第22話 アステロイドベルトへ向かえ
12月1日、帝国軍のレイダー隊は戦闘演習を行っていた。
大規模艦隊を相手にすることを想定したものや、人工衛星の護衛を想定したものなど、様々なシミュレーションで演習を行っており、サロアは目まぐるしく変わる状況に上手くついていっていた。その一方で、ミルドレッド達は置いてけぼりにされる。
「サロア中尉、臨機応変に動けて凄いですね……」
ジャンはその様子を見て感服していた。
「ジャン、最近サロア中尉を羨ましそうな視線で見てるようだが……」
ミルドレッドは不思議そうな顔で尋ねる。
「何しろ、自分はあまりにも目まぐるしく状況が変わると頭が混乱してしまうタイプなもので……。
昔から、時々人の話を聞いても完全に把握できてない時があったりしていたのですよ。ミルドレッド少尉はそういった事はありませんか?」
「俺か? 俺はお前ほど要領が悪くはないからな」
「ちょっと、それってどういう意味ですか?」
ジャンはミルドレッドの顔を見て睨む。
「だから、要領が悪いと……」
「まぁまぁ、そう喧嘩なさらずに……。ジャン、上司に喧嘩を売るのはどうかと思うぞ」
ミルドレッドは顔をしかめた。
「でもよぉ、少尉が……」
「あと、要領が悪いと言ったミルドレッド少尉もはっきり言いすぎだと思いますよ」
「わ、悪かったよ……」
二人の間には、絶妙にギクシャクした雰囲気が漂う。ロレントは一応仲直りさせたものの、これがチームワークの悪化の原因にならないか心配になった。
「お前達、次の演習の準備をしておけよ!」
「はい、サロア中尉!」
三人は慌てながらもサロアについていく。
一方、プログレッサー隊は射撃訓練が終わり、休憩をしていた。
「それにしても、フランクが少佐に匹敵する記録をマークするとはなぁ……。やっぱりお前、最近調子が良いな」
「そんなことは無いですよ」
カイルに褒められ、少し微笑むフランク。
彼はどこか満足げであった。
「まぁ、それは紛うことなき事実だからな。俺も負けてはいられないな」
ロバートは、少し羨ましげな顔をしつつもより特訓に励もうとする意思を見せる。彼の心の中には、他の誰よりも強いプライドがあるのだ。
「話は変わるけどよぉ、フランク……」
「何ですか? カイル大尉」
「だいぶ前に言ってた別の基地にいるフランクの知り合いってどんな奴なんだ?」
カイルはもの問いたげな顔つきをする。
「あぁ、ブルーノのことですね。彼は士官学校時代からの知り合いで、明るくて陽気な人なんです。
でも、それぞれ別々の基地に配属されてからは連絡の頻度は低くなっていきましたね」
「ふぅん、ブルーノっていうのか。そいつの事は今でも気にかけているのか?」
「まぁ、気にかけてはいます。以前第6補給基地が全滅した際に安否を確認したら、どうにか別の基地にいち早く移動して生きていたので安心しました」
「そうか……。それは良かったな。友達は大切にしろよ……」
「はい」
フランクはその発言が何か意味深なものに聞こえたが、今は詮索せずにそのまま別の話に切り替えたのだった。
一方、帝国軍の一部の部隊は、共和国軍の管轄下にあるとされるアステロイドベルトの鉱産資源採掘エリア“A-27”を襲撃するように指示が出されていた。この“A-27”はアステロイドベルトの中でも最も鉄などの金属系の資源が採れるエリアである。その作戦は二日後に行われるため、時間は無かったがどうにか急いで作戦に向けて準備を進めていたのだ。
「サロア中尉、今回もなかなか過酷な作戦になりそうですね……」
ミルドレッドは機体のメンテナンスを整備士と共に行いながら、たまたま近くにいたサロアに話しかける。
「そうだな。確かに今回はアステロイドベルトまで行かねばならんからな。そりゃあ時間や手間もかかって当然だろう」
「仰る通りですね」
二人が話している最中に、ジャンやロレントもその場に来た。
「サロア中尉とミルドレッド中尉は何を話していたのです?」
「あぁ、アステロイドベルトまで行くのは時間がかかる事について話したんだ」
「そうでしたか」
ジャンは納得した顔を見せる。
しかし一方でロレントは、以前月へと向かった時のように敵軍が追撃して来ないか危惧していた。
「ロレント、どうした?」
「いや、この前月面への攻撃任務の際に共和国軍が返り討ちにしてきたじゃないですか……。
あの時のようにならないように作戦時の陣形や武装、行動も良く考えるべきかと……」
「そうか。ならそうした方がいいだろうな」
そして、その後レイダー隊は作戦会議を約3時間に渡って行ったという。
