第19話 戦士としての誇り
10月28日、ドラギウス帝国軍では能力強化週間として軍全体で様々な種類の演習やトレーニングが行われていた。その中で、サロアは剣術訓練、射撃訓練、格闘訓練を一分の休憩を入れることなくこなしていたのだ。彼の部下が疲労困憊となっている中、ただ一人誰よりも敵軍に打ち勝つために厳しい訓練を自ら受けていた。
「サロア中尉、少しはお休みになった方が……」
ミルドレッドは無理強いをしているサロアを止めようとする。
「いや、止めないでくれ……。俺は自分のために敢えて休憩を取らないでいるんだ」
その時のサロアは、かなり切羽詰まった表情になっており、それを見てミルドレッドは今のサロアを止めるのは野暮だと察し、そのまま彼を思うようにさせた。
「いいんですか、ミルドレッド少尉。中尉をあのまま止めないなんて」
「いや、今のサロア中尉を止めたら逆効果じゃないかと思ってな……」
「でも、あのままじゃ中尉が体を壊す遠因を作ることになりますよ」
ロレントはサロアを放置することに対して危険視していた。
「あれでいいんだ。中尉は自分の好きなようにやっているんだからな」
二人は思わず少しの間沈黙する。
だが、そんな部下の心配をよそにその後も夕食時までサロアは訓練を続けたのだった。
一方、ロバートは以前のエルドラドとの戦いの影響でスランプ状態であり、部下達にとってもその様子は明らかであったのだ。それを裏付けるかのように、以前よりも射撃訓練の命中率が落ちていた。
“命中率ハ62パーセントデス”
「クソッ、また60パーセント台か……。これじゃエルドラドに勝つなんて無理だ!」
ロバートのその様子は、今までの自信に満ちた彼とは別人と言ってもいいほどである。
そんな彼を見てヘレンはどうにか励まそうとしたが、彼はどう見ても空元気に振舞っており、もう見ていられなかった。
「少佐……。大丈夫なんでしょうか」
独り言を言う彼女のもとにフランクとカイルが近寄る。
「ヘレンも同じことを思っていたのか。まぁ、当然だろうがな」
フランクはロバートを見つめて切なげな顔をした。
「ロバート少佐は今までに無いぐらい悩んでいる……、いや、見えない何かに苛まれているって言った方がいいか。あのままじゃいけないけど、今は少佐個人の問題だよな」
現状を悲観しつつあるカイル。彼は上司をどうにかしようと手段を考えたものの、心の問題だと悟った。
「でも……」
「俺もどうにかしようと思ったさ。だが、今は少佐が自分から心の状態を回復させていく事を祈るしかないのさ」
三人はリーダーのロバートを見守りつつ、これから立ち直れるかどうか心配する。
一方で、エルドラドは以前の戦闘で16機も撃墜した手柄を受け一階級昇進し、彼は鼻高々と言ってもいいはずであったが、どこか不満足であった。
「エルドラド大尉……、いや、少佐。何故不満そうな顔をしているのでしょうか?」
セルバードはふと気になり、そのように問いかける。
「いや……、昇進した事は誇りに思っているが、奴を仕留められなかった事に未練があってだな」
「あぁ、ロードブレイダーMk-Ⅱの事ですね」
「その通りだ。あと、あの機体のパイロットが同年代らしいと知ってからは俺はますます敵対意識を抱くようになった。奴を倒したいという一心で戦ったというのに……、俺は情けない」
エルドラドは思わず頭を抱えて目を閉じる。
「何を言っているんですか。少佐は名実ともにエースパイロットです」
「だが、俺はな……」
その後、エルドラドは休憩室を離れた。
それから四日後のこと、ドラギウス帝国軍は共和国軍の第2補給基地へと進軍を開始し、その道中で共和国軍の宙域防衛部隊と交戦するがすぐさま殲滅に成功。そして、本格的に戦闘が開始されたのだ。
「いいか、ミルドレッド、ジャン、ロレント。今回の作戦では遠方からの攻撃を仕掛けていくぞ」
“了解です”
こうして、戦いの火蓋は切られた。
「よし、まずは前方の防衛ライン突破だ。撃てェッ!!」
凄まじい勢いで光線は放たれていき、前方の防衛ラインはあっという間に叩き潰される。
だが、そこへとプログレッサー隊やストライカー隊などのこことは異なる基地にいる部隊が合流。
“ロバート少佐、今回はどうします?”
