第17話 月からのSOS
10月3日、共和国軍の戦闘部隊は総合演習を終えて休憩をしていた。その中で、ロバートとルーガンは缶コーヒーを飲みつつ談話室でくつろぐ。
「しかし疲れたな……。ルーガンはどうだ?」
「自分も疲れましたよ。もうすっかり筋肉痛になってそうで怖いです」
ルーガンはすっかり疲れ切った表情をしており、椅子にもたれかかっている。
「話は急に変わるが、ルーガンはなんで軍に入ったんだ?」
「えっ……、それはですね、自分の父も元々地球軍で軍隊に所属していて、そんな父に憧れを抱くようになったんです。軍に入ると決意したのは12歳の頃でした。あの時からがむしゃらに軍に入るために必死に勉学や訓練に励みました。時折父がアドバイスをくれることもあって、尚更頑張る気になれました」
「なるほどな……。ルーガンの親父さんがきっかけってことか」
ロバートは腕を組みながら考えることにふけった。
「そういう大尉こそ、何故軍に入ったのです?」
「俺か? 俺はこの世界を戦争のない平和な世界にしたいからこの軍に入ったんだ。無謀な事かもしれないけど、やれることはやろうって誓ったんだよ。自分の心の中でな」
「そうだったんですね」
ルーガンは興味深そうに彼の事をじっと見つめる。
「まぁ、きっかけってのは人それぞれじゃないか。当たり前だけど」
二人が話をしていると、そこにカイルが通りかかった。
「あっ、ロバート大尉。お疲れ様です」
「こちらこそお疲れ、カイル」
ロバートはカイルに微笑んで見せた。
「ルーガンも疲れただろ。ほら、これやるよ」
カイルはルーガンにガムを手渡した。
「これでも嚙んでスッキリするといいさ」
「あ、ありがとうございます、カイル中尉」
ルーガンの表情はとてもにこやかである。何故なら、ルーガンが貰ったガムは自分の好きなミント味であったからである。
「大尉もガムはいかがですか?」
「俺はいいよ。缶コーヒーだけで十分さ」
「そうですか。分かりました。じゃあまた後でお会いしましょう」
そして、カイルは自分の部屋へと戻っていった。
一方、フランクとヘレンは少し休憩をしてから、戦闘データの整理を行っていた。
「えっと、これはこのフォルダに保存しておきましょう……」
ヘレンはひたすらキーボードを打ち続けている。画面には敵軍のメタルユニットのソリッドモデルが表示されていた。帝国軍のグライズやスケイラス、バドラスや連合国軍のアゾムに加えて新たにガザードとの戦闘記録も書き加えられる。
「ヘレン、そっちはどれぐらい終わったか?」
「私はもう半分以上は書き終えたと思います。少尉はどうですか?」
「こっちはかなり進んでいるって感じだな。少し手伝おう」
フランクは自身の取り扱っているコンピュータにヘレンの使っていたデータを一部移植し、作業を続行した。
「ありがとうございます……。いつも助けられてばかりですみません……」
ヘレンは申し訳なさそうな表情を見せる。
「気にするな。ヘレンの整理するデータは残り少ないはずだから頑張れよ」
「はい」
その後も、二人は戦闘データの整理作業を続けたのだった。
一方、帝国軍・レイダー隊を筆頭とした機動部隊はとある場所へと向かおうとしていた。その場所と言うのは、木星に鉱産資源を輸出している月面基地である。これに気付いた共和国軍の偵察部隊は秘密裏に本部へと連絡を行い、交戦することなくひっそりとレーダーの範囲外から追尾する。さらに、この事はプログレッサー隊に伝えられ、僅か四人で急遽向かうこととなった。
「まさか月に向かうだなんてな……。間に合うのか?」
「まぁ、帝国の方が先に向かっているとはいえど、距離の差は五十歩百歩ですよ」
フランクは焦りを感じていたカイルを安堵させようとする。
だが、フランクも彼なりに焦燥に駆られていた。
「フランクも不安そうだが……」
ロバートは彼のことを気にかけて言葉がけをする。
「まさかこんな事になるとは……。輸送機で行くとはいえ、戦力が月面の護衛部隊や偵察部隊と我々のみというのはちょっと……」
「まぁ、俺も不安さ……。でも、戦況がどう流転するかはわからないからな。ひとまず、あまり緊張しすぎないようにな」
「はい……」
フランクは少々暗い面持ちで下を向いていた。
「少尉、下を向いていては……」
「分かっているさ、ヘレン。俺も悩んではいるが、やらなくちゃいけないことは十分承知だ」
彼も彼なりに悩んでいるのだと悟ったヘレンであった。
それから二日程経過し、帝国軍がいち早く月の宙域へと到着し、月の周辺を巡回していた護衛部隊と激しい電撃戦を繰り広げる事態となる。
