EP69:風の着こなしにはご用心 [LOG_SONIC_BOOM]
風を飛ばせるようになった凛に、セレスティアが与えた次の課題。
「今度は、風を着なさい」
どうやら凛には、その言葉が少し違う意味で伝わったようです。
今回も、双神峰の常識が無事でありますように。
「凛」
セレスティアが静かに呼んだ。
「あなたのスフィアを、私にぶつけてみなさい」
「……はい?」
凛が珍しく聞き返す。
少し離れた場所で腕を組んでいたスカイゼルも、眉を寄せた。
「お師匠。嬢ちゃんのスフィアって、人間には効かねぇはずじゃぁ?」
「それは違うわ、スカイゼル」
セレスティアは凛へ視線を向けた。
「そうよね、凛」
「はい。恐らく、私が望めばその限りではありません」
一拍。
ラヴィが勢いよく振り向いた。
「理屈があいませんが!?」
凛は本気で不思議そうな顔をした。
「私が決めたから、そうなるのよ。何が問題なのかしら?」
「そこが問題なのです!」
「そう?」
凛は首を傾げた。
本当に分かっていない。
ラヴィが額を押さえる横で、セレスティアだけが小さく笑った。
「では、凛」
「はい」
凛が右手を上げる。
掌の少し上で、空気が渦を巻いた。
透明な球体。
光を受けて薄く虹色を帯びる、風球。
凛の瞳が細くなる。
だが。
すぐには放たなかった。
セレスティアを真っ直ぐ見つめる。
「……本当によろしいのですか?」
「ええ。問題ないわよ」
セレスティアは穏やかに微笑んだ。
凛はもう一度、その表情を確かめる。
そして小さく頷いた。
「では……今度は、当てます」
風球が射出された。
一直線。
昨日までなら、人間を前にすれば自ら軌道を変えたはずの球体が、今回は迷うことなくセレスティアの胸元を捉える。
「お師匠!」
スカイゼルが声を上げた。
だが、セレスティアは動かなかった。
避けもしない。
杖さえ構えない。
ただ、その身体を包む空気だけが。
さらりと流れた。
次の瞬間。
凛の風球が、崩れた。
破壊されたのではない。
弾かれたのでもない。
球体を形作っていた風の流れが、セレスティアの身体へ触れた瞬間、幾筋もの細い流れへほどけていく。
肩へ。
脇へ。
腰へ。
脚へ。
まるで最初からそこを通ることが決められていたかのように、風が身体の表面を滑り。
そのまま背後へ抜けた。
直後。
轟音。
セレスティアの後方にあった岩が砕け散った。
凛の目が見開かれる。
セレスティアの身体には、傷一つない。
「これが、エアレギオンよ」
セレスティアの緑の髪が、穏やかな風に揺れた。
「攻撃を止める必要はないの」
「風の流れを感じて、必要な方向へ導く」
凛は砕けた岩を見る。
次に、セレスティアを見る。
「受け止めているのではなく……流している」
「そう」
セレスティアは自分の胸元へ軽く手を置いた。
「あなたはもう、風を飛ばせる」
そして微笑む。
「今度は、風を着なさい」
「風を……着る」
凛が、自分の服を見る。
そして頷いた。
「分かりました」
その返答に。
ラヴィが嫌な予感を覚えた。
最近、その「分かりました」の後に、彼らの知る常識が無事だったことがない。
凛が目を閉じる。
風が集まり始めた。
足元から渦を巻き、身体を包み、肩を越え、頭上へ。
徐々に密度を増していく。
「なるほど」
凛が呟く。
「鎧にすればいいのね」
セレスティアの眉が、わずかに動いた。
「凛、私は鎧とは」
遅かった。
ごうっ、と風が圧縮された。
凛の身体を覆った風が幾重にも重なり、目に見えるほど濃密な層を作る。
空気そのものが、硬質な殻へ変わったかのようだった。
スカイゼルが目を細める。
「……硬ぇな」
彼が一歩踏み込む。
「嬢ちゃん、ちょいと試すぞ」
「どうぞ」
スカイゼルの拳が放たれた。
本気ではない。
しかし、岩なら表面を砕く程度の威力はある。
拳が風へ触れた。
鈍い衝撃音。
スカイゼルの腕が弾き返される。
「おお」
凛が満足そうに頷いた。
「完璧ね」
「凛」
「はい」
「歩いてみて」
「?」
凛が右足を出そうとした。
動かない。
「…………」
もう一度。
動かない。
風の層が硬すぎて、腕も脚も身体も完全に固定されている。
ラヴィが目を細めた。
