表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/43

EP8:王座の間の異邦人、あるいは「力を疑うのは誰よ?」[LOG_謁見]

「――この王宮、完全に『ワンダーワールド』の素体じゃないか。

だとすれば、あの宰相は……絶対に終盤で正体を現すタイプだ」


朝日が差し込む王宮の広間は、荘厳そのものだった。


天井まで届く巨大な石柱には、繊細な彫刻が施されている。


歴代の英雄たちを描いたタペストリーが壁を彩り、その一枚一枚から、この国が積み上げてきた年月の重さが滲み出ていた。


——だが。


[LOG_KAI - INNER VOICE]

(やばい。この王宮……本当にやばい)


(石造りの柱の質感、床に刻まれた文様の密度、窓から差し込む光の角度まで——全部が、仮面ライダーセイバーの「ワンダーワールド」に近い構造をしてる)


(あの作品で描かれた異世界は「本の世界」だった。本と現実が混ざり合う異世界に、剣士が召喚される——)


(……待て待て待て。興奮するな、音無海。今は謁見の場だ。落ち着け)


ファイズギアの重みが腰に伝わる。 その感触だけが、今の海に「自分が自分であること」を確認させてくれる、唯一の錨だった。


昨夜の疲れが抜けきらない二人が扉をくぐると、そこには王が待っていた。


玉座に座るのは、エルディア大陸・アストリア王国の王——レオポルド三世。


長年にわたり国を統治してきたその顔には、権威と、そして深い憂いが刻まれている。


王の左右には高位の大臣や家臣が整然と並び、全員が厳粛な表情で二人を見つめていた。


「召喚された『神威カムイ』がどのような存在なのか」——彼らの目がそう問いかけていた。


凛は、その視線のすべてを正面から受け止めていた。


眉一つ動かさない。


呼吸一つ乱さない。


——ただ、静かに。


まるで世界の中心に立つことが当然であるかのように、白銀の髪を揺らしながら歩を進めた。


[LOG_KAI - INNER VOICE]

(……凛さん、強すぎるよ)


(あの家臣の列——一番端の人、さっきから完全に圧倒されて目が泳いでる)


(こういう時の凛さん、本当に「令嬢」じゃなくて「女王」なんだよな)


(……で、僕は)


(……とりあえず、目立たないようにしよう)


「この度は、我が国の事情により、そなたたちを異世界より召喚したこと。


まずは、心よりお詫び申し上げる」 レオポルド三世は深々と頭を下げた。


その仕草に、一切の演技はなかった。


年老いた王が、見知らぬ異邦人の少女と少年に向かって——本当に頭を垂れている。


広間が静まり返る。


「私はこの国の王、レオポルド三世。この国を守るため、どうかお二人のお力をお貸しいただきたい」


[LOG_KAI - INNER VOICE]

(……王様、いい人だ)


(こういう人、特撮でいうと——序盤に退場する可能性が高い。心配だ)


(いや、落ち着け。今は謁見に集中しろ)


「つまり、あんたが私たちをここに引っ張ってきた張本人ってわけね」


凛の声は静かだった。


静かだが、広間の空気を一変させるほどの密度を持っていた。


これは怒りではない。 これは——「当然の事実を確認する者」の声だ。


[LOG_KAI - INNER VOICE]

(ひっ)


(でも凛さんの言ってること、正しい)


「召喚した側に非がある」って、僕も思ってた。ただ言えなかっただけで)


その時だった。


「貴様、王の御前でその態度は何だ!」 鋭い声が広間を貫いた。


王の傍らに立つ宰相——アルフレッド・フォン・シュタインベルクが、一歩前に踏み出す。


整った顔立ちの奥に、何かを計算し続けているような、冷たい光が宿っている。


[LOG_KAI - INNER VOICE])

(……来た)


(この人だ)


(ズオスじゃない。戦闘担当の幹部じゃない)


(組織の内側に潜みながら、表の顔を保ちつつ全部を操る——)


(マスターロゴスポジションだ)


(やばい、鳥肌が止まらない)


