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EP67:丸いって、誰が決めたの? [LOG_SPHERE]

風球スフィアは丸い。


それはきっと、誰も疑わなかったこと。


でも凛にとって「みんながそうしている」は、理由にはならないようです。


ようやく完成した風球を前に、彼女はまた一つ、とても面倒な疑問を抱き始めます。


翌朝。


双神嶺の空は、薄い雲を高いところへ押しやり、どこまでも澄んでいた。


夜露を残した草の先が朝日に光り、山肌を渡る風が白銀の髪をさらっていく。


凛は修行場の中央に立っていた。


右手を開く。


掌を上へ。


昨日と同じ姿勢。


けれど、昨日と同じことをするつもりはなかった。


――続けることと、進むことは同じではないでしょう?


セレスティアに言われた言葉が、まだ耳の奥に残っている。


少し離れた場所では、ラヴィが腕を組んでいた。


昨日までなら、その赤い瞳には「できるものならやってみろ」とでも言いたげな色があった。


今日は少し違う。


長い兎耳が、凛の方へ向いている。


興味。


警戒。


そして、本人もまだ認めていない何か。


セレスティアは、そのさらに後ろ。


スカイゼルも今日は珍しく口を挟まず、岩に腰を預けていた。


「始めていいですか」


凛が尋ねる。


「ええ」


セレスティアが頷いた。


「昨日と同じところから始める必要はないわ」


「分かっています」


凛は目を閉じた。


風を感じる。


頬を撫でるもの。


髪を揺らすもの。


足元の草を伏せていくもの。


木々の枝を抜け、山の向こうへ消えていくもの。


昨日までの凛なら。


逃げるな。


そこへいなさい。


そう命じていた。


けれど。


もう、そうは思わない。


風が掌へ集まり始めた。


薄い虹色を帯びた流れが、一筋。


弧を描く。


四分の一。


半分。


さらに巡る。


やがて。


昨日と同じ場所で止まった。


あと少し。


わずかな隙間。


ラヴィの視線が鋭くなる。


「……そこです」


凛は答えない。


「あと少しだけ流れを整えれば閉じます。最後の継ぎ目を――」


「継ぎ目?」


凛が目を開いた。


ラヴィが言葉を止める。


凛は掌の上の弧を見つめた。


「そこが?」


「ええ。そこから形成を始めたのですから」


「私が始めた場所でしょう?」


「当然です」


「じゃあ」


凛は少し首を傾げる。


「風にとっても、そこが始まりなの?」


ラヴィの眉がわずかに動いた。


「……何をおっしゃっているのです?」


凛は虹色の弧を目で追った。


始まり。


終わり。


閉じる。


昨日から何度も考えた。


自分はずっと、最後の隙間を埋めようとしていた。


そこから始めたから。


そこへ戻せば完成する。


そう思っていた。


けれど。


「輪って」


凛が呟く。


「どこから始まってるの?」


誰も答えなかった。


「ここが最初だって決めたら、そこが最初になる。でも、違う場所を最初だと決めても同じでしょう?」


指先で、宙に小さな円を描く。


「だったら、最初なんて本当はないんじゃない?」


ラヴィが口を開きかける。


凛は続けた。


「始まりと終わりを作っておいて、最後にくっつけなきゃって考えるから、おかしくなるのよ」


風が一本。


弧から外れた。


ラヴィの目が動く。


凛は追わない。


逃げた風は凛の肩を回り。


髪を揺らし。


背後へ流れる。


そして。


戻ってきた。


掌へ。


別の風が下へ逸れる。


草を揺らし。


戻る。


もう一本は大きく横へ膨らみ。


それでも。


戻ってくる。


凛はそれを見ていた。


何もしない。


指一本、動かさない。


「一周して」


小さく息を吐く。


「戻ってきたなら」


虹色の弧が揺れた。


「もう繋がってるでしょう?」


最後の隙間を。


凛は閉じなかった。


閉じようともしなかった。


ただ。


風が帰ってくることを受け入れた。


その瞬間。


修行場を渡っていた風が、一度だけ止まった。


草の揺れが止まる。


木々の葉が静まる。


耳元を抜けていた風音まで消えた。


世界が。


ほんの一瞬だけ。


息を止めたようだった。


