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EP68:双神峰に咲く薔薇 [LOG_ROSE]

風球スフィアは、一つ作るだけでも難しい。


……少なくとも、普通はそうらしいです。


けれど凛にとって、「普通」はだいたい疑うところから始まります。


今回は少し賑やかに。


風と一緒に、彼女なりの答えが舞い始めます。


ラヴィは、凛の右手から目を離せなかった。


ここ数日で学んだことがある。


この少女が、こうして何かを考え始めた時。


大抵、ろくなことにならない。


「……ねえ、ラヴィ」


「なんでしょう」


「どうして、一つなの?」


「……はい?」


凛は右手を胸の前まで上げた。


人差し指の先で風が小さく渦を巻き、虹色の濃淡を宿した風球スフィアが一つ、静かに浮かび上がる。


「これよ」


「これ、と申されましても……」


ラヴィは眉を寄せた。


風球スフィアは、もともと一つずつ形成するものです。形状、循環、魔力の均衡。そのすべてを精密かつ正確に維持し続けなければならない」


凛は黙って聞いている。


「一つでも不断の補正が必要なのです。二つなら、それぞれの乱れを見なければならない。三つなら三つ。数が増えれば互いの風まで干渉する。術者が把握しなければならない流れは、単純に数が増えるだけでは済みません」


