第25話 地球より来たる者
年は明け、2515年1月12日の事────────
地球のとある企業が、木星のジュピトリア共和国軍基地に訪問した。
そこで、ロバート達は思いがけない人物と遭遇する。
「ここが木星か……。それにしても重力が地球よりもキツイと聞いたが、反重力発生装置のお陰で結構身軽に動けるな」
「竜崎チーフ、今回はこの軍に新型回路の提供をする訳ですが……」
「まぁ、俺たちの自信作だからきっと受け入れてくれるさ」
そこにいたのは、かつて第三次世界大戦時にブレイダー隊のリーダーとして地球に平和を導いた英雄、竜崎亮であった。彼は現在、第7開発部門のチーフとしてメガテック社で働いている。彼の顔を見てたまたま周りにいた兵士達はざわめく。
「あれ、竜崎亮さんじゃないか? 昔新聞記事で見たことあるぞ……」
「あの方が、今はメガテックの社員だったとは……。知らなかったな」
亮は大型のトランクを持った状態で兵士達の様子を覗いつつ、整備ドックへと向かった。
「おお、かなり大規模な整備ドックだな。あっ、そちらにいる整備士の方、これをロードブレイダーMk-Ⅱのパイロットに渡したいんですが……」
亮が声をかけたのはバンであった。彼は亮を見て一瞬目を丸くして驚くが、冷静に対応する。
「あぁ、ロバートの事ですか。彼なら今はトレーニングルームに居るから暫く待っていてください」
「了解です」
それから十数分後、ロバートが整備ドックに来た。
「貴方は……、第三次大戦の英雄の竜崎亮さんじゃないですか……」
「君がロバート君だね。俺の事を知っているのか?」
「はい、士官学校時代にも亮さんの事について触れていた教官がいたので……。というか、それ以前にも幼い時に大戦時のニュースで見てましたよ」
ロバートは目を輝かせながら話す。その様子に亮は微笑む。
「そんなに俺を尊敬してくれているのか……。でも今はもう、あの時の勘は鈍っちまってな」
「それでも、自分にとっては亮さんは憧れの存在なんです。あっ、話を本題を戻しますが……」
「何故俺が君を呼んだか。それは君にこれを使って欲しくてな」
その場で亮はトランクケースを開けて、中に入っている新型回路を見せた。
「これは……」
「俺が指揮する開発チームで作った新型回路“BG-25-C”だ。これは君の駆るロードブレイダーMk-Ⅱの性能を大幅に強化する働きを持っている。特に、出力面においては多大な効果を発揮するだろう」
亮は自信に満ちた表情でこれをロバートに渡した。その回路は厳重に梱包されており、ロバートは慎重に取り扱った。
「この回路を取り付ければ、今までよりも戦いやすくなるはずだ」
「はい、分かりました」
「それと、俺達はこの回路を渡すためだけに来たわけじゃないんだ。今回はジュピトリア共和国軍の技術開発スタッフと合同会議をする予定でな……。おっと、そろそろ時間だ。じゃあな」
その後、ロバートはバンに手伝って貰ったうえでその新型回路を自らの機体に取り付けた。
そして、その日の夜に合同会議は行われた。だが、会議開始から数分後の事、帝国軍の機動部隊が接近しているという情報が入り、急遽会議は中断となり、共和国軍の兵士達は戦いに出向いた。
「ロバート少佐、亮さんと会ったそうですが……」
カイルは戦闘準備をする中ロバートに話しかける。
「あぁ、貴重な時間だったよ。だが、詳しい話はあとで話そう」
「分かりました……」
その後、プログレッサー隊は出撃し、前線の方で戦う事となった。
「これで準備完了です。大型粒子砲で一斉掃射を仕掛けましょう」
“分かった、フランク。上手くいくといいんだが……”
そして、手始めにプログレッサー隊は圧倒的な火力で敵軍の空戦部隊を迎撃。
この攻撃で帝国軍機動部隊は足止めを喰らい、次々に撃墜されていく。
「何て火力……。どうにか持ちこたえるんだ!」
“無茶です……、ウワァァッ!!”
帝国軍も負けじとビームバズーカで応戦。それから間もなくして、共和国軍側はアタッカー隊が合流し戦力はより驚異的なものとなる。
「アモン大佐!」
“ロバート、ここは俺たちに任せろ。お前たちはさらに前方の方に向かった方が良いぞ”
「了解です」
ロバート達は共和国軍基地より北の方へと向かい、空戦部隊を相手に激しい電撃戦を繰り広げる。
「さぁ、来いッ!」
敵兵士達は凄まじい量の光線を浴びせていく。
「カイル、フランク、ヘレン、このまま高速移動で敵を翻弄してやろうじゃないか」
“了解!”
