第18話 エルドラド復活
10月16日、ドラギウス帝国軍はなんと、バドラスに次ぐ新たな可変機を開発していた。“ギルファー”といい、この機体の最大の特徴は、背面に装備されている大型ビームキャノン砲であり、また、肩の側面にあるハードポイントには二丁のビームライフルを取り付ける事が出来るのもこの機体の特徴の一つである。
この機体を授かる事になったのは、以前自身のスケイラスを撃墜されたエルドラドであり、彼はロードブレイダーMk-Ⅱに敗北したことに対し執念を燃やしており、この機体を受け取った時はニヤリと笑みを浮かべていた。
「頼んだぞ。この帝国軍の運命はお前が握っているんだ。憎き共和国軍や連合国軍を打ち倒すのだぞ」
「了解です、バルマーン長官。必ずやこの国家間戦争の勝利への扉を開いて見せます」
「それは頼もしいな……。期待しているぞ」
バルマーンは腕を組みながら薄っすらと笑う。その目は、彼への期待の眼差しに見えた。
一方、ジュピトリア共和国軍では対人型のバーチャル射撃訓練が行われていた。その訓練内容は、一対一で戦闘を行い、先に対戦相手を撃墜した方が勝ちというものである。
「ロバート少佐、ルーガン少尉、準備はよろしいですか?」
“もちろん準備オーケーだ、ヘレン”
“こっちも大丈夫だ”
二人はかなり自信に満ちた表情であった。
“では、只今よりロバート・ライアン少佐とルーガン・ライジェス少尉による対人バーチャル戦闘訓練を開始します。レディー、ゴー!”
オペレーターの掛け声から訓練が開始され、二人は操縦桿をしっかりと握り込んだ。
「よし、とりあえずコレで牽制するとしようか……」
ロバートは機銃でルーガンを牽制しようと試みる。
しかし、その攻撃をルーガンはあっさりと避けて見せた。
「危ないところだったな……。いきなり攻撃を仕掛けてくるものだから、驚いたな……」
焦燥に駆られるルーガン。彼は思わず汗をタオルで拭う。しかし、そこにロバートが彼に攻撃を仕掛けていく。
「まだか! まだやられないか!」
ロバートはひたすら遠距離から飛び回りながら光線を連射していく。その放った攻撃は二発ほどルーガンに当たったものの、盾で防がれてしまった。だが、ロバートはまだ諦めてはいなかった。彼はここから近距離戦を行うことにする。
「訓練でも、俺は容赦はしないぞ!」
“自分も同じであることをお忘れで?”
ルーガンはビームソードを勢いよく振りかざし、ロバートが装備していたシールドを真っ二つに斬る。
「ここで……、斬る!」
さらに追い打ちをかけるように、剣を使いもう一度素早く斬りかかっていく。
だが、ロバートはその攻撃を許すことなくビームソードでどうにか攻撃を鍔迫り合いをすることで防ぐ。
「させないぞ……! 必ずな」
「なかなかですね……。でも、この勝負、僕が貰いましたよ!」
ルーガンは鍔迫り合いの後に剣で押し返してから、さらにビームライフルでトドメを刺した事により、この訓練ではロバートが敗北。
バーチャルシステム筐体から出てきた時、ロバートは後輩の成長を嬉しく思っていた一方で、どこか切なげな表情をしていた。
「少佐……、次がありますよ」
「いや、気にしてないさ、カイル……」
「でも、顔に出てますよ。勝てなかったことへの悔しさが……」
カイルはまじまじとロバートの表情を見つめながら話す。
「カイル大尉、余計なことを言わないでくださいよ……」
「ヘレン、いいんだ……。俺は気にしてないから」
そして、ロバートは訓練場を一人だけ少し早く出ていった。
ロバートは一人休憩所で佇んでいた。そこに、フランクが彼を心配したのか駆けつけて来た。
「ロバート少佐、大丈夫ですか?」