「完璧ですね」
「でしょう?」
「防御だけを考えるのであれば」
「……どういう意味?」
「凛どの。あなた、動けておりません」
凛が黙った。
セレスティアが苦笑する。
「それでは風を着ているのではなく、風の中に閉じこもっているだけ」
「……なるほど」
風の殻がほどけた。
凛は自分の腕を見る。
袖を見る。
指先で軽く布を摘まんだ。
腕を上げる。
服も一緒に上がる。
腕を下げる。
服も下がる。
何度か繰り返す。
ラヴィが眉を寄せた。
まただ。
凛が、何かを考えている。
それも、嫌な種類の。
「……服って」
凛が呟いた。
「身体を止めないわよね?」
セレスティアの目が細くなる。
凛は袖を見つめたまま続ける。
「腕を上げるたびに、袖へ『上がりなさい』なんて命令しない」
「歩くたびに、裾へ指示もしない」
顔を上げる。
「なら、風も同じでしょう?」
ラヴィが口を開きかけた。
そして閉じた。
まだ早い。
ここで何か言えば、さらに妙な場所へ辿り着く。
そんな確信だけがあった。
凛が再び目を閉じる。
今度は、先ほどのような激しい渦は起こらなかった。
そよ、と。
一筋の風が足元から生まれる。
それが脚をなぞる。
腰を巡る。
背中へ。
肩へ。
腕へ。
首筋へ。
凛の身体の輪郭に沿うように、薄い風が静かに循環し始めた。
鎧ではない。
壁でもない。
肌のすぐ外側を、透明な布が覆っているようだった。
凛が一歩進む。
風もついてくる。
もう一歩。
乱れない。
腕を上げる。
風も動く。
身体をひねる。
流れが自然に組み替わる。
セレスティアの表情が変わった。
「凛」
「はい?」
「風へ、何を指示したの?」
凛が振り返る。
「何も?」
「……何も?」
「私が動くから、ついてきてって。それだけ」
ラヴィの眉間に深い皺が刻まれる。
凛は当然のように付け加えた。
「だって、服でしょう?」
沈黙。
スカイゼルが頭を掻いた。
「お師匠」
「何?」
「俺、今の話、途中までは分かったんだが」
「安心して。私もよ」
「そこから先が分からねぇ」
「私もよ」
セレスティアは笑っていた。
呆れているのではない。
むしろ楽しそうに。
「なら、もう少し試しましょう」
セレスティアが手を上げる。
風が起こった。
地面の砂が舞い上がる。
細かな砂粒が凛へ迫る。
だが。
凛の身体へ届く直前。
砂だけが左右へ弾かれた。
風そのものは通り抜ける。
凛の髪が柔らかく揺れた。
セレスティアが続ける。
小石。
弾かれる。
木の葉。
一枚だけが凛の肩へ近づき。
ふわりと逸れた。
凛は普通に呼吸している。
「……凛」
ラヴィが恐る恐る尋ねる。
「なぜ空気は通っているのです?」
凛が振り返った。
「全部止めたら息ができないじゃない」
「……では、砂や石は?」
「服の中に入ったら不快でしょう? 石は痛いじゃない」
「攻撃は?」
「危ないでしょう?」
ラヴィが黙る。
凛が眉を上げた。
「当然ではなくて?」
ラヴィは両手で顔を覆った。
「その当然が魔術として成立する理由を聞いているのです……!」
「必要なものと不要なものを分ければいいだけでしょう?」
「だから、その分け方をどうしているのですか!」
「見れば分かるでしょう?」
「風に目ですか!?」
「ないの?」
「ありません!」
「不便ね」
「風を憐れまないでください!」
スカイゼルが吹き出した。
セレスティアも口元を押さえる。
けれど、その瞳は凛を鋭く観察していた。
「……受け流しているのではないのね」
凛がセレスティアを見る。
「はい?」
「私のエアレギオンは、流れを読み、攻撃を導く術よ」
セレスティアは凛を包む風へ手を伸ばす。
指先へ触れる直前。
風がそっと道を開けた。
「でも、あなたの風は違う」
「必要なものは通して、邪魔なものだけ退いてもらっているだけです」
「ええ」
セレスティアが微笑んだ。
「だから、もう私のエアレギオンとは違う」
凛が瞬きをする。
「……失敗でしょうか?」
「いいえ」
セレスティアは首を横に振る。
「私が教えたのは入口」
その瞳には、確かな喜びがあった。
「そこから先に、あなた自身の風を見つけたのよ」
凛は少しだけ考えた。
そして、自分を包む風を見る。
