第三十五話 脅威はやまず
溜めに溜められた雷が一気に解き放たれた。
雷の暴動、そこにあったもの全てに抗いようのない電撃を与え、それでも収まりきらなかったエネルギーは小さな龍雷となってあちこちに飛び火する。小雷が飛来した壁の岩は崩れ・地面は抉れた。
雷の本流はその眩い光で辺り一体を埋め尽くす。『自爆術』を利用しての雷撃だ、当然のように雷の牙は俺にも向いた。
雷から発せられる光はとてつもないもので。故に、俺の視界もすぐに白で埋め尽くされる。
視界が閉ざされる前、最後に俺の視界へ入ったのは───雷の大樹だった。
□□□
「決まったな」
「………」
「これこそお前が動いた結果だ。この最悪の結末こそ、お前が如何に中途半端であったかを表している。理の女神ともあろうものが、随分と半端をしたものだ」
「……」
「だがまぁ、私としては最上かな。順調に育ってきている。一門開けば恩の字だと思っていた所に、まさかの二門解放だからな。ここまで嬉しい誤算はいつぶりか、くくく」
「……」
「………どこへ行く?」
「……認めます。確かに中途半端だった。だから、同じ過ちはもう繰り返さない」
「ほう? どうする気だ」
「神託を授けます」
「───! ははは! なるほどな! 一切の躊躇無し。自らの尖兵である天使に後はまかせるか! それなら確かに理は破らないなぁ! ははは!」
「………」
「これはこれは、また面白くなってきた。見物だ、あの男は天使を相手にどれだけ成長できるかな」
□□□
とある国の大聖堂。
差し込む光がガラスを通って紫となり、聖堂内の静かな雰囲気を怪しげに変えている。
そのガラスの近くに置かれている教壇に、一人の男が、聖堂内の椅子に座る二人の男女に語りかけていた。
「天より伝令が与えられた」
「へぇ? 久々だねぇ。何? また人間の国にSランク冒険者でも現れた?」
「人間の国であることは間違い無い。だが、Sランク冒険者よりも厄介なものだ」
「理を崩す者、壊すが我ら。如何に歪であろうと、破壊に変わりは無い」
「あぁそうだ。伝令が下りた以上、我らは動く。だが、その前に相手が何なのかは知っておかなければならない」
「勿体ぶらずに早く言えよぉ〜。一体そいつが何だって言うんだぁい?」
「つまらぬ言い回しは時間の無駄ぞ」
「………」
教壇に立っている男は一つ息を吐く。
「───レベルアップだ」
男がそれを言うと、無愛想に椅子に座る男はともかく、陽気な雰囲気だった女まで表情を消した。
「……ふ〜ん? 出ちゃったんだ、遂に」
「あぁそうだ、出た」
「ならば動かねばなるまい、迅速に・厳正に」
「勿論。これは今までの間引きとは訳が違う。世界の平穏を脅かす咎人の討伐だ。情けはいらん」
そこで女が少し吹き出す
「っ、おっかしなこと言うなぁ〜。最初っから今まで、情けなんてかけたこと無かったじゃん」
「粛清・保安、我らが使命」
「……そうだな。では、今回も今回とて、同じく滅ぼそう。この世界の“魔”が誰であるのか、知らしめるぞ」
そうして、椅子に座っていた男女も立ち上がり、三人は大聖堂を後にした。
ラクトがいるこの世界・この大陸には五つの国があった。
一つは、ラクトが生まれ・住み続けてきた人間の国───アスラ。
二つ目は、森人達の隠れ森ならぬ隠れ国───アーティア。
三つ目、科学先進国、土人達が住む国───ラザドー。
そして四つ目は、狐の獣人・リーフィアの出身国であり、ラザドーに攻め込まれ崩壊した今は亡き獣人の国───アラルル。
このよう四つの大国があった訳だが、ラザドーとアラルルから分かるように、別にこれらの国は平和条約を結んでいる訳ではない。お互いがお互いを狙っており、いつ平穏が崩れてもおかしくない状況。
それでも、この状態が二百年は続いていた。何故そんなにも長い間こんな不安定な状況が保てたのかというと───それぞれの国の最大戦力が異常なほど強かったからだ。
人間の国の“剣聖”、獣人の国の“獣王”、土人の国の強化装備による軍隊・兵器、それぞれがそれぞれの牽制となって、均衡が保たれていた。
唯一、森人の国だけは辿り着けないという特殊な理由で攻め込まれずにいる。ある程度場所の推測は出きているものの、何故だか一向に辿り着けない。本当にあるのかどうか疑う者さえ出る始末だ。
