第24話 疾風のマリー
12月24日、一般の人々がクリスマスイブを楽しんでいる中、ジュピトリア共和国大統領のアドレア・エルモスは、とある決断をした。軍備費を増加させて戦力を強化するために、増税をすることとなったのだ。この事を聞いた国民からは批判の意見が多く、政治家の中でも、特に野党からは増税を辞めるべきだと言われるほどであった。
「アドレア大統領、何故このようなことを……」
「仕方あるまい。今後戦争はより激化していくからな」
「でも、国民を苦しめてまで戦争に勝ちたいのですか!?」
野党の政治家の一人は、顔をしかめていた。
「今だけの辛抱だ。ここを乗り越えるためにはそうせざるを得なかった……」
「しかし……」
「耐えるんだ。今の状況を良くするにはこれしかない……」
その後、政治家達は渋々その意見を受け入れる事となった。
一方で、連合国軍のスプリンター隊は総合演習に参加しており、そこで敵軍に打ち勝つための実力を養っていた。
その中でマリー達は、たまたまバスター隊の四人と鉢合わせになる。マリー達はイアンに対し、敬礼を行った。
「イアン少佐、まさかここでお会いできるとは思ってもいませんでした。私はマリー・フォルトといいます……」
「マリーか。スプリンター隊の手柄に関しては聞いているぞ。やはりお前達も共和国軍の連中に手を焼いているようだな」
イアンは真剣な眼差しでマリーを見つめる。彼はマリーの事を天才肌であると確信していたが、ロバート達に苦戦を強いられていることから、その確信が半信半疑になりつつあった。
「えぇ、そうですね。私はあの連中が鬱陶しくて仕方が無くてですね……。私はともかく、イアン少佐までもがあの忌まわしき共和国軍に手こずっているなんて……。納得できませんわ」
マリーも優秀な兵士であったが、イアンは士官学校を首席で卒業している事もあってか、そのプライドがお互いに共和国軍の強さを許せずにいたのだ。
「まぁ、それは仕方あるまい……。奴らは半ば運で勝っているようなものだからな。だからといって敵軍の分析を怠る訳にはいかんが……」
「あら、運も実力とも言われてますよ。別に少佐を蔑むわけではないですけど」
「まぁ、そうか……。だが、あの連中を何としても倒さなくてはな……」
イアンは苛立ちを見せながら拳を強く握りしめた。
彼は必ずロードブレイダーMk-Ⅱを撃墜する事を心の中で誓った。
その一方で、プログレッサー隊とストライカー隊は体力トレーニングに終えて、丁度休憩をしていた。
そんな中、ロバートはルーガンにこの前話していたことの続きをしていた。
「なぁ、ルーガン。この前の話なんだが……」
「あぁ、この前の話ですか」
ルーガンは軽く頷いた。
「俺、昔から仲が良かった友達がいたんだけどよ……。名前はショーンって言ってな。
あいつ、明るくていい奴だったんだけど高校卒業間際に自殺したんだ……。理由は分からなかった。その時に、自分が守る守れない以前の理不尽な問題に胸が押し付けられそうになってさ。なんですぐそばにいたのに気づけなかったんだろうってよ」
「ロバート少佐にそのような過去があったんですね」
「あぁ、この話はカイル達にも話してるんだけどな。やっぱり、自分の事を知ってもらいたいっていう気持ちが先行するんだよ。ルーガンもそういう時あるだろ?」
ロバートは悲しみを上手く抑えてルーガンに語りかけた。
「まぁ、なくはないですね……。こうやって自分の事を知ってもらえば、よりお互いを理解した上で行動出来ますからね」
二人が話をしていると、カイルとクローティスが近寄って来る。
「少佐、何の話をしていたんです?」
「あぁ、昔の話をしていたんだ。カイルにも話しただろ?」
「昔の話ですか。というと、あの話ですか……。やっぱりショーンさんが自ら死を選んだ理由を知りたいですよね」
「そうだな。でも、今となっちゃ知りようがないよ」
ロバートは切ない表情を浮かべた。