「ふうん」


「ふうん、ではありません。数が増えるほど難易度は跳ね上がるのです」


そこで凛が、また首を傾げた。


「どうして、一つずつ見る必要があるのかしら?」


ラヴィの口が止まった。


「……なんですって?」


「一つ目の風も、二つ目の風も、風でしょう?」


「それは……そうですが」


「なら、同じことをしてもらえばいいじゃない」


「同じこと?」


凛は指先の風球スフィアを見る。


その内部で、一筋の風がわずかに逸れた。


輪郭が小さく揺れる。


だが、凛は何もしない。


逸れた風は大きく遠回りしながら、それでも自ら元の流れへ戻っていった。


「戻る場所は、もう決めてあるもの」


凛は当然のことのように言った。


「一つ一つ、帰り道まで教えてあげる必要なんてないでしょう?」


ラヴィの赤い瞳が細くなる。


横で見ていたセレスティアは何も言わなかった。ただ、凛の右手だけを静かに見つめている。


凛が親指を伸ばした。


風が集まり、二つ目の風球スフィアが生まれる。


続いて中指。


三つ目。


薬指。


四つ目。


最後に小指。


五つ目。


五本の指先に、小さな虹色の風球スフィアが並んだ。


完全な球ではない。


輪郭には、それぞれわずかな揺らぎがある。内部を巡る虹色も、セレスティアの風球ほど均一ではない。


それでも、逸れた風は戻る。


一つ目も。


二つ目も。


三つ目も。


四つ目も。


五つ目も。


すべて。


「……五つ」


ラヴィが呟いた。


声が、わずかに掠れていた。


「五つの風球スフィアを……同時に……」


凛は右手を眺め、少しだけ指を開いた。


五つの光が、その動きに合わせて間隔を広げる。


「ほら。同じでしょう?」


「どこがですか」


即答だった。


だが、凛は聞いていなかった。


右手を見つめたまま、ふと、その視線を左手へ移す。


掌を開く。


こちらにも。


五本の指。


ラヴィの長い耳が、ぴんと立った。


「……凛殿」


「何?」


「まさかとは思いますが……」


凛が左手を持ち上げる。


「こっちにも五本あるわね」


「ありますね」


「なら、使わないのも変じゃない?」


「まったく変ではありません!」


ラヴィの声が修行場へ響いた。


だが、もう遅かった。


左手の親指に六つ目。


人差し指に七つ目。


中指に八つ目。


薬指に九つ目。


そして。


小指の先へ。


十個目。


最後の風球スフィアが生まれた。


凛は両方の掌を自分へ向けた。


胸の前で両腕を交差させる。


十本の指が、扇のように開く。


そのすべての先に。


十個の風球スフィア


虹色の光が重なり、凛の白銀の髪と碧い瞳を淡く染め上げた。


誰も声を出さなかった。


ラヴィは瞬きすら忘れ、十個の光を見つめている。


右手。


親指。


人差し指。


中指。


薬指。


小指。


五つ。


そして左手にも。


五つ。


数え間違いではない。


十個。


本当に。


十個ある。


「……十……個?」


ラヴィは、自分の声が震えていることに気づいていなかった。


たった一つ。


自分が初めて風球スフィアを形として成立させるまでに、どれほど繰り返しただろう。


形が崩れた。


循環が乱れた。


一筋の風が逸れるたび、そこへ意識を割き、魔力を調整し、何度も何度も流れを戻した。


一つだ。


たった一つの風球スフィアを維持するだけで、それほどの集中を要求された。


それを。


十個。


同時に。


しかも、どれ一つとして崩れていない。


ラヴィは無意識にセレスティアへ視線を向けた。


いつもなら、何かしら答えを与えてくれるはずの師へ。


だが。


セレスティアもまた、言葉を失っていた。


一つの風球スフィアを完成させた。


それだけでも早すぎた。


球である必要を疑い、《キューブ》へ変えた。


さらにそれを修行場ごと覆うほど巨大化させた。


その時点で、この少女は自分とは違う道を歩き始めている。


そう理解したはずだった。


だが。


十個。


これは、そのさらに先だった。


セレスティアの視線が、凛の表情から指先へとゆっくり動く。


呼吸は乱れていない。


肩に力も入っていない。


大量の魔力を同時に制御している者特有の緊張も見えない。


凛はただ。


両手の指先に十個の風球スフィアを浮かべている。


まるで。


最初から、それが当たり前だったかのように。


少し離れた場所では、スカイゼルまでもが黙っていた。


いつもの軽口が出てこない。


開いた口を閉じることすら忘れたように、凛の両手を凝視している。


風が止まった。


いや。


止まったように見えただけだった。


十個の球体の内部では、無数の風が巡っている。


逸れる。


交差する。


遠回りする。


それでも。