「それなら……よかったです」
声はいつもと変わらない。
けれど、その口元がほんのわずかに緩んだ。
「スカイゼル」
「ん?」
「今度は動きを見てあげて」
「了解、お師匠」
スカイゼルが凛と向き合った。
「嬢ちゃん。避けるだけでいい」
「分かったわ」
スカイゼルが腰を落とす。
そして踏み込もうとした。
その瞬間。
彼の目が細くなった。
「……あ?」
凛はまだ動いていない。
なのに。
凛の右側の風だけが、先に流れを変えていた。
凛の足が動いたのは、その直後だった。
一歩。
スカイゼルの前から凛が滑るように横へ移る。
「待て」
スカイゼルが止まった。
凛も止まる。
「何?」
「今、お前が動くより先に、風が動いたぞ」
「?」
「嬢ちゃんの足が動く前だ」
ラヴィも表情を引き締めていた。
「私にも、そう見えました」
凛が自分の足を見る。
「まだ動いてないわよ?」
「だからそこが問題なんだよ!」
「?」
セレスティアは黙って凛の周囲を見る。
先を読んだのではない。
未来を予測したのでもない。
凛が右へ動こうと意志を向けた、その瞬間。
肉体が動き出すより先に。
その意志へ、風が応えた。
凛の意思と、纏った風との距離が。
あまりにも近い。
「……面白いわね」
セレスティアが小さく呟いた。
「何がですか?」
「いいえ」
彼女は微笑む。
「続けましょう」
次の試験は、強風だった。
セレスティアが杖を振る。
双神峰の木々が一斉にざわめいた。
次第に風は強まり。
枝が大きくしなる。
砂塵が舞い上がる。
スカイゼルの髪が顔へ張りついた。
「ぶっ……!」
ラヴィの長い耳が風に煽られ、燕尾服の裾が激しくはためく。
「セ、セレスティア様! 少々強すぎませんか!?」
その中央で。
凛だけが。
立っていた。
白銀の髪が。
さらさらと。
一定方向へ。
美しく流れている。
周囲では木々が激しくしなっている。
なのに凛の髪だけは、絵画の中にでもいるかのように整っていた。
スカイゼルが。
しばらく無言で見つめ。
ついに耐えきれず尋ねた。
「ところで」
「何?」
「どうしてお前の髪はいつもサラサラなんだ?」
凛が白銀の髪を指先ですくう。
「だって、髪は乙女の命よ」
「いや、それは知らねぇけど」
「一本一本、風で包んでいるのよ」
「一本一本?」
「当然でしょう?」
凛は真顔だった。
「もちろん、キューティクルまで」
沈黙。
セレスティアが瞬きをする。
スカイゼルが口を開ける。
ラヴィの耳が、ぴくりと動いた。
「……なぜ」
低い声。
「なぜ、そんな無駄なことに使うのですか……!」
凛が振り返った。
「無駄?」
心外そうに眉を上げる。
「品格を保つことは必要よ。他になにがあるのかしら?」
ラヴィが叫ぶ。
「戦闘です!」
凛は一秒も迷わなかった。
「比較にならないわね」
「戦闘の方が下なのですか!?」
「当然でしょう?」
「当然ではありません!」
「でも、戦いが終わった後に髪がぼさぼさだったら嫌じゃない」
「命があれば直せます!」
「最初から乱れなければ直す必要もないでしょう?」
「そういう問題ではありません!」
セレスティアが、とうとう声を上げて笑った。
けれど。
笑いながらも分かっている。
髪一本。
その表面。
さらにキューティクルまで。
それぞれを風で包みながら、身体全体の術を同時に維持している。
あまりにも用途がおかしい。
なのに。
そのおかしさこそが。
凛の精密な制御を、何より雄弁に証明していた。
凛が、自分の身体を包む風を眺める。
「……《風風フンワリドレス》」
ラヴィの耳が動いた。
「今、何と?」
「風風フンワリドレス」
「……」
「何?」
「なぜ二度も風を?」
凛が不思議そうに答える。
「風だからよ」
「理由になっておりません!」
「そう?」
ラヴィが数秒、凛を凝視する。
そして。
ある疑念が浮かんだらしい。
「凛どの」
「何?」
「昨日の、あのスフィア」
「ええ」
「飛ばした後、手元へ戻していましたね」
「そうね」
「……まさか、あれにも名前が?」
「もちろんあるわよ」
即答。
ラヴィが息を呑む。
「なんと?」
凛が胸を張った。
「《風風ヨーヨー》」
沈黙。
「……フーフー?」
