第10話 陽動作戦を実行せよ
7月19日、ロバートはひたすら新型機のバドラスへの対策方法を練っていた。
そのうちに、彼の思考は独りよがりになりつつあったのだ。
“おい、ロバート……、アモンだ。ドアを開けてくれ”
「はい……」
彼は突然の事に少し驚きながらも部屋のドアを開いた。
「アモン大佐、ご用件は何でしょうか?」
「お前がしばらくの間ずっとあの帝国の可変機について考えてたもんだから心配になってよ……。俺にいい考えがあるんだ」
アモンは自信に満ちた表情である。
その顔にはどんな考えが隠されているのか。
ロバートは非常に気になった。
「いい考え……、というのは?」
「それはな……、陽動作戦をするんだよ」
「陽動作戦ですか……。でも、それってリスクが大きいですし……」
少し不安気な顔つきのロバート。
彼は大切な部下を囮にはしたくないという考えがあった。
「確かにお前の考えは分かる…。部下を犠牲にしてまで勝ちたくないと……。だが、お前は優しすぎるんだ。それが足かせになっているということに気付くんだ」
「言われてみれば、今までの自分の考えを顧みてみるとその通りですね」
「だろ? 優しさというのは、時に自分を何らかの形で苦しめる事もある。だからこそ、時には厳しさも大事なんだ」
「はい……」
ロバートはやや俯きながら答える。
彼はそれでも部下を傷つけてまで戦いに勝ちたくないと思っていた。
そんな彼を察してか、アモンはさらにもう一つ提案する。
「どうしても心配ならよ、ダミーバルーンを使って敵を欺くってのはどうだ? それならやりやすいだろう」
「確かにいい考えですね。とりあえず今度の作戦の際に検討します」
いつもの優しく穏やかな表情に戻ったロバート。
彼は部下の知らないところで悩み苦しんでいたが、アモンの力でその苦悶という霧は晴れていった。
その後、ロバートは上官に対しダミーバルーンの使用許諾を得て、本格的に彼の作戦は再び動き始めた。
翌日、アモン主導の下で作戦会議が始められた。
その作戦とは、前回調査不足により失敗してしまった第4前線基地への攻撃をもう一度行うというものであった。
「今回もターゲットは、可変機のバドラスが駐留している第4前線基地を攻撃する。最終目的は基地の破壊だ。これを成功できれば、俺たちが一枚上手となるわけだ」
「アモン大佐、少々よろしいでしょうか……」
「どうした、エストル」
「当作戦では、ダミーバルーンを使用すると言っていましたが……」
「それは、作戦の一番最初に使う。認識コードを適当に割り振って遠距離から敵を欺こうと思ってだな……。彼らがダミーバルーンに気を取られている隙に上空からスナイパーライフルで集中砲火を浴びせようと考えている」
「なるほど……。そういう事でしたか」
エストルは軽く頷いた。
「今回は俺が指揮を、エストルが指揮の補佐を行うが、ロバートにも指揮の補佐をしてもらいたい。
任せたぞ……」
「はい!」
ロバートは重大な任務を任され、自信に満ちた顔で敬礼をした。
「また、攻撃は双方からの挟み撃ちで敵を追い詰めていくつもりだ。これで作戦はより万全な物になったはずだ。ひとまず、作戦は二日後だから、それまでに必ず覚悟を決めて、その上で万全な準備をした上で作戦に挑むことを忘れるな」
「了解!」
一同は一糸乱れぬ動きで敬礼を行い、作戦会議は終了した。
そして二日後、ついに作戦当日となった。
この戦いでは絶対に失敗できないと、共和国軍の第4前線基地の中では緊迫した空気が張り詰めていた。
それは、ロバート達も当然ながら例外ではなかったのだ。
「いよいよ作戦当日か……。ルーガン、お前は不安か?」
ロバートは、たまたま隣にいたルーガンに様子を伺った。