その静寂の中で。


凛の掌の上だけ。


風が巡っていた。


透明な球。


ピンポン玉ほどの小さな球体。


淡い虹色が、その内側をゆっくり流れている。


どこが始まりなのか。


どこが終わりなのか。


もう分からない。


それでも。


確かに一つの流れとして繋がっていた。


風球スフィア


完成していた。


「…………」


ラヴィが息を呑んだ。


スカイゼルも何も言わない。


セレスティアの目が、わずかに見開かれていた。


凛自身も動かなかった。


掌を見る。


少し傾ける。


消えない。


指を動かす。


まだある。


もう一度。


確かめるように見る。


「……できた」


声が、思ったより小さくなった。


胸の奥が、じわりと熱くなる。


昨日まで。


何度やっても閉じなかった。


自分にはできないのではないか。


そう考えなかったわけではない。


悔しかった。


セレスティアに教えられ。


ラヴィにできて。


自分にはできない。


それが。


嫌だった。


だから。


掌の上にある小さな球が。


思っていた以上に嬉しかった。


「……本当に、できた」


口元が緩む。


ほんの一瞬だけ。


誰に見せるでもない笑みが浮かんだ。


セレスティアは何も言わなかった。


ただ、静かにその顔を見ていた。


ラヴィが小さく息を吐く。


「……お見事です」


凛が顔を上げた。


「当然よ」


いつもの調子に戻った声だった。


けれど。


その頬にはまだ少しだけ、隠しきれない喜びが残っていた。


そして凛は。


すぐにセレスティアを見た。


「セレスティア様」


「なあに?」


「もう一度、見せていただけますか」


セレスティアは頷いた。


掌を上げる。


風が集まった。


音すらしない。


次の瞬間には。


凛のものとほぼ同じ大きさの風球スフィアが浮かんでいた。


並べて見る。


そこで。


凛の表情が変わった。


「……違う」


自分の風球を見る。


セレスティアの風球を見る。


同じ球。


同じ風。


同じように虹色を帯びている。


けれど。


まるで違った。


セレスティアの風球は、静かだった。


内部では幾重もの風が巡っているはずなのに、外から見れば透明な宝玉のように動かない。


虹色の光も均一。


輪郭にも一切の乱れがない。


完成された工芸品。


長い年月をかけて磨き上げられた芸術品のようだった。


対して。


凛の風球は、落ち着きがない。


虹色が濃くなる場所。


薄くなる場所。


風が交差する。


逸れる。


別の道へ行く。


輪郭さえ、ときおり呼吸するようにわずかに膨らむ。


それでも。


必ず戻ってくる。


「……やっぱり」


凛の眉が寄った。


「セレスティア様の方が綺麗」


それは謙遜ではなかった。


悔しそうですらあった。


「私のは、風が好き勝手に動きすぎてる」


ラヴィが。


その言葉を聞いて凛の風球へ近づいた。


「…………」


赤い瞳が、内部の流れを追う。


一本。


逸れる。


戻る。


別の一本。


膨らむ。


戻る。


次。


また次。


ラヴィの表情から、少しずつ余裕が消えていった。


「凛殿」


「何?」


「今の流れ」


指先を見る。


「補正しましたか?」


「してないけど」


「では、その前は?」


「してない」


ラヴィが風球を見る。


また逸れる。


凛は何もしない。


戻る。


「……何を制御しているのです?」


凛が眉を寄せた。


「何も」


ラヴィの顔が止まった。


「何も?」


「戻る場所は決めてあるもの」


「…………」


凛には、それ以上説明する必要があるとは思えなかった。


ラヴィは違った。


自分なら。


風が逸れれば戻す。


流れが偏れば整える。


形が崩れれば補う。


そうやって。


一つの風球を保つ。


それが制御だ。


それが技術だ。


そう教わってきた。


そう磨いてきた。


だが。


目の前の少女は。


逸れた風を直していない。


乱れを消していない。


自由にさせている。


なのに。


完成している。


ラヴィは自分の掌を見た。


そこへ小さな風球を作る。


完璧な円。


長年見慣れた形。


昨日までは。


それが正解だった。


