第26話 スティーブの提案
1月18日、ジュピトリア共和国軍長官のロジオンは、自軍の量産型MUであるガントレックの強化プランについて全兵士に知らせた。そのプランにはカイルも関わっており、腕利きの技術者をこれでもかと言うほど集結させて計画されていたのだ。
「カイルが少し前に言っていたのはこれの事だったのか。それにしても大したものだな」
ロバートはカイルの技術者としての実力に感心している様子である。
「いやぁ、大したことありませんよ……。俺なんてちょっと手伝ったぐらいですから……」
「どの辺を手伝ったんだ?」
「武装の基本システムの詳細設計の図面をコンピュータで書き起こしましたね」
それを聞き、カイルがここまでの実力の持ち主であったことに尚更驚嘆していた。
「だが、この強化プランが上手くいくかどうか……。それが問題だな」
「三種類の強化ユニットがあるみたいですが……」
今回のガントレックの強化プランでは、高機動・接近戦型のブーストカスタム、砲撃戦・支援型のキャノンカスタム、電子戦・索敵用のサーチカスタムの三つが用意されている。今後これを量産化することに成功すれば、共和国軍は戦争終結への第一歩をいち早く歩めるとのことで、計画が進められていたのだ。
「そうだな。とりあえず俺はこのブーストカスタムにしたいと思ってるが、フランクとヘレンはどうする?」
カイルは二人の意見に耳を傾けようとする。
「自分はキャノンカスタム辺りが向いているかと」
「私はサーチカスタムが合っていると思うので……」
「そうか。もし変わったら教えてくれよ」
「はい」
その後、ロバートはカイル達と共に休憩室へと向かった。
ロバート達は休憩室で飲料を買い、そこで飲みつつ話をする。
「少佐、この前の戦闘データはまとめ終わりました」
「そうか、いつもわざわざ申し訳ないな……」
「これは私の仕事ですから。お気遣いいただきありがとうございます」
にこやかな表情で佇むヘレン。彼女は大好きな紅茶を飲んでいたという事もあってか、尚更上機嫌であった。
「ヘレン、ご機嫌そうだな」
「えぇ、昨日は予定よりも早く仕事を終える事が出来たので、その余った時間で好きなことが出来たんです」
「そうなのか。読書でもしてたのか?」
「まぁ、そんなところですね」
それを聞き、ロバートも部下に余裕があることを知り、安堵する。
「フランク、最近はどうだ? 悩みは無いか?」
「はい、最近は自分が守るべきものを守れているのかどうか不安で……」
「そうか。でも大丈夫さ。今もこうして四人全員元気にやれているんだから。守り合うことは出来ていると思うぞ」
「俺も今は心配する必要はないと思うぜ。これから状況が変わってきたら話は別だけどな」
どこか気楽そうな表情を見せるカイル。彼は一仕事終えた直後という事もあってか、すっかり元気である。
「ロバート少佐、カイル大尉、そのように言っていただけると嬉しいです。これからも頑張っていこうかと思います」
「まぁ、深く考え過ぎるなよ。また悩みがあったら言ってくれよ」
「はい」
フランクは一安心し、缶コーヒーを口にする。
その後、四人はしばらく話してからまた個人の部屋に戻っていった。
一方で、連合国軍のバスター隊の面々は二日後の作戦に向けて着々と準備を行っていた。
その最中、スティーブはイアンにとあることを話しかけた。
「あの、今回の作戦では私がイアン少佐の囮になって戦おうと思うのですが……」
「おい、いきなり何故そんな事を言うんだ?」
イアンは突然の発言に少々戸惑っている。
「今まで共和国軍のロードブレイダーMk-Ⅱと何度も戦ってきたのに、一度も勝てないままじゃ居ても立っても居られないからですよ。ここまでしなければ我々は勝てないと思ったんです。ですから、私にやらせてください」
「とはいえど、危険を伴う行為だ。余程の覚悟を持っていなければ出来んぞ」
「分かっています。自分は少佐に勝ってもらいたいのです」
この事を聞いて、イアンの脳内に迷いが生じる。
「イアン少佐、これほどスティーブが懇願しているようですから任せてみては?」
「このスティーブの話、俺も乗ってみようかな」
ベティとアッシュは彼の意見に対し、肯定的であった。
それを聞き、イアンはスティーブの提案を受け入れる。