かつての友に想いを寄せても、戻ってこないという寂しさに。
時を同じくして、スプリンター隊は帝国軍の補給基地を襲撃し、壊滅状態にまで追いやっていた。彼女達は確かな手応えを感じる。
「帝国の連中はちょっと手強かったけど、案外いけるものね」
マリーは得意気な顔をしていた。
「確かに上手く行きましたけど……。問題は次の日に実行する共和国軍前線基地への襲撃作戦ですね」
キャロルは、次に行う作戦に一抹の不安を抱えていた。
「キャロル、暗そうな顔をしているわね。どうしたのかしら?」
「いえ、私はただMk-Ⅱが不安でですね……」
「やはりそうね。流石の私でもこれは無視できないわ。あと、ガルディスという可変機もいるそうね……。このままではいけないわ」
「マリー少尉、私から一つ提案があるのですが……」
何かいい案が浮かんだのか、少し自信のこもった表情を見せるキャロル。
「あら、言ってみなさい」
「今回の作戦では高機動ブースターを装備してみるというのはいかがですか?」
それを聞き、マリーは興味深そうな面持ちをした。
「いいじゃないの。とりあえず作戦時の行動はこの後の作戦会議で行うとしましょう」
「了解です」
自分のちょっとした提案を褒められたキャロルは、珍しくどこか嬉しそうに見えた。
そして、その後は作戦会議が二時間に渡って行われることとなった。
彼女たちの考えが思うようにいくかは、神のみぞ知る。
そして、翌日────────
ついに連合国軍は、共和国軍基地への襲撃作戦を実行することとなった。
連合国軍は手始めに辺境の小規模な防衛ラインを突破していく。
無人機で構成された機動部隊は次々に撃墜されていき、とうとう第4前線基地へとその魔の手が伸びることとなる。しかし第4前線基地を突破される数分前に、共和国軍は動き始めており、彼らはどうにか応戦するのだった。
「敵機が近づいてきたぞ! 攻撃の手を休めるなァ!」
「了解!」
しかし、共和国軍の健闘も虚しく、機動部隊は次々に撃破されていく。
だが、それに見かねて共和国軍側は攻撃を激化させていったのだ。
「ロバート少佐! 今回の作戦では散らばって行動するんでしたよね?」
“あぁ、その通りだ。だが、戦況次第では作戦を急遽変える事もあるから、その時は臨機応変に対応してくれ。頼んだぞ”
「分かりました」
プログレッサー隊の四人は一人ひとり散らばり、任意での行動をとる事となった。
陣形に囚われない戦法で、ロバート達は連合国軍に攻撃を仕掛けていく。
「これ以上味方を殺させはしないぞ! 喰らえ!」
ロバートは基地のゲート付近で、ビームキャノンで手当たり次第に敵部隊を片付けていく。
敵部隊は、さっきまでの勢いがまるで嘘のように少しずつ撃墜されていった。
さらに、そこへルーガンが合流し、火力の勢いは増していく。
「ロバート少佐、後ろです!」
“来たかッ!”
ロバートは間一髪で後方から撃たれそうになったものの、敵機に蹴りを入れて隙を作らせる。
「喰らえェッ!!」
破竹の勢いで光線を浴びせていくロバート。
さらにルーガンの掃射も加わり、この勢いは留まることを知らないと言ってもいい状況であった。
時を同じくして、カイルはクローティスと共に上空にいる爆撃部隊を相手に一戦交える。
「落としてやる!」
敵兵士の一人は、ナパーム弾でクローティスを狙い撃つ。
「させるかよォ!」
カイルは、素早い動作でナパーム弾がクローティスに当たる前に破壊した。
しかし、連合国軍側はまだ諦めてはいない。
「ならば、大型粒子砲で機体丸ごと焼き払ってやる!」
雷の様な光線が二人に襲い掛かるものの、彼らはそれを上手く回避した。
そして、クローティスはビームライフルで敵機をすぐさま撃墜したのだった。
「しまったァッ!!」
機体は爆発四散し、塵となった。
その後、彼らは味方の空戦部隊と合流した。
「よし、このまま一斉掃射で爆撃部隊を殲滅してやる! カイル、クローティス、準備はいいな?」
“了解です!”
