第16話 第4の可変機
9月20日、ファルスト連合国軍にて、ついに初の可変メタルユニット“ガザード”が完成した。この機体には世界初の試みとも言えるビームシールドシステムの搭載がされている。ビームシールドは、通常のアンチビームコーティングを施した実体のシールドとは異なり、破壊されるリスクがほぼ無いという点があり、連合国軍はこのシステムの開発に難航し、苦労の末どうにかこの“ガザード”に搭載することが出来た。そして、この機体に乗ることになったのは、スプリンター隊のマリーである。
「マリー・フォルトよ、この度、君にはこのガザードに乗ってもらいたい。今日と明日の二日間でテスト運用をすれば、すぐに使いこなせるだろう。任せたぞ……」
「分かりました……。きっと乗りこなして見せます」
マリーはニヤリと笑みを浮かべながら話す。
数時間後、何度かのスタンバイの末に彼女はガザードのテスト運用を開始。
その時の彼女は意気揚々としている表情であった。
「フフッ、操縦システムは基本的に変わらないようね。これが変形用シフトレバーね。思ったよりも操作は簡単に出来そうね」
そして、マリーは格納庫から出動。戦闘機形態で宙返りなどをして見せた。
「なかなか面白いじゃない……。私を楽しませてくれそうね」
その次に彼女は機体を人型形態に変形させて地上の滑走路にゆっくりと降り立つ。
“マリー、どうだね”
ライエルは画面越しにマリーを見守る。
「すぐに乗りこなせそうですね、ライエル長官」
“それは良かった。何しろこの機体は我が国の中でもトップクラスの技術を誇るソーカルテックが開発した最上級の性能の持ち主だからな。頼んだぞ”
「はい」
それからさらに一週間後のこと、スプリンター隊を筆頭とする部隊が帝国軍の機動部隊を迎え撃った。
「私たちの基地は渡さないわ…」
マリーはかなり強気な面貌である。
“この基地は必ず守り抜きましょう……”
キャロルは焦りながらも、力強く拳を握った。
「そうね……」
マリーは僅かに微笑みながら操縦桿をゆっくりと掴む。
そして、彼女たちの機体のカメラには帝国軍の機動部隊が映った。
「敵機発見! 横一文字で撃ち落とすわよ!」
“了解!”
そして、連合国軍の部隊は一斉掃射を行い、敵機動部隊を次々に撃墜していく。
この攻撃に帝国軍の兵士達は思わず挫けそうになるが、それでも戦闘を続行した。
「落ちろォォッ!!」
「させるもんですか!」
マリーは電光石火の如き動作でビームソードを取り出し、接近戦を仕掛けてきた敵の攻撃を己の剣の刃で防いだ。互いの刃はどちらも拮抗する。そこで、マリーは一旦遠ざかって攻撃を仕掛けることにした。
「これで撃つわ!」
マリーの握るビームライフルから光線が放たれる。この攻撃で敵機は一部損傷を負った。そこからさらに彼女は敵に追討ちを掛けるように攻撃をしていく。
「まだ引き下がらないの? 無駄なのよ……、そんなこと!」
彼女は敵機に対しビームソードで斬りかかり、真っ二つにした。機体は爆発四散し、破片が一瞬で塵と化す。彼女達はその後も圧倒的な強さを見せつけ、機動部隊を僅か一時間弱で全滅させた。
「しかし……、しぶとい連中だったわね。まぁ、今の私たちにとってはそんなの問題じゃないけれど」
“えぇ、そうですね。これもマリー少尉のおかげでしょう”
マリーはライナとやり取りをした後、基地へと帰還した。
この戦いにおいての勝利は、翌日には木星各国のメディアにて大々的に報道されたこのニュースは、ファルスト連合国の国民を鼓舞させ、他国の人々を震え上がらせた。