「分かった、やれる限りの事はやれ。お前の強い意志、確かに受け取ったぞ」
「ありがとうございます。何としてもお守りして見せます」
スティーブの意思の強さが、イアンの心を動かした。
これが吉と出るか、凶と出るか────────
それから二日後、連合国軍戦闘部隊は共和国軍第4前線基地を襲撃することとなった。
起床時間から間もない時の出来事であったゆえに、兵士達は困惑するも、どうにか対処しようとする。
ロバート達は機体に乗り込んでから、即座に作戦を考える事にした。
「今回の作戦では、一斉掃射を行う。それで効果が得られなかった場合は挟撃で敵を確実に仕留めよう。
挟撃は俺とフランク、カイルとヘレンに分かれて行うことにするぞ。いいか?」
“承知しました、ロバート少佐”
「よし、そうと決まれば行くぞ!」
“はい”
こうして、僅かな時間で作戦を立てたロバート達はすぐさま出撃。
しかしながら、今回の戦闘においては予断を許さない状況下であり、両軍の間に緊迫した空気が張り詰める。その中で、連合国軍のバスター隊はそれぞれの配置に着く。
「アッシュ、スティーブ、今回のお前たちの役目は囮になって俺たちの方へ敵機を引き寄せる事だ。Mk-Ⅱは必ず撃墜して見せなくてはな……」
“分かっております。自分の力を過信しない程度に頑張ります”
「頼んだぞ」
“スティーブ、とりあえず俺が接近戦をやるから、お前は遠距離から攻めろよ”
“分かりました”
「ベティ、お前は俺と他の部隊と共に遠方から攻撃を仕掛ける。いいな?」
“はい、承知しました”
ついに、作戦は動き出す────────
疾風怒濤の勢いで先制攻撃を仕掛けたのは共和国軍側であった。
凄まじい火力で上手く牽制し、最前線の敵機を撃退していく。
「アモン大佐、今回は失敗できませんね」
“そうだな、エストル。だからこそ、攻撃の手は休めてはならんぞ”
「はい!」
アモン率いるアタッカー隊は、地上を滑走しながらビームバズーカを乱れ撃つ。
「何て火力……! ウワァァッ!」
この圧倒的な火力によって、連合国軍戦闘部隊は一瞬でねじ伏せられるかと思われていた。
その時である。一筋の流星のような光線が何処から放たれ、その攻撃はアモンの部下の機体に直撃。
「大佐ァァァッ!!」
“アルマン! よくもやってくれたな……。マギー、索敵を頼む”
「分かりました。どうやら今の攻撃を放った敵は遠方十一時の方向にいるようです」
“よし、直ちにそこへと向かうぞ”
一方、ロバート達はアモン達よりいち早くバスター隊と交戦状態にあった。
無数の光線が飛び交う中、ロバートはイアンに早速攻撃を仕掛けようとする。
「よし、ターゲットをガルドールに絞るとするか」
そこでアッシュとスティーブが目を鋭くしてビジョン越しにロバートの機体を睨んだ。
“来たな! スティーブ、出番だ”
「了解! 行こうぜ、スティーブ」
“はい”
彼らはロバートを妨害し始めた。
アッシュは接近戦に挑み、スティーブはロバートの隙を突くかのように遠距離攻撃を仕掛けていく。
「落ちな、Mk-Ⅱ!」
果敢に攻めていくアッシュ。彼の攻撃は激しく、ロバートですら手こずるほどである。
だが、ロバートは諦めてなどいなかった。このような状況になっても何度も何度も乗り越えてきたことから、自信があったのだ。
「やられてたまるかよ……。こんな所で!」
ロバートは即座にショルダーミサイルを発射した。
この攻撃を不覚にもアッシュは喰らうが、まだ食い下がらない。
「何としてもイアン少佐の方へと引きずり込んでやる!」
どうにかしてアッシュはイアンのいる方へとロバートを引きずり込もうと試みる。
そして二人は戦い合う中、どうにかイアンの射程圏内へと近づけた。
「来たな、Mk-Ⅱ! ぶちのめしてくれるッ!」
イアンはすぐさま切り返すものの、ロバートの攻撃は素早く、かなり手強い。
彼はどうにかロバートに勝ちたという一心で戦い続けた。
「これ以上俺の邪魔をするな! 撃ち殺してやる!」
ガルドールの腕に搭載されたビームキャノン砲が、ロバートに目掛けて火を噴く。
この攻撃により、ロバートは機体肩部を損傷する。
だが、まだロバートは反撃を続けた。
「このォッ!」
“イアン少佐ァ! 下がってください”
スティーブはすぐさまイアンを庇い、彼の代わりに犠牲となった。
“スティーブ!”
