第23話 辺境から来た男たち
12月19日、ドラギウス帝国軍長官のバルマーンは、開発に難航している決戦兵器“ギガンデス”について、今後どうすべきか迷いに迷っていた。何故なら、一部の兵士からはこの兵器の開発よりも他のメタルユニットなどの製造費に回すべきという意見が出ていたからである。最悪の場合、“ギガンデス”は開発中止になりかねない状況下に置かれたバルマーンは、翌日にそれでも何とか開発を進めることにする。
彼は部下からの批判を覚悟してでも、この戦争に勝とうと思っていたのだ。
「バルマーン長官、本当によろしいのですか?」
「ああ、これでいいんだ。私が丸一日迷ってから出した答えだからな。敵軍の連中に一泡噴かせてやりたいからな……」
バルマーンは自信に満ちた面持ちで話す。
彼を含む上層部が知る“ギガンデス”───────
その謎とは一体何なのか。
一方で、帝国軍第1前線基地にて、今まで辺境の基地に飛ばされていた第2機甲小隊“キラー”が赴任することとなった。だが、第1前線基地にいた者はそれをよしとしなかった。それもそのはず、何故なら彼らは元々凶悪な人格の持ち主で、なおかつ同僚との喧嘩が絶えなかったが故に辺境の基地へと飛ばされていたのだ。
それ故に、今回の人事異動を担当した者に対して批判する意見が多かった。
「エルドラド少佐、何故あの連中が……」
「仕方あるまい……。奴らは人事部の者を脅迫して無理矢理移動させて貰ったようだからな……」
エルドラドも、上官であるはずのキラー隊の3人の事を快く思っておらず、このような事に苦言を呈した。
「ところでセルバードよ、お前はキラー隊の連中に会うのが怖くないのか?」
「それはもちろん怖いですよ。昔キラー隊の隊長のゾルヴィン中佐と目が合った時に、自分が何もしていないのにいきなり殴りかかって来たこともありましたし。彼らは自分より階級が低い兵士を馬鹿にしているとしか思えませんよ」
その話を聞いて、エルドラドはますますゾルヴィンに対して嫌悪感を抱いた。
「エルドラド少佐!」
エルドラド達がそのような話をしていると、メルダとヴィラーガが彼らの元に駆け寄る。
「どうした、メルダ」
「キラー隊が我々と共同作戦をしようとのことですが……」
「ふむ……、そうか。それは困ったな。断ったら何をされるか分からんから、ここは素直に応じるしかあるまい。お前たちはどう思う?」
「少佐がそう言うのであれば、仕方ありませんね」
ヴィラーガ達もまた、渋々その共同作戦に参加することとなった。
その後、共同戦線を張ることとなったクラッシャー隊とキラー隊。
作戦会議の際に彼らは久しぶりに顔を合わせた。
「久しぶりですね、ゾルヴィン中佐」
「おぉ、エルドラドじゃねぇか。てめぇ、元気にしてたみたいだな」
「中佐こそ……」
少々嫌そうな表情のエルドラド。彼とゾルヴィンの間に不穏な空気が流れる。
「それにしてもエルドラドは、相変わらず青臭さが抜けきっていないみたいだな」
「おっと、少佐の悪口はそこまでにして下さい」
メヴィックの言葉に対し、本人以上に苛立ちを覚えたセルバード。
彼を止めようと、エルドラドは動く。
「よせ、セルバード……」
「でも……。少佐は悔しくないんですか? 青臭いと言われて……」
「それぐらいの事は言われる覚悟で来た。だから落ち着くんだ」
「はい……」
セルバードはそのまま再び椅子に座った。
「お前、確かヴィラーガって言ったな。そんなサングラスをかけてたら変な奴だと思われないか?」
「おや、そんな事はありませんよ。貴方のその悪趣味なアイパッチよりは……」
「何だとォ!?」
ボルグはそれを聞いて思わず苛立ちを覚え、ヴィラーガに殴りかかろうとする。
「おやめください。また最果ての基地に飛ばされたいんですか?」
「くっ……、うぅ……。賢しいやつめ」
悔し気な表情をしながら座るボルグ。
彼は拳を固く握りしめていた。
その後の作戦会議は幸いなことに何事もなく円滑に行われて終了し、作戦決行日は翌日となった。
今回の作戦はあまり時間がない事もあり、両部隊は急いで準備を行う。
「それにしても……、メルダはよくあの状況で澄まし顔でいられたな」
「セルバード大尉が血気盛ん過ぎるだけですよ」
「全く、お前ってやつは……」