「ひとまず上空から地上の敵を狙い撃つ……、といった感じで行こうか」
“分かりました”
ロバート達は空中へと舞い上がり、地上をひたすら滑走する機動部隊に集中砲火を浴びせた。
「よし、この調子で地上部隊殲滅と行こう」
“了解!”
その後も矢継ぎ早にやって来る敵をすぐに撃墜していった。
だが、地上攻撃部隊が来なくなってからは空戦部隊との戦闘に移行。
一方、ストライカー隊は既に空戦部隊と交戦していた。圧倒的なまでの火力で帝国軍の部隊を全く寄せ付けない状態となっていた。
「ルーガン少尉、ひとまずここは我々が前方に出てお守りします!」
“それは頼もしいな、クローティス。では、任せたぞ”
そして、クローティス達三人は前方に出向いた。
「エリナ、リオ、とりあえずあの隊長機の取り巻きを撃墜するぞ!」
“分かったわ……”
“とりあえず行かなければどうしようもないわね”
エリナはすぐ肯定し、リオはやや焦りを感じている。
「来たぞ! 撃てェッ!!」
三人は一斉掃射で敵部隊を破竹の勢いで撃墜していった。
圧倒的火力を持つ敵を相手にしているのにも関わらず、彼らは怖気付いてはいなかったのだ。
「よし、中枢の方にいる部隊もこの調子で撃墜するぞ!」
“オーケー!”
そして、三人はサロア以外のレイダー隊の面々と対峙。
「のこのこと現れたか! よし、集中砲火だ!」
“了解!”
レイダー隊は上空で華麗な動きでクローティス達の攻撃を回避していった。そして、ここで大きく動いたのはジャンである。
「ビームバズーカで片付けてやるしかないな」
ジャンはビームバズーカをゆっくりと構えて光線を放つ。
「いきなり来るなんて……! キャアァァッ!」
なんとその攻撃は、リオの機体右腕部を吹き飛ばした。
これにより、彼女は撤収せざるを得なかった。この事を受けて、急遽ルーガンが残った二人の方へと合流。
「リオが撤収したのか……。ならばやるしかない!!」
ルーガンは機体を戦闘機形態に変形させ、上空に舞い上がった後にビームキャノンを下方空域にいるジャンに乱射したのだ。
「くっ……、何て激しい攻撃なんだ……!」
“ジャン、ここは俺が奴に立ち向かう!”