そのはずだった。


「…………」


セレスティアも。


凛を見ていた。


凛は自分のやり方が特別だとは思っていない。


セレスティアの技を追いかけ。


できるようになった。


まだセレスティアより未熟。


本気で、そう考えている。


けれど。


同じではない。


形だけが似ている。


そこへ至った道が違う。


「凛」


「はい?」


「今の感覚」


セレスティアは少しだけ言葉を選んだ。


「忘れないで」


凛は不思議そうにしながらも頷いた。


「はい」


そして。


再び三つの風球を見比べる。


自分。


セレスティア。


ラヴィ。


どれも。


丸い。


「…………」


凛の目が細くなった。


ラヴィの長い耳が、ぴくりと動いた。


「……凛殿」


「何よ」


「今度は何が気になるのです?」


「何よ、その言い方」


「昨日から、凛殿が黙るたびに私の常識が一つずつ減っています」


凛は無視した。


自分の風球を見つめる。


丸い。


セレスティアのものも丸い。


ラヴィも。


「セレスティア様」


「なあに?」


「どうして丸いのですか?」


ラヴィが一瞬だけ目を閉じた。


セレスティアは答える前に、凛を見た。


「風球が?」


「はい」


「風を巡らせるのに、その形が一番自然だからよ」


今度はラヴィが続ける。


「角がありませんからね。流れを途切れさせず、一定に巡らせやすい。無理に角を作れば、その部分で風が乱れます」


「角があったら」


凛が聞く。


「風は曲がれないの?」


ラヴィが止まった。


「……曲がること自体はできます」


「そう」


「ですが、それは――」


「なら、いいじゃない」


「凛殿?」


掌の上。


小さな風球が揺れた。


丸かった輪郭の一部が。


平らになる。


「……何を」


ラヴィの声が低くなる。


もう一面。


曲線が消えていく。


風が角へ集まった。


そこで。


折れる。


虹色の流れが。


直角に。


曲がった。


「な……」


ラヴィの目が見開かれる。


次の角。


風が折れる。


また次。


戻る。


流れが角で乱れる。


少し膨らむ。


それでも。


また次の面へ進む。


曲がり。


巡り。


帰ってくる。


やがて。


凛の掌の上から。


曲線が消えた。


透明な。


小さな立方体。


その内部。


虹色の風が、いくつもの直線と折れ曲がる流れを描きながら巡っている。


ラヴィが固まった。


スカイゼルが岩から身体を起こした。


セレスティアは。


ただ。


見ていた。


「…………」


凛は立方体を少し傾ける。


風が角で折れる。


反対側へ。


そして。


戻る。


「できるじゃない」


「凛殿」


ラヴィの声が、いつもより一段低かった。


「何よ」


「それはもう」


掌の上の立方体を指す。


風球スフィアではありません!」


凛が立方体を見る。


少し考える。


ほんの少しだけ。


そして。


「なら、立方体(キューブ)でいいじゃない」


「…………」


「何よ」


「名前の問題ではありません」


「風球じゃないって言ったのはあなたでしょう?」


「そういう意味では……!」


ラヴィは途中で言葉を切った。


凛は《キューブ》を見る。


角で風が揺れる。


確かに。


セレスティアの風球のような滑らかさはない。


けれど。


戻ってくる。


「でも」


凛は言った。


「ちゃんと帰ってくるわよ?」


ラヴィは返せなかった。


そこだった。


問題は。


球か。


立方体か。


そんなことではない。


風を直角に曲げたことでもない。


凛は。


自分たちが「形を維持するために制御するもの」だと思っていた風に。


形を守らせている。


力ずくでもない。


何度乱れても。


帰る場所だけは失わせない。


その一点だけで。


成立させている。


ラヴィが何も言わなくなった。


その沈黙に。


凛は気づいていない。


掌の《キューブ》を眺めている。


セレスティアの風球を見る。


また《キューブ》。


「…………」


今度はセレスティアが先に気づいた。


「凛」


「はい?」


「まだ何かあるの?」


凛が顔を上げる。


