EP45:王宮晩餐、工具を添えて [LOG_DINNER]
晩餐会の扉が開いた瞬間、香りが押し寄せてきた。
焼き上げられた肉の脂。
果実酒の甘さ。
磨き上げられた銀器の冷たい光。
それに、花と香水と、貴族たちの視線。
王宮の大広間は、夜そのものを飾り立てたような場所だった。
高い天井から吊るされた魔晶灯が、幾重にも光を降らせている。
長い卓には白い布が波のように広がり、その上に料理が並ぶ。
皿の縁には金の細工。
杯には薄く色づいた酒。
壁際には楽士たちが控え、弦の音が柔らかく空気を撫でていた。
その場に足を踏み入れた瞬間、海は思った。
場違いだ。
自分たちは、あまりにも場違いだ。
フィリアは背筋を伸ばし、礼節を整えようとしている。
カスミは赤い白衣のまま、KTC-αを抱えている。
そして、その隣では。
コツン。
胸に“K”を刻んだ、機高57cm、機体重量55kgの赤い小型ロボットが歩いていた。
透明キャノピーの奥では、白いウーパールーパーが、やけに渋い顔で周囲を見回している。
パールだった。
「……視線が多いな」
低い声が、キャノピー越しに響く。
「目立つから」
カスミが淡々と答えた。
「誰のせいだ」
「だいたい、あなた」
「俺は乗せられた側だぞ」
「乗ると言った」
「言わされたんだ」
「記録と違う」
「都合の悪い記録は消せ」
「消さない」
海は二人のやり取りを聞きながら、周囲の反応を観察していた。
貴族たちは露骨に顔を向けない。
だが、視線だけは何度もこちらへ滑ってくる。
赤い白衣。
女神ウェポン。
白いウーパールーパー。
五十七センチの赤いロボット。
どう見ても、晩餐会に持ち込んでいい情報量ではなかった。
「カスミ様」
フィリアが小声で囁く。
「どうか、今夜だけはできる限り礼節を」
「礼節」
「はい。王宮の晩餐会ですから」
「研究室ではない」
「その通りです」
「帰る理由が増えた」
「増やさないでください」
フィリアは微笑んでいたが、その声には必死さが滲んでいた。
海は少しだけ同情した。
カスミは晩餐会の空気に興味がない。
むしろ、空気というものを読む気がない。
読めないのではなく、読んだうえで優先順位を低く置いている。
それが、鋳鍛地カスミだった。
一行が席へ案内されると、周囲のざわめきが少しだけ増した。
「まあ、あの赤いものは何かしら」
「女神ウェポンを授かった者だとか」
「白衣で晩餐会に?」
「隣の小さな魔導具、動いておりますわ」
「中に何か……生き物が?」
パールが、ぎろりと視線だけを動かした。
「見世物じゃねぇぞ」
「龍さん、声が届いてます」
海が小声で言う。
「届かせてるんだよ」
「挑発しないでください」
「守護者の仕事だ」
「まだ誰も攻撃してません」
「視線は攻撃だ」
「それ、ちょっと分かりますけど」
カスミは席につくと、ようやくKTC-αを足元に置いた。
パールのKは、その隣に立つ。
椅子に座るには小さすぎる。
だが床に立たせるには、存在感がありすぎる。
給仕が困ったように視線を泳がせた。
「こちらの……ええと、お連れ様は」
「保護者」
カスミが即答する。
「ほ、保護者様」
給仕は混乱しながらも、礼儀だけで乗り切った。
パールは満足そうに低く笑う。
「分かってるじゃねぇか」
「調子に乗らないで、パール」
「坂城龍壱だ」
「パール」
「……返事はするが、認めたわけじゃねぇ」
料理が運ばれてきた。
白い皿の上に、美しく切り分けられた肉。
香草をまとった野菜。
淡い色のソース。
海は思わず感心した。
異世界の王宮料理。
それは、彼が現世で想像していた“ファンタジーの晩餐”そのものだった。
だが、その隣で。
カスミは、白衣の内側から工具を取り出した。
一本はプラスドライバー。
もう一本はマイナスドライバー。
海は固まった。
「……カスミさん」
「何」
「それって、ドライバーですよね」