「無礼?」


凛は眉を動かさず、ただアルフレッドを見た。


「どっちが?」


一拍の間。


「あなたたちが、私の許可もなく勝手に召喚しておいて」


「それで偉そうにしているほうが、よっぽど無礼じゃないかしら」


一言一言が、的確に急所を突く。


アルフレッドが言葉を詰まらせた——その瞬間。


海は思わず、心の中で呟いていた。

(……すっごい)


(これ完全に、セイバーの神山飛羽真が「正しいことを正しいと言い続ける」あの構図だ)


(ただ飛羽真と違うのは、凛さんは剣を持っていない)


(言葉だけで、場を制圧している)


「もうよい、アルフレッド」


王の静かな一声が、広間の空気をリセットした。


アルフレッドが渋々と後退する。


その表情には——怒りがあった。


だが、その奥に見え隠れしているのは。


[LOG_KAI - INNER VOICE]


(……笑い、だ)

(あの人、怒ってない)

(凛さんの反論を、内心では「想定内」として処理してる)


(つまり、凛さんが言い返すことまで計算に入れていた?)


(……この人、本当に怖い)


海は、さりげなくファイズギアに触れた。


重く、冷たく、確かな金属の感触。 これだけが、今の自分を繋ぎ止めてくれる。


「凛殿のご意見はもっともだ」 王が改めて口を開く。


「我々がそなたたちをこの地に召喚したのは、我が国の事情に過ぎぬ。


その点を理解したうえで、どうか力を貸していただけぬか」


凛は少しだけ、表情を和らげた。


ほんのわずか。


気づく者がいるとすれば——それは、この場で最も注意深く凛を観察していた海だけだっただろう。


「わかればいいわ。ただ、私が協力するのは、元の世界に帰るため。

あなたたちの都合のためじゃない」


その言葉に、周囲の家臣たちは息を呑んだ。


だが、王だけは柔らかく頷いた。


[LOG_KAI - INNER VOICE]

(……凛さん、怖い顔してるけど)


(「帰るため」に協力する、って言った)


(つまり、拒否しなかった)


(凛さん、根は優しいんだよな。昔から……)


軍務大臣バルドウィン・フォン・アーレンスバッハが、重厚な銀の甲冑を鳴らして前に出た。


歴戦の戦士の顔。 疑念と、試す意志が混ざり合っている。


「お二人が神威として召喚されたと聞き及んでおりますが、その力を我々に示していただけませんか」


「……つまり」


凛の声が、低く落ちた。


「私の力を疑ってるのね?」


「疑っているわけではありません」 バルドウィンは一歩も引かない。


「ただ、我が国を守るためにどれほどの力をお持ちか知りたいだけです」


凛はバルドウィンを見た。


その視線は、値踏みでも怒りでもない。 ——「品定めに応じてやる」という、圧倒的な余裕だった。


[LOG_KAI - INNER VOICE]

(……強い。本当に、強い)


(で、僕は)


(……この世界で、僕は何者になれるんだろう)


海は少し身を縮め、腰のファイズギアにそっと触れた。


その時、神官長セラフィムが穏やかに割って入った。


「凛様、どうかご容赦ください。バルドウィン殿も悪意があって申し上げたわけではございません。


我々が共に歩むため、凛様のお力を正しく理解したいだけなのです」


凛は少しだけ目を細めた。


「見せてあげてもいいわ」


その声は冷たかったが、どこかに——わずかな温もりが混じっていた。


「ただし、その後の態度を覚悟しておきなさい」


その夜。


海は与えられた部屋の小さな机の前に座り、一冊のノートを開いた。 革製の表紙。


自分の手で書いた文字——「仮面ライダー 魂の記録帳」。


ランプの灯りが、ページを柔らかく照らす。


「……今日のヒーロー」 ペンを走らせる。


「本日のヒーロー:仮面ライダーセイバー(ブレイブドラゴン)」


「本の世界から来た剣士。本を愛し、言葉を剣にする。正しいことを、正しいと言い続ける勇気」


書き終えて、ペンを置く。 ランプの炎が、小さく揺れた。


(この世界は——「ワンダーワールド」かもしれない)


(本と現実が混ざり合う異世界)


(そこに召喚されたのが、よりによって特撮オタクの僕というのは)


(……何かの意味があるのかもしれない)


海は窓の外を見た。 双子の月が、静かに夜空を照らしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