第三十四話 狂える力は強し
何度も何度も岩の化け物はその掌を振り下ろしてきて、その度に爆発が起き、二十回も超えた所でやっと張り手が止まった。
化け物の手にきちんとした形は無い。それ自体を叩き付けられた所で大したダメージにはならないんだが、問題はその周りに岩が纏わり付いて硬くなっている所と爆発にある。
手に乱雑に纏わり付いた石は圧縮され岩となり、そして乱雑に集められたせいで不格好に尖りを持っている。
そんな物を化け物の頭上から振り下ろされるだけでも十分危険だというのに、触れた瞬間爆発を起こす体発火、それまでついてくる。無論、爆発が起きると そこに纏わり付いていた岩は一度離れるも、もう片方の掌を振り下ろしている最中に新しい岩を引き付け終わっている。
それなりの質量を高度から叩き付けられるだけでなく、Bランク冒険者でも食らえばただでは済まない様な高火力の爆発まで付与された攻撃。何回も何回もそれを受け続けた事で、俺の体は当然の如くボロボロになっていた。
「…………かはっ」
やっと攻撃が止まり息が出来る様になったので、血と共にまず体の中に残っていた空気を吐き出す。
予想は……していたんだ。
奴の体は固形物でなく液体に近い。だが、それでも、生物である以上、心臓部となる核が存在している筈だ、と。この予想は、おそらく間違っていない。
でも、それと同時に、心臓部も液体である可能性も考えていた。体が液体である以上、心臓部もまた液体である可能性も十分にある。
だが、その考えを俺はあえて捨てる事にしていた。そうだった場合、俺が化け物に勝てる可能性はか限りなくゼロ。だから考えない様にした。
だがまぁ、現実は悪い予想が大当たりしてしまったという形。悪い予感程当たり易いと言うが、ここでそれを実感してしまうとは、なんとついていない事か。
これも、運命の悪戯というやつなのだろうか?
今俺が持つこの力は、神への不信感が募った際に手に入れた力だ。神への疑問が募りに募った所で発生した力。
どこの誰が、自分に不満を持ってると分かっている相手に力を与えるのか。
この力が何なのかは分からない。だが、この世界を創世したとされる神が与えたのではない事は明らかだろう。
別の誰か、それも、創世の神とは相反する存在が俺に力を与えた。
そしてそれを、神は良く思わなかった。
凡人である俺が強くなる事は許さないと言わんばかりに、こんな化け物が目の前に現れた。
運命は神が定めるものだという。
そして、この化け物と巡り合う事が俺の運命だというのなら、この巡り合わせは神が規定したと言っても過言ではない。
どこまでも下の者に無慈悲な神様。
───ふざけやがって。
その時にはすでに俺の体には力が入っており、立ち上がろうとしていた。
先の化け物による連続攻撃で複数箇所骨折、全身に火傷と裂傷を負いつつ、尚も体は動こうとしていた。
俺は“騎士”に憧れた。あぁなりたいと思い、夢中になって剣を振るった。
だが、現実は非常で、俺に成長が訪れる事は中々無かった。
やっと掴んだチャンスなんだっ、相手が誰であろうと───それこそ神であろうと、邪魔する事は許さない!
───ジジッ、ジジジ
俺の中で、何かが外れようとしていた。
□□□
「考えたものだな。何の突拍子も無く発生する精霊種、それを少年の近くで発生させ、少年が来た所で猛威を奮ってもらう。そうすれば、貴様は自身で理を反する事も無く、あの少年も少年でただ運命に飲み込まれたという事で、全てに方がつく、と。頭でっかちのお前にしてはよく考えた方ではないか」
「………いつまでここに居座る気ですか」
「そう邪険にするなよ、理の女神。私はお前の事をよく気に入っているのだぞ?」
「私はアナタに気に入られても嬉しくないですし、寧ろ吐き気がするくらいです」
「ふぅ……やれやれ、嫌われたものだな」
「アナタが私の管轄する世界で何をやったかお忘れですか。それに、他の世界でのアナタの所業を知らないとでも? 一なる神の間でアナタを忌避しない方はそういません。
とにかく、これでアナタの目論見は潰えました。もう見るべきものも無いでしょう。早々にお帰り願います」
「全く……せっかちな女は嫌われるぞ?」
「余計なお世話です。それこそ、我々神には関係無い」
「ふっ、それもそうだな」
「………チッ。……何でさっさと去ろうとしないんですか。この世界はアナタにとって退屈なのでしょう? 少年が潰れた以上、アナタがこの世界を見る意味とは何なんですか」
「……ニィ」
「───っ」
「甘いぞ、理の女神。まだ何も終わってはおらん」
「っ、何をっ。あれ程の傷を負い、近くには治療師もいない状態、どうやってあそこから這い上がると言うのですか!」
「あそこから這い上がる起死回生の方法。お前の方がよく知っている事ではないか」
「だから何を言って───まさか!」
「そのまさかだ。潰そうと言うのなら、お前はほんの少しの理を破ってでも潰しに掛からなければならなかった。それこそ、龍種でもぶつける様な、な。だが、お前はほんの少しの理も破る事を嫌い、中途半端な相手を少年の前に置いてしまった。
その結果───ほら見ろ、開きかかっているぞ、もう一つ、門が」
□□□
───ユーザーの心理力が
ふざけるなふざけるなふざけるな
セキュリティを突破しました。
ふざけるなぁぁぁぁ!!!!