カスミは手元の二本を見た。
そして、海を見た。
「お前もなかなか見所があるな」
「ありがとうございます?」
「やらないぞ」
「そうじゃなくて」
カスミはプラスドライバーで肉を押さえ、マイナスドライバーで器用に切り分けた。
切れないはずの工具で、なぜか肉が整然と分かれていく。
海は目を疑った。
「いや、使い方が上手い……じゃなくて、衛生的にどうかと」
「滅菌してるから問題ない」
即答だった。
「こっちじゃなくて」
「どっち」
「食事に工具を使うという概念の方です」
「プラスとマイナスのロマンをお前は知らないのか?」
「食卓で語るロマンではないと思います」
カスミは眉ひとつ動かさず、今度は野菜をマイナスドライバーで軽く押さえた。
プラスドライバーの先で、香草を器用に寄せる。
完全に慣れている。
海はその事実に、少しだけ心が折れた。
「……これ、初めてじゃないですね」
パールがキャノピーの中で低く笑った。
「家でもそれで飯食ってるよな。上半身裸で」
「パール」
カスミの声が一段低くなった。
「事実だろうが」
「余計なことを言わない」
「よくも龍神の前で、あんな無様な姿をさらけ出せたもんだぜ」
「うるさい」
海は慌てて手を振った。
「龍さん、やめてください。聞いてるこっちが恥ずかしくなっちゃいますから」
「事実だからしょうがねぇだろう」
パールはふんと鼻を鳴らした。
「ざっと見たところ、サイズは」
「うるさい」
「何のサイズですか!?」
「ミュートも黙る」
「はい」
フィリアは顔を真っ赤にして、両手で顔を隠していた。
「カ、カスミ様……その……ご自宅では、もう少し……」
「何」
「いえ、何でもございません……」
それでもフィリアは、すぐに気を取り直そうとした。
そして、カスミの手元の工具を見つめる。
「ですが……カスミ様は、認められた方なのですね」
「何が」
「お食事の際にも神器を手放さないとは」
海は即座に首を振った。
「フィリアさん、それ絶対間違ってますから」
「違うのですか?」
「かなり違います」
「でも、女神ウェポンに選ばれた方が、常に道具と共にあるというのは、とても象徴的ではありませんか」
「象徴にはしないでください。たぶん本人は普通に食べにくい道具で食べてるだけです」
「食べにくくない」
カスミが言った。
「慣れてるから」
「そこが問題なんです」
周囲の貴族たちも、明らかにこちらを見ていた。
白衣の少女が、王宮の晩餐会で工具を使って肉を食べている。
しかも、隣には赤い小型ロボット。
その中には、渋い声の白いウーパールーパー。
どこからどう見ても、噂になる材料しかなかった。
海は心の中で、静かにログを取った。
晩餐会。
礼節。
工具。
滅菌済み。
パールによる生活暴露。
フィリアさんの誤解。
この一卓だけ、情報密度が壊れている。
その時だった。
「これはこれは」
やわらかな声が、海たちの席の近くで響いた。
振り向くと、ひとりの青年が立っていた。
黒に近い艶を持つ髪。
整った顔立ち。
襟元に留められた深紅の宝石。
彼の周囲だけ、灯りが少し暗く沈んだように見えた。
エドガー・フォン・シュタインベルク。
シュタインベルク家の青年。
大属性は闇。
二属性に火と土を持つ魔導師。
その才と家柄に不足はない。
そして何より、本人がその価値を疑ったことがない。
「女神に選ばれし赤き白衣の君。噂以上に、不思議な輝きを持っているね」
海は小さく眉をひそめた。
初手から、濃い。
カスミは返事をしなかった。
プラスドライバーで肉を押さえ、マイナスドライバーで切る作業を続けている。
エドガーは、それを“照れ”と受け取ったらしい。
「ふふ。無言か。けれど、その沈黙すら美しい」
「キモい」
カスミが言った。
間髪入れずに。
海は水を吹きかけた。
フィリアは目を見開く。
パールはキャノピーの中で、低く笑いを漏らした。