帰ってくる。


一つ残らず。


ラヴィが、ようやく声を絞り出した。


「……何を制御しているのです?」


「何も」


「何も……?」


「ええ」


「十個もあるのですよ?」


「見れば分かるわ」


「そういう意味ではありません!」


ラヴィの声が裏返った。


「十個の風球スフィアです! 一つでも維持には不断の補正が必要なのです。それを十個同時に成立させておいて、何もしていないなど……」


「だって、本当に何もしていないもの」


凛は十個の風球スフィアを眺める。


「戻る場所は決めてあるもの」


ラヴィが額を押さえた。


「それは説明になっていません……」


「ほら」


凛は小さく笑った。


「やっぱり同じでしょう?」


「何がですか!?」


「一つも十個も」


「同じなわけがないでしょう!」


凛が十個の風球スフィアを見る。


そして、少し不思議そうに。


「でも、できているわよ?」


ラヴィは黙った。


反論する言葉が見つからなかった。


理屈を並べても。


常識を説いても。


そのすべてを嘲笑うように。


現物が。


十個も。


目の前に浮いている。


少し離れた場所で、スカイゼルが自分の右手を見た。


握る。


開く。


もう一度、握る。


それから凛の両手を見た。


「……俺様、今日は何もしねぇ」


「賢明です」


ラヴィが即答した。


凛は十個の風球スフィアを眺めていた。


右手を少し動かす。


一つの風球が横へ流れた。


指先から離れる。


凛が手首を返すと、風球は大きく弧を描き、再び右手へ戻ってきた。


凛の碧い瞳が、ほんの少しだけ輝く。


もう一度。


今度は二つ。


左右へ飛ばす。


二つの光は別々の弧を描き、そして戻った。


「……これ」


凛が両手を見る。


「面白いわね」


ラヴィの耳が跳ねた。


「待ってください」


遅かった。


凛が両腕を大きく開いた。


十個の風球スフィアが、一斉に飛び出した。


「なっ……!」


虹色の光が修行場を駆け抜ける。


一つが右へ。


二つが上空へ。


三つが地面すれすれを滑り。


残りが左右へ散った。


十個が別々の軌道を描きながら、凛を中心に四方八方へ走る。


凛が一歩踏み出した。


右腕を横へ薙ぐ。


二つの風球スフィアが大きな弧を描き、岩壁へ向かった。


触れた瞬間。


岩の表面が、音もなく削れた。


だが。


風球スフィアは消えない。


そのまま岩を抜け、方向を変え、さらに別の岩へ向かう。


「は……?」


ラヴィの口から、意味を持たない声が零れた。


通常なら、対象へ力を作用させた時点で術式は崩れる。


仮に維持できたとしても、再び軌道を変えるには再構築が必要になる。


だが。


あれは違う。


壊した。


そのまま。


次へ向かった。


凛が左手首を返す。


三つの風球スフィアが低く潜り込み、地面の上を這うように走った。


小石が消える。


岩肌が削れる。


そのすぐ隣に咲いていた小さな花は、一枚の花弁すら揺らさない。


「お、おい……」


スカイゼルが一歩、後ずさった。


十個の光が。


縦に。


横に。


斜めに。


入り乱れる。


交差する。


だが、ぶつからない。


物理的な糸などない。


だから絡まることもない。


一つの風球スフィアが、別の風球の軌道を横切る。


その直後を、さらに二つがすれ違う。


まるで十個それぞれが、互いの居場所を知っているかのように。


その中心に。


凛がいた。


右足を踏み出す。


身体を半身に。


腕を交差させ。


くるりと回る。


白銀の髪が、円を描くように大きく広がった。


その動きを追うように、十個の虹色が空を旋回する。


一歩。


また一歩。


腕を振る。


手首を返す。


指先を払う。


十個の風球スフィアが舞う。


凛もまた、その軌道の中へ入っていく。


右から迫る風球スフィアの下へ身体を沈める。


背後から回り込んだ二つの間をくぐり、身体を翻しながら両腕を大きく開く。


十個の光が、花のように散った。


それはもう。


魔術の訓練には見えなかった。


舞踊。


いや。


演舞。


凛自身が風球スフィアを操っているのか。


十個の風球スフィアとともに、凛自身が舞っているのか。


見ている者には分からない。


風を切る音が重なる。


ヒュン。


シュッ。


ヒュウッ。


異なる軌道が生む風切り音が、いつしか一定の拍子を刻み始めた。


足音。


衣擦れ。


風。


岩が静かに削られる音。


それらすべてが、一つの旋律のように重なっていく。


ラヴィが息を呑んだ。


「……踊っている……?」


「違うわ」


セレスティアが小さく答えた。


視線は凛から外さない。


「風が、あの子に合わせているのよ」


その瞬間だった。