「どうして分かったのですか?」


「顔に書いてあるわ」


凛は自分の《キューブ》を見る。


「これ」


少し間を置く。


「どうして、この大きさなんですか?」


ラヴィが天を仰いだ。


「…………」


「何よ」


「いえ。もう驚きません」


「そう」


「努力します」


セレスティアは《キューブ》を見た。


「大きくできないわけではないわ。でも広げれば、それだけ長い距離で風を巡らせなければならない。形も崩れやすくなる」


「長い距離?」


凛が聞き返した。


「ええ」


凛は少し考えた。


それから。


《キューブ》の中を走る風を見る。


角へ。


曲がる。


次の角へ。


また曲がる。


帰ってくる。


「距離が長くなると」


凛は言った。


「帰れなくなるの?」


ラヴィが。


今度こそ何も言わなかった。


セレスティアも。


すぐには答えない。


「……そういう意味ではないわ」


「じゃあ」


凛の指が。


少しだけ開いた。


「大丈夫ですね」


《キューブ》の輪郭が。


遠ざかった。


ほんの一瞬だった。


掌に収まっていた立方体が。


両手で抱えるほどになる。


ラヴィが一歩下がる。


「凛殿」


さらに。


辺が伸びる。


虹色の風が走る。


「凛」


セレスティアの声が少し強くなる。


「無理はしていない?」


「してません」


凛は答えた。


「遠くを通ってもらっているだけです」


風が。


走った。


次の瞬間。


ラヴィの視線が。


凛の掌から外れた。


《キューブ》の輪郭を追う。


追う。


さらに追う。


だが。


終わらない。


透明な辺が。


木々の向こうまで伸びている。


「…………?」


ラヴィが振り返った。


背後。


そこにも。


淡い虹色の線。


一本の風が。


地面から空へ向かって、まっすぐ立ち上がっている。


「……まさか」


上を見る。


はるか頭上。


青空を横切って。


虹色の風が走っていた。


一本。


そして。


それと交わるように、別の辺。


ラヴィの耳が。


ゆっくり立つ。


スカイゼルも。


空を見上げていた。


セレスティアは動かない。


ただ。


周囲を見ている。


木々の向こう。


頭上。


背後。


足元。


風は壁になっていない。


閉じ込めてもいない。


ただ。


遠く。


遠く。


見えない面をなぞるように巡っている。


角で折れ。


次の辺へ。


さらに次へ。


乱れる。


交差する。


少し外れる。


それでも。


帰ってくる。


ラヴィが。


ようやく理解した。


巨大な《キューブ》を。


外から見ていたのではない。


自分たちは。


もう。


中にいる。


修行場ごと。


木々ごと。


空の一部ごと。


凛の作った巨大な立方体(キューブ)の内側に。


「…………」


ラヴィから。


言葉が消えた。


スカイゼルも何も言わない。


昨日なら。


何か一言。


騒いでいたかもしれない。


けれど今日は。


ただ、空を見上げていた。


淡い虹色の風が。


山の上空で。


あり得ない角度に折れる。


そのたびに。


巨大な立方体の輪郭が、一瞬だけ浮かび上がる。


自然の中に。


自然ではあり得ない形。


四角い空。


その中心に。


凛がいた。


本人だけが。


自分の掌を見ている。


まるで。


少し大きな箱を作っただけのように。


「凛」


セレスティアが呼んだ。


「はい?」


「そこで止めて」


凛は素直に頷いた。


「分かりました」


何の抵抗もなく。


辺の伸びが止まる。


巨大な形は、そのまま保たれた。


揺らぐ。


乱れる。


なのに。


崩れない。


セレスティアは自分の風球を見る。


静かな球。


完璧に整えた流れ。


そして。


巨大な《キューブ》を見る。


違う。


凛は。


自分の風球を上手に作れるようになったのではない。


同じ形を。


より大きくしたのでもない。


自分が教えたものを入口にして。


別の場所へ出た。


それだけは。


もう。


分かった。


凛は。


そんなセレスティアの視線に気づかない。


《キューブ》の角を見ていた。


虹色の光が少し強い。