エドガーは、一瞬だけ瞬きをした。
だが、すぐに笑みを戻す。
「まあ、照れるのは仕方ないね」
「だから、キモい」
「君ほどの美しさなら、自分に向けられる賛辞に慣れていないはずがない。だが、僕の言葉は特別だからね」
「不快」
「そうか。僕の隣に立つのが、そんなに怖いかい?」
カスミは、そこでようやく顔を上げた。
端正な顔だった。
赤い白衣と工具さえなければ、貴族の誰もが目を留めるほどの整った顔立ち。
けれど、その目には温度がなかった。
観察対象を見る目だった。
「こいつ、病気なの?」
エドガーの笑顔が、わずかに引きつった。
海は慌てて間に入ろうとする。
「カ、カスミさん、さすがに言い方が」
「所見」
「所見でも強いです」
エドガーは笑みを保ったまま、海に視線を向けた。
「赤髪の陰気は黙っていてくれるかな」
空気が、ほんの少し冷えた。
「君には、彼女の隣はふさわしくない」
海は一瞬、言葉を失った。
エドガーの言葉は、カスミへ向けたものよりも、海へ向けたものの方が鋭かった。
それは単なる侮蔑ではない。
妬み。
この青年は、海を見ている。
カスミの隣に立つ赤髪の男を。
自分の世界の外から来て、女神や魔導師団の視線を奪っていく異物を。
その存在そのものを、不愉快なものとして見ている。
海はそれに気づいて、少しだけ喉が詰まった。
その横で、コツン、と小さな足音がした。
赤い57cmの守護者が、一歩前に出ていた。
透明キャノピーの奥で、パールの黒い目が細くなる。
「お前にもな」
低い声が、はっきりと響いた。
エドガーはパールを見下ろす。
「……これは、何かな」
「見て分からねぇなら、目の飾りを外せ」
「小さな魔導具が喋るのか」
「小さくても、耳はある。ついでに、見る目もある」
「面白いね」
エドガーは笑った。
「だが、僕は美しいものには目がないんだ。君の主にもね」
「主じゃねぇ」
パールが低く言った。
「カスミはカスミだ。お前が飾るための花じゃねぇ」
カスミは手元のドライバーを置いた。
静かに。
その動作だけで、海は少し緊張した。
エドガーはそれにも気づかない。
「ふふ。ずいぶん気の強い小さな守護者だ」
「守護者様ですわ」
フィリアが思わず訂正した。
「そこは乗らなくていいです、フィリアさん」
海が小声で言う。
だが、周囲の令嬢たちは違った。
エドガーが、白衣の少女に近づいた。
白衣の少女は、彼を切り捨てた。
赤髪の青年が侮辱された。
小さな守護者が前に出た。
その一部始終は、すでに会場中の視線を集めていた。
大広間の少し離れた位置で、扇が一枚、不愉快そうに閉じられる。
パチン。
その音は小さかった。
けれど、海には妙に大きく聞こえた。
扇を閉じた令嬢は、栗色の巻き髪を揺らしながら、じっとカスミを見ていた。
ヴィオラ・ロッシ。
財務大臣マリア・ロッシに連なる分家令嬢。
彼女の隣には、涼しい顔のステファン・ハワード。
内務大臣家の分家筋で、秩序という言葉を好む青年だった。
そして、少し怯えた目で周囲を見回すミレイユ・ベネット。
ヴィオラは薄く笑った。
「まあ」
その声は、甘い菓子に毒を混ぜたようだった。
「異界の者が、ずいぶんと王都の礼節を軽んじていらっしゃるのね」
その言葉に、フィリアの表情が変わった。
先ほどまで赤くなっていた頬から、すっと温度が引いていく。
「ヴィオラ様」
フィリアの声は静かだった。
「その呼び名は、慎まれた方がよろしいかと」
「どうしてかしら。古い記録にもある呼び名でしょう?」
ヴィオラは扇で口元を隠す。
「異界の者。この世界ならざる場所から来た者。未知の力を持ち、秩序を乱す者」
「彼らは、王国に招かれた方々です」
「招かれた?」
ヴィオラは笑った。
「女神に拾われた、の間違いではなくて?」
海は拳を握った。
言い返すべきか。
黙るべきか。
迷った。
僕たちは、異世界人と呼ばれている。