「何だ……? 嘘だろ!? 木星のドラギウスの連中が来やがった! 目的は一体何だって言うんだ……」
月の兵士達は戸惑いながらもこの戦闘に出向く。戦力では圧倒的に月の部隊が有利であるにも関わらず、帝国軍は一気に護衛部隊をみるみるうちに殲滅していく。だが、遅れて到着した共和国軍偵察部隊がスペースデブリの影からスナイパーライフルで狙い撃つ。
「そこだッ!! 落ちろ!」
何とか偵察部隊は当初こそ善戦するが、武装の乏しさが仇となってか、帝国軍はあっという間に次々と撃墜していった。最早、彼らに敵はいないのだろうか。そう思われた時であった。
「何だ!? まだ援軍がいるとでも……!?」
月面基地護衛艦隊に加勢したプログレッサー隊は、敵部隊に対し集中砲火を浴びせた。ロバートの放つ雷に似た光線は、群がる敵機を一瞬で撃墜していく。
しかし、その隙を狙ってロレントが遠方より狙撃する。
「落ちろ……、Mk-Ⅱ!!」
その攻撃により、ロバートが使っていたパワードキャノンは破損し、光線の威力が落ちていった末に使用不可能となった。だが、ロバートはそれでも怯む事は無い。
「誰かが俺を……、狙っているだと!?」
“ロバート大尉、ここは自分が探り出します”
「分かった、フランク…。頼んだぞ」
そして、フランクは機体のレーダーで遠方の敵を炙り出す。探知した事でロレントの機体はすぐさま発見され、そのままフランクと一戦交える事となった。
「しまった! 見つかったか……。ならば手始めにこれを!」
ロレントはすぐさま小型誘導機雷で攻撃を始める。
「かかったな……。 自分から居場所を教えるなんて……」
どこか違和感を抱いたものの、フランクはそのまま敵のいる方へ接近。そして、中距離射撃を開始した。
ビームライフルで応戦するフランクだったが、ロレントは彼の放つ光線を蝶のように舞って避けていく。あまりの素早さに翻弄され、フランクは思わず狼狽える。
「素早い……、やはり月面護衛部隊と善戦した敵が相手じゃ無理か……。いや、そんなはずは無い」
フランクは、自分にも勝機はあると心の中で言い聞かせ、上手く狙い撃とうと何度も試みる。しかし、ここでビームライフルのエネルギーが残り僅かとなり、フランクに重いプレッシャーがのしかかって来る。
「くっ……、これでもう無駄撃ちは出来そうにないな。よし、確実に仕留めに行こう……」
「ん? 急に弾を撃ってこなくなったようだが……、さては!」
この状況下からフランクのビームライフルのエネルギーが残り僅かではないかと察したロレントは、彼に猛攻を浴びせてくる。これには流石にフランクも耐えかねたのか、ついに光線を一発放つ。
「落ちろォ!」
流星にも似た光線は、ロレントの機体右肩部を貫通した。これを受けてロレントは撤収せざるを得なくなったとはいえ、しかしながら敵はまだいるため、援護に駆け付けることとなる。
一方、カイルとヘレンは月面護衛部隊と共に、ミルドレッドとジャンやその他の部隊を相手に一戦交えていた。閃光が飛び交う中、カイルは宙に漂うスペースデブリを上手く盾にしながら帝国軍の機体を一機ずつ確実に仕留めていく。
「クソッ、なかなかしぶといな……」
カイルは果敢に攻撃できないことに苛立ちを覚えながらも光線を放つ。
“カイル中尉、帝国軍の軽巡洋艦が一隻接近しているようです……。どうします?”
「仕方ない、ならその敵艦の討伐に出向こう……」
“でも、敵の機体は数機残っていますが……”
「なら全員落とすまでよ!」
そして、カイルは今までスペースデブリの陰に隠れていたが、その時を境に自ら囮となった。
「カイル中尉!! 気を付けてくださいね」
“ヘレンも援護頼むぜ”
「了解!」
そして、共和国軍や月面護衛部隊を相手に、帝国軍は一斉掃射を開始したが、次第に帝国軍側が不利な状況になっていく。これには流石のミルドレッドとジャンもさらなる猛攻を仕掛けざるを得なくなる。
「ジャン、前方にいる敵に集中砲火だ!」
“了解です。行くとしますか…”
二人は、後方にいた味方の兵士と共に集中砲火を浴びせる事にした。これによって、月面護衛艦隊はジワジワと撃墜され始める。
「これは……、状況を鑑みると危ないのでは?」
“確かにそうだな、ヘレン……。このまま戦況を逆転できるかどうかが問題じゃないか?”
「うぅん……、まぁ、そうですが、ここでこの不利な戦況に抗えるのでしょうか…」
ヘレンは画面越しでも分かるくらい顔が青ざめていた。
“とりあえず、あえて前方に出てやってみるしかないだろう!”
