れそうにないな……。また今度にお預けだ」
“そんな……”
「今はこれ以上戦うと悪化する一方だ。ひとまず引き上げるぞ」
“はい……”
こうして二人が撤収して間もなく、帝国軍機動部隊は完全撤収した。
今回もどうにか共和国軍は勝利を掴むことが出来たのだ。
戦いが終わり、ルーガンはロバートにとある相談をしていた。
「少佐、自分が情けなくて……」
「仕方ないさ。今回ばかりはどうしようもない状況下にあったんだ。お前はストライカー隊のリーダーだろ? もうあまりくよくよしない方が良いぞ」
「はい……」
「過ぎてしまった事はしょうがない。次に生かすんだよ。さっきの戦いでの失敗をな」
「分かりました。今回勝てたのも少佐のおかげです。また、頑張ってみます」
「そうか。ベストを尽くせよ」
「はい」
ルーガンは自信を取り戻しつつあった。
彼は自力で困難と言うの名の壁を乗り越える事が出来るのか。