「えぇ……、まぁ、そうですね」
「俺も不安さ。以前戦った時は勝てなかった敵がいる基地にまた向かうからな……。どうすればいいか、なんとなく分かってはきたが……」
彼はどこか不安気な表情をする。
すると、そこにアモンが現れた。
「よぉ、お前ら。今回の作戦は絶対に失敗できんぞ。
何としてもやれる限りのことはやろうじゃないか」
「はい、仰る通りです」
コクリと頷くロバート。
彼の顔は自信に満ちていた。
「では、早いところ出撃準備をしておけ。お前たちにも部下もいるだろ? さぁ、覚悟が出来てるなら行くんだ」
「了解!」
そして、プログレッサー隊とストライカー隊、アタッカー隊はそれぞれの持ち場に就いた。
作戦はついに実行に向けて動く。
共和国軍は帝国軍の第4前線基地付近へと向かい、ダミーバルーンをひっそりと打ち出し、陽動作戦を開始した。
“緊急事態発生! 当基地にて、共和国軍の機動部隊接近! 至急攻撃せよ”
「何だと!? 仕方あるまい……」
「サロア中尉、行きますか」
ミルドレッドはゆっくりと立ち上がった。
「そうだな。早く行かねばな」
こうして、帝国軍側も動き出すこととなる。
とうとう戦いの幕は上がったのだ。
サロアたちは出撃し、機銃を構えて攻撃の契機を窺う。
「そこかっ!!」
ロレントはいち早く自らの機銃で敵に光線を放った。
しかし、彼はある異変に気付く。
“サロア中尉、この機体……、ダミーバルーンです!”
「何ィ!? コイツら、認識コードを付けたハリボテを出してくるとは…、小賢しいな」
彼らが上を見上げた途端に、上空からビームが豪雨のように降り注いだ。
「早くコイツらを殲滅するぞ! エストル、敵を囲め!」
「了解、アモン大佐!」
「ロバートも頼むぞ!」
「はい、分かっています!」
ロバートは意気揚々と空中を駆けながら集中砲火を浴びせた。
「何て火力……、ウワァッ!!」
敵軍の機体はいとも簡単に崩れ去っていく。
この様子を見て、サロア達は黙ってはいなかった。
「コイツで仕留めてやろうか……」
ジャンは、グレネードをカイル目掛けて投げつける。
「何やってんだ? そんなちゃちい攻撃が当たるかよ!」
彼はビームライフルを構えてジャンに反撃を行った。
しかし、その攻撃は運悪くシールドで防がれる。
「ふぅ……、危ない危ない……。ここはバズーカで…」
ジャンはビームバズーカを素早い動作で構えて光線を放った。
この攻撃を回避してから、カイルは自らの機銃で再び反撃に出る。
「これでもかッ!」
シールドで防御できる体勢ではなかったジャンに光線が直撃し、機体のコンディションは悪化。
これにより、ジャンは撤収を余儀なくされる。
一方、フランクとヘレンはミルドレッドとロレントと交戦中であった。
フランクはがむしゃらに機銃を撃ち続けているだけでは駄目だと判断したのか、自らを囮にして陽動作戦を行うことを決めた。
“ヘレン、今から俺が囮になって敵を引き付ける。その間に俺の方に集中している敵を倒すんだ!”
「はい! 分かりました……」
ヘレンは身震いしながらも操縦桿を握った。
もし自分のせいでフランクが死んだらどうしようかと一瞬考えたものの、今はそんな暇など無いと察し、すぐさま行動に移る。
「ん? 前方に堂々と出てくるとは……。愚かな真似を……。ロレント、このガントレックを撃墜するぞ」
“分かりました。お任せを……”
二人はフランクを挟撃しようと試みる。
「さぁ来い!」
フランクは、自らを犠牲にしてまでもこの戦いで勝とうと必死であった。
「まんまと躍り出たか! そこだ!」
「させてたまるか!」
フランクは軽い身のこなしで空中を舞って、敵の攻撃を回避する。
「ヘレン、今だ!」
“了解!”