「ええ」
「フーフーなどと、熱を冷ますわけでもあるまいし」
「風なんだから、フーフーでしょう?」
「違います!」
「何が?」
「すべてです!」
ラヴィは頭を抱えた。
しかし。
まだ終わらない。
嫌な予感がする。
非常に嫌な予感が。
「では」
ラヴィが震える声で尋ねた。
「十個同時に操っていたものは……?」
凛は当然のように答えた。
「《風風ヨーヨーテン》」
「テン」
「十個だから」
「…………」
ラヴィが黙った。
凛をじっと見る。
そして。
肩から、すっと力が抜けた。
「……安心しました」
「何が?」
ラヴィの口元が、ほんの少し緩む。
「凛どのにも、明確に才能の欠落した分野が存在したのですね」
凛の眉が跳ね上がる。
「喧嘩売ってる?」
「いいえ」
「売ってるでしょう」
「心から安堵しております」
「なお悪いわ!」
スカイゼルが腹を抱えて笑った。
セレスティアも笑いながら、二人を見る。
「さて」
彼女が手を叩いた。
「名前の話はそのくらいにして」
「非常に重要な問題です、セレスティア様」
「ラヴィ」
「はい」
「あとにしましょう」
「……承知しました」
不満そうだった。
凛はもっと不満そうだった。
「私の名前の何が悪いのよ」
「全部です」
「ラヴィ」
「はい。あとにします」
セレスティアが凛へ向き直る。
「エアレギオンを維持したまま、少し走ってみなさい」
「走る?」
「ええ」
凛が足元を見る。
身体を包む風は安定している。
「分かりました」
一歩。
普通に歩く。
二歩。
問題ない。
凛が少し速度を上げる。
「……?」
違和感。
いや。
違和感というより。
妙に軽い。
「凛?」
「なんだか……身体が軽いです」
「無理に速くしなくていいわ」
「はい」
凛がもう一度踏み出す。
軽い。
やはり、軽い。
本人の脚が急に強くなったわけではない。
なのに、いつもより身体が前へ進む。
凛の口元が上がった。
「これなら」
「凛」
セレスティアが呼ぶ。
だが。
少し遅かった。
「もう少し強く踏み込んでも平気そうね」
「凛、待って」
凛が地面を蹴った。
その瞬間。
風が。
凛の意思へ。
応えた。
「……え?」
身体が軽く浮き上がる。
ほんの少し。
足の裏が地面から離れる。
凛が瞬きをした。
「え?」
ふわり。
身体がもう一段、高くなる。
白銀の髪と服を美しく整えたまま。
高円寺凛は。
完全に地面から離れていた。
「おい」
スカイゼルが固まる。
「嬢ちゃん……」
ラヴィの長い耳が、ぴんと伸びた。
「……飛んで、おりますが」
凛が自分の足元を見る。
宙に浮いている。
「そうみたいね」
「そうみたいね、ではありません!」
ラヴィの絶叫が響く。
セレスティアも。
今度ばかりは笑っていなかった。
驚きを隠せず、宙に浮かぶ凛を見上げている。
「……凛」
「はい?」
「あなた、飛行術を習ったことは?」
「ありませんけど」
「でしょうね……」
セレスティアが額へ手を当てた。
飛行術は、ただ風を起こせれば扱えるような技ではない。
身体を浮かせ、その状態を維持しながら自在に移動する。
風術の中でも、高度な制御を要求される技術だった。
セレスティア自身も浮遊し、空中を移動することはできる。
それでも。
ここまで自然に空へ身体を預けられるようになるまでには、長い修練を要した。
「エアレギオンを覚えた直後に……」
セレスティアが小さく呟く。
凛はそんな三人をよそに、空中で自分の身体を確かめていた。
右腕を上げる。
風がついてくる。
身体を少し傾ける。
流れも変わる。
「なるほど」
「何がなるほどなのです!」
ラヴィが叫ぶ。
凛は前を見る。
遠く。
双神峰の山肌。
その間を縫うように、風が流れている。
「浮けるのなら」
セレスティアの目が見開かれた。
嫌な予感がした。
「前にも進めるのでしょう?」
「凛、待ちなさい」
「少しだけ」
「少しでも待ちなさい!」
遅かった。
凛が。
前へ行きたい。
そう思った。
ただ、それだけだった。
風が応えた。
次の瞬間。
凛の姿が。
消えた。
「……え?」
スカイゼルの声だけが残った。
音は。
まだ、来ていなかった。
一拍。
そして。
ドォンッ!!