フランクはとても心配そうな面持ちである。
「俺の事は気にしないでくれよ」
「でも、少佐、さっき落ち込んでいたじゃないですか……。それが心配で自分は……」
「そこまで気にかけてくれてたのか。それは嬉しいな。ありがとう…。でも、俺は立ち直りは早い方でな」
ロバートはすぐさまフランクの顔を見てから笑ってみせた。
「少佐……」
「俺は必ずまたルーガンに勝つ! ただそれだけさ」
とても気楽そうな顔つきをするロバート。それを見て、ルーガンもまた笑顔になった。
一方で、エルドラドはギルファーのテスト運用を終えて早速作戦会議を行っていた。そして五日後、その作戦は実行。ギルファーに乗り換えてから初めての戦闘では、連合国軍の宙域防衛部隊と一戦交え、結果は帝国軍側の圧倒的勝利に終わった。これを受け、連合国軍だけでなく共和国軍も厳戒態勢を置くこととなったのだ。ロバートは、このことを聞いてまたしても苦悶した。だが、今回は以前よりも立ち直りは早く、戦いに向けての覚悟は出来ているようである。
「ロバート少佐、例の件ですけど……」
「あぁ、とっくに聞いているさ、ヘレン。ありゃあどうやら可変機らしいな。連合国の連中も手を焼いたそうだが、この調子だと俺達も苦しめられることは間違いないな」
「でも、どうしてそこまで自信があるのです?」
ヘレンはどこか不思議そうな表情で見つめる。
「今回は、前回バドラスとの戦いを経てそれなりに対可変機戦のコツを掴めたような……、気がするだけだけどな」
「なるほど。そうなんですね……」
「あくまで気がするだけ……、だからな」
ロバートはそのように話すと、途端に精神面において何か引っ掛かる事があるような表情を見せる。
「まぁ、今までより自信があるって事はいいじゃないですか」
「そうだけどな……」
その後、ロバートは少し考え込んだのだった。
それからさらに三日後のこと、帝国軍はついにジュピトリア共和国軍第4前線基地に奇襲を仕掛けて来た。その奇襲部隊の中にはエルドラド率いるクラッシャー隊もいたのだ。ついに戦いの幕が切られることとなる。
プログレッサー隊の四人は、アタッカー隊と共に遠方から電撃戦を繰り広げていた。稲光にも似た光線が飛び交う中、緊迫した空気が流れる。
「カイル、フランク、ヘレン! ここは遠方からバズーカで攻撃しろ! 俺はパワードキャノンで奴らを討つ」
“了解”
ロバートはパワードキャノンの出力を丁度中間の所に設定し、遠距離から攻撃を行う。
「さぁ、どこからでも来い!」
「何だ!? ウワァァッ!!」
前方で攻撃を仕掛けていた敵は、相次いで命の花を散らす。
「少佐、このまま一気に全滅といきましょう!」
“それが一番だな、カイル……。上手く行くといいんだが……”
手に汗握る戦いの中、ロバートはひたすらパワードキャノンの引き金を引いて光線を放ち、敵を殲滅していく。
「この調子で行けば、敵を殲滅できそうだな……」
“ロバート少佐、フランクが被弾したようです……”
「何だと? カイル、本当か?」
ロバートは思わず驚いたものの、すぐにフランクの居場所をレーダーで探り、彼の居場所へと向かった。
「フランク、大丈夫か?」
“大丈夫です。たかが右肩に当たったくらい、どうってことはありませんよ”
「でも、無茶するなよ」
“はい”
フランクを援護するロバート。彼は、ひたすらパワードキャノンを撃ち続ける。そこにストライカー隊も駆け付け、戦況は好転していく。しかし、帝国軍はその程度で怯むほど甘くは無かった。
「よし、このままビームキャノンで殲滅するぞ! リオ、お前は俺と同行する。クローティスとエリナは地上で陸戦部隊と戦闘を行うこと。分かったな?」
“了解!”