───五箇条制門の一つ、起門が解放されます。
俺は見事立ち上がって見せた。
───アバターの数値を初期化、現段階で蓄積され・成長援助として換算されていなかった魔素量を計算し直し、換算可能上限までアバターを強化します。
───現アバターの状態が危険である為、魔素を用いて最低戦闘可能状態にまでアバターの状態を回復させます。
───禁書観念的身体能力値表示板Ver.1.50起動。
───警告、アバターの種族限界に一段階近付きました。後三度の覚醒を繰り返す事で、アバターは完全に悪魔と変貌します。注意してください。
さっきまで骨も皮膚もズタズタだった筈なのに、何故か今は動く事が出来る。
蓄積されたダメージは残っている。だが、それ以上に今は力が漲ってきて、大した問題には思えなくなっている。
あぁいけるぞ、これなら殺れる。奴を倒せる・壊せる・喰らえる。
先程の様にこの漲ってくる力が何なのか分からない。だが、その使い方は、まるで長年を掛けて習熟し反射となった技術の様に体に馴染んでいる。
どうやら、神に嫌われても、この力をくれた者はまだ俺を見放してはいないらいらしい。
ふざけた運命をくださった無慈悲な神へ反乱を。この俺という名の運命の上に土足で踏み入った無礼な獣に虐殺を。
どこまでもふざけて狂った理不尽な世界に、この俺というものを刻み付けてやる。
あいつを殺して壊して食らって千切って潰して犯して、あの力さえも俺の糧としてやる。
さぁ………断罪だぁ。
ラクト=ユウキ 種族 (人げn゛_∟△) 年齢:16
レベル:17 取得経験値量:572930
筋力 :6042
瞬発力:7129
体力 :5121
魔力 :80294
出力 :2123
抵抗力:40031
スキルホルダー:気功術
:黒赫化
:黄絶化
スキルリスト
《パッシブ》魔素完全適応
《パッシブ》魂喰い NEW
《チョイス》気功術Lv.23
《チョイス》気功剣Lv.17
∟《チョイス》属性解放剣術Lv.11
∟火
∟風
∟雷
∟水
∟土
《チョイス》自爆術
《チョイス》縮地Lv.9
《チョイス》測定眼Lv.7
《チョイス》斬鉄術Lv.4
《チョイス》刺突術Lv.3
《チョイス》発勁Lv.3
《チョイス》剛体術Lv.2
《チェック》空歩Lv.1
《チョイス》黒赫化
《チョイス》黄絶化 NEW
熱い……体が熱い……。今正に自分の体が燃え上がっているかの様だ。
特に熱いのは───右頬と右肩。この二箇所に限っては、火傷なんかの比ではない。劈く様な鋭い痛みが走り続けて、俺の感覚を破壊しようとしてくる。
右肩に目をやってみると、全身黒い兵装に覆われていたというのに、右肩から先の部分だけ黒い兵装が解かれており、兵装が途切れている部分から黒いモヤの様なものが上がっている。
また、露出している肌の部分、特に右肩辺りに、黄色いヒビの様なものまで入っていた。同じ痛みがする事から、右頬にもこれが入っているのだろう。
気にしない。痛みなんて今更だ。さっきまでどれ程の攻撃を受け、どれ程の痛みを許容した事か。
それよりも、目の前の化け物をどうやって倒してやるかが問題だ。
どこを千切ってやるか どこを凹ませてやるか どこを潰してやるか どこを刺してやろうか どこを斬り離してやるか どこを壊してやろうか どこを喰らってやろうか どこを消してやろうか どこをどこをどこを───
「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!!!!」