流れも乱れている。


「……やっぱり」


ぽつりと呟く。


「綺麗じゃないわね」


ラヴィが。


ようやく凛を見る。


「凛殿」


「何?」


「今、そこが気になりますか?」


「気になるでしょう」


凛は当然のように言った。


「角のところ、風が乱れてるもの」


ラヴィは何も返さなかった。


返す言葉を探すのを。


諦めたようにも見えた。


凛はセレスティアを見る。


「もう解いていいですか?」


「ええ」


凛が。


空を見上げた。


「もういいわ」


静かな声。


「帰っていいわよ」


巨大な《キューブ》が。


ほどけた。


爆ぜない。


崩れ落ちない。


一本ずつ。


風が形を手放していく。


頭上の辺が消える。


木々の向こうの虹色が薄れる。


角がなくなる。


直線がなくなる。


風は。


また。


ただの風へ戻っていく。


山へ。


谷へ。


森へ。


好きな方向へ。


最後の一筋だけが。


凛の頬を撫でた。


白銀の髪を揺らし。


そのまま遠くへ消えた。


いつもの双神嶺が戻る。


凛は。


しばらく掌を見ていた。


それから。


セレスティアの掌に残っている風球スフィアを見る。


小さく。


静かで。


完璧な球。


そして。


本気で悔しそうに言った。


「……やっぱり、セレスティア様の方が綺麗ね」


「…………」


ラヴィは自分の掌を見た。


そこには。


彼自身が作った風球スフィアが残っている。


乱れのない。


美しい円。


長い時間をかけ。


何度も崩し。


何度も作り直し。


ようやくここまで磨いたもの。


間違ってはいない。


今でも。


美しい。


ラヴィはしばらくそれを見つめていた。


「……私は」


小さく漏れる。


「何年、これを丸くしてきたのでしょうね」


凛が振り返った。


「何よ」


ラヴィは顔を上げない。


凛は彼の風球を見る。


「綺麗じゃない」


ラヴィの耳が、わずかに動いた。


「…………」


「私はまだ、そこまで綺麗に作れないもの」


ラヴィは。


もう一度、自分の風球を見た。


そして。


ほんの少しだけ。


口元を緩めた。


「……そうですね」


否定ではなかった。


諦めでもなかった。


ただ。


昨日まで一つしかないと思っていた答えの隣に。


別の答えが置かれた。


それだけだった。


少し離れた場所で。


セレスティアも自分の風球を見ていた。


完全な球。


一切の乱れがなく。


風が最も美しく巡る形。


長い年月をかけて辿り着いた。


自分の答え。


セレスティアの指先が。


ほんの少しだけ動いた。


丸い輪郭へ触れるように。


一瞬。


その円を。


崩そうとしたようにも見えた。


けれど。


指は止まった。


何も起きない。


セレスティアは、ゆっくり手を下ろした。


そして。


凛を見る。


凛はまだ。


自分を追いかけていると思っている。


同じ道を。


少し遅れて歩いていると。


完成度なら。


まだセレスティアの方が上だ。


安定性も。


精度も。


積み重ねた年月も。


だから。


「セレスティア様の方が綺麗」


その言葉は。


間違っていない。


間違ってはいないのに。


セレスティアは。


凛が立っている場所を見ながら思った。


――この子は。


いったい。


どこへ行くつもりなのだろう。


その時。


凛の視線が。


ふと。


自分の右手へ落ちた。


開いた掌。


五本の指。


凛が。


何かを考えるように。


ほんの少しだけ。


首を傾げる。


ラヴィの長い耳が。


ぴくりと動いた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


少しでも「続きが気になる」「凛と海を見守りたい」と思っていただけましたら、

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この物語は、異世界ファンタジーに変身ヒーロー要素と高飛車令嬢コメディを混ぜ込んだ作品です。

凛と海の全力変身を、これからも見届けていただければ嬉しいです。


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