ヘレンは己の機銃を素早く取り出し、それでロレントを狙い撃った。
「しまった! こんな所で被弾するとは……」
“コンディションイエロー。後方支援ニ回ッテ下サイ”
「くっ……、まさかこうなるとは……。ミルドレッド少尉、撤収させていただきます……」
“そうか。見るからに機体の状態が悪いからな。仕方ない。格納庫に戻れ”
「はい…」
ロレントは悔し気な表情で基地の格納庫へと戻った。
そして、ミルドレッドは圧倒的に不利な状態となる。
「ヘレン、挟み撃ちにするぞ」
“了解”
そして二人は果敢にも接近攻撃を仕掛けた。
「何ッ!? 二人がかりだと!?」
遠方から勢いを付けてフランクはビームソードで斬りかかった。
「さぁ、喰らえ!」
フランクは攻撃を仕掛けるも、ミルドレッドはそれを何とかシールドで防ぐ。
「くっ……」
苦悶するミルドレッド。
彼は攻撃を防ぐのがやっとで、攻撃をする契機など無かった。
「これを喰らいなさい!」
ヘレンは、ミルドレッドの後ろに回って敵機の右腕部を斬り落とした。
「何だと……。この俺が……、撤収するか」
ミルドレッドは残った左腕で二人を薙ぎ払い、そのまま格納庫へと戻っていった。
「待て!」
フランクは追撃するも間に合わず、ミルドレッドを逃した。
「あと一歩で倒せたというのに……。くッ……」
“悔しい気持ちは分かります。次こそは倒して見せましょう。それと、早くロバート大尉を援護しなくては……”
「そうだな。悔しがっている暇はないな。行くか」
二人はロバートの元へと駆けて行った。
その一方、ロバートはアタッカー隊、ストライカー隊と共に帝国軍の空戦部隊と対峙していた。
上手く挟撃して敵を追い詰める所まではいったものの、戦いは泥仕合になりかけていたのだ。
これに見かねたロバートは、ミサイルやビームキャノンで群がっていた敵を次々に撃墜していった。
アモンやエストル、ラディムも負けじと攻撃を仕掛けて襲い掛かる敵部隊を一掃する。
しかし、サロアはこれに対抗してロバートに攻撃を仕掛ける。
「おのれェ! 殺してくれるわ!」
「あれは、バドラス!! 何としても今度は倒す!」
ロバートはしっかりと操縦桿を握って集中砲撃を開始した。
機体を戦闘機形態に変形させて、必死にバドラスを追撃する。
「コイツめ! 執拗に攻撃するとは、小賢しい…」
「ここで仕留める!」
ロバートはミサイルを発射し、バドラスの後方のスラスターに直撃させた。
「しまった! ならば……」
サロアは接近戦に挑もうと試みた。
両腕のビームクローを展開し、一気に接近する。
「来たか! 前の戦いのようにはさせないぞ!」
ロバートはビームソードをゆっくりと構えて、目を鬼のように鋭くする。
「喰らえェッ!!」
サロアはクローを振りかざすが、ロバートは上手く間合いを取って回避する。
「俺は…、お前に勝つ!」
彼はそこから自らの剣で切り返す。
しかし、サロアはその刃を両腕のクローで防いだが、攻撃が当たった際の反動で体勢を崩した。
「ウゥッ!! このままでは…!」
「今だ! これを喰らえ!」
ロバートの渾身の一撃が、彼を襲う。
これにより、バドラスの右腕部が切断され、勝つ見込みが無いと察したため、サロアはこのまま格納庫の方へと敗走した。
帝国軍第4前線基地の部隊は命の危機から降参し、共和国軍の勝利となったのだ。
戦いを終えてロバート達は安堵していた。
「どうにか戦いには勝てたし、良かったな」
「いえいえ。アモン大佐、先程は援護ありがとうございました。大佐達がいなかったらあの時はもっと苦戦していたでしょうね」
ロバートは穏やかな表情である。
「だが、これから何があるかは分からん。ロバートだけじゃなく、ヘレンとカイル、そしてフランクも油断するなよ」
「はい!」
一方、ストライカー隊はプログレッサー隊の後に続いて活躍する事を目指し、総合訓練を今まで以上にしっかりと取り組む事を決意していた。
「クローティス、エリナ、リオ……。これからはあのプログレッサー隊のように手柄を挙げる為にも、しっかりと訓練を行おう。今日は流石に訓練は出来ないが、明日からはより強くなっていく敵に打ち勝つ為にも、まずは射撃訓練からやっていこう。何としても帝国軍や連合国軍に打ち勝って、平和な世界を創るんだ」
「了解!」
果たして、彼らの努力が実る時は来るのか。




