第三十八話 事情聴取
俺はガルクさんと共に、とある一室に案内されていた。
そこそこに広い部屋で、執務をするための作業机と、お客を迎えるためのソファ二つと長机が置いてあるというのに、尚スペースが余っている。ここが普段ギルドマスターが仕事をしている部屋らしい。
俺はその部屋にあるソファに座っている。隣にはガルクさん。正面にはもう一つのソファに座るギルドマスターが座っている。
髪は金で刈り上げにしてるとはいえ、ギルドマスターは出会ってからずっと笑っているため、荒くれ者が集まるギルドの長にしては柔和な雰囲気。
でも、普段は冒険者に顔を見せない人が、いきなり俺のことを直接呼び出しに来た。そのせいで、ちょっと怯えてる。特に悪いことはしてないつもりだけど……何を言われるんだろうか。
先程話し掛けた受付嬢さんが、お茶の入ったティーカップが三つ乗ったお盆を持って入室してくる。その持ってきたカップを、ガルクさん・俺・ギルドマスターの順で置いていき、その後、彼女はお盆を抱え、部屋の隅まで移動して立ち止まった。
ギルドマスターは、受付嬢さんが持ってきたお茶を一口つけて、口を開く。
「それじゃあ、まずは自己紹介からだね。僕の名はストル。一応、このギルドの責任者をさせてもらっている」
「なにが「一応」だ。これでもかってぐらいギルド長してくるクセに」
「ふふっ」
「……」
ガルクさんとギルドマスターって親しいのかな? ガルクさん、これでもかってぐらい馴れ馴れしく接してるし。
「それで、ラクト君」
「は、はい!」
ギルドマスターに名前を呼ばれたことで、反射的に背筋が伸びてしまう。
「僕は君にいくつかの質問をしたいんだけど、いいかな?」
「はい」
「それは良かった。じゃあ、今回の件に関して、まずは事実確認から」
今回の件?
「君は、一ヶ月前、ギルドでとある依頼を受け、その過程で武器を借りたが、その後、武器の返却をせず、ギルドに姿を見せなかった。勿論、依頼達成報告も無し。ここまでは、いいかな?」
「───」
してたわ、悪いこと。俺、一ヶ月も武器借りてて、しかも、それぶっ壊してんじゃん。緊張でそのこと飛んでた。やばい……どう言い訳しよう。
「あ、その……はい」
「ふむ、ここまでは間違い無いと」
「いや、えっと、それには、その……」
やばい、どうしよ!? こういう時に限って全然頭が回らない……!
「『その』、何だい?」
「あぁ、いや、えっと……」
「………」
「……ご、ごめんなさい」
なんかもう、何言っても悪い方向にしか行かない気がして、俺は素直に頭を下げた。
その謝罪に、ギルドマスターは「うん」と頷き対応してくれる。
「まぁ、こうやって戻ってきたから、窃盗ではないんだろうけどね。でも、あまり褒められた行為ではないよ」
「はい、おっしゃる通りです……」
「それで、君が借りた戦斧は、今どこに?」
うっ、また答えづらい質問がきた。
「えっと……」
「ん?」
「すみません、壊れてしまいました」
もうこうなったら、全て正直に話すしかない。
俺がそうやって素直に武器を壊したことを白状し、謝罪をすると───今度は流石のギルドマスターも少し驚いていた。
「壊、れた……あの戦斧が?」
「はい……」
「故意に壊したとか、そういう?」
「い、いや! そんなつもりは全然! ただ、何回も使用を続けている内に……」
「………」
俺のその返しに、またしてもギルドマスターは固まってしまう。
「想定された使用頻度を超える、爆発的な過密使用、それにより経年劣化……? あれは、それなりに頑丈に造らせている筈だったんだが……」
それから、ブツブツと呟きを始めるギルドマスター。けれど、すぐに顔を上げて。
「本当は、あの戦斧がどうしても欲しかった君が、どこかに隠したって話は無いかい?」
「え!?」
嘘、そういう受け取られ方されるの!?