どこをどう調理してやろうか、それを考えるだけで思わず笑いが出てしまう。
普通、この様な化け物相手にこんな事を考えるのは歪だろうが、今の俺ならば出来る・今の俺ならやれるという確固たる自信がある。いや、これは自信という生半可なものではなく、ただの事実を述べているだけに過ぎない。
岩の化け物は、あそこまでの攻撃を食らい続けながらも立ち続ける俺を見て、「何故」と言う様に首を傾げている。
だが、岩の化け物はそんな事をしている場合ではなかった。今、この瞬間にも、奴は俺に攻撃を開始するべきだった。まぁ、いずれにせよ、結果は変わらないのだが。
さぁ、行くぞぉ。
俺は化け物の目の前から消える。
文字通りに消えるのではなく、『縮地』による高速移動で消えた様に見せかけただけ。
俺はその一瞬だけで、化け物から見て右側の・化け物の頭部と同等の高さの位置の壁まで到達していた。
化け物がすぐに光線を放ってくる。相変わらず こいつの感知能力は凄まじい。
視力に頼ったものではない。そもそも、こいつに目があるかどうかも疑わしいが。
光線が俺のいた所で爆発を起こす。最早 消滅と言っても過言ではない程の高火力で、その爆発によりまた広間の壁が削れた。
勿論、俺はまた『縮地』により移動していた。今度は化け物の左足すぐ下。
化け物がすぐに左足を赤熱させ、体発火を起こしてくる。爆炎までは伸びないまでも、広間一帯に広がる程の衝撃と音、そこから その威力の大きさが伺える。だが、それもまた『縮地』により回避。
酷く……酷く冷静だった。
先程まであんなにも驚異を感じていたというのに、その攻撃を前にしても全く危機感を抱いていない。
別に、こいつの攻撃が驚異ではなくなったという訳ではない。相も変わらず、こいつの攻撃は強力で畏怖するものがある。
では、遅くなったのか? それも違う。全然遅くなどない。こいつの感知速度は今も変わらず大したものだと感じるし、光線に至っては全く見えない。
ただ……読めてしまうのだ。なんとなく、感覚的に、次にどこをどう攻撃するのか、読めてしまう。
スキルホルダー:測定眼
:黒赫化
:黄絶化
『測定眼』を使用しているのは分かる。無意識にだが、俺は『測定眼』を選択して使用していたのだろう。
だが、『測定眼』でもここまで相手の動きが読める事は無かった。明らかに度を越して作用している。
熟練度が上がった? いや、それはそんな簡単に上がるものではない。では、何故……?
そんな事、どうでもいい。
今重要なのは、こいつを倒せる力が備わったという事実。それ以外は考える必要も無い。死にかどうかの瀬戸際で、それ以上を考えるなど阿呆のする事だ。今は、目の前の相手を注視すべきだ。
先程、『気功剣』によって強化した鉄剣が奴の心臓部と思われる場所を通過した時、奴は何故だか数瞬の硬直を見せた。
まさか自分の急所に攻撃を当てられるとは思ってもみなかった故の硬直か? ───違う。
驚きによる硬直にしては、首を動かさなすぎだ。
驚くという事は信じられないという事。自分の中で信じられない事が起きた時、本当にそれが起こったのかどうか直接 目で見て確かめようとする。
もし化け物が驚愕をしたのなら、そういう素振りが見えてもおかしくない。
あれは驚愕による硬直じゃない。言ってしまえば、そう、腹に拳を入れられた時に痛みで体がくの字に曲がって止まってしまう様な、痛みによる硬直に近い。
なら、いける筈だ……。
魔力を通した攻撃なら、奴の体にもダメージを与える事が出来る!