だが、その間にあくびをするような者はいなかった。それほど緊迫した空気が張り詰めていたのだ。
それから二日後、帝国軍はアステロイドベルトへと攻撃を仕掛けるべく、進軍を開始した。
その一方で、ジュピトリア共和国軍はこの事を偵察部隊経由で察知して、一部の部隊に追撃をするようロジオン長官が直々に命令を出す。また、プログレッサー隊やストライカー隊もこの作戦に参加することとなった。
「今度はアステロイドベルトか……。月より遠くないからいいものの、それでも長丁場になりそうだな……」
カイルはアステロイドベルトへと移動する最中、ぼんやりと天井を見つめて呟く。
「カイル大尉、顔に疲れが出ているようですが……」
「俺の事は気にするな。それより、ヘレンが疲れてそうだな……」
「はい」
ヘレンは眠たそうにしていたので、フランクは彼女の体に毛布を掛けてあげた。
「ロバート少佐は疲れてるように見えませんが……」
「そうか? 顔に表れてないだけだと思うがな」
ロバートは多少疲れているとはいえ、すっかり強気である。
その様子にカイルは感服した。
「そうですか……。自分にも少佐の様な勇気があれば……」
「お前にもあるさ。勇気というものは誰もが持っているのさ」
その言葉を聞き、カイルは心なしか戦いへの恐怖心が薄れた。
それから約一日近くかけて、帝国軍はアステロイドベルトの採掘エリア“A-27”へと到着。
そして、そこへと攻撃を開始した。殆ど無防備な状態の採掘場にいた者たちは必死に逃げようとするものの、時すでに遅し。彼らは次々に殺されていく。
「やめてくれェ!!」
彼らは悲鳴を上げ、乗ろうとしていた輸送艦は破壊される。最早打つ手は無いと思われたその時である。
「ん? 遠方から熱源反応? まさか……?」
サロア達は共和国軍の艦隊が接近していることを確認し、思わず震える。
だが、帝国軍側はその程度で怯むことは無かった。
「主砲、撃てェッ!!」
艦隊による攻撃で、敵軍の部隊は危機にさらされる。
しかし喜ぶのは早く、帝国軍も反撃を行う。
「何をやっている! このままでは……」
「分かっています、それぐらいの事は……」
「なら撃つのを辞めるなよ!」
「りょ、了解です!」
そして、帝国軍の攻撃はより激しくなっていく一方であった。
“ロバート少佐、早く行きましょう!”
「分かった、ヘレン」
プログレッサー隊の四人はいち早く攻撃を開始し、帝国軍の機動部隊に対してV字陣形で挑んだ。
「前に突き進め! ひたすらな!」
“了解!”
果敢にも彼らは、前線の中を強行突入する形で敵部隊を次々に殲滅していった。
「ヘレン、カイル、後方から来てるぞ!」
「はい、少佐!」
二人は、後方にいた敵をすぐさまビームライフルで撃墜する。
彼らの素早い動きによって、帝国軍側は翻弄されていく。
「フランク、敵艦に接近したようだな。攻撃から逃れるのはより厳しくなるから気を付けろ」
“了解です”
彼らが一隻の小型艦に接近した頃、丁度ストライカー隊が合流。
これにより、戦力はより強靭的になるのだった。
しかし、この様子を見て黙っていなかったのはレイダー隊の面々である。
「まずいです、このままでは我々の作戦は遂行できそうにありませんね」
“ミルドレッドよ、恐れるな。まだ出来ないと決めつけるのは良くない。我々の力を見せてやろう”
「はい、分かりました……」
レイダー隊は、プログレッサー隊の勢いを止めるべく奔走。
彼らは横一文字の陣形から、V字陣形に切り替えて集中砲火を開始した。
「仕留めてみせる!」
サロアはビームキャノンを連射し、凄まじい攻撃で食い止めようとする。
それでも、ロバート達はこの攻撃を恐れなかった。
「ロバート少佐、どうします?」
“ここは陣形変更だ。菱陣形で背中合わせで立ち向かうぞ”
「了解です! じゃあやってやりましょう!」
プログレッサー隊の四人は死角を狙われないように背中合わせになる。
「ロバート少佐、我々も加わります」
“ルーガン、頼むぞ”
「はい!」
ストライカー隊の四人もその陣形に加わり、円陣形となる。
「全員、撃てェッ!!」
ロバートの合図と共にとてつもない量の光線が放たれた。
これにより、レイダー隊以外の部隊は次々に撃墜されていく。
だが、これに抗うかのように、サロア達は攻撃を行う。
「俺たちがこの程度で怯むとでも?」
その中で、ロレントはスナイパーライフルを用いて距離を取った上で攻撃を仕掛けていく。
彼の放った光線が、ロバート達を襲う。
「何だ!? ウワァァッ!!」
“フランク中尉!!”