「私は昔からこういう性格でしたし、そもそも親も人前で怒るのはみっともないと言っていました。
ついでに言っておくと、私の両親はかなり厳しかったんですよ。泣いたら泣いたで、泣けば許されると思うのかなんて……。私はまだあの時5歳だったのに、そんな言葉を投げかけたんですよ」
「ふぅん……。そうだったのか。とはいえ、こればっかりは直すにも難しそうだな……」
セルバードは整備ドッグの中の高い天井を見上げた。
「おい、二人共。何をやっているんだ。少佐が急いで集まれと言っているぞ」
「は、はい!」
二人はヴィラーガと共にエルドラドの元に駆けて行く。
その際にエルドラドからは、作戦時の行動や陣形、戦法などについての話がなされた。
一方、プログレッサー隊の面々はストライカー隊と共に訓練を終え、休憩を取っていた。
「しかし疲れたな……。ルーガンは最近悩んでいることは無いか?」
「いや? 特にありませんが」
「そうか……。ならいいんだが、最近、心に悩みを持っていてもなかなか打ち明けられない人が増えているというニュースを聞いてな。最悪の場合、自殺に追い込まれるなんて事もあるみたいだから、気になって聞いてみたんだ」
「そうでしたか。噂によると、この軍の中でもたまに暗い顔をして歩いている兵士の方もいますしね」
「俺は、そういう悩みを一つでも多く解決したいんだ」
「何故、そんなことを?」
ルーガンは不思議そうな表情で彼の顔を窺う。
「あぁ、これには深いわけがあるんだが、長くなるからまた今度話すよ」
「はい、分かりました。話は変わりますが、もうすぐ夕食の時間のようですから、そろそろ食堂に向かいましょう」
「そうか。じゃあ行くとするか」
二人は一旦別れることにした。
それから翌日のこと──────────
ついに帝国軍が共和国軍第4前線基地へと奇襲を仕掛けた。
小規模な戦闘部隊が中心となって攻撃を行い、二方向から挟撃する。
「いいかエルドラド! この作戦は何としても成功させるぞ!」
“はい……”
エルドラドはどこか苛立ちが隠せずにいたが、一応共同作戦という事もあり、彼には反抗出来なかった。
彼は、空中から共和国軍基地の第一防衛ラインに攻撃を仕掛けた。その時放たれた光線により、砲台が一つ破壊される。だが、共和国軍もこれに黙っているはずがなかった。
「ロバート少佐、行きましょうか……」
“そうだな、カイル……”
プログレッサー隊は真っ先に空中へと舞い上がり、エルドラド達よりも早い段階で進軍していた部隊に攻撃を仕掛ける事にする。
「三人共、早くしないと間に合わないぞ!」
“了解!”
焦りながらも、カイル達三人はビームライフルで一斉掃射を開始する。
その一方でロバートは前方にて接近戦を繰り広げていた。
「落ちろッ!!」
「させるものか!」
敵が隙を見せた刹那、ロバートはビームソードで素早く敵機を真っ二つに斬り裂く。
その後も何機かの敵機が彼の方へと接近する。
「まずい……、囲まれたか……」
ロバートは思わず焦燥に駆られ、手足が僅かに震える。
「少佐!!」
そこにカイル達が掃射を開始し、ロバートを囲っていた数機の敵を撃墜する。
「ウワァァッ!!」
“助かった……。カイル、フランク、ヘレン、ありがとう”
「礼は要りませんよ。早いところ敵を片付けましょう!」
“そうだな”
四人は、そのまま敵部隊の迎撃を続行する。
だが、まだ強大な敵が来る事を彼らは知る由もない。
一方、ストライカー隊は別方向から来た敵部隊をアタッカー隊と共に敵に向けて集中砲火を浴びせていた。この圧倒的な火力に敵部隊は驚き、慌てふためく。
「ルーガン隊長、後方から敵が回り込んできます!」
“分かってる、十分承知だ”
リオのアシストを受け、敵機をすぐさま撃墜することに成功したルーガン。
さらに彼は、勢いに乗って空中からの敵に挑む。ルーガンはガルディスを戦闘機形態に変形させ、凄まじい速さで敵機に攻撃を仕掛けていく。
「俺は、今までより強くなれているはずだ! だから、ここで負けるわけには……!」
ルーガンはビームキャノンを連射し、そこから放たれた光線で敵機を撃墜。
さらに、クローティスも彼の勢いを追うかのようにして、果敢に攻撃を仕掛けていく。
“隊長ばかりにいい格好はさせませんよ!”
