表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~【Web版本編・200万PV感謝!】  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

396/396

第396話 茶の高騰

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴183年 6月1日 帝都ハーグ 皇宮 雨』


 窓ガラスを打ち付ける雨音を聞きながら、僕は帝都ハーグの石畳を走る車に揺られていた。


 聖都アウグスタでのドタバタ劇――ピウスさんの盛大な葬儀と、あの突然の大きな地震を終えて、僕はようやくホームタウンであるハーグへと帰り着いたのだ。

 次期教皇を決めるコンクラーベについては、「まあ、詳しいことは聖職者のみんなに任せるしかないよね」と判断し、大金だけ置いてそそくさと帰ってきたのである。


 ちなみに、ノクシアとアウロラの二人は、「しばらく白亜の館で羽を伸ばすぞえ」と言って、僕よりも一足先に影を通って帰っていった。アウロラは相当お疲れの様子だったから、ゆっくり休んでほしいと思う。


 さて、僕ことライルは、家に帰る前に一応、皇宮へ寄ることにした。

 僕が留守の間、皇帝代理のさらに代理として政務を任せていた息子、レオの様子を見るためだ。


 皇宮の奥深く、重厚な扉を開けて執務室に入ると、そこには見慣れた二人の姿があった。


「うおおおっ、また東の港から陳情書が来てるぞ! こっちは後回しだ!」


「レオ兄さん、それは早めに決済しないと物流が滞るよ。ああっ、こっちの予算案も確認しないと……」


 執務机にしがみつくようにして書類の山と格闘していたのは、政務を代行している長男のレオと、胃炎の療養中だったはずの次男、フェリクスだった。

 どうやらフェリクスは、慣れない政務に悪戦苦闘する兄を見かねて、手伝いに出てきてくれたらしい。


「やあ、二人とも。ただいま帰ったよ」


 僕がのんびりと声をかけると、二人は弾かれたように顔を上げた。

 その目の下には、くっきりと濃いクマが刻まれている。


「おい、親父! 遅えよ!」


 レオが、持っていた万年筆を机に放り出して大きなため息を吐いた。


「よくこんな仕事、毎日涼しい顔してできるな。俺は自動車会社の社長をやってるから、組織を動かすのには慣れてるつもりだったが……国を動かすってのは、ケタが違いすぎるぜ」


「そうなんだよ、父さん。上がってくる書類が、どれも国家の根幹に関わる重要案件ばかりでさ……。正直、気が休まる暇がないよ」


 フェリクスも、胃のあたりをさすりながらげっそりとした顔で同意する。

 少しハーグを留守にしていただけなのに、二人はすっかり疲れ切っていた。


「うんうん、二人とも本当によく頑張ってくれたね。おかげで助かったよ。今日はもう上がりにして、白亜の館に帰ってゆっくり休もう」


 僕が労いの言葉をかけると、レオは首の後ろを揉みほぐしながらニヤリと笑った。


「まあ、皇帝の仕事も、たまになら手伝ってやるけどよ。ホントにたまにしてくれよ? ……ああ、そうだ。親父がいない間に、俺の判断で科学技術と産業への予算配分を少し増やしておいたぜ。アシュレイ母さんの作ってた飛空船、あれは絶対に使える。今のうちに量産体制を整えておかないとな」


「おおっ、さすがレオ! 現場の技術をよく分かってるね。うんうん、そこはすごく良い判断だと思うよ」


 僕が手放しで褒めると、レオは照れ隠しのように鼻の頭を擦った。

 しかし、フェリクスは机の上にある一枚の書類を手に取り、深刻な顔つきで僕の方へ歩み寄ってきた。


「父さん、予算の件は僕も賛成なんですが……ただ、これが問題なんです」


 そう言って手渡されたのは、一枚の折れ線グラフだった。

 縦軸に価格、横軸に日付が書かれている。そして、その折れ線は、ここ一ヶ月で恐ろしいほどの急角度を描いて『右肩上がり』になっていた。


「これは……『茶』の市場価格かい?」


「はい。大暁帝国での動乱が激化している影響で、東方からの茶葉の輸入量が激減しているんです。需要に対して供給が全く追いついていません」


 フェリクスの指摘に、僕は思わず唸り声を上げた。


 今、帝都ハーグをはじめとするアヴァロン帝国の都市部では、空前の『抹茶ラテ』ブームが起きている。それ以外にも、食後の紅茶や緑茶は、すでに市民の生活に深く根付いているのだ。

 このまま価格が高騰し続ければ、いずれ庶民は手軽にお茶を買えなくなる。

 嗜好品の不足は、市民のストレスを爆発させ、やがて国への大きな不満へと直結してしまう。


(……美味しいお茶が飲めなくなるのは、僕としても死活問題だ)


「……なるほど。事態は想像以上に切迫しているようだね」


 僕はグラフから目を離し、二人の息子たちの顔をまっすぐに見据えた。


「わかった。父さん、少し真面目に東方問題に取り組むよ。……でも!」


 僕はそこで言葉を区切り、執務室の窓を指差した。

 外は冷たい雨が降っており、すっかり日が落ちて暗くなっている。


「今日はこれでおしまい! 難しい話は明日からだ。さあ、帰ってヴァレリア特製の『焼き豚』でも食べよう!」


 僕が満面の笑みで提案すると、レオの顔がパァッと明るくなった。


「いいな、焼き豚! 腹減って死にそうだったんだ! よし、フェリクス、とっとと帰るぞ!」


「ふふっ。そうだね、兄さん。僕たちも、こういう『適当さ』というか……オンとオフの切り替えの早さを、もう少し父さんから学ぼうか」


 フェリクスも毒気を抜かれたように苦笑いし、机の上の書類を綺麗に揃え始めた。

 こうして、この日の政務は無事にお開きとなった。


 ハーグは北の地にあるとはいえ、六月にもなれば夏に向けてそれなりに暑くなってくる。


 だが、今日は雨で少し冷える。それに、慣れない政務で疲れ果てた二人の若者には、こってりとした脂と甘辛いタレの、焼き豚が必要な気がした。


 レオの運転する車内では、ラーメンに焼き豚を乗せて食べることで、意見が一致した。


「とても面白い」★四つか五つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