四人は空中を素早く舞いながら、機銃を撃つ。電光石火の勢いで敵部隊を撃破していくが、一向に敵の勢いは留まる事を知らない。
「どれだけ敵がいるんだ? 一向に減らないぞ」
“もしかしたら……、敵の作戦なのでは? 今ここで戦っている敵機はどれも無人機のようですし……。恐らく本隊が別にいるはずです”
「本当か? ヘレン」
“あくまで私の推測ですが……”
ヘレンは心配そうな表情であった。
彼女は自分たちがはめられているのではないかという思考を頭の中に巡らせる。
一方、アタッカー隊はストライカー隊と共に空中と陸上の二段構えで攻撃を繰り出していく。
帝国軍はその中でついに動き出す。
「サロア中尉、そろそろ行きましょう!」
“そうだな”
何と、レイダー隊を筆頭とする敵機動部隊が大型ミサイルを発射したのだ。
これにより、基地の一部が破壊され、もう予断は許されない状態となる。
「まずいぞ、エストル、ラディム! 早くあの敵部隊を撃墜するぞ!」
“分かりました、アモン大佐”
こうして、彼らはより前方に出て攻撃を仕掛ける事となった。
しかしながら、帝国軍はひたすら攻撃を続けていき、最早勝ち目は無い────────
そう思われていた。
「ん? このレーダーに映っているのは……、ロバート達か!」
アモンはロバートに対し、すぐさま自分たちに加勢するように指示を行った。
「さぁて、行きましょうぜ、ロバート少佐!」
“おう! このまま一斉掃射をしてどうにか片付けられるといいんだがな……”
ロバートは緊張しつつも、敵機をじっと睨みつけた上で攻撃する。
「これで決められるといいんだが……」
この攻撃で敵機を何機か撃墜することに成功するが、まだ安心してはいられない。
数多くの敵が鬱陶しく飛び回る中、ロバート達はその敵機を対処しようと試みる。
「早く! なるべく早く動くんだ!」
“はい! 分かりました”
ロバートが必死に指示を行うものの、やはりこの状況を打破することは出来ずにいる。
それでも負けじと戦い抜こうとするのは、ロバートに底知れぬ意地があるからだろう。
「落ちな!」
「させるものですかッ!」
ヘレンは自ら機銃から光線を放ち、敵機を撃墜した。
その後に続くかのように、カイルやフランクも敵機を撃墜していく。
だが、そこへと凄まじいスピードでレイダー隊が接近する。
「ここは自分が遠距離から攻めていきます!」
“分かった、ロレント。なるべく出過ぎるなよ”
「はい」
ロレントはスナイパーライフルを構え、的確に敵機を撃墜しようと試みる。
彼の狙っている真の標的はロバートである。しかし、その前に彼の周りにいるカイル達を倒そうとしていたのだ。
「奴め……、サロア中尉の邪魔はさせない!」
彼は光線を放つ。この攻撃により、カイルは機体右腕部を破壊されてしまった。
「まずい! 右腕が破壊された!」
カイルはこれ以上戦うのは無茶であると察し、そのまま引き下がらざるを得なくなった。
彼が撤収したため、残ったプログレッサー隊の三名の間には、緊迫した空気が張り詰めた。
その隙間を埋めるかのように、ストライカー隊はプログレッサー隊の方へと加わる。
「まさかカイル大尉が撤収させられるとは……。あいつだな!」
“ルーガン隊長、あの遠方にいる敵機ですか?”
「あぁ、そうだとも。なんとしても撃墜して見せよう」
ここでルーガンはビームキャノンを構え、ロレントのいる方向に光線を乱射した。
「何ッ!? やはり流石に気付かれたか」
「よくもカイル大尉をやってくれたな……」
さらに、ルーガンは距離を詰めていき、近距離では無防備な状態のロレントに勢いよく斬りかかった。
これには流石のロレントも防ぎきれず、大きな痛手を負い撤収せざるを得なくなる。
そこで、ジャンは事前に用意していた無人戦闘機部隊に空中から集中砲火を浴びせるように電気信号を伝送した。
「よし、このまま上手くいくといいんだが……」
無人戦闘機部隊が、ルーガンの元に急速に接近していく。この状況に対応するため、ルーガンは戦闘機形態に変形し、どうにか敵の攻撃を潜り抜けながら光線を撃ち放って敵機を撃破していく。
「俺がこんな所で……、負けてたまるかよォ!」
“ルーガン隊長、我々も加勢いたします”
「おっ、クローティス! 助かるな」
“私たちも忘れないで下さいよ! クローティスも出しゃばらないの”
“分かってるよ”
“何としても倒して見せないとね!”