と、特殊な条件の森人の国は置いておくとして、三国がそうやって睨み合う中、三国共まるで照らし合わせたかのように絶対に襲わない国がある。それが五つ目、魔族の住む国、絶対中立国───メフィス。
魔族と争ってはいけない、これはこの世界での常識。魔族と他の生物では強さの格が違うのだ。分かりやすく言うのであれば、相手にならない。どんな兵器を用いようとも、どんな人材を投入しようとも、圧倒的力でねじ伏せられる。それこそが魔族。
メフィスは中立国。余っ程のことが無い限り動かない。
かの国の目的は───調和。世界の安寧・均衡の調律・平和の続行、それがメフィスの存在意義。
Sランク冒険者。人でありながら龍と呼ばれる超常生物と同等の力を持った存在を指す称号。
伝説とさえされている称号ではあるが、かの者らは確かに存在した。いたのだ、極々稀ではあったが、自分の『スキル』を磨き、多数の“技”を身に付け、人の身でありながら超常の存在となった者が。
だが、彼らの記憶は今現在残っていない。何故それほどまでに強力で大きな存在の記録が残っていないのか? ───消されたからだ、魔族に。
強すぎる存在は時に毒となる。突出した力は争いしか生まない。調和という天秤を守る者として、抑止力として働く“剣聖”や“獣王”以外の強者を、魔族は一つとして残さず消してきた。
このことから分かるように、魔族は桁違いに強い。
超常という圧倒的存在を、それこそ歴史という記憶からも抹消してしまえる。それほどまでに強いのだ。
勿論、大聖堂にいた三人もまた魔族である。
魔族が、人間の国に向けて、歩みを始めたのだ。
□□□
俺は現在、地下から梯子を登り、採掘路を歩いて、ネフィサファ鉱山入口へと戻ってきていた。
体中本当に痛い。戦闘で何度も爆発を受け、終いには『自爆術』の影響で雷の追加ダメージももらった。食らった瞬間は体中痺れて少しの間動けなくなったし。
しかし、あのまま寝転んでいたら、いつスーサイドロックが現れて吹き飛ばされるか分かったものじゃない。まだ痺れているは軋むはでボロボロの体に鞭打って、ここまで戻ってきていた。
岩を体中に纏わり付かせた巨大な化け物は、先の巨雷の一撃で遂には倒れた。倒れた、と言うよりは、崩れ去った? いや、違うな。活動エネルギーを全てを持っていかれ、体を保てなくなった、と言うのが正しいか。
あの巨大な化け物は、俺の一撃を食らった後、どんどんと小さく一つに収縮していき、遂には小さな藍色の鉱石となって地に落ちたのだ。
一応拾ってはいるものの、この鉱石が何なのかは分かっていない。これが奴を倒した証になってくれればいいが。
「───!」
出口が近くなってきた為か、俺の視覚に光が届く。しかし、ずっと薄暗い洞窟の中にいた俺にはあまりにもその光は眩すぎて、反射的に左手を掲げて視界情報を制限する。
それでも歩みは止めず、俺は出口まで歩いていく。そして───
「───」
遂に俺は、陽の下へと帰ってきた。
俺を照らす日光、肌が焼かれる久々の感覚に、俺の体が喜んでいる。あまりの温かさに、つい涙が出てきてしまった。
あぁ………やったぞ、やったぞ俺は……! 遂に俺は───
あの地獄から、生還したんだ!
その事実を喜びとして胸に刻み、俺は雄叫びを上げた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
もし少しでも面白いと思っていただけたら、ブクマ又は感想等 貰えると嬉しいです。作者自身、自己顕示欲の塊みたいな者なんで、貰えると滅茶苦茶 励みになります。
また、誤字や辻褄が合わない点などがあれば即修正に入ろうと思いますので、言って貰えると幸いです。
よろしくお願いしますm(_ _)m。
次回更新日や更新時間を知りたい方は、私の活動報告やTwitterで色々と呟きをしていますので、そこを見てくださればと思います。プロフィールに行けばTwitterのURLや活動報告が確認出来ると思いますので、気になる方はそちらに飛んでください。
それではまた次回の更新で。





