第395話 ピウス七世の葬儀、そして地震!
【クレメンテ枢機卿視点】
『アヴァロン帝国歴183年 5月23日 聖都アウグスタ 教皇庁 曇り』
大聖堂前の広場を埋め尽くすほどの信徒たちが、深い悲しみに包まれていた。
鈍色の雲が垂れ込める空の下、偉大なる教皇ピウス七世猊下の葬儀が、厳かに執り行われている。
祭壇に安置された豪奢な棺や、聖都中から集められた白百合の花々は、すべてアヴァロン帝国のライル皇帝代理からの多大な資金援助によって用意されたものだ。
(……ライル大帝、そしてノクシア様。お二人のおかげで、ピウス猊下をこのように立派に見送ることができます。心より感謝申し上げます)
私は祭壇の前に立ち、祈りを捧げながら、そっと胸の内で感謝の言葉を述べた。
私はクレメンテ。ピウス猊下の側近として、長年この教皇庁を支えてきた枢機卿である。
今は亡き猊下に代わり、この数万の信徒たちを前に、私が追悼の言葉を述べなければならない。
「……愛する信徒たちよ。ピウス猊下は、常に我らと共にあり、光の女神様の教えを体現された御方でした」
私の声が、静まり返った広場に響き渡る。
多くの者が涙を流し、猊下の死を悼んでいた。
その時だった。
ゴゴゴゴゴゴ……ッ!
地の底から湧き上がるような、不気味な地鳴りが響いた。
「な、なんだ!?」
「地面が揺れているぞ!」
次の瞬間、立っていられないほどの激しい揺れが聖都アウグスタを襲った。
大聖堂の巨大なステンドグラスがガタガタと悲鳴を上げ、広場の石畳が波打つようにうねる。
「きゃあああっ!」
「た、助けてくれ! 女神様の天罰だ!」
「教皇様が亡くなられたから、世界が終わるんだ!」
数万の信徒たちがパニックを起こし、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始めた。
このままでは押し合いへし合いになり、群衆雪崩が起きて大勢の死傷者が出てしまう。
(いかん! この神聖な葬儀の場で、これ以上の血を流させるわけにはいかない!)
私は祭壇の前に力強く立ち、杖を天に向けて高く掲げた。
そして、腹の底から声を振り絞り、パニックに陥る群衆に向けて叫んだ。
「静まりなさい、迷える子羊たちよ!!」
私の声は、不思議なほどよく通り、悲鳴をかき消して広場の隅々にまで届いた。
信徒たちの動きが、ピタリと止まる。
「恐れることはありません! この大地の震えは、決して天罰などではない! 我らと同じように、大地もまた、偉大なるピウス猊下の死を嘆き悲しんでいるのです!」
私は、激しく揺れる足元を踏みしめながら、力強く言葉を紡いだ。
「猊下は、我々が争い、自らを傷つけることを望んではおられない! 今こそ手を取り合い、祈りを捧げなさい! 光の女神様は、そしてピウス猊下は、常に我々と共にあります!」
私の言葉にハッとしたように、信徒たちが次々とその場に膝をつき、両手を組んで祈り始めた。
「……女神様、どうかお守りください」
「ピウス猊下……」
彼らの祈りの声が一つになり、広場に大きな波となって広がっていく。
やがて、その祈りに応えるかのように、激しかった大地の揺れが、嘘のように静まっていった。
(……ふう。なんとかなったか)
私は杖を下ろし、密かに安堵の息を吐いた。
しかし、休んでいる暇はない。教皇の座は空席のままであり、世界は東方の動乱や今回の地震で、かつてなく不安定になっている。
(猊下。どうか、我々をお導きください。このクレメンテ、命に代えても女神教を守り抜いてみせます)
私は空を覆う厚い雲を見上げながら、次期教皇を決める『コンクラーベ』に向けて、静かに決意を固めるのであった。
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