「ミルドレッド少尉、ありがとうございます……」
そして、ミルドレッドは己の機銃でルーガンを狙い撃つ。
「すばしっこい可変機め……」
「交代したみたいだな。でも負ける訳にはいかない!」
ルーガンは熾烈な攻撃を潜り抜け、そこから隙を突いて一発光線を放った。
「何ィッ! コンディションイエローと来たか。そっちがそう来るならこうだ!」
いつになく焦るミルドレッド。彼はさらにビームライフルを撃ち続ける。
「喰らえェッ!」
そこにルーガンはさらに集中砲火によってミルドレッドは機体に戦闘不能になる程度の損傷を負ったため、戦闘は困難となって撤収を余儀なくされた。
時を同じくして、エリナはロレントと遠距離戦を繰り広げていた。遠距離での戦闘においてはロレントが有利なはずであったが、エリナはどうにか彼と対等に戦えていた。
「すぐに俺の攻撃を避けていくなんて……。おのれェッ!!」
苛立ちを隠せずにいる彼は、スナイパーライフルで光線を乱射したが、エリナはその攻撃を鳥のように舞って回避していった。
「私はそう簡単にはやられないわ!」
さらにエリナは、自らの機銃を用いて光線を放ってロレントのスナイパーライフルを破壊することに成功。
これによりロレントは遠距離からの攻撃が出来なくなる。
「クソォッ!! よくも!」
ロレントはビームソードを構えてエリナの方へと突撃する。
「間合いを取らないと……」
エリナは即座に敵から遠ざかり、そこからビームライフルで光線を連射。
しかし、彼女のビームライフルのエネルギーは残りあと僅かとなっていた。
「あまり無駄撃ちはできそうにないわね……。でも……」
彼女はすぐさまビームを撃ってロレントの機体左腕部を破壊する。
「しまった!!」
「これで一気に近づいて……、ここで斬る!」
エリナはビームソードを取り出してロレントの機体右腕部を切断し、撤収にまで追い込んだ。
その一方で、ルーガンは部下たちに突破口を切り開いてもらったおかげで、サロアと対決することとなった。
「よし、あとはバドラスだけか……。何としても倒さないとな……」
ルーガンは折角のチャンスを生かすべく、よく戦法を考えた上で戦うことにした。
だが、その思考時間も僅かである。
「あれは……、共和国軍の新型機だな。コイツの息の根を止めれば後は雑魚共を蹴散らすだけだ」
サロアは、二門のビームキャノンから光線を放つ。
「敵が撃ってきたな。よし、ここでビームキャノンを撃とう」
目を凝らしたりレーダーをフル活用するなどして、サロアの居場所を突き止めて攻撃を行うルーガン。
しかし、その攻撃はいとも容易く回避されてしまった。だが、それでもルーガンはまだ諦めてはいない。
「やはりこの機体に乗れるほどのエースパイロットは動きからして違うな」
ルーガンはパイロットがどれほどの実力者か分析し、また考えをすぐに改めて攻撃を再開する。
「落ちろォ!!」
「ふん、馬鹿め」
サロアはすっかり余裕に満ちた表情で攻撃を再び回避した。
「ならば……、ここは距離をもっと詰め寄った方が良いかもしれないな」
ここでルーガンは遠距離だと攻撃して敵の方へ着弾するまでにタイムラグがあると考え、あえて近距離での攻撃をすることにした。
「これで決めるしかない!」
「馬鹿め! このまま格闘戦になれば俺の独壇場だ」
サロアは両腕のビームクローを展開。そして、彼は勢い良くルーガンの元へと急接近する。
「喰らうが良い!!」
なんと、サロアはルーガンの機体右腕部をビームクローで切断し、さらに蹴りを入れて遠方へと吹き飛ばした。あまりにも熾烈な攻撃で、流石のルーガンも勝てそうにないと考えて部下共々身を退いた。
その後、第2補給基地は施設の一部が半壊した状態でこの戦闘は幕を閉じた。
その後、第4前線基地へと帰還したルーガン達であったが、現状に納得がいかなかった。
「ルーガン隊長、どうしたんです?」
エリナは彼の表情を窺う。
「いや……、俺がバドラスに敗北した事について釈然としなくてな」
「まぁ、今まで勝っていた相手に負けてしまって悔しいというのは分かりますね」
「だからこそ、俺は次の戦いで必ず勝ちたいんだ。だから、訓練を今まで以上にしっかりやらないとな」
そして、ルーガンは休憩室から去った。
その一方でファルスト連合国軍は新たな可変メタルユニットの開発を急いでいた。
ガザードの開発時に使ったノウハウを生かして、より攻撃力の高い可変機を造るようだ。
「ガザードに次ぐ新型機の開発は順調か?」
ライエルはエンジニアの顔をじっと見つめて話す。
「はい、順調ですとも」
「そうか。期待しているぞ。この機体が我が国の発展のきっかけとなればいいが……」
果たして、その新型機はどれほどの性能なのか。ライエルはそればかりを気にしているように見える。