空気の壁そのものが破裂したような轟音が、双神峰を叩いた。
衝撃波が修行場を駆け抜ける。
木々の梢が一斉にしなり。
地面の砂が輪を描いて吹き飛ぶ。
スカイゼルが両腕で顔を庇った。
「ぐっ……!」
ラヴィの燕尾服が激しく翻り、長い耳が真後ろへ倒される。
「な、なんですか今のはッ!?」
セレスティアだけが。
動かなかった。
遠ざかる白銀の軌跡を。
目を見開いたまま追っている。
凛はもう。
遥か彼方にいた。
先に少女が消え。
その後から。
音だけが追ってきた。
「……音を」
セレスティアが呟いた。
「置き去りにした……?」
スカイゼルが振り返る。
「お師匠?」
セレスティアは答えない。
自分も飛べる。
風に身体を預け。
空を移動することもできる。
だが。
あれは違う。
魔力を推進へ変え。
風を操り。
徐々に身体を加速させる。
自分の知る飛行術とは、まるで違う。
凛は。
ただ。
前へ行こうとしただけだった。
風が。
その意思へ即座に応えた。
「……あんな飛び方」
セレスティアの口元から。
思わず笑いが漏れた。
「私にも無理ね」
沈黙。
スカイゼルとラヴィが。
ゆっくり。
同時に彼女を見る。
「お師匠でも?」
「ええ」
セレスティアは、あっさりと答えた。
その瞬間。
遥か遠くの空で。
白銀の光が。
大きく弧を描いた。
「……ん?」
スカイゼルが目を細める。
光が。
こちらへ向きを変える。
ラヴィの顔から。
すっと血の気が引いた。
「まさか」
スカイゼルも気づいた。
「……戻ってくるぞ」
遠く。
空が鳴った。
ラヴィの長い耳が、一気に立つ。
「凛どのぉぉぉ!!」
声の限り叫ぶ。
「減速を覚えてから戻ってきてくださぁぁぁい!!」
その絶叫を。
双神峰の風がさらっていく。
セレスティアは。
こちらへ戻ってくる白銀の軌跡を、静かに見つめていた。
教えたのは。
風を流すこと。
風を纏うこと。
それだけだった。
けれど。
凛はもう。
風へ細かな命令を与えてはいない。
行きたい。
動きたい。
そう思った瞬間。
身体より先に。
風が応える。
まるで。
凛の意思そのものが。
風になったかのように。
双神峰の空を。
白銀の軌跡が駆け抜けていた。
風はもう。
高円寺凛の命令を待つものではなかった。
彼女の意思とともに。
動き始めていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
少しでも「続きが気になる」「凛と海を見守りたい」と思っていただけましたら、
ブックマーク・評価・感想で応援していただけると、とても励みになります。
この物語は、異世界ファンタジーに変身ヒーロー要素と高飛車令嬢コメディを混ぜ込んだ作品です。
凛と海の全力変身を、これからも見届けていただければ嬉しいです。




