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第十七話 アナスタシア・ジョーンズ(3)

アナスタシアは部屋から

ワイングラスとよく冷えた

白ワインを持ってきた。



「ねえ、開けて。」


アナスタシアは香津美に言った。


「いいよ。」


アナスタシアは手に持った

ワイングラスと白ワインを香津美に渡した。



香津美はコルク抜きを上手に使って

コルク栓を見事に抜いた。



よく冷えた白ワインを

アナスタシアの持っている

ワイングラスと

自分のワイングラスに注いだ。



そして香津美はアナスタシアに

頭上にワイングラスを掲げるように言った。



頭上に掲げたアナスタシアのワイングラスに

自分のワイングラスを軽くぶつけると



「ルネッサンス!!」

香津美はそう言って乾杯をした。



「何それ?」

きょとんとしているアナスタシア。



「これはね、日本のコメディアンが

ワイングラスを持って“

ルネッサンス”と言って乾杯するんだ。

それが以前日本では

密かなブームになった事があったんだ。」


香津美はアナスタシアにそう説明した。



「密かなブームって

ブームにはなってないって事でしょ。」



アナスタシアはそう言った。


「そうかブームじゃないのか。

まあいいじゃないか、一緒にやろう!!」



「こうやって掲げて“ルネッサンス”だ。」


アナスタシアは見よう見まねで香津美と同じポーズをする。



「じゃあ、一緒にやろうか。」


「やだ、恥ずかしいよ。」


アナスタシアは恥ずかしそうにする。



「恥ずかしいことなんかないさ。

誰も見てないよ。記念になるから。」



「何の記念よ。」


「うーん。お月様にさ。」


「それじゃいくよ。せーの 。」


「ルネッサンス!!」

二人はそう言って乾杯した。



「恥ずかしい。でも楽しい!!」



アナスタシアはワインを飲みながら

熱い眼差しで香津美を見る。


香津美はアナスタシアの

熱い視線に気づいていた。


暗闇の中、

月明かりだけが二人を照らしている。



美しい月夜の下では

人は素直になれる。


「アナスタシア、

まだ僕のこと好きでいてくれているかい。」


「ええ、そんなにすぐに忘れてしまうほど

軽い女じゃないわ。」



アナスタシアは

香津美の心はいつでも遠いところにあって、


つかまえることができないとあきらめていた。


「もう少し待ってくれないか、

あと一年。」


「そうしたら

気持ちの整理がつくかもしれない。」


「一年。無理だわ、

そんなに長くは待てない。」



「じゃあ、あと半年だけ。」



香津美はグラスを片手に

言葉を選んで言っているようだった。



「半年!わかった。

それ以上は待てないから。」



アナスタシアはそう答えた。



「ありがとう。

それだけあれば店も落ち着くだろう。」

香津美は真理奈のことを考えていた。


「きっとどこかで

もう結婚して幸せになっているかも知れないな。」

香津美は思わず言葉に出てしまった。

またいなくなった彼女の話。」


「うん。まあ・・・。」


「お店大丈夫なの?」


「うん、大丈夫。

いいスタッフに恵まれたからね。」


「僕なんかいなくたって

なんとかやっていけるよ。」


香津美はアナスタシアの

ワイングラスに再びワインを注ぐ。


「あっ、ありがとう。」

アナスタシアは礼を言う。


「明日本当に帰っちゃうの?」


「ああ、君のおかげで

いい仕事ができた。

礼を言うのは僕の方だね。」


二人は並んで

バルコニーの手すりに持たれかかる。


二人はもう一度乾杯する。




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