第十七話 アナスタシア・ジョーンズ(1)
アナスタシア・ジョーンズは
ブロンドの長い髪と太陽のように
明るい性格を兼ね揃えている。
彼女のブロンドの髪は、
かって香津美のなによりの自慢だった。
彼女をスカーレット・ヨハンソン風に装わせたりして
思い通りの女の子像に作り上げて満足していた。
スペイン人というと
その性格は情熱的だと言われているが、
それも南の地方の人間だけで
北で生まれ育ったアナスタシアは
内気で気弱な女の子だった。
留学先の米国大学で
クラスメートになった
アナスタシアは
香津美に一目惚れして夢中だった。
米国大学卒業後
アナスタシアは2年間、
香津美と一緒に日本で暮らした。
アナスタシアは仕事を通して
日本の文化を知り
スペインで
外国商社との貿易の仕事を始めた。
一度は香津美も
アナスタシアとの結婚を考えて
彼女に婚約指輪を贈った。
何よりも仕事を優先する
アナスタシアとの関係は、
ジレンマの連続で
その事で衝突したこともあった。
「僕と仕事とどっちが大事なの?」
香津美にそう言われ、
アナスタシアは迷いながらも仕事を選んだ。
正式に婚約したものの
半年後には香津美は
ふられる形で
彼女はスペインに帰って行った。
アナスタシアは香津美を捨てて
仕事を選んだのではない。
香津美の心の中には
いつでも真理奈が住んでいて、
自分の入り込む隙間がなかったのだ。
やはりアナスタシアでも
真理奈の代わりは勤まらなかった。
アナスタシアにとって
香津美は、
今では仕事上の大事なパートナーだ。
だけどアナスタシアは
今でも香津美のことを愛している。
アナスタシアは時より
香津美に向かって熱い眼差しを送っていた。
炎のように燃える瞳で
グリーンアイは香津美を見ていた。
香津美はスペインに滞在している時は
ホテルに住んでいなかった。
アンダルシアにある
アナスタシアの実家に泊めてもらっていた。
アナスタシアの両親と
香津美は仲がいい。
アナスタシアが婚約を解消した時に、
本人よりも一番悲しんだのは
アナスタシアの母だった。
母は嘆き、
父は怒った。
香津美はアナスタシアの事を
今では大切な友人だと思っている。
すでに香津美にはアナスタシアに対して
男女の恋愛の感情などなかったはずだった。
かっての恋人も今では
香津美の大事な仕事のパートナー。
香津美はアナスタシアに対して
失礼のないように充分に気をつけていた。
「男としてカッコイイと思えることのすべてを
兼ね備えている人です。」
アナスタシアは香津美のことを
ビジネス誌のインタビューに
そう言って答えて香津美を絶賛した。
「一見甘そうな人間に見えるが、
案外男くさいところもある。」
ビジネス誌に載せられた
最後のその一文は、
かっての恋人
アナスタシアが今でも
香津美のことが
好きだということが読んで窺えた。
香津美はそんな事を知っているのか
知らぬ振りなのか、
隣の部屋で
昼間の疲れからか
ぐっすりと眠っているようだった。