ヘレンは思わず驚き、彼女はフランクを庇おうと必死になる。
「よくも中尉を……」
遠方から攻撃を仕掛けていたロレントのいる座標を捉えたヘレン。
彼女は狙いを定めて光線を一発撃つ。
「喰らいなさい!!」
彼女の怒りの込められた攻撃はロレントに直撃してしまう。
これにより、彼は撤収を余儀なくされるのだった。
「ヘレン……、よくやった」
“フランク中尉、無理しないで下さい。早く味方艦に戻った方が……”
「いや、戦う。俺はお前を守る!」
フランクの機体は傷ついていたにも関わらず、撤収することは無く、彼はひたすら攻撃を続けた。
「このッ、このォォッ!!」
フランクは瞬時に二機のメタルユニットを撃墜することに成功。
しかしそこに、ジャンが接近する。
「俺たちの作戦を妨害しやがって! 殺してやる!」
そんな彼の怒りをよそに、フランクは上手く間合いを取って戦う。
「全員一旦陣形を崩すぞ。フランク、無理するな」
“大丈夫です。これくらい……”
フランクはビームライフルをしっかりと構えて、ジャンの機体頭部を放った光線で破壊する。
「しまったァ!! このままでは戦うにも戦いようがない……」
そして、そのままジャンは敗走していった。
時を同じくして、カイルはミルドレッドと激しい撃ち合いを行っていた。
しかし、その最中にお互いの機銃のエネルギーが切れ、接近戦をせざるを得なくなる。
「しつこい奴だ……。切り殺してやる!」
ミルドレッドはビームソードで勢いよく斬りかかる。
だが、この斬撃をカイルは上手く回避し、そこから彼は切り返す。
「ここで負けてたまるかよォ!!」
カイルは勢いよく斬りかかり、ミルドレッドの持っていたシールドを真っ二つに切断した。
さらに彼は、ミルドレッドに追い打ちをかけるように機体胸部を殴る。
「ウワァァッ!! このままだと……、死ぬ……」
ミルドレッドはそのまま撤収することとなった。
一方、ロバートはサロアと格闘戦を繰り広げていた。
サロアの素早い動きにロバートは苦戦するも、どうにか彼と互角に戦う。
「何て奴だ……」
サロアはロバートの執拗な攻撃に段々戦況を覆されていく。
「よし、動きは見切った! そこだァッ!!」
「何だとッ!?」
凄まじいスピードで斬りかかるロバート。だが、咄嗟にサロアはビームクローをX字に組んで防御した。
「させてたまるか! 俺はMk-Ⅱを撃墜してやる……」
「クソッ……、そうだ! もう一本のビームソードで……」
ロバートは即座にもう一本のビームソードを取り出し、サロアの機体右腕部に素早く突き刺した。
「まずい……。右腕が動かん! 撤収するしかないな」
サロアはこのままだと死ぬと悟り、そのまま敗走せざるを得なくなる。
その後、プログレッサー隊とストライカー隊は敵の小型艦に接近した。
「よし、パワードキャノン発射! 皆も援護頼むぞ!」
“了解!”
ロバートはパワードキャノンから彗星の様な光線を放つ。さらに、仲間の援護のおかげで小型艦を駆逐することに成功した。
「そんなァァァッ!!」
中にいたクルーは、艦共々宇宙の星屑と化したのだった。
それから間もなく帝国軍は撤収し、共和国軍は自分たちの持ち場を守り切った。
プログレッサー隊は木星に帰還してから、疲れを取るためすぐさま睡眠をとった。
これからはどんな激しい戦いが待ち受けているのか。彼らはそんな事を思いながら、いつか来るであろう平和な世界を夢見た。




