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第十七話 アナスタシア・ジョーンズ(4)

二人は並んで

バルコニーの手すりに持たれかかる。


二人はもう一度乾杯する。


今度は無言で

グラスをぶつけるだけだった。


「風が気持ちいいね。」


「やだ、今頃気づいたの?

まったく鈍感なんだから。」


アナスタシアの

口元の赤いルージューに

引き寄せられそうになる。



「ねえ、今晩私の部屋に泊まってゆく。」


恥ずかしそうにアナスタシアは言った。


「いや、やめとくよ。」


「どうして? 

嫌いになったの?」


アナスタシアは真剣な顔になった。


「そうじゃないよ。

君の部屋に泊まっていったら

きっと日本に帰るのが嫌になってしまう。」


香津美はそう言って笑った。


アナスタシアもつられて一緒に笑う。


「先に眠るわ。」


「そう、僕はもう少しここにいるよ。」

アナスタシアは黙って頷く。



「アナスタシア、お休み。」



「あなたこそ・・・ お休みなさい。」


アナスタシアは何かを言いかけようとした

が途中でやめた。


香津美はアナスタシアを見る。


アナスタシアは香津美を残して

自分の部屋に入った。


アナスタシアは窓から

香津美に手を振るとカーテンを閉めた。



一人バルコニーに残された香津美は、

残ったワインを一人で飲んでいた。



月に向かって一人で乾杯する。


香津美は明日の朝 

日本に帰る。


日本に着くと、

その日が店のオープンの日だ。



そう思うと心がワクワクして

とても眠る気にはなれない。


「一人でゆっくりしていられるのも

今夜だけだな。」



「お月様だけが僕を見守ってくれる。

彼女たちみたいに・・・。」


その言葉の意味は何だろう。



一人はスペインに住んで、

いつまでも香津美を

愛しつづけて待っている

ブロンドのアナスタシア・ジョーンズ。



もう一人は

香津美がいつまでも

愛して

待ちつづけている渋谷真理奈。



二つに一つ、

五分と五分。


真理奈とアナスタシアが

香津美のことを取り合っている。



香津美はその横で

ただひたすらクロス・ワードを解いている。



最後に出された問題が

一番の難解だ。



ナの字の箇所で

二人の名前がクロスする。

「これは本当に難問だ。」



香津美は雨の中で

クロス・ワードを解いている。



「これは本当に難問だ。」



頭を抱え香津美は難問を解いている。



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