第28話 荒れ果てた基地
2月15日、ジュピトリア共和国軍は第4前線基地の復旧作業を急いでいた。
その中で、この基地に所属していた兵士達の中にはその様子を見て、自分たちも手伝えたらと思い、作業に協力する者も現れる。その中にはロバート達もおり、皆必死であったのだ。
「ロバート少佐、この瓦礫から何か光っているものがあるようです」
作業用MUを操縦しながら、フランクはロバートと通信を行う。
“何だろうな。ちょっと見せてくれ”
「メインカメラに映っている映像を拡大します」
そこに映っていたのは、ロバートが子供時代から大事に持っていた銀色のフォトフレームであった。
何故かは分からないが、少し汚れているだけで奇跡的にこの思い出の品は無事だったようだ。
“これは、父さんから貰ったフォトフレームか? これだけでも持ち帰りたいところだが、放射能で汚染されているかもしれないな……”
「でも、思い出の品が見つかって良かったじゃないですか」
“見つかったのは良いが、これは捨てないとな……。何しろ有害な物質を含んでいるんだったら仕方が無い……。これと別れるのは辛いが”
ロバートは悲し気な表情でそのフォトフレームを廃棄せざるを得なくなった。
一方、カイルとヘレンはロバート達とは離れた所で瓦礫の撤去作業を行っていた。
そこにはストライカー隊の四人も居合わせており、彼らもショックから立ち直れずにいる。
「カイル大尉、トーラス司令官の話は聞きましたか?」
“あぁ、知ってるさ。司令官はどうやら今回の件もあって辞任するらしいが……”
「でも、未曽有の敵が現れたんじゃ、仕方が無かったとしか言えませんよね」
“元はと言えば、帝国の連中がこんなもんをぶつけてきたのがいけないんだ!
俺たちの基地をここまで潰すなんてよォ”
カイルはやや怒りの混じった声で話す。
「ルーガン隊長、悔しいですね……」
クローティスは作業用ガントレックに乗った状態で、ルーガンと通信を行っていた。
“あぁ、悔しいもなんも、こんな事になるなんて予想もつかなかった……。幸い人的被害は無かったようだが、こんな酷いことがあっていいのかよ……。俺たちの住処みたいな存在をこうも簡単に潰すなんて”
彼らはその後、数時間瓦礫撤去作業を行い、無人機が到着してからその場を去る。
そして一方、ファルスト連合国軍側は帝国軍が行った行為に驚きを隠せずにいた。
この青天の霹靂は、軍だけでなく国民にもショックを与えている。
「ライエル長官、今回の事件で我が軍の兵士が百人以上死亡しているようですね」
「あぁ、こればかりはどうしようも無かったとはいえ、ここまでの事になるとはな……」
ライエルは顔色が悪く、頭を抱えていた。
「長官、今後はどう致します?」
「帝国軍を壊滅させるために、対策を練るとしよう……。とは言うものの、すぐには実行出来るだろうか……」
「新型機の開発を急いだ方がいいのでは?」
「そうだろうな。まずは新たなメタルユニットを開発しなくてはな」
ライエルは眉をひそめつつも、部下のオルテスと共に今後の対応を考えていく。
そして、彼らが言っていた新型メタルユニットは今、開発の真っ只中である。
果たして、彼らの策略が上手くいくのか。それとも────────
その翌日、共和国軍長官のロジオンは第4前線基地に配属されていた全ての兵士達を第1前線基地に迎え入れる。彼らを見る他の兵士の中には、侮蔑の眼差しで見るものもいれば、同情する者もいた。
「何だよあいつら。自分たちの基地も守れなかったくせにのうのうと……」
「おい、よせよ。あいつらだってわざと守らなかった訳じゃないんだし」
その様子を見て、ルーガンは溜息を吐く。
「全く呆れた奴らだよ。俺達は仕方なくあの場所を離れざるを得なかったというのに……」
「気にすること無いですよ。あの人たちは理由を知らないで文句を言っているのですから」
エリナは即座に彼をなだめる。彼女もどこか悲し気な表情をしていたものの、どうにか感情を抑えようとしていた。
「それは分かっているさ。でも、ここまで心無い言葉を浴びせるだなんて」
「今は我慢するのが正解だと思いますよ」