「さぁ、喰らえェェッ!!」
雨にも似た無数の光線が放たれ、敵軍の爆撃部隊はあっという間に殲滅した。
これにカイル達は大いに喜んだ。
「ありがとうございます……。ところで、名前を聞いてませんでしたが」
“俺はデラスだ。ちなみに階級は大佐。また会った時はよろしく頼むぜ、カイル”
「はい、デラス大佐」
この後もデラス率いる空戦部隊と共に敵部隊を次々に殲滅していった。
一方で、ヘレンはフランクとたまたま鉢合わせし、この後どのエリアで戦闘を行うか相談し、共に格納庫エリアで敵を見張る事にした。
「フランク中尉、味方機が他にもいるようです」
“そうか、通信を取ろう”
「了解です」
その味方機に乗っていたのは、エリナとリオであった。
「どうも、フランク中尉」
エリナは敬礼を行う。
“ルーガン達は一緒ではないのか?”
「はい。今回は別行動を取っています……。そう言うお二人こそ、何故ロバート少佐達とは別行動なんですか?」
“あぁ、そうだが……。ん!? 敵機反応?”
敵機動部隊は凄まじいスピードで接近して来た。
そして、四人は一斉掃射を開始。これでどうにかやり過ごそうと試みるも、敵はそれを上手くかいくぐって行く。
「死ねェ!!」
「ここでやられる訳には……!」
ヘレンはビームソードを素早い動作で取り出し、すぐさま敵機を切りつけた。
「しまった! 右腕がァ!」
「トドメよ!」
さらに彼女は、敵機のコックピットに自らの剣を突き刺した。これにより、敵機を一機撃墜することに成功する。だが、まだ油断は禁物であった。
「そこだァァッ!」
敵兵士の一人は、ヘレンの死角に光線を放った。
「そんな……! 後ろから来るなんて!」
「やらせないぞ!」
フランクはその瞬間、シールドを構えた状態でヘレンを庇い、どうにか彼女を守り抜く。
「フランク中尉……!」
“俺の事は気にするな、ヘレン! 今だ!”
上手く敵の隙を作ったフランクは、ヘレンに攻撃の契機を与えた。
「了解ッ!」
彼女の放った光線は敵の機体を貫いた後、すぐさま爆発四散。
だが、まだ敵機動部隊は諦める事無く攻撃を仕掛けていく。
「クソォ! よくも俺たちの仲間をッ!!」
“俺達でぶちのめしてやろうぜ!”
「おう!」
二機のアゾムがビームライフルで攻撃を仕掛けていく。
電光石火の攻撃に挫けそうになるエリナとリオだったが、負けずに切り返す。
「私たちもいい所見せましょ!」
エリナはいじらしく思ったのか前に出ようとする。
“そうね……”
「さっき思いついたいい案があるの……」
“分かったわ”
エリナは自ら囮となって接近戦を仕掛けていく。
「ヘヘッ、迂闊な!」
「はまったようね!」
その時、エリナは思わずニヤリと笑った。
何と、エリナの後方にはリオがビームライフルを構えた状態で待ち構えており、リオはジャンプして空中から遠距離攻撃を仕掛ける。
「こんな安易な戦法にはめられるなんて……!」
敵機のうち一機は撃墜され、それを見たもう一方の機体に乗っていた敵兵士は反撃を行おうと試みる。
「よくもやってくれたなァ!!」
その時、エリナとリオはビームライフルで一斉掃射を仕掛け、最後の一機も呆気なく撃破。
「やったわね、リオ」
“これも私のおかげってわけね”
「まぁ、そうね」
その一方、ロバートとルーガンは複数の小隊と共にスプリンター隊と激しい電撃戦を繰り広げていた。だが、この戦いは全くと言っていいほど終わる気配が見えなかったのだ。
この事から、急遽ロバートとルーガンはそれぞれの部下を召集する事にした。
「このまま時間稼ぎを出来るといいんだが……」
“そこが問題ですね”
二人は部下が合流するまでの間、どうにかその場を持たせて、ここから離れることなどしなかった。
“少佐、こちらの方にもうすぐ到着します!”