ルーガンだけでなく、部下の三人も覚悟は出来ていた。これが激しい戦いになると。
「さてと、ここで戦闘機形態に変形して上昇っと……」
戦闘機形態になったガルディスはクローティスと共に上空に舞い上がり、空戦部隊に無数の光線を浴びせていく。しかし、既に空中にいた共和国軍の機動部隊は半数近くが撃墜されていた。
「まずいな……、こんなにやられていたとは……。何としても敵を撃墜するぞ!」
“了解! でも、どうします?”
「挟撃するのさ。俺とクローティスで挟み撃ちにしてやるまでだ」
“なるほど。では、そうしますか”
そして二人は、敵の死角を巧みに狙って敵機を撃墜していく。
「しまったァ! アァァッ!」
敵機の残骸は爆発四散し、そのまま黒い歪な塊となっていった。
その後もルーガン達は敵機を次々に撃墜していくものの、そこに暗雲が立ち込める。
何と、クラッシャー隊が後方から凄まじい速さで接近してきたのだ。また、ルーガンはギルファーを見て驚嘆する。
「あれは……、帝国の新型か?」
「ほう……、共和国の新型機に出くわすとは……」
エルドラドもまた、ほのかに心を高ぶらせて背面のビームキャノンを使い、火柱のような光線を撃つ。
これにより、ルーガンは機体に大きな損傷を負うこととなった。
「ヌワァァッ!! 機体のコンディションレッドだと!?」
“ルーガン少尉、大丈夫ですか?”
「済まない、俺は撤収する……。ここはクローティスに指揮を任せる事にするぞ。エリナとリオを任せたぞ」
“分かりました”
そして、ルーガンは撤収を余儀なくされた。そこにロバート達が合流。クローティスは藁にもすがる思いでロバートに援護を依頼した。
「ロバート少佐! 援護をお願いします。このままだと危ういので……」
“了解だ。クローティス、ここは俺たちに任せな”
ロバートは気合に満ちた表情でその持ち場に就いた。
後方にはカイル達三人もおり、火力は十分かと思われたがそれは早計であった。
何と、エルドラドの駆るギルファーは火力が従来のメタルユニットよりもはるかに高く、その上ビームシールドも搭載しており、シールドを破壊して防御手段を無くすといった事もしにくい。故に、プログレッサー隊は苦戦を強いられた。
「まずいな……、セルバード、ヴィラーガ、メルダ、ロバートの撃墜をするよう頼むぞ」
“了解……、お任せを”
ヴィラーガはニヤリと大胆不敵に笑みを浮かべた。
そして、彼は真っ先にビームライフルを素早い動作で撃つ。
「落ちるがいい!」
しかし、ロバートはすぐさま回避した。彼はエネルギーが残り少ないパワードキャノンを撃ち、稲光のような光線でヴィラーガの機体右腕部を吹き飛ばした。
「ウワァァッ!! しまったァ!」
ヴィラーガはこのままではまともに戦えないと察知し、すぐさま撤退する事になった。
「よくもヴィラーガを……、おのれェ!!」
そこに、ヘレンが機銃を使って光線を連射する。
「させませんよ! 何があろうと、少佐の命は守って見せます!」
“ヘレン……、助かるぜ”
「俺もヘレンを守る……。戦いは助け合いも大事ってね!」
“少佐……”
ヘレンはどこか安堵した表情になるが、すぐさまビジョン越しに敵機を見て睨む。
そこからビームライフルで攻撃する。
「何をォッ、させるかよ……!!」
セルバードはビームソードを取り出し、光線をシールドで防ぎながら急接近する。
「来たわね……!」
すぐさま臨機応変に対応するヘレン。だが、接近戦のポテンシャルに関してはセルバードが上である。
そのような相手に対しても、彼女は怖気付く事は無い。
「何だコイツ……、ふてぶてしいぞ!」
「私は……、絶対に負けたりはしない!」
ヘレンは自らの剣でセルバードの機体右腕部、左脚部を素早く斬り落とす。
これにより、セルバードもまたこの場を離れなくてはならなくなった。
一方、カイルとフランクは、メルダや他の敵機を相手に遠距離攻撃を行っていた。
しかし、この戦いは埒が明かない長期戦となりつつあったのだ。
「クソォ、どうすりゃいいんだ! これほどの敵を倒せるのか?」
カイルは勝てるかどうか懐疑的になりつつある。
“カイル大尉、援護が来たようですよ”
「本当か? フランク」
“はい、どうやらストライカー隊の二人のようです”
それを聞いたカイルは僅かに安心するが、それでも切迫した空気は変わらない。
“カイル大尉、ここは我々も援護します!”