俺はさらに化け物を翻弄する。
右・真後ろ・時には目の前・足元と移動する俺に対し、化け物は光線・体発火で対応してくる。
よく見失わないものだ。ここまで全て『縮地』を利用した高速移動だというのに、化け物は俺を見失った素振りすら見せず攻撃をし続けている。
凄い、とは感じる。
だが、俺の『縮地』による移動の方が化け物の感知より僅かに速い。
俺が移動し終えてから、化け物の攻撃が来るまでにほんの少しのラグがある。
スキルホルダー:気功剣
:属性解放剣術
:黒赫化 カチッ
一時的に力を抑え、剣に魔力を通し始める。そのおかげで黒い兵装は再び右肩を覆い、先程までの右肩と右頬の痛みも消えた。
剣は淡く青色に発光し───と思ったらすぐに発火し、燃ゆる炎を身に纏う。
『気功剣』からの『属性解放剣術』。
炎を纏った剣で化け物の右膝を攻撃する。
突進し、膝に向けて刀身を横に振るい、通り過ぎる。
膝は化け物の弱点ではない。しかも、相手は関節どころか形すら朧気な流動体。バランスすら崩せる筈がないのに俺はそこを攻撃した。
だが一応、エネルギーを纏った攻撃。ダメージは無いなりにも、驚異と思ったのだろう。化け物はまた体全体を赤熱させ───遂には大爆発を起こした。
そう、最初に直接こいつへ斬撃を食らわせた時と同じ反応。
爆発により発生した衝撃は洞窟全体を大きく揺らし、地面と壁はまた削れ、その後再び大量の煙が辺りを覆い尽くす。
攻撃した後に、こんな大規模攻撃を放たれたら かわし様が無い。
「………」
───俺の様に『縮地』が扱えず、尚且つ危険性のある攻撃をしたらあんな大爆発をしてくると知らないでいたら。
スキルホルダー:縮地
:黒赫化
:黄絶化
俺は『縮地』で採掘路に入り、爆発が届かないであろう位置まで離れていたのだ。
つまり無傷。二度目はもう食らわない。
再び力を戻すと、また右肩の兵装は消え、右肩と頬に痛みが走り始める。
あえて膝に攻撃を入れたのはあの大爆発を引き起こす為。
あの大爆発をやってもらう事で化け物に硬直を作り、最後の一手を当て易くする為。
一度目の大爆発行使時、化け物は煙が晴れるまで動こうとしなかった。
異常な感知能力を持つ奴が、煙で俺を視認出来なかった? ───そんな訳が無い。
なら何故動かなかったのか? 答えは簡単。あの大爆発を使用すると、奴は一時的に動けなくなるという事だ。
エネルギーの解放。いくら異常生命体と言えど、消費したエネルギーを回復するには休憩がいるらしい。
さぁ、もういいだろ? 終わりの時間だ。
俺は採掘路を走り始めた。
どんどんと足の回転を速くしていき、遂には音速も越えて───
「───っっっ!!!!」
採掘路を出た瞬間、さらに足───母指球に力を入れ、一気に化け物の頭上へと跳び上がる。
化け物がこっちを見た。しかし、光線を放ってはこない。まだエネルギーが回復しきっていない証拠。
スキルホルダー:気功剣
:属性解放剣術
:自爆術 カチッ
これを最後の一撃とする───その為に、自分への巻き添えを顧みる事無く自爆術を選択。
これが俺の最大出力。
『気功剣』で魔力を剣に通す。『属性解放剣術』で溜めた魔力を雷に変質。『自爆術』で出力を最大に。
剣にまるで雷が落ちたかの様に大出力な雷が迸り始める。
まだ放ってもいないのに、飛び散る電気ですでに痛い。術者である俺にダメージを与えてくる。
『自爆術』による力の行使である為、別の力で出来ていた黒い兵装と左腕の甲冑、それに右頬と右肩の痛みも消えていた。黒い兵装は先程、まるで水が気体となって見えなくなる様に霧散している。
地下深くで響く雷鳴。
迸る雷撃、狙うは胸。
我が渾身を、最後の一撃としてお前に捧げてやろぉ!!
そうして、俺は今出せる最大出力の雷を岩の化け物───その胸にぶつけて見せた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
もし少しでも面白いと思っていただけたら、ブクマ又は感想等 貰えると嬉しいです。作者自身、自己顕示欲の塊みたいな者なんで、貰えると滅茶苦茶 励みになります。
また、誤字や辻褄が合わない点などがあれば即修正に入ろうと思いますので、言って貰えると幸いです。
よろしくお願いしますm(_ _)m。
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それではまた次回の更新で。