「うおおおおっ!?」


スカイゼルの絶叫が、優雅な空気を盛大にぶち壊した。


一つの風球スフィアが、真正面から彼の顔へ向かって飛んでいた。


「待て待て待て待て!」


スカイゼルが後ずさる。


だが、背後は岩壁。


逃げ場がない。


虹色の球体は止まらない。


「嬢ちゃん、止めろ!」


スカイゼルは両腕で頭を覆った。


「手じゃなくて頭が吹き飛ぶ!」


次の瞬間。


風球スフィアが、スカイゼルの頭へ触れた。


そして。


すぅ。


何の抵抗もなく、そのまま通り抜けた。


「…………は?」


スカイゼルの背後にあった巨岩へ、風球スフィアが触れる。


岩の中央だけが、するりと削り取られた。


風球スフィアはそのまま旋回し、再び凛の方へ戻っていく。


スカイゼルは、しばらく動かなかった。


恐る恐る両手で自分の頭を触る。


額。


頬。


後頭部。


全部ある。


「……どうして、俺は無傷なんだ?」


凛は回転を止めない。


十個の風球スフィアを舞わせながら、本当に分からないという顔で答えた。


「人を傷つける意味ある?」


スカイゼルが固まった。


「いや……意味とか、そういう話じゃ……」


ラヴィの黒傘が、力なく下がった。


「……訳が分かりません」


十個の風球スフィアが、彼の左右を同時に駆け抜ける。


ラヴィは目だけで追った。


「先ほどから、私の常識がことごとく失われていきます」


一つが頭上。


さらに一つが足元。


ラヴィの長い耳が、力なく垂れた。


「我々は……いったい何を見せられているのでしょうか?」


誰も答えなかった。


答えられなかった。


凛だけが、楽しそうに風と舞っていた。


右腕を大きく振り上げる。


十個の風球スフィアが天へ昇った。


両腕を胸の前で交差させる。


十個の軌道が、空中の一点へ集まっていく。


ぶつかる。


そう見えた。


その寸前。


十個は互いの間を縫うようにすれ違い、別方向へ散った。


凛が一回転する。


風が白銀の髪を持ち上げた。


そして最後に。


両腕を大きく左右へ開く。


十個の風球スフィアが、一斉に修行場の外周へ走った。


地面を擦るもの。


岩肌を掠めるもの。


高くそびえる岩壁へ向かうもの。


十個の虹色の軌跡が複雑に重なり、双神峰の風景そのものを駆け抜けていく。


土が抉られる。


岩が削られる。


石片が舞う。


それでも。


木々は残る。


草は残る。


小さな花も。


岩陰に作られた鳥の巣さえ。


何一つ傷ついていない。


「凛……」


セレスティアが、初めて小さく息を漏らした。


これは精密制御ではない。


少なくとも、自分が知る精密制御ではなかった。


一つ一つの軌道を選び、一つ一つの対象を判断し、そのたびに力を加減しているのなら、到底間に合わない。


それなのに、風は知っている。


何を壊してよいのか。


何を傷つけてはいけないのか。


まるで凛が望んだことを、風そのものが理解しているかのようだった。


やがて十個の風球スフィアが、大きく旋回する。


そして次々と、凛のもとへ戻ってきた。


一つ。


二つ。


三つ。


四つ。


五つ。


六つ。


七つ。


八つ。


九つ。


十個。


両手十本の指先へ。


ぴたりと。


最初と同じ位置へ戻った。


凛が動きを止める。


風も止まった。


白銀の髪が、遅れて肩へ落ちる。


静寂。


誰も口を開かなかった。


土煙だけが、ゆっくりと修行場を流れていく。


「……終わった?」


スカイゼルが、頭を抱えたまま尋ねる。


「終わったわよ」


「本当だな?」


「しつこいわね」


ようやくスカイゼルが腕を下ろす。


ラヴィも黒傘を畳み、辺りを見回した。


無数の削痕が地面を走っている。


大小の岩にも、幾筋もの軌跡が残されていた。


あれだけ好き勝手に飛び回ったのだ。


修行場が滅茶苦茶になっていても不思議ではない。


だが。


ラヴィの目が止まった。


「……少々、お待ちを」


風に流されていた土煙が、次第に薄くなっていく。


修行場の奥。


そこには、双神峰の斜面から突き出すように、巨大な岩壁がそびえていた。


先ほどまで。


ただの岩だったはずの場所。


その輪郭が、少しずつ煙の向こうから姿を現す。


ラヴィの赤い瞳が、ゆっくりと見開かれた。


「……これは」


岩壁の中央が、大きく削り込まれていた。


ただ壊されたのではない。


外側から幾重にも岩肌が削り出され、深さの異なる無数の曲面が重なっている。


一枚。


また一枚。


薄く開く花弁。


内側へ巻き込む柔らかな曲線。


中心へ向かうほど繊細になり、岩そのものが折り重なった花弁へ姿を変えていく。


地面に残された無数の削痕までが、その彫刻へ向かう流れのようにつながっていた。