「クローティス、気を付けろよ。相手はお前より……、いや、俺より手強いかもしれない」
“大丈夫です。必ず仕留めます”
クローティスはすぐさまビームライフルを両手で構えて光線を一発放つ。
だが、その攻撃は敵に回避されてしまった。
「まずい!」
「させませんよ!!」
そこでエリナが動き出し、クローティスを守る。
さらに彼女は、ビームライフルを放ち敵機を一瞬で撃墜した。
「クローティスったら、危なっかしいわね」
“わりぃ、エリナ……”
「まぁいいわよ。被弾しなかったし」
エリナはどこか呆れた表情で画面越しにクローティスの顔を見る。
「エリナ、隙を見せちゃ駄目よ! 後ろに……」
“えっ!? アアァッ!!”
彼女は危うく撃墜されそうになるが、リオが切り返したことにより事なきを得る。
「もう、自分が言ってるそばからやられそうになってどうすんのよ」
“リオ、ごめん……”
「とりあえず、死角は作らないようにしないとね」
“分かったわ”
その後もルーガン達は敵部隊を寄せ付ける事無く、彼らに攻撃を仕掛けていた敵部隊を撤収させることに成功する。
一方で、ロバート達は空中で激しい攻撃を浴びせられる中、ひたすら必死に反撃を行っていた。
そこについに、クラッシャー隊やキラー隊が彼らの元に接近。
黒と金色のツートンカラーのスケイラスを駆るゾルヴィンは、自信に満ちた表情であった。
「へへっ、アイツが噂のロードブレイダーMk-Ⅱか! 手合わせ願おうじゃないか!」
「何ッ!? こっちに近づいてくる……」
ゾルヴィンは既に十機程の敵機を撃墜しており、彼は最後にロバートを倒そうと試みる。
「メヴィック、ボルグ、Mk-Ⅱに遠距離攻撃をしろ!」
“了解です!”
“ついに奴も潮時ですね!”
キラー隊の三人は、連携プレイでMk-Ⅱを撃墜しようと試みる。
メヴィックとボルグの駆るグライズは若干の性能強化が行われており、機動性や出力もやや高めになっている。その二人とゾルヴィンに足止めを喰らうロバート。
「クソッ、隙がまるで無い……。カイル、フランク、ヘレン、援護頼む」
“了解!”
苦しみながらもロバートは部下に指示を出し、どうにか難を逃れようとする。
「少佐を倒させはしない!」
「ここは自分たちが仕留めて見せます」
「私だって……」
三人は一斉掃射を行い、キラー隊を仕留めようとするが簡単にはいかない。
彼らはビームライフルを連射し、素早く切り返していく。
「しまった! こんな所で……」
カイルは左脚部を損傷し、思わず焦るが機銃でひたすら反撃を行う。
「コイツ、しぶとい奴め。殺してやる!」
メヴィックとボルグはカイルに襲い掛かり、彼を戦闘不能に追いやってしまう。
これにより、カイルはそのまま引き下がらなくてはならなくなった。
「クソッ、カイル大尉をよくも……」
フランクはビームソードを取り出して、勢いよく斬りかかる。
「何ィ! 厄介な奴め」
「このまま敵の思う壺になってたまるか!!」
メヴィックにもう一度切り返すフランク。
彼の素早い攻撃により、メヴィックは機体右腕部を切断される。
「しまった! 何という事だ! 俺の機体の右腕がァァッ!!」
そのままメヴィックは逃げざるを得なくなった。
だが、ボルグはフランクに怖気付く事無く接近戦に挑む。
「テメェ! 真っ二つに引き裂いてやろうかァ!?」
「まずい! 後ろから来る!?」
フランクはこのまま死を覚悟したその時であった。
後方から一機のメタルユニットがボルグに攻撃を行ったのだ。
「何だとォ!? 援軍か?」
ボルグは思わず驚き、慌てふためく。
「フランク……、いや、今はフランク中尉と言った方が正しいかな?」
「ルーガン! 来てくれたのか」
ルーガンはクローティス達三人と共に急遽合流し、ボルグを囲み集中砲火を浴びせた。
