第四十話 愚かな主張
ギルドマスターに名前を呼ばれ、マサニは面倒くさそうにこちらへ顔を向ける。
「話って? というか、今の話の流れからして、俺は特に関係無いように思えるんですが?」
あくまで無関係と言いなるマサニ。
こいつのそんな態度に、俺の中の怒りはさらに大きくなる。
だが、これは事情聴取だ。まだ俺がしゃしゃり出る場面ではない。
ギルドマスターが話を続ける。
「関係が無い? ほう、それは興味深い意見だね。こちらにいるラクト君は、ネフィサファ鉱山で君に殺されかけたと証言しているよ。どちらかと言えば、アリエ君よりも君の方が、より深くラクト君に関わっているように思えるが」
「俺が? ラクトを? 面白い冗談だ。何か証拠でも? まさか、かのギルドマスターともあろうお方が、一人の意見を鵜呑みにしてる訳じゃないですよね?」
「君の仲間の三人は、今何をしている?」
「………上手く、話が見えませんが?」
「君が犯行を決行した時、そこで君の仲間三人が命を落としたとラクト君が言っていてね。丁度、ギルドに顔を見せなくなった時期と一致する。これは偶然かな?」
マサニを問い詰めようと言葉を続けるギルドマスター。
しかし、当のマサニはフッと笑って。
「それは知らなかったな。何も俺はアイツらと四六時中一緒にいる訳じゃない。最近顔を見せないから心配してたんだ。でも、そうか……」
マサニが仲間の死を憂いてるように振る舞う。
白々しい。「仲間ではない」と平然と言っていたクセに。
しかも、三人の内一人は、お前が殺したんじゃねぇかっ。
「あぁそうか、なるほど。分かったぞ」
「何がだい? マサニ君」
「ラクト、お前、俺の仲間を殺しただけじゃ飽き足らず、俺にその罪を擦り付けようとしてるんだな! 何て奴だ、俺には実力で敵わないからって、そんな方法を取るなんて……お前には良心てものが無いのか!?」
まるで本当に嘆いているような、迫真の演技をかますマサニ。何が「良心」だ、自分で「そんなものは無い」とか言ってたじゃねぇか。
「ふむ……」
「でも、お前が俺の仲間を殺したのなら、全ての辻褄が合う。お前がこの一ヶ月顔を見せなかったのは、俺に罪を着せるために準備をしてたからなんだろ? 裏の連中の力を借りるのには時間がかかったか? そんな繋がりでもないと、お前みたいなのが這い上がれる訳ないもんな」
終いには、俺の最近の功績は他人のおかげとかも言い出しやがった。
ふざけんな、何が「裏の連中」だ。俺は騎士を志しているんだぞ。そんな連中と繋がりを持つ訳ないだろ。
「ほう、あくまで君は関与してないと?」
「当然だ! それどころか、仲間の栄光すら汚された! こんなの黙っていられるか! 俺と決闘しろラクトぉ!! 仲間の名誉のため、俺は戦うぞ!」
決闘とは、冒険者同士の意見の相違を簡単に解決するためにある制度のこと。
あらくれ者の冒険者らしい、力のぶつけ合い。自分の意見を通したいなら、その力を持って屈服させろ、と何とも投げやりな制度だ。
まぁ、そんな制度が無くとも、意見の相違があれば暴力に走る冒険者は多い。それなら、いっそのこと、目に見える場所で力を振るってもらった方が良い、というのがギルドの意見だ。
それにしても、ネフィサファ鉱山にいた時とは全く逆のことばっかり言いやがるな、こいつ。
「ふむ、つまり、君の仲間はともかく、君自身はネフィサファ鉱山へ足を踏み入れてないと?」
「当たり前だ! あそこには入るなとギルドが言ったんじゃないか。誰が好き好んでそんな所に行くって言うんだ!?」
「ラクト君はその戦いでギルド武器を破損させている。それにも心当たりは無いってことかな?」
あれ? 俺が喋ったことと違うこと言ってる。
武器の破損はマサニとの戦闘中ではなく、長く使っていたことによる劣化が原因だって、ちゃんと言った筈なんだけど……。
「ギルド武器? あぁ……」
マサニが何やら納得したように明後日の方へ向く。
おそらく、俺があの炭鉱でいつもと違う武器を持っていたことについて、ようやく合点がいったと考えているんじゃないだろうか?