この情報は、共和国軍にも当然ながら驚嘆の嵐を巻き起こした。
ロバートは今まで連合国軍が可変機の開発をしていたことを全く知らなかったため、今後の戦いにおいてどうすべきか苦悶することになった。
「まさか連合の奴らも可変機を開発していたなんて……。俺、これからどうすればいいんだ…」
彼の顔は鬱屈としていた。そんな顔をしている彼の近くにアモンが通りかかる。
「ん? ロバート、どうしたんだ…。そんな顔して……」
「俺、怖いんです……。もし連合の新型機と戦うとしたら、死ぬかもしれないなんて思って…」
その顔を見て、アモンはいつもと違う雰囲気のロバートに僅かながら驚く。
「なんだよ……。お前らしくねぇじゃねぇか。普段だったらもっと強気なはずだろ? 何ていうか、いつものお前と比べてポジティブな考え方が出来てないっていうか……」
「まぁ、そう見えても無理は無いですよね。いつもの俺ってすっごいポジティブじゃないですか。その精神状態を例の新型可変機のニュースですっかり打ちひしがれてしまった……、というか……。そんな感じで今に至る訳なんです。どうすればいいでしょうか……」
「どうすればいいか? それは簡単だ。今まで通りのお前を貫き通していけばいいんだよ。いきなり弱気になってどうするんだよ。このままじゃ部下に示しが付かないぞ。お前のポジティブさと強気さのおかげでここまで引っ張って来れたんだろ。だったら、引き下がるな! 常に前を突き進んでいけ!」
その言葉に肩を押されて、ロバートは目が覚めた。そう、彼はまた今までの強気な態度を取り戻そうと考えたのだ。
「はい、分かりました。自分なりにまた今までの戦い方が出来るように頑張ります。アドバイスありがとうございました」
「いいってことよ。俺は大したこと言ってないぞ」
スッと立ち上がったロバートは、アモンに一旦別れを告げて個室に戻った。
それから数時間後に、連合国軍が第4前線基地へと進軍を開始。これにより、周辺にいた共和国軍偵察部隊経由で情報が基地の方に伝わり、出撃命令が出された。そんな中でロバート達は唐突な命令に緊迫しつつも出撃。こうして、激闘が始まる。
共和国軍は、襲いかかって来る連合国軍に対して一斉掃射で撃墜していくことを第一目標とした。
「早いところ片付けちまおうぜ!」
エネルギッシュな顔つきで敵に挑もうとするアモン。
彼はかなり自信に満ち溢れていた。
「了解です、アモン大佐」
先陣を切ったのはアタッカー隊である。彼らはバズーカで凄まじい火力に物を言わせて敵軍を圧倒した。
「エストル、ラディム、お前たちは後方に下がりつつ敵機を撃て! 近づけば近づくほど狙われやすくなる! 気を付けろよ」
“了解です”
冷静な表情でエストルは光線を撃ち放って敵を撃墜していく。しかし、その攻撃を回避する敵も現れ、エストルの元を強襲。この攻撃でエストルは機体肩部に傷を付けられる。
「クソォッ!!」
“エストル、大丈夫か?”
ラディムがその様子に見かねて援護射撃を行い、彼はエストルを襲った敵機を撃墜。
「ラディム、ありがとう…。助かったぜ」
“礼はいらない。俺たちは昔からの仲だろ?”
「まぁ、そうだな。お互い助け合いが大事…、おっと、今は話している場合は無いな。さぁ、とりあえず現状維持といこう」
その後もアタッカー隊は遠距離攻撃で敵を次々に撃墜していく。
一方で、ストライカー隊は地上にある滑走路エリアにて激しい防衛戦を繰り広げていた。
「来たか……。これで落とす!」
ルーガンはビームキャノンで敵機を一瞬で撃墜する。
“ルーガン隊長、敵の数が多すぎます……。どうしますか?”