「ありがとう。助かったぜ、リオ!」
カイルは画面越しにサムズアップをした後、すぐに再び操縦桿を握り締めた。
“我々もお忘れなく!”
“ちょっとエリナ、出しゃばらないの”
エリナとリオは、急遽クローティスが援護に来るように呼ばれていたのだ。
「とりあえずこれで一斉掃射だ!」
“了解!”
彼らは一斉掃射を行い、敵軍の機体を次々に撃墜していった。だが、それにメルダは猛反撃に出た。
「仲間をこれ以上やらせはしないわよ!」
ビームライフルを使い、攻撃を行うメルダ。しかし、カイルが彼女の元に接近し、勢いよく斬りかかる。
「喰らえェェッ!」
カイルは力強い声で叫ぶ。
しかし、メルダはこの斬撃をシールドで防ぐ。
「死ぬ訳にはいかないわよ……」
彼女はそのまま蹴り技を繰り出し、カイルの機体を弾き飛ばす。
「何だとォォッ!?」
カイルはすぐさま機体の姿勢を立て直し、再び斬りかかる。
「この野郎ォォッ!!」
彼の斬撃は先程より勢いが増し、これによりメルダの機体右腕部は切断された。
その後、彼女は渋々この場から去ることになる。
時を同じくして、ロバートとエルドラドは熾烈な戦いを繰り広げていた。
この戦いでは、性能面で有利であるエルドラドが優位に立っており、ロバートは苦戦を強いられていた。
「何て攻撃能力なんだ……。これが新型機の力かよ……」
ロバートは冷や汗握るドッグファイトに苛まれている。最早このままでは勝てないと思っていた。
「コイツめ……、殺してやるッ!!」
エルドラドは肩部にマウントされたビームライフルを用いて光線を放つ。
「何ィッ!?」
ロバートはウイング部分を損傷し、一旦少し下の空域へと降りて人型形態に変形。
「よくも……、コレで決める!」
ロバートはビームソードを使い速攻で斬りかかる。
「まだまだ攻撃は止めない!」
エルドラドは背面のビームキャノンを使い、鮮血に似た色の光線を放つ。
この攻撃をもろに喰らってしまったロバートは、そのまま気絶し、地上に落下。
「ロバート少佐!!」
ヘレンはエルドラドとは別の敵を倒してからロバートの元に駆け付けた。
それから暫く経ち、第4前線基地は3割ほど被害を受けた状態で戦闘は終了。
ロバートは救護室に運び込まれ、その後目を覚ました。
「少佐……、少佐!!」
「うっ……、ヘレン……。それに、フランク、カイルも……。来てくれたんだな」
ベッドから体を起こすロバート。彼は立ち上がるが、少し倒れそうになる。
「ロバート少佐、無理しないでください」
「俺のロードブレイダーMk-Ⅱは?」
ロバートは体が少し震えた状態で話す。
「共和国軍の輸送部隊が回収しました。幸いそれほど損傷は無かったようです」
「そうか……」
彼は安心するも、釈然としない表情であった。それもそのはず、ロバートはエルドラドに実質敗北したのだ。その気持ち故に、彼は少しの間立ち直れなかったという。
果たして、再びエルドラドに打ち勝つことは出来るのだろうか。部下たちが見つめる中、ロバートは落ち込んだ表情を見せた。