「そ、そんなことしませんよ! 第一、俺の主流武器は剣です!!」
「……」
それを聴いて、またギルドマスターは悩むように俯いてしまう。
それから少し間が空く。
ギルドマスターは何かを考えているようで俯いたまま。俺とガルクさんは何を話せばいいか分からず、ギルドマスターの長考が終わるまで黙って待ち。
そして、その後やっと、思考が終わったギルドマスターが顔を上げた所で、再び会話がスタートする。
「………ラクト君、君が先程取り出した鉱石なんだけど、もう一度見せてくれないかい?」
「え? あ、はい。いいですけど……」
俺は再び、腰に取り付けた麻袋から、巨大な岩の化け物を倒した時に拾った鉱石を取り出す。
「………うん。質問なんだけど、これは君の家に代々伝わる由緒正しき石とか、そんな感じかい?」
「え? そんなこと全然ないです。というか、この石は、ネフィサファ鉱山で、魔獣を倒した時に手に入れたもので……」
「………なるほどね」
どうやら、ギルドマスターの中では色々と辻褄が合ったようで、ソファの背もたれにドカッと座り直す。その際、「これは思ったよりも面倒かもしれないな」と呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。
「………」
ギルドマスターが一度目を瞑り、再び思考に耽る。
けれど、今度のはとても短い時間で終わり、ギルドマスターは再び俺に向き直った。
「ラクト君、まず、君が壊した武器についてなんですけど……」
「も、勿論弁償します! さっき持ってきた宝石で!」
「あぁ、いや、それについてはもうちょっと後で考えよう」
「え?」
先程まで、俺が武器を一ヶ月長期に渡り借りていたことに対して責める姿勢だったのに、何故か急にそれが一転する。
というか、ギルドマスターは、どこか申し訳なさそうな感じだった。
「先に、質問を済ませたい。ラクト君、二つ目の質問なんだけど……君は、どうしてネフィサファ鉱山なんかに行ったんだい?」
「………?」
質問の意図が分からなかった。
「実はね、君が丁度ネフィサファ鉱山の依頼について受けた日から、ギルドでは、ネフィサファ鉱山に行かないよう、冒険者達にお知らせを出していたんだよ。それは知ってた?」
「………え?」
何だそれ? 初耳なんだけど。
「えっと……それは、どうして?」
「そこにいるガルクがね、ネフィサファ鉱山に違和感を感じたってギルドまで伝えてくれたんだ。Bランク冒険者のガルクが感じた違和感。それも、自身で捜索するのは避けたいって思わせるほどの違和感だ。ギルドとしても、それで動かない訳にはいかないよ」
……全然知らなかった。
「お知らせっていうのは、どういう形で?」
そんな大事なことを見逃すなんてどうかしてる。今度からは絶対見逃さないようにしよう。
そう考えた俺は、お知らせがどういう形で掲示されたのかをギルドマスターに尋ねた。
ただ───
「それを訊くってことは、そういうことなんだろうね。お知らせはね、依頼を受けに来た冒険者に、ギルド職員が一人一人に対して注意を促すという形で出されてたんだ。冒険者である以上、ギルドに顔に出しておいて依頼を受けないなんてことはありえないからね。受付で、片っ端から注意した方が確実という寸法だ」
え? ちょっと待って。それはおかしい。だって、俺には───
「だが、どうやら、その方法では伝え漏れが出ていたようだ。しかも、最悪な形でね」
ギルドマスターが「はぁ」と溜め息をつき、両手で顔を多いながら俯いた。
伝え漏れ……。
「一応訊くんだけど、君は、ネフィサファ鉱山で、何かしら企んでいたとか、そういう訳じゃないんだね?」
「そんなこと、する訳ないじゃないですか」
「だよねぇ……これまでの話の流れからして、僕もそうなんじゃないかなって思うよ」
思う、ていうか、事実だし。
信じられないという気持ちが伝わってくるギルドマスターの雰囲気。しかし、その信じられないことを呑み込まなければいけない状況に、頭を悩まされている、そんな感じだ。
「まずは……そうだね、君に謝罪を───いや、二重の謝罪をしなければならないね」
「へ?」
「まだハッキリとはしてない。君だけの意見を鵜呑みにもできない、けど……でも、今の話の流れからして、君に非は無いように感じられる。今回はきっとこちらの落ち度だ。謝罪すべきはこちらだったにも関わらず、先に君に謝罪をさせてしまった。本当に申し訳ない」
俺に頭を下げ出すギルドマスター。
ちょっ、いきなり謝罪されても困るんだけど!?
というか、報告漏れと言うけれど、それはあくまでミスした職員が悪いのであって、ギルドマスターが悪い訳ではない。
これでは、謝られた方が困る。
「顔を上げてください!」
「………」
「聴いてます!?」
こちらの言うことも聴かずに頭を下げ続けるギルドマスターのせいで、困惑が顔に出てしまう。
何なんだよ、本当に!?
「……勿論、聴いているとも。ただ、あまりの不甲斐なさに、こちらとしても、頭を下げる他無くてね」
「……」
そう言いながら、渋々と言った感じだが、頭を上げるギルドマスター。
「君には申し訳ないが、依頼を受けてからこれまでの経緯について、詳しく教えてくれないかな?」
「まぁ、そりゃあ……はい」
こちらとしても、ギルドの所有物である戦斧を壊している訳だし、事情聴取されるのは当然と言える。
俺は、一ヶ月前、誰に依頼を持っていったのか、何の為にネフィサファ鉱山に行ったのか、そこで何があったのか───そして、何故、一ヶ月もの間、ギルドに顔を出すことができなかったのか、それらを全て、覚えている限りを語った。
「………」
「おいおい……」
俺の話を聴いたギルドマスターは、手を口に当てて、深く何かを考え始めた。どうやら、俺の話は、ギルドマスターにとって、想像以上に芳しくない事実だったようだ。
横で聴いていたガルクさんも、あまりの内容にドン引きしている。
部屋の隅で立っている受付嬢さんなんか、両手を口に当てて絶句していた。
「……リンス、聴いていたね? 今話に出た二名を、今すぐここへ連れて来てもらっていいかな?」
「は、はい!」
ギルドマスターの指示により、部屋の隅で立っていた受付嬢さんが慌てて部屋を出た。リンスというのは、彼女の名だろう。
「さてと……どうしたものかな……」
指示を出した後も、ギルドマスターは両肘を机につき、苦い顔で思考を続けるのであった。
長いこと更新できず、申し訳ありませんでした。
別作品が好調でそちらの方に時間を割いたり、こちらの作品で見直したい所が多々あり、改稿していたこともあり、かなり時間が空いてしまいました。
ここからは完結まで一気に更新を続けていきたいと思います(一日一話投稿)。
それと、今まで投稿していた話でも改変している所がそれなりにありますので、お時間があれば、そちらもぜひ読んでもらえると嬉しいです。
最後になりましたが、今後とも、こちらの作品をよろしくお願いします。