「しょ、少佐……。役目は果たしました……。さようなら……」
“早く脱出しろ、スティーブ!!”
その後、スティーブの機体は爆発四散した。
彼は自分自身の機体と運命を共にしたのだ。
「そんな……。嘘よ」
ベティもまた、イアンと同じように絶句していた。
突然の死に驚きを隠せず、体がかすかに震える。
そして、ベティは反撃に出た。
「よくもやってくれたわね! このッ!」
怒りの混じった涙を流しながら、ベティはビームライフルを撃つ。
彼女は感情に身を任せていたため、冷静な判断が出来ないほどに錯乱していた。
“ベティ、下がれ! お前もスティーブと同じ目に遭うぞ!”
イアンはすぐさまベティを止める。
そんな彼の静止を振り切って、彼女は再び攻撃を仕掛ける。
「落ちなさい!」
「なんだ……、この感覚……。この機体のパイロットの怒りが聞こえてくるようだ……」
ロバートにはベティの激しい怒りがかすかに伝わっていた。
お互いの顔が見えていないのにも関わらず、このような現象が起きるのは初めてであり、ロバートは体が硬直しそうになる。
「これ以上……、仲間を殺されてたまるものですか!」
「でも、俺は負けたりなんか……、負けたりなんかしない!!」
ロバートはすぐさまベティの機体右腕部を切断し、撤収にまで追い込んだ。
“全員撤収だ! 今はこれ以上戦っても奴には勝てん!”
「了解です……」
ベティがこの場を去ってから、イアンとアッシュも戦地から姿を消す。
その後、連合国軍は完全撤退し、今回も共和国軍の勝利に終わった。
戦いが終わり、ロバートはアモンと今回起こった出来事について話した。
「実は今日の戦いで、レーダーを使ってもいないのに敵のパイロットの感情が脳内に伝わったんですよ……。これって何かの予兆なんでしょうか」
「そう言われてもな……。だが、もしかしたらこれはお前の第六感が働いたのかもしれないぞ」
「第六感というと、五感のその先にある感覚の事ですね」
「そうだ。もしかしたらお前はいずれ、エスパーのような存在になるかもな。まぁ、これは冗談だがな。気にすることは無い」
ロバートはアモンと話し終えた後も、得体の知れぬしがらみが心の中にこびりついていた。
一方、ドラギウス帝国軍はついに決戦兵器ギガンデスを完成させ、軍内で全兵士達にギガンデスの全容を伝えた。
「我が帝国軍の兵士達よ。ついに我が軍の切り札となるギガンデスが完成した。ギガンデスとは、大量殺戮を目的とした核兵器だ」
それを聞いた兵士達は思わずざわめいた。
「なんだって? 核兵器はずっと昔に禁止条約が結ばれたはずじゃ……」
「静粛に。今回何故このような兵器を開発したか。理由は一つ。共和国軍および連合国軍の殲滅が目的だ。そこまでするには、禁じられた核兵器の使用しか術が無かったのだ。これを批判するものもいるかと思うが、今回ばかりは仕方が無いのだ」
バルマーンは、どこか野心に満ちた表情をしつつ自身の部下である兵士達を説得した。
このギガンデスが、今後の戦争においてどのような役割を果たすのか。まだそれは誰にも分からない。




