第十三話 海辺のレストラン
海辺のいそしぎが
今年の夏の暑さを物語っている。
ゆらゆらときらめく波の光。
どこまでも続くマリンブルーの海。
木製の桟橋を渡り
両側に見える
海のすぐ横を歩いて行くと、
その突き当りに
海のよく見えるレストランがある。
この桟橋が
レストランのために作られたのは
歩いてみれば分かる。
おしゃれな造りのレストランは
誰もが好んで入店してしまいそうだ。
夜になれば
外にある松明に
火が灯され夜を演出する。
真っ暗な海の上に
その場所だけが
神秘的に明るく浮き上がって見える。
とてもロマンチックな
海辺のレストラン。
今レストランに明かりが灯され
ベールに包まれた
その姿をあらわにした。
レストランのスタッフによって
明かりが灯された瞬間。
どこからともなく拍手が上がった。
香津美はスタッフや
関係者からの拍手に
頭を深々と下げた。
香津美の店は内装工事を残しあとは完成間近。
まだまだこれからで
準備段階に入っただけだというのに
たくさんのカメラの
フラッシュライトが光を放った。
香津美は
星の放つ光などには興味がない。
欲しいと思ったことなど
一度もない。
ただ愛する人のためだけに
輝いていたいのだ。
香津美は言った
「発光度を持たない星は大人になれない。」
誰もが愛する人のために光を持っている。
そしてその時期がくればその人は光輝くのだ。
香津美だってそうだ、
この広い銀河の中で何億もの光を放ち、
愛する真理奈が
道に迷わないように輝いている。
毎日夜遅くまでス
タッフは店の準備を手伝っていた。
選りすぐりのテーブルと
椅子が並べられ
店内はレストランの
雰囲気が出てきた。
スタッフが持ち込んだ
ジュークボックスで、
店内には
ジョン・レノンの
“スタンド・バイ・ミー”
が流れていた。
香津美の最も大好きなジョン・レノンの
ナンバーがこの“スタンド・バイ・ミー”だった。
香津美の大好きな
ジョン・レノンのテイクはおそらく、
ベン・E・キングの
オリジナル・バージョンを
越えたのではないかと思われた。
この曲に合わせて
スタッフの誰もが明るく歌い、
時には踊りながら
店内の内装を飾っていた。
店内の端で見ていた香津美も、
スタッフのメンバーに
引っ張り出されてハニカミながら踊った。
香津美はいつも誰かに助けられ、
支えられて生きてきた。
今夜ここにいる人たちを見ながら、
いいメンバーに恵まれたもんだなと思った。
すでに6時間以上も
ぶっ続けで内装工事をしているのに
誰も疲れた顔をしていない。
内装の工事だけは
自分たちの手で仕上げたいと
スタッフの誰かが言った。
香津美もその意見に賛成だった。
店内の壁の一枚一枚に
みんなの思いが詰まっている。
香津美もハンマーを手にして
壁の板を釘で叩き、
我ながら上手くいったなと思った。
スタッフの一人が香津美に言った。
「少し左に曲がっていますよ。」
壁から離れて眺めて見ると、
確かに左に曲がっている。
香津美は苦笑いしながら
壁の板をやり直した。
店内には激しい
パンクビートが響いていた。
香津美はそのパンクの音楽に気づいて
「僕はパンクで
撥ねかえりだから左上がりなんだ。」
そう言ってスタッフのみんなを笑わせた。
「ここは無政府主義ですからね。」
スタッフの中の
ホールを受け持つ若い男が言った。
なかなか思い出せないでいた香津美は
その言葉を聞いて
曲がアナーキーインザーUKだと思い出した。
「よし、決めた。君がホールのリーダーだ。」
それほど安易に
決めてしまうほど人選が良かった。
夜11時になるのを見計らって
香津美はスタッフに言った。
「今日はここまでにしよう。
また明日もよろしく。」
スタッフは全員で声を一斉に上げて
「いらっしゃませ。
ありがとうございました。
お疲れ様です。」
そう言って朝の始まりと
同じ号令をして
その日の仕事を終わりにした。
香津美は最後にもう一度言った。
「夜遅くまで本当にご苦労様です。」
「今みんなでやっている事は
いつか笑顔で
思い出話として話せる時がくる。」
「いいかい、
ここから始まるんだ。」
「この場所からみんなで神話をつくろう。
」香津美は叫んだ。
「はい。」
スタッフは全員で答えた。
少し疲れていた香津美だったが、
帰ってゆく
スタッフ一人一人に
労いの言葉をかけていた。
最後の一人を見送ると
店のドアに鍵を掛けた。
誰もいなくなった店内には
鐘の音が鳴り響き、
ジュークボックスからは
ジョン・レノンの
“スターティング・オーバー”
が流れ出した。
香津美は初めて
ビートルズを聴いた時のことを思い出していた。




