第十六話 スペイン コーヒーの味
南アフリカ共和国に行くには
日本からの直行便はない。
香港やシンガポール、
ドバイ、カタールなど
これらを経由して行かなければならない。
成田から香港まで5時間。
香港からヨハネスブルグ(南アフリカ)まで13時間掛かる。
長いフライト経て
南アフリカのO・R・タンボ国際空港
「オリバー・タンボ国際空港」に到着した。
着いたばかりの南アフリカは、
いつになく暑い日が続いている。
それにも増して
南アフリカの治安の悪さには目を見張るものがあった。
南アフリカのこの地では、
ビニールハウスで栽培された
無農薬のキャベツを手に入れることができた。
南アフリカのキャベツは、
日本の農家で作るキャベツよりも
少し大きくて甘味がある。
日本の春に採れるキャベツは、
春キャベツと言って
キャベツが小さくなってしまう。
しかしここ南アフリカでは
一年を通じて
同じ大きさのキャベツが
いつでも生産できて供給できる。
香津美は案内され
たキャベツ畑を前にして
終始笑顔だった。
現地の案内人に通訳されて
キャベツの品質管理の
難しい説明を細かく聞くことよりも
本物の野菜を手にして
自分の目で確かめた方がよっぽど理解できた。
ここでは良いキャベツを確保する事ができた。
南アフリカを後にして
その後は20ヶ国を回り、
色々な食材を手に入れることができた。
その結果に満足している香津美だった。
そして食材を捜す旅で
最後に訪れたのが
スペインという国だった。
スペインという町は
とても気候に恵まれた都市だ。
スペイン料理といえば
一体どんな料理を思い浮かべるだろうか。
鉄板上にのったパエリャという
魚介類の入った黄色いピラフを
思い浮かべるのではないだろうか。
スペインという土地は郷土色が強く、
地方によって郷土料理も違ってくるのだ。
スペインの料理の中でわりと
不思議に思うのが豆類を使った料理である。
豆類のガルバンソ、レンテハ、チチャロ、
アビチュエラなどの豆を
使って一緒に煮る料理。
これらの豆と野菜を一緒に入れる。
ニンニク、玉ねぎ、
ビーマン、トマト、ジャガイモ、
そして肉、
最後にチョリソーや
モルシージャなどと一緒に
鍋に突っ込んで煮込んでしまう料理。
寒い冬にはこいつを食べると
体が芯まで暖くなって意外と合うのだ。
いろんなものを入れて豆と
一緒に煮込むところなど、
さしずめ米国の
ボガンボ料理と同じなのかもしれない。
スパイスの歴史には
イスラムの影響を受けたんだなと思う。
アンダルシアでは
クミン、グローブ、カルダモンなど
他の欧州ではあまり使用されない
ハーブやスパイスなどを使っている。
あのパエリャの黄色い色の正体は
サフランパウダー。
本物のサフランは
高いからサフランパウダーを使っている。
サフランパウダーは、
スペインの色々な料理に応用されて使われている。
あの黄色いパエリアも
地方によって色が違うそうだ。
だから黄色ではない
パエリアが出てくる土地もある。
香津美は豆料理と黄色く色づく
パエリアの味に満足した。
お腹が膨らんだ後は
スペインコーヒーを飲みに行った。
もともと香津美はコーヒー派だが
スペインのコーヒーには驚かされた。
通訳と仕事の仲介役の日系4世の
アナスタシア・ジョーンズは20代の女性。
彼女が案内してくれたコーヒー・ショップは
オープン・スタイルのコーヒーショップ。
淹れたてのコーヒーカップを手に持って
空いている席に座ってくつろぐお店だ。
外の風と日差しがとても気持ちがよくて
落ち着くのでついつい長く居座ってしまう。
アナスタシアはとてもセクシーな女性で、
彼女はブロンドの長い髪を巻き毛にして
その髪の毛が時より風でなびいている。
彼女がコーヒーを飲み、
椅子に座っている姿はまるで
モデルのようだった。
彼女の白い肌に
赤いルージュがくっきりと浮かびあがり、
サングラスの下に隠された
瞳の色はグリーンアイだった。
彼女のおかげで仕事や契約上のトラブルもなく
すべて円満に終わった。
香津美たちは
コーヒーショップに座って雑談している。
アナスタシアは香津美たちに
スペインのコーヒーの話をしてくれた。
アナスタシアは学生時代、
アルバイトでコーヒーショップで
コーヒーを淹れる仕事をしていた。
「ここはコーヒー文化。
メリエンダというおやつを
食べながら一緒に飲むのもコーヒー。」
「日本的にちょっとお茶しょう。」
「その時に飲むのもやはりコーヒーなんです。」
香津美たちはアナスタシアの話を聞いている。
スペインにはいろいろな
コーヒーの種類がある。
それは豆の種類が多いのではない。
コーヒーに入れる牛乳の分量が違う
というだけのことなのだ。
コーヒーを淹れる前に、
あらかじめコーヒーカップには
牛乳が入っている。
カフェ・ソロという名前は
エスプレッソのことでミ
ルクがまったく入っていない。
カフェ・コルタドというのは
ミルクが気持ちだけ
ちょこっと入った程度の飲み物。
カフェ ・コンレチェ というのは
ミルクとエスプレッソが
ハーフ&ハーフ、
半々に入っているカフェラテのこと。
カフェ・ソンブラ というのは、
コーヒーが少ししか入ってないのに
やけにミルクが多いミルクコーヒーのこと。
夏の暑い日には
カフェ・コン・イエロを飲むのがお薦めだ。
アイスコーヒーのことだが、
スペインのアイスコーヒーには
とにかく驚いてしまう。
香津美がカフェ・コン・イエロを頼んだら、
熱いコーヒーと
氷がいっぱい入ったグラスを持ってきた。
香津美はどうやって飲んだらいいものやら、
コーヒーとアイスが入ったグラスを前にして
悩んでいた。
アナスタシアは香津美のそんな様子を見て
笑いながら言った。
「香津美こうやるのよ。
自分でコーヒーを好きなだけ
氷のグラスに移して飲むのよ。」
アナスタシアは自分のコーヒーを
氷のグラスに注いで一口飲んで見せた。
香津美は言われるままに
見よう見まねで
熱々のコーヒーを氷のグラスに注いだ。
香津美は一口飲むと、
ホッとして言った。
「面倒くさいけど、
その手間をかけた分だけ おいしく感じるよ。
料理と一緒だね!」
同行したスタッフは
一斉に笑った。
コーヒー 一杯が1ユーロ。
コーヒー一杯が160円くらいだ。
一杯が200円しないので安い。
「一杯が安いから
いろいろなコーヒーを試して飲んでね。」
「きっと自分に合った
コーヒーを見つけられるわ。」
アナスタシアはそう言って
香津美に微笑んだ。
赤いルージュが笑う。
アナスタシアと香津美は仕事での付き合いは
これが始めてではない。
かれこれもう5年位になるだろか。
香津美が米国の大学に留学していた時の
クラスメート
それがアナスタシアはだった。
年は香津美よりもアナスタシアの方が若いが、
飛び級してクラスメートになった。