クローティスは冷静な面持ちであった。
「そうだな……。今はそれしかないか……」
「自分も昔は我慢してばかりでしたから。嫌なことがあっても、仕方が無いと受け止めていたんでね。子供の頃に同じクラスの嫌な奴に花瓶を割った事をなすりつけられた時も、これは仕方ないと思って……。まぁ、後日にその事はばれてそいつは先生に叱られていましたけどね」
「ふぅん、そんな事があったんだな。それにしてもその時は災難だったな」
「いえ。こういうのは慣れてるんで。いっつも汚れ仕事をするのは、俺なんですよ」
軽く俯いているクローティス。そんな彼を見て、ルーガンは気の毒に思う。
「クローティスって昔はこんな事してたの? 知らなかったわ」
「そうさ。でも、本当に昔の事だから今はあんま覚えてないけどな」
リオの眼を見て、クローティスはすっかりすまし顔であった。
「おい、ロジオン長官が話を始めるようだぞ。静粛にな」
「はい……」
ルーガンに注意され、思わず焦る三人。
その後、ロジオンによる演説が始まる。
「第4前線基地配属だった諸君らは、住処を失い混迷していることだろう。だが、これは受け入れざるを得ない事実だ。今後は基地再建までここで生活をすることになる。新たな環境で馴染めるよう、暫しの間は頑張ってくれ。そして私が今、諸君らに何もできないという事は、本当に申し訳無い……」
ロジオンはその後、ほんの僅かの間沈黙する。
「今、我々に出来るのは基地の再建を急ぐ事……、そして帝国軍や連合国軍に勝つために努力を惜しまない事。といっても、このような状況下ではそれすらも厳しいだろうが、何としても今の悔しさを糧にして敵軍に打ち勝つのだ。まだ我々が負けたという訳ではない。戦いは今が正念場だ」
それを聞き、兵士達は心の中で士気を高める。
「だからこそ、今はこの国家間戦争を戦い抜くべく力を身に着けていくのだ。君達には期待しているぞ。そして、二度とこのような事態が起きないように努力を積み重ね、敵軍に打ち勝とう。私もそのために尽力する」
そして、ここにいた全兵士はロジオンに対し敬礼する。
その後、短い演説は終わり兵士達は各々の場所へと戻った。
演説終了後、ロバート達はアモンと会って今後どうするか話し合った。
「ロバート、今回こそ連絡するのが早かったから全員助かったが、次も上手くいくとは限らんぞ……」
「確かにそうですね。このままじっとしてはいられませんからね」
ロバートは、思わずその場で少し考え込む。
このまま静観するより何かいい策は無いかと。
だが、今は基地の再建も両立しなくてはならないため、尚更困難を極めた。
「ロバート少佐、どうします……?」
「今すぐに考えるにしても、難しいな。でも、この修羅場を乗り越えれば……、きっと勝てる」
「ですが……」
ヘレンは思わず言葉を途切れさせる。彼女もなかなか考えがまとまらずにいた。
「アモン大佐、今はじっくりと考えさせてください。明日また会った時までには必ず……」
「分かった。無理するなよ」
「はい」
そして、アモンはその場を離れた。
ロバートはその後シャワーを浴びてから寝る支度をしようとしていた。
そんな中、カイルとフランクが彼の部屋を訪ねる。
「ロバート少佐、失礼します」
「カイル、フランク、どうしたんだ?」
「自分にいい考えがありまして……、まぁ、あくまで装備面のみでの話なんですが」
カイルはいつになく真剣な表情で話す。
「あぁ、武装パックの話か。というか、あの武装パックの設計図は……」
「安心して下さい。設計データは肌身離さず持っていたので……、こちらのデータチップにあります」
「そうだったのか。それなら安心だな」
「そもそも、技術班が設計データを保管していたのを後から知ったんで、無駄足でしたけどね……」
少し口元が綻ぶカイル。彼は一応バンさんやジャネットからこの話を既に聞いていたのだ。
「フランクは何の用で来たんだ?」
「自分は次回の作戦で使いたい装備がありまして……。この第1前線基地で保管されている、ガントレックと連携させて動かせる索敵用戦闘システムです。これはここの前線基地の技術班が開発していたものらしくて、どうにかこれを生かせないものかと……」