まるで演舞の軌跡そのものが、最後の一輪へ集まったかのように。


双神峰の岩壁に。


巨大な薔薇が。


咲いていた。


誰も言葉を発しなかった。


ただ削っただけではない。


岩の硬さも。


奥行きも。


光の当たり方さえ。


すべてが異なる。


それなのに、巨大な石の花は、今にも風に揺れそうなほど柔らかく見えた。


スカイゼルが、ぽかんと口を開ける。


ラヴィはしばらく動かなかった。


風が彫刻の花弁を撫でる。


刻まれた陰影が光を受けて移ろい、石の薔薇が本当に開いていくように見えた。


やがて。


ラヴィが小さく息を吐いた。


「……お見事です」


凛が少しだけ顎を上げた。


だが。


ラヴィの目が細くなる。


「……ん?」


薔薇の中心。


幾重にも重なった花弁の奥。


そこに、何かが刻まれている。


ラヴィが目を凝らした。


小さな文字だった。


美しい薔薇の中心に。


妙に几帳面な字で。


『ラヴィのバカ』


「…………」


ラヴィの長い耳が。


ゆっくり。


ゆっくりと。


逆立った。


「……前言撤回します」


凛が眉を上げる。


「さっき、お見事って言ったわよね?」


「言いましたが……」


「なら、バカでいいじゃない」


「どういう理屈ですかッ!!」


ラヴィの絶叫が、双神峰に響き渡った。


スカイゼルがとうとう耐えきれず、腹を抱えて笑い始める。


その喧騒の中。


セレスティアだけは、笑っていなかった。


巨大な石の薔薇の向こうに立つ凛を、静かに見つめている。


自分は、この少女へ風を教えた。


流れを感じ、形にし、絶えず巡らせること。


風は繊細で、だからこそ一筋の乱れにも心を配らなければならないのだと。


けれど凛は、その教えを否定したわけではなかった。


一つずつ受け取り、自分なりに考え、そのたびに別の答えへ辿り着いていった。


一つの風球スフィアを十個へ増やしたことも。


乱れを一つずつ補正せず、戻る場所だけを決めたことも。


十個を同時に解き放ち、自らもその流れへ身を置いたことも。


壊す力を持ちながら、人の命や小さな花を傷つけなかったことも。


そして、そのすべての果てに、岩壁へ一輪の薔薇を咲かせたことも。


どれ一つとして、自分が教えた答えではない。


それでも、その始まりには確かに自分が差し出した風があった。


胸の奥に、温かなものが広がった。


師として、嬉しかった。


誇らしかった。


もっと見てみたい。


この少女が次に何を考え、何を見つけ、どんな答えを世界へ示すのか。


そう願わずにはいられなかった。


けれど同時に、セレスティアの心には、もう一つ別の感情が静かに芽吹いていた。


長い年月を生き、数え切れないほどの術を見てきた。


才能ある者にも出会った。


自分を追い越そうとする弟子たちも見てきた。


だが、目の前の少女に感じているものは、それらとは違う。


凛は、自分の背中を追いかけているのではない。


自分を越えようとしているのですらない。


この少女は。


教えられたものを入口にして。


自分にはもう見えない場所へ、歩き始めている。


その事実に気づいた時。


セレスティアの胸に、小さな震えが走った。


怖いのではない。


遠ざかっていくことが寂しいのでもない。


ただ。


自分が信じてきた世界の広さを、目の前の少女がさらにその向こうへ押し広げていく。


その光景を見せられていることへの。


静かな。


畏れ。


そして、それ以上の期待。


セレスティアの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。


視線の先。


凛の両手には、今も十個の風球スフィアが浮かんでいる。


虹色の光を受けながら。


セレスティアは思った。


この子は。


いったい。


どこまで行くのだろう。


風が吹いた。


凛の白銀の髪が、柔らかく揺れる。


その日。


双神峰に。


風で削り出された一輪の巨大な薔薇が咲いた。


それは、一人の少女が。


この世界の「当たり前」を。


また一つ踏み越えた痕跡だった。


ただし。


その薔薇の中心には。


『ラヴィのバカ』


と。


しっかり刻まれていた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


少しでも「続きが気になる」「凛と海を見守りたい」と思っていただけましたら、

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この物語は、異世界ファンタジーに変身ヒーロー要素と高飛車令嬢コメディを混ぜ込んだ作品です。

凛と海の全力変身を、これからも見届けていただければ嬉しいです。


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