「知らないですね。大方、自分の武器を汚したくなくて、ギルドの武器を借りたんじゃないですか? 戦斧なんて、そうそう壊れるものじゃないですし。案外、探したらどっかから出てくるかもしれないですよ。それでこいつの嘘も証明される」
「……」
……あ。こいつ馬鹿だ。
なるほど、ギルドマスターはこれを狙って嘘をついたのか。
ギルドマスターは苦笑しながら、話を続けていく。
「おかしいな、マサニ君」
「何がです?」
「私は「ギルド武器」としか言ってないが、何故、君はそれが「戦斧」だと知っていたんだい?」
「………───」
自分の失言に気付いたマサニが、ハッとしたような顔になる。
「い、いや、その……そうだ! 一ヶ月前、丁度戦斧を担ぐラクトを見たんだ! だから知っていただけで───」
「嘘です」
そこで、アリエさんが会話に割り込んできた。
「私、聴きました。マサニ=セコが、パーティメンバーと共に、ラクトさんに危害を加えようと画策しているのを。ですから、今この場でこの男が言った言葉は全て嘘です」
まさかのアシスト。この受付嬢さんの証言により、マサニはさらに追い込まれることになった。
……あれ? ていうか、それ知ってて止めなかったってことだよね、これ。
「なっ、ざけっ……! ───っ、この女の証言がどこまで信じられる!? 私怨で冒険者を陥れるようなやつですよ!! 自分が落ちぶれそうだからって、俺も道連れにしようと出任せ言ってるんだ!」
マサニが必死に反論する。
まぁ、確かに、「信用が無い」というのはそうだろう。
それも自分で分かっているからか、アリエさんは苦い顔をする。
だがしかし、反論する際にあんな取り乱したら駄目だろう。あれでは「図星です」と自白してるようなもんだ。
ギルドマスターも、困ったように笑みを浮かべるだけ。もう追い詰めるようなことすらしない。
「───」
それで「もう嘘をついても無駄だ」と悟ったのか、段々とマサニは落ち着いていき───今度は諭すように、静かな調子で口を開き始めた。
「ギルドマスター、冷静に考えてみてくださいよ。そいつは、Eランクの落ちこぼれ。何の役にも立ちはしない、寄生虫だ。対し、俺はCランク。パーティリーダーまで勤めたベテランだ。どっちの意見を信じなければならないかは一目瞭然でしょう。少し負い目ができたからという理由だけで、そんな役立たずの意見を鵜呑みにするんですか? 聡明な貴方なら分かる筈だ、どっちの味方をするべきかを」
何言ってんだこいつ?
いくら実力があったって、いや、実力があるからこそ、問題を起こすような奴は看過できないだろう。今後のギルドの平穏にも関わる問題だし、力があるからと横暴を許すような前例を作ってしまえば、ギルドの秩序が乱れかねない。ハッキリ言って、こいつの主張は馬鹿の主張だ。
もう言葉も出ないと言った感じなのだろう。
隣に座っているガルクさんでさえ、今の主張には呆れていた。
だがまぁ、このままこいつの好き放題言わせるのも癪に障る。
何より、このまま俺がマサニより弱いと思われるのは心外だ。
そろそろ、口を出しても良い頃だろう。
「ラクトもさ、大人になろうや。お前も、面倒は嫌だろ? このまま蟠りを残して終わるより、平穏に解決した方がお互いのためじゃないか? 一方が悪いだの、誰かを責め立てたりする姿勢はよくない。無駄な争いを生むだけだ。な?」
俺にどんどんと近付いてきて、終いには、その不気味な笑みを浮かべた顔を至近距離まで近付けてくるマサニ。
なぁにが「平穏に」だ。笑みを浮かべてはいるが、そんなこと、サラッサラ思ってないのが丸分かりだ。
おそらく、ここをどう切り抜けて、俺にどんな報復をしてやろうかとか考えているんじゃないか?
ふさけるな。
「いいよ」
俺のその言葉に、マサニは「勝った」と言うような卑しい笑みを浮かべやがった。
「流石はラクト。英断だよ。いやぁ、君が利口で本当によ───」
「決闘だっけ? 受けてやるよ」
マサニの言葉を遮るように、俺はそう言ってやった。
「………は?」
「お前の論だと、強い奴の方が役に立つ。だから味方をしろ、てことだろ? だったら、お前に価値が無いことを教えてやる」
笑みも消して、俺は見下すようにマサニを見やる。
俺がそうやって徴発的な態度を取るものだから、俺がまだ弱いと思っているガルクさんが慌てて止めに入ってきた。
「お、おい! 坊主! 何言ってんだ!? マサニは腐っても───」
「いいじゃないか。本人がこう言っているんだ、やらせてやろう」
しかし、そのガルクさんをギルドマスターが止める。
ギルドマスターの顔は「これは面白いものが見れるぞ」と言うようにニヤついていた。
「……おい、ラクト……お前、本気か?」
「本気も本気、大本気だよ。そうだな、俺が負けたら、お前への訴えを取り消してやるよ。さらに、今後お前には一切逆らわないことも誓おう。どうかな?」
「……」
「代わりに、俺が負けたら、今ギルドマスターが話した内容を全面的に認めてもらうよ。いいね?」
マサニの額に青筋が浮かんでいく。
馬鹿にされているように感じたんだろう。
あぁその通りだよ、俺はお前を馬鹿にしている。
「まさかとな思うけど、「決闘をやらない」なんて言わないよね? 俺は『今後の冒険者生活』を賭けたんだ。そこまで大きなものを賭けられたのに乗ってこないってなったら、それこそ、俺に勝つ自信が無いってことになるよね。それじゃあ、お前の言った論は破綻することになる。だから勿論、受けるよね? な? ───受けろよ」
俺はさっきのマサニへの意趣返しとして、至近距離で煽ってやった。
マサニの顔面、青筋が浮かび過ぎて酷いことになってる。まぁ、ここまで、格下だと思ってる相手に煽られちゃ、憤らずにはいられないだろう。
ましてや、マサニの意思に関係無く、無理やり土俵に上がらされたのだ───心中穏やかではいられない筈だ。
お前には苦汁を舐めさせられてきたからな、ここらで分からせてやる。
お前が散々馬鹿にしてきた弱者がどんな気持ちでいたのか、それを、骨の髄まで分からせてやるよ。