三人はルーガンと協力して無人戦闘機部隊をどうにか殲滅し、ジャンの方へと近づく。
「クソォ! ならばこれで……」
ジャンは素早い手捌きで剣を振りかざしていく。
「何をォォッ! ならばこっちもやるか……」
ルーガンは接近戦を行い、ジャンと対決する。
何度も剣はぶつかり合っては離れての繰り返しで、泥仕合になりつつあった。
そこでリオは遠方からビームライフルで狙い撃つ。
「邪魔はさせないわ!」
「何ッ! ウワァァッ!」
“今です、隊長”
ルーガンは鷹のように目を鋭くした。
「ありがとう、リオ! さぁ、ここでトドメだ!」
「そんな……」
彼はジャンの機体胸部を自らの剣で貫く。
ジャンは脱出することが出来ないまま爆発に巻き込まれて死亡し、塵となっていった。
一方、突如としてジャンの機体がレーダービジョンから消えたことから、サロアとミルドレッドは何かを察した。
「まさか……、ジャンは死んだのか?」
“そんな……! クソォ、俺たちがいながら仲間も守れないなんて……、情けないです”
「その怒りを力に変えるんだ。 ジャンの仇を……、必ずなァ!」
“了解!”
サロアとミルドレッドはルーガン達の方に向かっていく。
怒りに身を任せ、自分たちの力を見せつける。
「死ねぇ!!」
“させるものですか!”
サロアの攻撃をどうにかシールドで弾いたクローティスは、反撃に出る。
「クローティス、無茶するなよ」
“大丈夫ですよ、自分は無茶するくらいがちょうどいいんですよ”
「フッ、お前らしいな」
ルーガンは彼を止める事無く攻撃するように指示を出した。
さらにそこへと、ロバート達も合流する。
「俺達も一斉掃射であの連中を殲滅してやるぜ」
“ロバート少佐、ありがとうございます”
「礼は要らないよ。さぁ、早くこの戦いを終わらせよう」
“了解です”
クローティスがサロアと接近戦をするも、あからさまにクローティスは苦戦しているようだった。
「クソッ……、どうすればこのガードを突破できるんだ?」
「フフッ……、なかなかやるようだが、これまでだ!」
しかし、そこへとルーガンが加勢する。
「これ以上好き勝手はさせないぞ!」
“ルーガン隊長!”
「ここは俺が決める……」
ルーガンは今までになく神経を集中させる。
サロアの動きをどうにか見極めようとしたのだ。
「こう来るのなら、俺はこうする!」
サロアはビームクローを振りかざすが、ルーガンは上手く回避して切り返す。
「何ィッ!! 後ろから攻めてくる!?」
ルーガンは素早い動作でサロアの機体腕部を切断した。
「ミルドレッド、今回はもう引き際のようだ……。この借りは必ず返すぞ!」
“はい、中尉!”
そして、レイダー隊が撤収したことにより、どうにか共和国軍は安堵できる状況となった。
戦いはひとまず終わり、共和国軍の兵士達はメガテック社の社員達に謝罪する。
「合同会議を予定通りの時間に実施出来なかったことについてですが……」
「いいですよ。今回ばかりは回避せざるを得ない事態でしたから……」
メガテック社の社員はかなり寛容な態度で今回の状況を受け入れた。
その翌日、急遽合同会議は行われて社員達は帰っていったという。
ロバートは、今回亮から渡された新型回路の性能を上手く活かせなかった事に僅かな悔しさを覚えていた。
「ロバート少佐、今回あの竜崎さんに出会ったそうですが……」
「あぁ、実はあの時に新型回路を渡されたんだが、接近戦が出来なかったせいで発揮できたとはいいがたいな。今度の戦いでは十二分に発揮したいところだよ」
「そうですか……。これからMk-Ⅱはより強い状態で戦えるのなら、安心ですね」
ヘレンは優しく笑って見せた。
「いや、まだ分からない。今後も油断することは許されないな」
ロバートは真剣な眼差しでヘレンの事を見つめた。
一方、帝国軍基地に戻ったサロアは、ジャンの突然の死を悼んでいた。
「ジャン……。お前にはまだ将来があっただろうに……。それなのに……。畜生! 共和国軍め!」
ミルドレッドは怒りに満ちており、その後思わず泣き崩れた。
「ミルドレッドの気持ちも分かるさ……。俺も泣きたいさ。だが、泣くだけではどうすることもできんよ」
「ミルドレッド少尉、自分も悲しいです……。まだジャン少尉からはいろいろな事を教わりたかったですよ。それなのに……、あんな急に死んでしまうなんて……」
サロアとロレントは、窓越しに漆黒の宇宙を眺めた。
この宇宙のどこかでジャンが見守ってくれていると信じて────────