「分かった、カイル。それと、フランクとヘレンは一緒か?」
“はい、先程合流した所です”
「じゃあ、頼んだぞ」
“分かりました”
ロバートはひとまず安心するが、油断することなく敵の攻撃から逃げつつ激しい攻防戦を繰り広げていた。しかしながら、スプリンター隊はそれに負けじと集中砲火を浴びせる。
「何て激しい攻撃なんだ……」
ロバートは気が遠くなりそうになった。だが、そこへとカイル達六名が駆るガントレックが到着。
これにより、戦力面ではより十分なものになっていった。
「よし、あのガザードをどうにか撃墜するぞ、皆!」
“了解です”
共和国軍の各兵士も、素早い動きでビームライフルを撃ち放っていき、どうにか対処する。
「邪魔ね……。キャロル、リノ、ライナ、全員で円陣形で地上部隊を殲滅するわよ」
“分かりました……”
ついに、スプリンター隊が牙を剥いた。この攻撃を防ぐべく、ロバートが動く。
「させるか! カイル達は援護射撃をしてくれ」
“了解!”
ロバートは戦闘機形態に変形し、早速大型粒子砲を発射する。
この攻撃により、ライナの機体腕部が一瞬で焼失した。
「そんなッ! 私がここでやられるなんて……」
“ライナ、無理しない方が良いわ……。ここは私たちがフォローするから”
「はい、マリー少尉」
そして、ライナはやむなくこの場から離脱した。
「二人共、このまま高速移動しながら一斉掃射するわよ」
“了解……”
キャロルは不安そうな顔をしながらも、作戦を遂行しようとする。
そして、彼女たちは凄まじいスピードで一斉掃射を仕掛けていく。これには流石のロバート達も苦戦を強いられざるを得なかった。
「まずい……。このスピードじゃあ追いつけない! 早く対処しないと……」
“分かりました”
震えながらも、ルーガンは機体を戦闘機形態に変形させ、空中へと舞い上がってから部下と共に一斉掃射を仕掛けていく。
「これでトドメだァァッ!」
「そんな……、機体が持たないわ……」
この光線の嵐の中でリノは機体にかなりの損傷を負い、そのままこの場から敗走した。
キャロルはこの不利な状況下に居ても立っても居られず、ビームライフルを連射していく。
「私の仲間を……、許さない!」
“キャロル、気を付けなさい……”
「分かっています!」
怒りに満ちた表情で攻撃を続けるが、ストライカー隊は負けじと集中砲火を浴びる。
「シールドが! もう後がないわね……」
そのままキャロルはルーガンに接近戦に挑む。
“喰らいなさい……”
「何をォォッ!!」
ルーガンはすぐさま彼女の攻撃を回避し、切り返した。
「やられてたまるか!」
素早い切り返しに、キャロルは隙を突かれて右腕を切断されてしまった。
これにより、マリーは孤軍奮闘せざるを得なくなる。
その後、ロバートはマリーと激しい接近戦を繰り広げていく。
その中で、マリーは自身の勝利を確信していたのだ。
「私をこれ以上踏み台にするな! Mk-Ⅱッ!」
「こいつ、まだ戦うつもりか……」
二人はお互いに弾切れとなった状態であり、あとはどちらが先に集中力が切れるか────────
それが問題であった。
しかし、そこへとフランクがビームライフルで攻撃を仕掛ける。
放った光線の内、一発は機体右脚部に直撃した。
「しまった……。くっ……、やはり戦いは数がものを言うのかしら……」
彼女はその瞬間、機体頭部を斬り落とされる。
これにより戦闘は困難となり、マリーは仕方無く撤収していった。
そして、共和国軍は結果的に勝利を収めることに成功。これを受け、連合国軍も共和国軍に便乗する形で軍備拡張をすることとなった。これが吉と出るか、それとも凶と出るか────────
それはまだ誰も知らない。