その事実は知っていた。
けれど、同じ音でも、言い方ひとつで刃になる。
ヴィオラが口にした異界の者は、名前ではなかった。
札だ。
人を分類し、遠ざけ、見下すための札。
だが、その前にカスミが口を開いた。
「語彙が古い」
ヴィオラの笑みが止まる。
「何ですって?」
「古い。偏見も古い。更新されてない」
「……異界の者が、私に礼節を説くつもり?」
「説いてない。観察結果」
「無礼ですわ」
「そっちも」
海は頭を抱えたくなった。
切れ味が良すぎる。
そして、刃を隠す気がない。
エドガーは、なぜか楽しげに笑った。
「素晴らしい。やはり君は面白い」
「キモい」
「その辛辣さも美しい」
「悪化してる」
カスミは海を見た。
「ミュート、なんとかして」
「カスミさん、僕ですか!?」
「赤髪」
「呼び方が雑」
エドガーが海をちらりと見た。
「赤髪の陰気に任せるより、僕に任せた方が早いと思うけれどね」
その瞬間、パールがもう一歩前に出た。
コツン。
57cmの足音。
小さい。
けれど、逃げてはいなかった。
「おい、闇属性」
パールの声が低くなる。
「カスミに近づくなら、まず俺を通せ」
エドガーは片眉を上げた。
「君を?」
「そうだ」
「その小さな身体で?」
「57cmだ」
「ほとんど変わらないよ」
「数字の問題じゃねぇ。前に立つかどうかだ」
一瞬、場が静かになった。
海はその言葉に、少しだけ息を呑んだ。
57cmの身体では、誰かを殴り倒すことはできない。
けれど。
誰かの前に立つことはできる。
パールは、それをしていた。
カスミは透明キャノピーの中の白い姿を見た。
「パール」
「何だ」
「前に出すぎ」
「保護者だからな」
「戦闘機能は封印中」
「睨みは非戦闘だ」
「分類は合ってる」
「ならいいだろ」
フィリアは小さく微笑んだ。
海も、胸の奥に妙な熱を感じた。
この小さな守護者は、たしかに滑稽だった。
工具で飯を食べる白衣の少女と並ぶには、あまりに奇妙だった。
それでも。
今この場で一番まっすぐだったのは、57cmの彼だった。
ヴィオラの扇が、もう一度鳴った。
パチン。
「……面白い見世物ですこと」
その声には、笑いよりも不快感が滲んでいた。
「エドガー様に無礼を働き、王宮の晩餐会で工具を食器にし、奇妙な魔導具を連れ歩く。異界の者とは、本当に礼節を知らないのですね」
ステファン・ハワードが静かに添える。
「誤解なさらないでください。これは警告です。王都の平穏を乱す方を、放っておくわけにはいきませんから」
「警告」
カスミは小さく繰り返した。
「秩序、平穏、警告。便利な言葉」
ステファンの目が細くなる。
「言葉の意味を理解できないのなら、学ぶべきです」
「意味は分かる。使い方が悪い」
「……なるほど」
ステファンは笑った。
「やはり異界の者は、王都の作法に慣れていない」
フィリアが一歩前へ出ようとした。
だが、海がそっと視線で止める。
ここで言い合いになれば、火は大きくなる。
カスミはヴィオラを見た。
その視線は冷たかった。
「あなた、誰」
大広間の空気が、凍った。
ヴィオラの頬がわずかに引きつる。
「……私を知らない?」
「知らない」
「ロッシ家の名も?」
「興味がない」
「まあ」
ヴィオラは笑った。
笑ったが、その笑みはもう甘くなかった。
「身の程というものを、どなたかが教えて差し上げる必要がありそうですわね」
カスミは首を傾げた。
「身長の話?」
「違いますわ!」
「なら不要」
「……本当に、無礼な方」
ステファンが、静かにヴィオラの横へ立った。
「ヴィオラ様。今宵は晩餐会です。ここで騒ぎを大きくするのは、得策ではありません」
「分かっています」
ヴィオラは扇で口元を隠した。
「今宵は、ね」
ミレイユ・ベネットは、ちらちらとカスミとパールを見ていた。
怯えと嫌悪。
そして、群れの中にいるからこその強気。