「はい!」
カイルは、接近戦でジャンに詰め寄る。互いの刃はどちらも一歩も譲らない状況であった。
「このォ!」
ジャンの機体をビジョン越しに睨むカイル。彼は絶対に負けたくはないという思いが表情からも明白であった。
「俺がこの程度で負けるものか!」
さらにジャンはビームソードで拮抗している時に、グレネードを取り出してカイルの方に投げつけた。これが良い目つぶしとなったのか、カイルは一瞬ではあるものの怯んでしまい、攻撃を許してしまう。
「トドメだァッ!!」
「させませんよ!」
そこに救いの手を差し伸べたのは、ヘレンである。
「ヘレン、助かったぜ!」
“今がチャンスです! 早く!”
「オーケー! よぉし、これで……、やってやる!」
カイルは、ジャンの機体右腕部を切断。これにより、ジャンは撤収を余儀なくされた。
「今の援護射撃良かったぜ、ヘレン!」
“ありがとうございます。でもまだ敵が……”
「なら、徹底的に潰すまでさ」
そして、カイルはビームライフルを撃ち、的確に敵機を撃墜していく。
しかし、そこにミルドレッドが彼の妨害を始める。
「よくもジャンを追い詰めたな…、俺が倒そう」
しかし、カイルを守るべくヘレンが動く。
「ここは私に任せてください! カイル中尉は遠方の敵を撃ち続けてくださいね」
“それは助かるぜ。毎度毎度済まないな”
「礼はいいですよ」
ヘレンとミルドレッドはビームライフルを撃ち合い、凄まじい電撃戦を繰り広げる。
「何てすばしっこいの……。スピードが速いわ!」
「まるで当たらんな……。ならば近寄らざるを得ない訳か」
ミルドレッドは少しずつではあるものの、距離を詰めていった。
「近づいてきた……。これではやられる一方ね。でも……、負けてなんかいられないわ」
ヘレンはややネガティブな気持ちになっていたものの、どうにか戦いに勝とうと自身を鼓舞した。
「さぁ、落ちろ、落ちろォォッ!!」
「この一発で決めます!」
彼女は機銃の引き金をここぞという所で引き、光線を放った。これにより、ミルドレッドの機体左肩部を損傷してしまう。
「くッ……、これはまずいな! ならば速攻で片付けてくれる!」
ミルドレッドは凄まじいスピードで空中を動き回りながら光線を乱射する。
「何て火力、間合いを取らなければ……」
慎重な対応で敵の攻撃を回避するヘレン。彼女は既に彼女なりの考えがあった。それは、上手く月面護衛部隊が群がっている方へと引き付けるという戦法である。
「このまま集中砲火を浴びせて……、殲滅、というわけでね」
彼女の考えは上手くいき、ミルドレッドはあれよあれよと罠にかけられていく。
「何だ……、何だっていうんだ……!」
ミルドレッドは月面部隊の攻撃で数発被弾し、怯んでしまう。
さらに、その隙にヘレンはビームライフルを数発連射し、これによりミルドレッドは戦闘不能にまで追い込まれ、撤収を余儀なくされる。
「よくやったぞ、ヘレン! このままロバート大尉のいる方に合流だ」
“分かりました”
こうして、二人はロバートのいる方へと向かった。
一方、ロバートはサロアと交戦しており、激しい光線の撃ち合いによって互いに機体の損傷は激しかった。ロバートはこのままでは埒が明かないと思ったのか、果敢にも接近戦に挑む。
「この剣で……、決めてやる!」
「近づいてくるとは……、迂闊な!」
サロアはビームクローを展開し、ロバートの斬撃を防ぐ。
「クッソォ……、俺がこのまま食い下がるなんて……、やらせはせん!」
さらに彼を追い詰めるかのように、カイル、フランク、ヘレンが合流し、集中砲火を浴びせていき、この攻撃により機体はかなりの損傷を負う事態になる。
「大尉! 大丈夫ですか!?」
“フランク、それに皆来てくれたのか!”
「これは部下として当たり前の役割ですからね。何としても大尉を守って見せます」
“ありがとう……”
ロバートは嬉しさ故に笑顔を見せるが、そのような暇は無い。
「何としても……、倒してやる!」
一旦距離を置いたロバートは、両手に握ったビームキャノンで光線を連射していく。
この攻撃でサロアの機体右腕部を破壊され、撤収せざるを得なくなる。
「大尉! やりましたね」
“あぁ、どうにかなったが、撃墜出来なかったのがな……。毎度思うんだ……”
「まぁ、敵部隊も完全撤収するようですし、そこは結果オーライということで……」
“そうだな、カイル”
そして、プログレッサー隊は月面護衛部隊と別れて、約二日で木星に帰還。
この月面護衛部隊の全滅を回避した事はロジオン長官の耳にも入り、この功績を受けてプログレッサー隊は全員一階級昇級となった。しかし、それも束の間、帝国軍では裏で新型可変メタルユニットの最終調整を行っていた。果たして、この新型機がどう運命を動かすか。