エリナはかなり不安げな顔つきであった。
「援軍を呼ぼう。何もしないよりはマシさ」
“そうですね……”
そして、エリナは援軍要請を他の部隊に出す。しかし、無情にも敵は増えていく一方。彼らは苦戦を強いられた。
「このままじゃまずい! 俺が戦闘機形態に変形して空中から砲撃を浴びせる!」
“でも、それって囮になるって事ですよね……。気を付けてくださいね”
「分かってるさ。必ずやって見せる」
ルーガンは機体を戦闘機形態に変形し、空中へと舞い上がってから地上にいる部隊を一掃していく。
それに加勢したのは、クローティス達三人である。
「俺達だって……、負けてられるかよ!」
ビームライフルを用いて次々に光線を放っていき、敵機はこれに直撃し爆発四散する。
そんな中、ようやく援軍としてロバート達が急遽別のエリアから合流した。
「ルーガン、大丈夫か?」
“ロバート大尉! 来てくれたんですね”
「当たり前だ。お前たちが苦戦してるなんて聞いたら居ても立っても居られなくてな」
この時のロバートはアモンの言葉を受けて本調子に戻っていた。彼はルーガンの元に駆け、少々慌てつつも援護射撃を行った。
「クソッ……、こんな時にパワードキャノンが使えたらな……。修理中なんてついてないな」
彼はいつも通りの戦法が使えないことに文句を言いつつも、的確な動作で敵を狙い撃っていく。
“大尉、このまま早いところ片付けましょう”
「その方が良いな、カイル」
こうして、プログレッサー隊の協力もあり、滑走路エリアを襲撃していた部隊を全滅させることに成功した。その後、彼らはアモン達からの援軍要請を受けて前線エリアへと向かっていく。
その一方で、アタッカー隊はスプリンター隊と交戦していたが、かなりの苦戦を強いられていた。それもそのはず、マリーが駆るガザードは防御力が高く、その上機動性にも優れており、熟練兵のアモンですら不利な状況下に置かれていたのだ。
「この機体……、ビームを使ってシールドを形成している……。初めて見る機体だけあってとんでもないのを積んでるようだな」
“そのようですね……”
ラディムはこの状況を絶望視していた。
「アモン大佐! 援護します……」
そんな中、ロバート達が合流した。彼らの姿を確認した時、アタッカー隊一同は安堵した。とはいえ、油断は出来なかったため機銃を撃ち続けることを強いられる。この事態を好転出来るか。それはロバート達に託された。
「あれは、新型機か! 例え相手が新型でも俺たちは負けない……、必ずな!」
“その通りですよ。強い意志を持っていれば……、必ず!”
ロバートとカイルは自らマリーを接近戦に持ち込み、何とかして勝利しようと試みる。
「喰らえェェッ!」
「来た!?」
マリーは唐突な攻撃に驚嘆しながらもどうにかビームシールドで防いだ。
だが、二人は諦めることは無かった。さらに、彼らに応えるかのような形でストライカー隊も援護射撃を行う。その中でも、ストライカー隊のルーガンとリオは果敢にも中距離戦で敵に挑んだ。
「ルーガン、リオ、助かるぜ!」
“自分たちも負けちゃあいられませんからね”
“私だって、ルーガン隊長に……”
二人の攻撃に苦しんだマリーは、キャロル達に自分を守るように指示を出した。
「隊長を……、守らないと……」
震える手で操縦桿をしっかりと握るキャロル。彼女も彼女なりに果敢に戦いに挑んでいたのだ。
「何て火力……、ウワァッ!!」
クローティスは機体胴部に被弾し、撤収を余儀なくされた。
“クローティスが撤収したみたいだな……、行くぞ、ヘレン!”