フランクは腕を組みながら考える。
「そうか。それについてはさっきバンさんから聞いたんだよ。明日使用許可を出してくれないか頼もうと思ってたんだよ」
「えっ、知ってたんですか?」
「もちろん。戦略とは三手先を読まないとな。部下にその点で負けるようじゃ駄目だろ?」
「なるほど……」
それを聞き、フランクは軽く頷いた。
この戦争の中、こういったスキルは少なくとも隊長であるロバートが身に付けなくてはならない。
「じゃあ、フランク。そろそろ帰るか」
「そうですね、カイル大尉。ではまた明日会いましょう。」
「ゆっくり休めよ」
ロバートは部下たちをしっかりと労った。
一方、帝国軍はこの前の作戦の成功を受け、ギガンデスをさらに開発していく事にしていたが、一方で、反核派の国民たちからはバッシングもあったため、バルマーン長官はどうすべきか迷っていた。
「それにしても、このままでは我が国の核兵器反対派からいつ火が飛んでくるかは分からんが、仕方あるまい。勝つためにはこれほどのことをせねばならなかったのだ」
「そうとはいえど、反核派はメディアでも表立って活動を活発化させておりますからね……」
「そのような反乱分子は粛清するしかあるまい。我が国の皇帝陛下も、ギガンデスの使用を自ら認められた……。つまりこのような反乱行為は死に値する……」
その時のバルマーンは、ニヤリと奇怪な笑みを浮かべていた。
彼は最早、慈悲の心など持ち合わせていなかったのだ。
今後、帝国軍はさらにどういった行動をとるのかは誰も予測できるはずがない。
そして翌日、共和国軍は再び瓦礫撤去作業に明け暮れていた。
基地再建工事の開始までにはすぐさま放射能を含んだ物質は破棄しなくてはならないため、共和国軍の兵士達を総動員させた作業となっていたのだ。
いつ戦闘が起こってもおかしくはないこの状況下────────
緊迫した空気が漂う中、彼らはひたすら瓦礫を退けていく。
「それにしても、この作業は無人機も総動員しているというのに、なかなか終わらないな……」
“まだ始まったばっかりですから……。司令官もこの作業はどんなに早くとも二週間以上はかかるといっていましたからね”
「確かにそう言っていたとはいえど、辛いよな……。俺たちの住処を自分たちで撤去するのは」
その言葉を聞き、ヘレンは思わず言葉を失いかける。
“ハァ……、そうですよね。こんな仕打ちをせた帝国軍が許せないです……”
「ひとまずこの調子だと予定よりはかかる……、かもな」
“もし作業の真っ只中に敵が来たら……”
「全滅だな」
ヘレンは息を呑んだ。このままではいけないと思い、作業のスピードを速めた。
作業時間が終わり、休憩に入った所で、カイルはジャネットやバンと会う。
二人はこっちへ来て欲しそうに見えた。
「バンさん、それにジャネットまで……」
「カイル、いい物があるんだ。ちょっと来てくれ」
「はい」
カイルは二人と共に整備ドッグへ向かう。
するとそこには、見慣れた作業用ガントレックとは違った機体がそびえ立っていた。
「これは……」
「アタシ達が造ったのさ! 操縦は慣れれば簡単にできるわ。あと、今開発中の戦闘用バックパックユニットもあるけど、今は見せられるほどの出来じゃないから……」
「ジャネット……、すげえな」
「俺が主導だったんだがな」
「あっ、バンさん、すみません……」
カイルはバンに申し訳なさそうな顔を見せる。
「まぁいいってことよ。とりあえずこれは、量産化する予定だ。名付けて“ガントレック・バグタイプ”だ。ほら、腕が虫みたいに数が多いからよ。それでバグタイプって訳だ」
「なるほど。それは良いですね」
「アタシ達もこれから力になるから、どんどん頼ってよ!」
ジャネットは笑顔でカイルに対しサムズアップをして見せた。
「助かります……。これからもよろしくお願いします」
「あぁ、よろしくな!」
「アタシも忘れないでよね」
三人はその後、それぞれの持ち場へと戻っていった。
災禍が起こった後ではあるものの、その中で希望の光が僅かに差し込んでいた。
果たして彼らは、勝利と言う希望を掴み取ることは出来るか。