海はその目を見て、少しだけ嫌な予感を覚えた。
この場は終わらない。
今は、ただ持ち越されるだけだ。
エドガーは、それでも笑っていた。
まるで自分を中心に夜が回っていると信じているように。
「赤き白衣の君」
「何」
「今夜の君は、実に印象的だったよ」
「こっちは不快だった」
「次は、もっと穏やかに語り合えるといいね」
「拒否」
「照れ隠しも、ここまで徹底すると芸術だ」
「ミュート」
「はい」
「こいつ、回収して」
「僕にそんな権限ないです」
「使えない」
「すみません」
パールが低く笑った。
「カスミ。もういいだろう。飯が冷める」
「それは困る」
「そこは困るんですね」
海が思わず言う。
カスミは再び席に戻り、プラスドライバーとマイナスドライバーを手に取った。
フィリアが小さく息を吐く。
パールはKの中で、周囲を警戒しながら立っている。
エドガーは名残惜しそうに去っていった。
ヴィオラたちも、扇の影に不満を隠しながら距離を取る。
晩餐会は、表面上は何事もなかったかのように続いた。
楽士の弦が鳴る。
杯が触れ合う。
香水と料理の匂いが混ざる。
だが、海には分かっていた。
火種は残った。
それも、かなり乾いた場所に落ちた火種だ。
フィリアは静かにカスミを見ていた。
「カスミ様」
「何」
「先ほどの呼び名のことですが」
「異界の者?」
フィリアは小さく頷いた。
「私は、あの呼び方が好きではありません」
「なぜ」
「その言葉には、恐れや蔑みが混じっています。海様やカスミ様を、ひとりの人として見る前に、異物として決めつける響きがあります」
海は黙って聞いていた。
僕たちは、異世界人と呼ばれている。
その事実は知っていた。
けれど、フィリアがその呼び名にここまで不快感を示すとは思っていなかった。
カスミは工具を止める。
「呼び名は便利」
「はい」
フィリアは静かに答える。
「ですが、便利な言葉ほど、人を雑に扱うことがあります」
カスミは少しだけ考えた。
「記録する」
「所見として?」
海が尋ねる。
カスミは、ほんの一瞬だけ海を見た。
「所見として」
パールが低く言った。
「名前を雑に扱うやつは、だいたい人も雑に扱う」
「パールが言う?」
「俺は龍壱だ」
「パール」
「……返事はするが、認めたわけじゃねぇ」
そのやり取りに、海は少しだけ笑った。
晩餐会の夜は、まだ続いている。
けれど、確かに何かが変わった。
カスミという異物は、王都の社交界に見つかった。
エドガー・フォン・シュタインベルクは、彼女に興味を持った。
いや。
正確には、カスミの隣にいる海を、より強く意識した。
自分の美しさも、家名も、闇属性の才も、当たり前のように届かない異世界人。
赤髪の青年。
カスミに“ミュート”と呼ばれながらも、その隣にいる男。
エドガーの笑みの奥で、小さな火が揺れていた。
一方で、ヴィオラ・ロッシは彼女を不快なものとして記憶した。
王都の礼節を乱す異界の者。
エドガー様を侮辱した白衣の少女。
そして、王宮の晩餐会で工具を食器にした、理解不能な異物。
ヴィオラの扇が、最後にもう一度だけ鳴った。
パチン。
それは、噂が走り出す合図のようだった。
王都の噂は、香水よりも早く広がる。
その夜の出来事は、やがて茶会へ流れていく。
甘い菓子よりも軽く。
けれど、毒のようにしつこく。
カスミという名は、王都の噂の中へ落ちていった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
いいねやリアクションは、
海が勝手にログへ保存しておきます。
凛には「当然ですわ」と言われそうですが、作者は普通に喜びます。
続きが気になりましたら、
下のお星さまを、ぽちっと光らせていただけると嬉しいです。
いただいた星は、次回の変身エネルギーに変換されます。
たぶん爆発はしません。