「了解!」
フランクとヘレンは、クローティスを撤収に追い込んだキャロルを挟撃することにした。
“リオ、お前も頼むぞ”
「はい、ルーガン隊長!」
ルーガンも加勢し、キャロルに空中から集中砲火を浴びせていく。
「あぁ……、このままじゃ……、でもこれも少尉を守るため!」
キャロルは凄まじい攻撃に耐えるも、シールドを破壊され、その上機体の損傷が激しかった故に隙を狙ってどうにか踵を返していった。
「逃げたか……、よし、ターゲットを変えるぞ」
“了解、ルーガン隊長”
ルーガンとリオは、エリナと共に三人でリノとライナを挟撃しようと試みる。
「上手く死角に潜り込むんだ! 何としても倒すぞ!」
“分かりました”
エリナは機銃をただがむしゃらに撃ち続ける訳でもなく、丁寧に一発ずつ撃っていく。
「フフッ、やるわね……」
ライナはすぐさまビームソードを取り出して、一気に近づいて斬りかかる。
「落ちなさい!」
「近づいてきた……!!」
しかし、エリナを守るべく、ヘレンが遠方から射撃を行う。
そして、それに気づいたライナは、次にヘレンを撃墜しようとした。
「邪魔者はどうなるか……、お分かりですね?」
冷淡な表情でヘレンに斬りかかるライナ。
「させないわ!」
しかし、ヘレンは即座に急所を機銃で狙い撃った。
この攻撃でライナは戦闘が困難となり、撤収を余儀なくされた。
そして、マリーの護衛は残すところリノのみとなった。フランクは彼女に対し機銃で光線を連射。
「このォッ!! 落ちろ!」
「何よ! しつこいわね……。絶対撃墜してみせるわ……」
リノは真っ直ぐに腕を伸ばして射撃を行う。だが、ルーガンはこの攻撃を回避できずに被弾してしまう。
“機体右肩部ニ損傷アリ。注意シテ下サイ”
「くっ……、このままじゃ……」
フランクがピンチの中現れたのは、ルーガンであった。彼は戦闘機形態で旋回しながら光線を撃ち放っていく。
「来たわね……、新型ァ!」
リノも負けじと遠距離攻撃を行うも、ルーガンはすぐさま回避して距離を詰め寄って中距離攻撃を行う。
「きゃあァァッ!」
彼女のシールドは使い物にならなくなり、油断が許されない状況下に陥った。
「これで決める!!」
ルーガンは人型形態に変形し、蹴りを入れてから光線を乱射してリノを戦闘不能にまで追い込んだ。
「そんな……。マリー少尉、撤収します……」
“分かったわ……、流れ弾に気を付けるのよ”
「はい……」
そして、リノはいつもの強気さを失った悲し気な顔で去っていった。
一方でロバートとカイルは、今なおマリーの乗るガザードと交戦中であった。
「くっ……、しつこい敵ね。Mk-Ⅱも負けてはいられないみたいだけど、必ず撃墜してみせるわ」
マリーはビームライフルでロバートに光線を撃ち放った。
「ウワァァッ!」
“大尉、大丈夫ですか!?”
「大丈夫だ。盾で防いだからほぼ無傷さ」
ロバートは果敢にビームソードで斬りかかる。この攻撃を何とか防いだマリーだった。
「やはりMk-Ⅱにはかなわないのかしら。戦い始めてから30分は経っているはず……。もうやめた方が良いかしら……」
これ以上戦っても勝てる見込みが無いと察したのか、彼女はこの戦地を後にした。
この戦いは結果的に共和国軍側の勝利に終わったものの、連合国軍の脅威は凄まじく、アモンは部下を数名失うこととなった。
「クソォ、連合の連中め……。許さねぇ……」
アモンはその悔しさのあまり、涙を流していた。
「大佐……」
「一人にしてくれ……、ロバート……」
ロバートは彼の眼を見て気持ちを察してその場から離れた。
彼はもし自分が大事な部下を失ったらどう思うか、一晩中考えたという。
一方で、帝国軍でも新型可変メタルユニットの開発が行われていた。このプランは、当初バドラスと並行して行われていたが、開発の難航によりバドラスのみが先行してロールアウトしていたのだ。この機体にも、帝国軍の命運が握られている。この機体が帝国軍の運命を大きく動かすのかはまだ誰も知らない。