「これで終わりだ!」
「何をォッ!! このままでは死ぬな……」
ボルグは突然の出来事に驚きを隠せないまま、何とか強行突破してその場から逃げていった。
時を同じくして、ヘレンはクローティス、エリナ、リオと共にエルドラド以外のクラッシャー隊の面々と対決していた。彼らの攻撃により苦戦しかけたものの、四方向から蝶のように舞って蜂のように刺すという戦法を行い、何とか難を逃れていた。しかし、それでも倒れる事のないセルバード達。ここでセルバードは、ヴィラーガとメルダに指示を出す。
「二人共、ここは分散攻撃で敵の動きを惑わそう。少佐がMk-Ⅱと戦っている間でも何としても俺達だけでも出来るという事を見せてやろう!」
“分かった。フルスピードで行くとするか……”
“分かりました。やれる事はやってみましょう”
三人はそれぞれ分かれて攻撃し、なおかつ機体の限界速度を出した状態で動いている。
彼らの素早さにヘレン達は錯乱する。
「何て早さなの……。でも、ここで撃墜されるわけには……。三人共、ルーガン少尉が戻ってくるまで持ちこたえましょう!」
“了解!”
ここで三人は、隙を見せないようにこちらも限界まで素早く動くことで対応する。
五分五分の戦いを続ける中、ヘレン達に運が味方する。
「このままでは……、消耗戦になってしまうわ」
“聞こえるか? アモンだ! もうすぐこっちに着くからもう少しの辛抱だ!”
「大佐ですか? 援護ありがとうございます」
その後、すぐさまアタッカー隊が合流して戦力は確固たるものとなる。
「よし、エストル、ラディム、集中砲火で完全殲滅するぞ!」
“了解、アモン大佐!”
彼らの攻撃により、セルバード達三名は機体に大きな損傷を負い、そのまま撤収せざるを得なくなった。
その時のセルバード達は悔しげであり、エルドラドに対しての申し訳ない思いで頭がいっぱいになる。
一方、ロバートはエルドラド、ゾルヴィンの二人を相手にどうにか戦闘を続けていたが、既に機体が傷だらけになっていた。そこにゾルヴィンが追い打ちをかけていく。
「これで終わりだ! トォォッ!!」
ゾルヴィンは空中へと跳び、エルドラドと戦っているロバートにトドメを刺そうとするが、そこでロバートは機転を利かせて格闘戦に出た。
「させるかよォ!」
ロバートはゾルヴィンの機体に蹴りを入れて、どうにか死から免れ、そこからエルドラドに対しビームソードで機体右肩部に勢い良く突き刺す。
しかし、エルドラドは左肩部にマウントされたビームライフルで攻撃を仕掛けた。
「このまま死ぬとでも!?」
「まだ攻撃するのか! おのれ……!」
ロバートは自らの剣で斬りかかり、エルドラドの機体左腕部を切断。
これによりエルドラドは戦えなくなってしまい、そのまま撤収することとなった。
だが、ロバートは油断することなくすぐにゾルヴィンを狙撃する。
「喰らえェェッ!!」
「何をォォッ!」
ゾルヴィンは鬼神の如き動きでロバートに斬りかかる。
だが、ロバートは上手く回避してさらに機銃で反撃した。
「しまった……。右腕が動かない……、だと!? 仕方あるまい……、ここが逃げ時か」
そのままゾルヴィンは冷静に判断した上で撤収することとなった。
こうして、戦いは共和国軍の勝利で終わったものの、ロバート達はカイルの事が心配だったため、すぐに彼の元へと向かっていく。
「大丈夫か、カイル」
「いや、大丈夫ですよ。問題は機体ですよ。脚部だけでなく、機体内部の回路が一部ショートしてるので、ジャネットと直すことにします」
「そうか、なら良かった……」
戦いは今回も勝利できたものの、いつどんな思わぬ強敵が出てくるかは分からない。
果たして、これから戦局はどうなっていくのか。




